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2015.05.22
ついに、『0葬』への反論の書である『永遠葬』を脱稿しました。すでに書き上げている『唯葬論』と同様、終戦70周年となる8月15日までには上梓したいです。版元は現代書林で、編集者は「出版寅さん」こと内海準二さん。22日に上京して羽田のホテルで内海さんと打ち合わせします。 さて、その『永遠葬』や『唯葬論』の参考文献として、『神話の力』ジョゼフ・キャンベル+ビル・モイヤーズ著、飛田茂雄訳(早川書房)を再読しました。
キャンベルは1904年、ニューヨーク生まれ。コロンビア大学で哲学・神話学を専攻。セイラー・ロレンス大学で長年教職につくかたわら、世界各地の神話の比較研究に多くの業績を残し、斯界の第一人者として活躍しました。キャンベルは87年に亡くなっており、本書は彼の遺作です。 キャンベルの神話学はとにかくスケールが大きく、人間の経験に基づく多面的なものとしても知られました。彼の人生観は「至上の幸福に従え」であったそうです。ジョージ・ルーカスがキャンベルの神話論を「スター・ウォーズ」に採り入れたというエピソードも有名です。
わが書斎のキャンベル・コーナー
ビル・モイヤーズは1934年、オクラホマ生まれ。ニュースのコメンテーターを経て、米国を代表するジャーナリストになりました。TVドキュメンタリーを中心に活躍し、数々の賞を受賞しました。多くの思想家たちをテレビを通じて紹介しており、本書のもととなったテレビ・シリーズの企画・制作を担当しています。本書の帯には、「神話はわれわれに何を語ろうとしているのか」「神話が人間の精神に及ぼす見えない影響を明らかにし、全米の神話学ブームを巻き起こしたベストセラー!」と書かれています。
本書の帯
本書の帯の裏
『唯葬論』に「神話論」という一章を設けたことから、資料としてキャンベルの主要な著作を読み返してみたのですが、最も参考になったのは本書でした。わたしは1992年初版の単行本を読んだのですが、2010年にはハヤカワ・ノンフィクション文庫の1冊として刊行されています。
そのアマゾン「内容紹介」には以下のように書かれています。
「世界中の民族がもつ独自の神話体系には共通の主題や題材も多く、私たちの社会の見えない基盤となっている。神話はなんのために生まれ、私たちに何を語ろうというのか?ジョン・レノン暗殺からスター・ウォーズまでを例に現代人の精神の奥底に潜む神話の影響を明らかにし、綿々たる精神の旅の果てに私たちがどのように生きるべきか、という問いにも答えていく。神話学の巨匠の遺作となった驚異と感動の名著」
本書の「目次」は、以下のようになっています。
「編集長からのごあいさつ」
「まえがき」
第一章 神話と現代の世界
第二章 内面への旅
第三章 最初のストーリーテラーたち
第四章 犠牲と至福
第五章 英雄の冒険
第六章 女神からの贈り物
第七章 愛と結婚の物語
第八章 永遠性の仮面 「訳者あとがき」
テレビ番組をもとにしているため、本書はモイヤーズが質問してキャンベルが答えるというスタイルを取っています。わたしが特に興味深く感じたのは、第二章「内面への旅」の最後で、キャンベルが「永遠」について語った以下のくだりです。
「永遠とは今後の時間ではない。永遠とは長い時間でさえない。永遠は、時間とは無関係です。永遠は時間領域内のあらゆる思考が切り離している(いまここ)の次元です。ここで永遠をとらえない限り、他のどんなところでもそれはとらえられません。天国には問題があります。あなたは天国で非常に楽しい時間を過ごすので、そこでは永遠のことなど考えもしないでしょう。そこでは、神の美しいヴィジョンに果てしない喜びを感じるだけ。しかし、まさしくいまここで、善と思われるものであれ悪と見なされているものであれ、とにかく万物すべてにおいて永遠を経験すること、それが生命の機能なのです」
第三章冒頭の古代神話についての以下の対話もスリリングです。
「(モイヤーズ)私たちの魂は古代神話になにを負っているのでしょう。
(キャンベル)古代神話は精神と肉体とを調和させるために作られたものです。精神は奇妙なひとり歩きを始めて、肉体が欲しないものを求めたがる。神話や儀式は精神を肉体に適合させ、生活方法を自然が定めた道に引き戻す手段です。
(モイヤーズ)すると、そういう古い物語はわれわれの中に生きている?
