No.0877 宗教・精神世界 | 幸福・ハートフル 『慈経 自由訳』 一条真也訳・著(三五館)

2014.02.18

わたしのブログ記事「『慈経』を訳す」で紹介した『慈経 自由訳』(三五館)ですが、その見本がついに出ました。
サブタイトルは「安らかであれ 幸せであれ」です。帯には「本邦初の自由訳」「親から子へ、そして孫へと伝えたい『こころの世界遺産』」「『論語』や『新約聖書』にも通ずる、ブッダからの『慈しみ』のメッセージ」と書かれています。

安らかであれ 幸せであれ

そして、わたしがブッダの本心に想いを馳せながら自由訳を行った文章とともに、世界的写真家リサ・ヴォートさんが撮影した素晴らしい写真の数々が掲載されています。
もう、この美しい写真を眺めているだけで癒される気分になります。

 『慈経 自由訳』の最初のメッセージ

「慈経」(メッタ・スッタ)は、仏教の開祖であるブッダの本心が最もシンプルに、そしてダイレクトに語られている、最古にして最重要であるお経です。上座部仏教の根本経典であり、大乗仏教における「般若心経」にも比肩します。上座部仏教はかつて、「小乗仏教」などと蔑称された時期がありました。しかし、僧侶たちはブッダの教えを忠実に守り、厳しい修行に明け暮れてきました。「メッタ」とは、怒りのない状態を示し、つまるところ「慈しみ」という意味になります。「スッタ」とは、「たていと」「経」を表します。

今回、三五館の星山佳須也社長のご好意で、最高のスタッフをご用意いただきました。すなわち、アートディレクションは山岡茂さん、デザインは山本雅一さんという「スタジオ ギブ」の方々です。かの三五館が生んだ大ベストセラーである『1000の風』を作られた方々で、出版界では有名なヒット・メーカーです。

また、三五館のフォトブックといえば、日本を代表する写真家である藤原新也さんの名著『メメント・モリ』を忘れることはできません。おかげさまで、どこに出しても恥ずかしくない本当に美しい本に仕上がりました。特に、装丁に使われているクリーム色は、やわらかな月の光を連想させます。

興味深いことに、ブッダは満月の夜に「慈経」を説いたと伝えられています。満月とは、満たされた心のシンボルにほかなりません。本書には美しい満月の写真が登場しますが、じつは「慈経」そのものが月光のメッセージなのです。わたしは、ドビュッシーの「月の光」を聴きながら、自由訳を試みました。

わたしは、「慈悲の徳」を説く仏教の思想、つまりブッダの考え方が世界を救うと信じています。「ブッダの慈しみは、愛をも超える」と言った人がいましたが、仏教における「慈」の心は人間のみならず、あらゆる生きとし生けるものへと注がれます。生命のつながりを洞察したブッダは、人間が浄らかな高い心を得るために、すべての生命の安楽を念じる「慈しみ」の心を最重視しました。そして、すべての人にある「慈しみ」の心を育てるために「慈経」のメッセージを残しました。

そこには、「すべての生きとし生けるものは、すこやかであり、危険がなく、心安らかに幸せでありますように」と念じるブッダの願いが満ちています。

また、『ブッダのことば』(岩波文庫)にも中村元訳が収録されている「慈経」には、わたしたちは何のために生きるのか、人生における至高の精神が静かに謳われています。わたしたち人間の「あるべき姿」、いわば「人の道」が平易に説かれているのです。その内容は孔子の言行録である『論語』、イエスの言行録である『新約聖書』の内容とも重なる部分が多いと、わたしは思っています。

普遍的な「人の道」が説かれています

2012年8月、東京は北品川にあるミャンマー大使館において、わたしはミャンマー仏教界の最高位にあるダッタンダ・エンパラ大僧正にお会いしました。北九州の門司にある日本で唯一のミャンマー式寺院「世界平和パゴダ」の支援をさせていただいているご縁からでしたが、そのとき大僧正より、『テーラワーダ仏教が伝える慈経』という本を手渡されました。それを一読したわたしは、広く深く豊かな「慈経」の世界に魅せられてしまいました。

「慈経」は、もともと詩として読まれていました。
すなわち、単に書物として読まれるものではなく、吟詠されたものだったのです。わたしも、なるべく吟詠するように、1000回近くも音読して味わいました。そして、自身で自由訳をしたいという気持ちが高まったのです。

「慈経」の原文には多くの英文訳がありますが、わたしはランカスター大学、ハーバード大学、およびスリランカ大学で仏教を研究したAndrew Olendzi博士の英文訳(カバーの後ろ袖
に掲載)をテキストに使っています。

  『慈経 自由訳』の最後のメッセージ

「慈経」の教えは、老いゆく者、死にゆく者、そして不安をかかえたすべての者に、心の平安を与えてくれます。「無縁社会」や「老人漂流社会」などと呼ばれ、未来に暗雲が漂う日本人にとって最も必要なメッセージが「慈経」には込められていると確信します。この自由訳で、多くの日本人が幸福になりますように。

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