No.0039 歴史・文明・文化 『銃・病原菌・鉄(上下巻)』 ジャレド・ダイアモンド著(草思社)

2010.04.05

銃・病原菌・鉄(上下巻)』ジャレド・ダイアモンド著(草思社)を読みました。

昨日の「朝日新聞」朝刊の読書欄において、「ゼロ年代の50冊」という企画がスタートしました。2000年のゼロ年代から次の新しい10年に入り、この10年でどんな本が出ていたかを検証するという内容でした。

この10年間に出た50冊を識者アンケートで選んでいます。

その栄えある第1位は、アメリカの進化生物学者であるジャレド・ダイアモンド著『銃・病原菌・鉄』上下巻(倉骨彰訳、草思社)でした。

ちなみに、第2位は村上春樹著『海辺のカフカ』上下巻(新潮社)で、第3位は町田康著『告白』(中央公論新社)でした。

1万3000年にわたる人類史の謎

『銃・病原菌・鉄』は、わたしも興味深く読んだ本です。

じつは昨年初めて読んだのですが、そのスケールの大きさに魅了されました。 ヨーロッパ、アジア、アフリカ、南北アメリカ、オーストラリアの5つの大陸。それぞれの地で、人類はきわめて多様な社会を作りあげてきました。

その中には、現在も伝統的な農耕牧畜生活を営む人々もいれば、高度な工業化社会を築いた人々もいます。なぜ人類は5つの大陸で異なる発展をとげたのでしょうか? 世界の地域間における格差を生み出したものの正体とは? 著者は、この壮大な謎を追求すべく、1万3000年前からの人類史を振り返ります。

そして、分子生物学、生物地理学、考古学、文化人類学などの最新の成果をもとに謎を解き明かしていくのです。

そのプロセスは、まさに知的興奮に満ちています。

著者は、銃・病原菌・鉄といった人類史を大きく変えた3つのファクターを柱にして、社会や歴史を考察しているのです。国の豊かさと科学技術の格差は時間が経過するにつれて広がっていきます。

貧しい国の人々も、豊かな国の人々と同じくらい懸命に働いているのに、なぜ格差がつくのか。「朝日新聞」で、ダイアモンドは次のように述べています。

「人はこれをIQのせいにしがちだが、豊かさとIQが相関するという証拠はない。貧富の差を人種的な優劣として見るのは、間違っているだけでなく悲惨な偏見を育む処方箋となる。ことに日本とわが米国で顕著な問題だ。70年前、自らが人種的に優勢だという間違った認識のために多くの国民が死ぬ過ちを犯した」(小西樹里訳)

一昨日の夜にNHKで放映された「無縁社会の衝撃」で、経済評論家の内橋克人氏が、今の30代の人々は自分を責める傾向があると述べていました。

正規雇用も受けられず、いつまでも結婚もできないのは、すべては自己責任であるという意識が強いというのです。 たしかに小泉改革以来、「自己責任」という言葉が独り歩きし、多くの人々の心に呪いをかけているような気がします。

現実を見ると、内橋氏も述べていましたが、いくら懸命に働いても、いくら努力しても、どうにも現状を好転できないという社会の仕組みがあります。

『銃・病原菌・鉄』で、ダイアモンドが指摘したのも、まさに同じことでした。 すべては「自己責任」のせいだけではないのです。

目の前の現実だけにとらわれず、広い視野で社会の構造を見なければなりません。

下巻の「エピローグ」の最後で、ダイアモンドは、人類社会の歴史を理解するということは、歴史がさほど意味を持たない科学分野における問題を理解するよりも難しいとしています。それでも、いくつかの分野では、歴史の問題を分析するのに有用な方法論が考え出されました。

その結果、恐竜の歴史、星雲の歴史、氷河の歴史など、人文的な研究対象としてではなく科学的な研究対象に属する分野として一般的に認められています。

さらに、ダイアモンドは言います。

「われわれは人間自身に目を向けることによって、恐竜についてよりも、人類についての洞察を深めることができる。したがって私は、人間科学としての歴史研究が恐竜研究と同じくらい科学的におこなわれるだろうと楽観視している。この研究は、何が現代世界を形作り、何が未来を形作るかを教えてくれるという有益な成果を、われわれの社会にもたらしてくれることだろう。」

このスケールの大きさ、本当に素晴らしい!これこそ、学問における「志」というものを感じます。

本書は、ここ1年で売れ行きが活発化しているそうです。その原因として、世界不況後の心理があるとされています。

草思社の藤田博編集長は、「混迷する時代だからこそ、長い歴史の中から文明のいでたちを検証したいという衝動があるのでしょう」と、「朝日新聞」で語っています。

わたしは、昨年、今日に至るまでの人類の全歴史を俯瞰したいと思い立ちました。そこで、『銃・病原菌・鉄』をはじめとした書物を2009年の6月末に一気に読みました。およそ、このようなラインナップです。

『生命40億年全史』(リチャード・フォーティ著) → 『神々の沈黙』(ジュリアン・ジェインズ著) → 『誰が文明を創ったか』(ウィル・デューラント著) →  『銃・病原菌・鉄』(ジャレド・ダイアモンド著) → 『文明崩壊』(ジャレド・ダイアモンド著) → 『グローバリゼーション 人類5万年のドラマ』(ナヤン・チャンダ著) → 『10万年の世界経済史』(グレゴリー・クラーク著) → 『長い20世紀』(ジョバンニ・アリギ著) → 『21世紀の歴史』(ジャック・アタリ著)。

以上の本を、だいたい1週間くらいで固め読みしたのです。

おかげで、巨視的な物の見方のトレーニングになったのではないかと思います。

人類の文明というものを俯瞰させてくれる本といえば、なんといっても人類学者のクロード・レヴィ=ストロースと経営学者のピーター・ドラッカーの一連の著書があります。

巨視的な物の見方さえ身につけておけば、少しばかり時代の変化のスピードが速くなっても大丈夫ではないかと思っています。

巨視的な物の見方がつく本

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