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No.0238 宗教・精神世界 | 心霊・スピリチュアル 『バラエティ化する宗教』 石井研士編著(青弓社)
2011.01.05
『バラエティ化する宗教』石井研士編著(青弓社)を読みました。
テレビと宗教との関係について、さまざまな視点から論じた本です。霊能テレビ番組、スピリチュアル番組、不思議現象番組、さらには宗教団体の過剰報道など、いまやエンターテインメントとして宗教が発信される時代になりました。
テレビと宗教について考える
編者は、國學院大學神道文化部教授で、専攻は宗教学です。著書の中には、『結婚式 幸せを創る儀式』(日本放送出版協会)、『日本人の一年と一生』(春秋社)など、冠婚葬祭業界の人間にとって非常に参考になるものがあります。
また、『テレビと宗教』(中央公論新社)という著書もあり、最近はテレビと宗教の関係について研究を続けています。本書の「はじめに」で、編者は次のように述べています。
「宗教と映像にはきわめて強い親和的な関係が存在する。映像美によってモンサンミッシェルやバチカンが美しく映し出される一方で、白装束集団が画面を延々と占領したり、オウム真理教の幹部の主張を垂れ流し続けたりしたことがあった。また、宗教者や宗教団体が新しいメディアを通して我々に語りかけ、首尾よく成果をあげたことも少なくない。テレビで流通する宗教情報に、私たち日本人は、少なからぬ影響を受けてきた。その影響力は、実生活での宗教の基盤が失われていくにつれて、さらに大きなものになっている。しかもその情報は、かなり偏った情報である」
本書では、テレビ番組の受容、スピリチュアルブーム、放送コード、メディアスクラムなどの具体例を探ります。そして、「スピリチュアリティとテレビの共犯関係」と「宗教をめぐる報道とステレオタイプ」を両軸として、バラエティ化する宗教の実像に迫ります。
本書の構成ですが、以下のようになっています。
「はじめに」 (石井研士)
第1部 スピリチュアリティとテレビの共犯関係
第1章 バラエティ化する宗教とテレビ (小城英子)
第2章 テレビメディアで語られるスピリチュアリティ
―日本とアメリカの事例から (小池靖)
第3章 スピリチュアルとそのアンチ
―江原番組の受容をめぐって (堀江宗正)
第4章 放送コードと霊能者 (菅直子)
第5章 「動物と話せる女性」の世界
―テレビに描かれる「共存と癒し」の物語 (葛西賢太)
第2部 宗教をめぐる報道とステレオタイプ
第6章 昭和三十年代(1955-64年)の大本とテレビ (榎本香織)
第7章 NHKプライムタイムでの宗教の扱いについて (井上俊)
第8章 白装束集団に対する集中報道はなぜ起こったのか (石井研士)
第9章 ステレオタイプ化する宗教的リアリティ (石井研士)
第1章の「バラエティ化する宗教とテレビ」では、社会心理学者の小城英子氏が、いわゆる「不思議現象番組」の歴史を振り返ります。
古くは、1910年の御船千鶴子による千里眼事件や長尾郁子による透視実験などがありました。40年代後半にアメリカでUFOの目撃談がブームになると、日本でもその影響が拡大しました。73年には、ユリ・ゲラーによって突出した超能力ブームが起こります。
日本のテレビに不思議現象に関する番組が登場したのもこの頃で、これらの番組は主に3つのジャンルに分かれました。第1に、雪男や山に住む半獣人、ツチノコ、怪魚、古代の生き残り怪獣、神秘の場所などの「探しもの」。
第2に、UFOやバミューダ・トライアングル、心霊写真、心霊現象、幽霊が出る家、ミステリー・サークル、ピラミッド、ヨーロッパの怪談などの「不思議現象もの」。
第3に、スプーン曲げ、占い、霊視、予言者、気功、心霊手術などの「超能力もの」。
以上の3つのジャンルの不思議現象番組が百花繚乱のごとくテレビに登場しましたが、その実態について小城氏は次のように述べています。
「一部のテレビディレクターたちが告白しているが、不思議現象に関するテレビ番組の大半は捏造である。UFOや心霊写真、ネッシーなどのUMA(Unidentifified Mysterious Animal=未確認動物)に関する映像資料にもトリックが用いられており、ディレクターやカメラマン、タレントなど、制作サイドの意向が強くはたらいていて、出演タレントは、仮にトリックに気づいたとしてもそれを批判することは難しく、現場では過剰に驚いて不思議がるという役割を課せられているという話もある」
3つのジャンルのうち、「探しもの」と「不思議現象もの」は、現地に赴いたリポーターが取材をしたり、証拠となる写真や映像などの資料を示す構成が主でした。
一方、「超能力もの」は、超能力や霊能力を持つ人物が登場し、その超常的なパワーを披露するという構成が中心でした。小城氏は、それらの人々を次のようにまとめています。
