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No.0059 死生観 『日本人の死のかたち』 波平恵美子著(朝日選書)
2010.05.03
朝日に広告が出ていました
『日本人の死のかたち』波平恵美子著(朝日選書)を読みました。
書籍広告が出ていた「朝日」つながりで、朝日新聞社が発行している本を読もうと思いました。もちろん、ウソです。(笑)
いくらオッチョコチョイでも、そんなことはしませんよ。
次回作『先祖とくらす』(仮題)の加筆をする上で、日本における死者儀礼の参考文献をまとめて読もうと思っていたのです。
著者の波平恵美子氏は、日本を代表する文化人類学者の一人です。
特に医療人類学や宗教人類学、それにジェンダー論が専門です。
著者の最大の功績は、なんといっても、日本民俗学における「ハレ・ケ・ケガレ」という三項対置の概念を示したことでしょう。
サブタイトルに「伝統儀礼から靖国まで」とあるように、本書は「死が政治性を帯びることの日本的なありよう」を論じようとしていると、著者は「序」で述べています。
そして、次のように書いています。
「日本人のもつ死についての観念は常に『死者』についての観念であり、自分と何らかの関係をもつ人の死によって呼びさまされるような、死の観念である。『死そのもの』が思考の対象となることは少なく、身近な人の死に際して遂行されるこまごました死者儀礼の行為ーーそれは自らおこなうこともあるし、他の人の行為をかたわらで見ていることもあるがーーをとおして死の観念は確認され、示される。それらの儀礼は、『死者』が存在しており、その死者は生きている者たちが自分の死に際して何をおこない、どのようにふるまうかを逐一見て知っていることを想定しておこなわれる」
かつて日本各地では、「野辺の送り」をはじめとした伝統的な死者儀礼が行われていました。そういった伝統儀礼の多くは、もはや見られなくなっています。
しかし、古くより日本人は「死者」という存在を実在のものとして信じ、死者への働きかけ、語りかけによって、その「霊」を祀ってきたのです。
今も、葬式から法事・法要にいたるまで、日本人は「死者」たちと交流し続けています。
ある意味で、日本人ほど「死者」に慣れ親しんでいた民族はいないかもしれません。
わたしは、多くの著書において、「日本人が死を不幸と呼ぶこと」について疑問を呈してきました。また、死者を「ケガレ」た存在として忌み嫌うのは、死者に対する冒涜であり差別であるとも訴えてきました。
本書を読むと、日本人にとっての「死」のイメージの変遷がよく理解できます。著者は、次のように述べます。
「『死をタブー視する』とか『死を忌避する』ということは、日本人の死者儀礼において、死にかかわるものを『穢れている』とみなして日常生活から排除することをさしていわれている。死を不浄なものと儀礼上みなし、日常生活にかかわることがらから峻別することは、世界の数多くの文化に見出せて、日本文化だけの特徴ではない。さらに、死を不浄なものとみなすことは『死を忌避し、遠ざけている』のではなく、死が他のどのようなできごととも異なる最重要のものであることを明示する『儀礼的行為』である。こうした言説が流布するのは、儀礼的意味と現実上・実践上の意味とを混同していることから生じた誤解が一般の人びとの間にあるといえる」
この一文から、わたしがどれだけのインスピレーションを得たか、おわかりでしょうか。
また、長年のわたしの疑問への答えにもなっています。
なぜ、日本人は「死」をタブー視しながら、「死者」との豊かな儀礼文化を育んできたのだろうかという疑問です。
著者がいうように、死を不浄なものとみなすことは、「死を忌避し、遠ざけている」のではなく、死を最重要事であると考えているための儀礼的行為なのだと。
なるほど、いろんな謎が解けてゆく気がします。
大事なポイントは、もともと死を最重要視し、ある意味では神聖視していたにもかかわらず、一般の人々が儀礼的意味と現実上・実践上の意味とを混同したことから誤解が生じてきたのだということ。
ならば、この誤解の元になった意味の混同から解きほぐす必要がありそうですね。
もう一つのポイントは、日本人が盆や彼岸などで墓に、また日常生活において仏壇などに語りかけている対象は、じつは「死者」ではないということです。
それは、「先祖」という存在なのです。「神さま」「仏さま」「ご先祖さま」と並び称せられる有り難い存在なのです。
「遺体」と「死体」という言葉の意味の違いをご存知ですか。
一般に自分と縁のある者の亡骸を「遺体」と呼び、無関係の亡骸を「死体」と呼びます。
それと同じく、自分と血縁関係にある者が亡くなると「先祖」となり、無縁な者は「死者」のままなのです。
そして、「死者」は忌避すべき対象だが、「先祖」は敬うべき対象である。
どうやら、日本人の「こころ」の謎が解けてきたような気がしてきました。