(キャンベル)まさしくそのとおりです。人間の発達の諸段階は、現代でも古代と変わりはありません。子供のころ、人は規律の世界、服従の世界で育てられ、他人に依存して生きる。成年に達すると、そのすべてを変え、他人に依存するのではなく、自己に責任を負い、主体性を持って生きなければならない。その関門を抜けられないなら、神経症に陥る基本原因ができてしまいます。そして、自分の世界を確保したのちに、その世界を護るという段階がやってくる。放棄や離脱の危機です。
(モイヤーズ)そして、最終的に死ですか?
(キャンベル)そして最終的には死、それが究極的な離脱です。つまり、神話は2つの目的に仕えなければなりません。ひとつは、若者を自己の世界での生活に導き入れること―それが民俗思想(folkidea)の役割です。いまひとつは、その世界から離脱させること。民俗思想は人間にとって最も基本的な理念を開示してくれ、人はそれに導かれて自分自身の内面生活のなかに入っていくのです」
そして、以下のくだりは最高にわたしをワクワクさせてくれました。 モイヤーズの「先生は死のイメージが神話の原点だと言っておられますね。どういう意味でしょうか?」という問いに対して、キャンベルは「神話的思想の最も初期の表れは墓と関連しています」と答え、さらに語ります。
「(キャンベル)墓には被葬者の生命の継続を保証するために、彼らの武器やいけにえが共に葬られる。それらは、いま私たちが見ている冷たい、腐敗しつつあるむくろより前に、生きた温かい人間がいたことを確かに示しています。そこにないなにかが存在していた。それはいまどこにいるのか。
(モイヤーズ)人間はいつ死を発見したとお考えですか?
(キャンベル)最初の人間になったときに死を見いだしたのでしょう。彼らは死んでいったのですから。なるほど他の動物だって、仲間が死んでいくのを見るという経験は持っていますが、私たちが知っている限り、彼らはそのあとくよくよと死について考えることはありません。そして、武器と動物のいけにえが副葬されるようになったネアンデルタール人の時代までは、人間が死について考えたというはっきりした証拠はありません」
埋葬および儀式についてもキャンベルは大いに語ります。
「(キャンベル)埋葬が、見えざるところに向かって生命が継続するという理念と、また、見える次元の裏に見えざる次元が存在し、それがどういうわけか見える次元を支えているという理念とも、いつも関わっていることはちゃんとわかっています。あらゆる神話の基本的なテーマはそれだ―見える次元を支えている見えざる次元が存在していることだ―と、私は言いたいですね。
(モイヤーズ)われわれの知らないものが、知っているものを支えている。
(キャンベル)そう。そして、見えざる支えというこの理念は、社会とも結びついています。社会はあなたよりも前に存在していた。それはあなたが死んだあとにも存在している。そしてあなたはその一員である。あなたをあなたの社会的グループに結びつける神話、つまり種族的神話は、あなたがより大きな有機体の一器官であることを明らかにします。社会そのものがより大きな有機体の、すなわち、種族がそのなかを動き回る大地や世界の一器官なのです。儀式の主要なテーマは、個人を自分自身の肉体よりも大きな形態構造と関連させることです」
本書を再読し、「神話」や「儀式」の本質を再確認することができました。 特に、「永遠は、時間とは無関係である」とか、「死のイメージが神話の原点」であるとか、「神話的思想の最も初期の表れは墓と関連している」などの言葉からは大きなインスピレーションを得ました。『永遠葬』や『唯葬論』を書く上でも大いに参考になりました。