「マスメディアに乗って一世を風靡し、時代の寵児となったのは、古くは藤田小女姫、念力・念写などをおこなう超能力者のユリ・ゲラーや清田益章、霊能者の宜保愛子、織田無道、Mr.マリック、近年では細木数子、鏡リュウジ、江原啓之などだろうか」
これを読んだわたしは、細木数子と江原啓之という最近のスピリチュアル界の2大スターの間に鏡リュウジさんの名があるのに驚きました。これは、ちょっと違和感がありますね。第一、鏡さんは占星術研究家であって超能力者でも霊脳力者でもありません。逆に、最近の安易なスピ系ブームに疑問を抱いていた一人ではないかと思います。
また、Mr.マリックに関しても、「超魔術」という看板で超能力者を演じていたとえはいえ、明らかにマジシャンです。そのあたりは小城氏も承知のようで、この後、オウム真理教事件以後のマリックがトリックの存在を前提としたマジシャンになっていった経緯を興味深く書いています。
そう、70年代に始まったテレビ番組における不思議現象ブームは、高い視聴率を誇ったものの、90年代後半に一気に衰退しました。その最大の原因は、95年のオウム真理教事件を発端として、心霊的・宗教的な活動に対するバッシングが巻き起こったためです。
90年代後半は、社会全体が新たな破壊的カルト教団の出現を警戒し、悪徳商法や集団自殺などを呼び起こすような話題に対して厳しい反応を示したのです。オウム真理教事件後の不思議現象番組は、小城氏によれば、2つの方向に大別されます。1つは、霊性を別の形に置き換えて存続させたスピリチュアリティへの転換。もう1つは、エンターテインメント性の強調です。この2つの流れが、宗教のバラエティ化に拍車をかけたのでした。
その後、「スピリチュアル」や「カウンセリング」といった言葉が、テレビの不思議現象番組のキーワードになってきます。その経緯について、スピリチュアリティの問題に詳しい心理学者の堀江宗正氏が次のように述べています。
「阪神・淡路大震災やオウム真理教事件が発生した1995年を境に、人々の関心は自己啓発や潜在的可能性からトラウマ(心的外傷)へと移行し、トラウマを治療するための『癒し』『カウンセリング』などのブームが到来した。また、時を同じくして、『霊』『霊性』などの代わりに、『スピリチュアル/スピリチュアリティ』といったキーワードが用いられるようになったが、これは、『幽霊』や『霊感商法』などのネガティブなイメージを想起させる漢字表記の『霊』を使用せずに霊信仰を表現できること、また特定宗教とのつながりを希薄化させることでオウム真理教事件の影響による宗教全般に対するヒステリックな拒否反応を回避できることなどが背景にあった。霊信仰は『スピリチュアル』というキーワードに衣替えし、また、医療、ひいては科学とも結び付いて宗教色が薄い『カウンセリング』というポジティブな行為と合体することによって、人々に根強く残る霊への関心に応えた」
堀江氏は、なぜ一部の人々に高い人気を誇った江原啓之がテレビに出なくなったかについても次のように的確に分析しています。
「心霊現象を扱う番組に登場するカリスマ的能力を持つ人物は、テレビに大々的に出演するようになるとバッシングに遭い、やがて出演が減る傾向がある。当初は特定の少数の視聴者を引き付けていたのが、視聴率が稼げるとわかると多くの視聴者がテレビを見る時間帯に出演するようになる。すると、不特定多数の偶発的視聴者、つまり番組を『見たい』という動機を特に持たない視聴者が、たまたまチャンネルを変えている際に視聴したり、同居者の視聴に付き合ったりするなどということが起こる」
そこから、霊的なものに対する拒否反応が沸き起こって、バッシングにまでつながる契機になるというのです。また、霊的な番組に対してアンチの立場に立つのは男性が多く、好んで視聴するのは女性が多いという指摘も興味深かったです。
江原啓之などを批判するアンチ側のメディアは男性週刊誌、スポーツ新聞などで、いわゆる男性向けのメディアです。それに対して、江原が人気を得るようになったのは女性週刊誌への掲載や午前中の主婦向けのテレビ番組への出演がきっかけでした。堀江氏が推測するように、ここにはジェンダーの問題が潜んでいるのかもしれません。
また、江原がテレビに出なくなったのと時を同じくして、日本テレビ系列で放送されている人気番組「天才! 志村どうぶつ園」に「動物と話せる女性・ハイジ」というコーナーが登場したそうです。このハイジは、病気や事故などでつらい状況に置かれた動物の心がわかり、それを飼い主に伝えるのだとか。まるで、江原啓之が故人からのメッセージを遺族に伝えるフジテレビ系列で放送された「天国からの手紙」というテレビ番組の変形のようにも思えます。
今でも、手を変え品を変え登場するテレビの不思議現象番組。結局、最も怪しい存在は霊能力者でも超能力者でもなく、テレビ業界の人々かもしれませんね。