No.1335 プロレス・格闘技・武道 | 評伝・自伝 『吉田豪の空手★バカ一代』 吉田豪著(白夜書房)

2016.10.18

『吉田豪の空手★バカ一代』吉田豪著(白夜書房)を読みました。
「”地上最強の人生”インタビュー集」というサブタイトルがついています。
プロインタビュアーとして知られる吉田豪氏が空手家、格闘家、関係者にインタビューする月刊誌「BUBKA」の人気連載を単行本化したものです。

本書の帯

帯にはイスを振り上げた著者の写真が使われています。
そして、「伝説の”達人17人”の人知を超えた生き様」「プロインタビュアー吉田豪が迫る!」と書かれています。そんな本書には、”達人”たちの常識はずれの人生、壮絶なエピソードが満載で、極真空手、キックボクシング、異種格闘技戦、K-1などの裏話もたくさん登場します。

本書の帯の裏

帯の裏には「天国の大山総裁、梶原一騎先生に捧げる1冊」「俺たちが憧れた『空手バカ一代』の伝説は本当にあった!?」「[特別収録]”梶原一騎の息子”高森城×高森一誓『父と母とあの家の思い出』」と書かれています。
梶原一騎の名作『空手バカ一代』『四角いジャングル』の知られざるエピソードなどは、格闘技ファンにとってはたまりません。さらに追加収録として、梶原一騎の息子さんのインタビューも掲載されており、盛り沢山な1冊ですね。

強そうな人がたくさん登場!

本書の「目次」は、以下のようになっています。

1●東孝「酒とはみ出し空手人生」
2●添野義二「昭和格闘技史を語る」
3●村上竜司「裏稼業から空手、K-1のリングへ」
4●緑健児「『死力達成』大山倍達のおかげで」
5●小笠原和彦「プロレスに魅了された空手家」
6●ニコラス・ペタス「大山総裁最後の内弟子」
7●盧山初雄「極真の繁栄と分裂を見た男」
8●廣重毅「強豪空手家を育てた名伯楽」
9●倉本成春「反則技を極めた男」
10●風間健「格闘技界を裏で支えた達人」
11●藤原敏男「黒崎健時の鬼の教え」
12●渡邊一久「大山道場会伝承空手とは?」
13●谷川貞治「K-1の仕掛人が見た天国と地獄」
14●山田英司「ケンカ編集者の武勇伝」
15●高森篤子×山田英司×吉田豪
「特別収録1『真樹日佐夫
追悼座談会』」
16●高森城×高森一誓「特別収録2 梶原一騎の息子」
「あとがきに代えて」

本書には、プロレスラーも顔負けの仰天エピソード、トンパチ話が満載。
まず、(社)全日本空手道連盟 大道塾の塾長である東孝氏が「空手嫌いの高校時代」として、以下のように語っています。

「空手とか打撃系っていうのはどうしても神経キツくなるんだよね。要は反射神経の勝負だから相手のちょっとした動きにも反応して、制空権を作っちゃうわけ。常に相手のパンチが届かない距離にいないと落ち着かないのよ。だから自然に警戒心が強くなるし、反射神経も強くする。逆にレスリングとか柔道とか相撲っていうのは・・・・・・」

次に、世界空手道連盟士道館の館長である添野義二氏は「大山総裁のヤキモチ」として、以下のように語っています。

「大山先生は子供っぽいとこあるんだよ。ヤキモチ焼きなの。女のジェラシーよりも男のジェラシーのほうが怖いんだよね。真樹先生、梶原先生は兄弟仲が良かったのよ。俺、梶原先生と仲良かったの。そうすると真樹先生はヤキモチ焼くんだよ。大山先生もそうなの。男のジェラシーなんだよ。大山先生は『なんで芦原と仲良くするんだ!』って怒るんだよ。男のヤキモチは怖いよ。だから極真が崩れたのもそこにある」

「破壊王」の異名で知られたプロレスラーの橋本真也と激闘を繰り広げた創天会・千歳烏山道場の小笠原和彦氏は、「ケンドー・カシンと高岩竜一は達人」として、以下のように語っています。

「ドラゴンスクリューは回転とかタイミング合わないと脚が逆側に折れちゃう。何人かやっちゃったらしいですね。ドラゴンスクリューのあとの4の字固めよりも、回転のときが恐ろしいですよ。組長にあとで聞いたら、『プロレスの技っていうのは足首が折れるんだよ。プロレスの技で1番怖いのはヒールホールドで、俺は1回、(ドン)荒川の足首を粉々にした』って言ってましたね。全然違う部位が痛いこともあって。ブレーンバスターなんて1番危ないのは踵ですからね」

極真空手道連盟 極真館の館長である盧山初雄氏は、「梶原一騎が来て、大山総裁が変わった」として、「(大山総裁が)ある時期からお金に対してあんまりいいイメージじゃなくなっちゃった気がします」という吉田氏の発言に対して、以下のように答えています。

「そう。それは梶原先生が来て、漫画になって、急にメジャーになったじゃないですか。そのあたりからちょっと考え方も人相も変わってきたような感じがあったかもしれないですね。私は大山先生に長いあいだついていて、いいことも悪いことも見させてもらいましたけど、やっぱり大山総裁はピュアに昭和の宮本武蔵になりたかった。でも、気がついてみたら大山総裁が考えた以上の組織になってしまったんですよ。彼自身もその組織の成長に考えがついていけなかった。それで肩肘を張って背伸びをして、ある程度虚飾もしなければいけなくなったんだと思います」

また「猪木は天才、ウィリーはド素人」として、伝説の猪木・ウィリーの異種格闘技戦について、盧山氏は以下のように語っています。

「私は試合を観て、やっぱり猪木さんはプロだなと思いました。どっちが強いとか弱いとか、そういうレベルじゃないんですよ。両方のメンツをああいうかたちでうまく保ったなと。 それは猪木さんのリードがなければ、ああいうかたちには着地できなかった」

「無理ですよね、アマチュア相手に」と言い放つ吉田氏に対して、盧山氏は以下のように述べています。

「だから言ってみればウィリーはまだまだド素人ですね。組織と組織、極真対プロレスの闘いだったけど、そういう枠じゃないんですよ。猪木さんはプロとして両方のメンツを保ちながら、絡み合おうじゃないか、と。批判を浴びながらもうまくドローに持ち込んでお互いのメンツを保ってうまいところに落とし込んだなという面では、やっぱりすごい人だなと思いましたね」

かつて「キック界最強」の名を欲しいままにした藤原スポーツジム代表の藤原敏男氏は、「キックは痛いけどプロレスは楽しい」として、「藤原先生はどれくらい飲むんですか?」という吉田氏の問いに対して、「平均10時間飲んでるね」と答えます。「え、それは週にどれくらいのペースで?」と吉田氏が驚くと、藤原氏は「毎日。俺もう残りの人生が少ないから、酒もタバコもやめたりしない。やめて肺がんになって死んだ人もいっばいいるじゃない。ストレスが溜まるようなことしたくないね」と言い放つのでした。豪快ですね!

また、キックとプロレスについて、藤原氏は以下のように語ります。

「キックだと真剣勝負だから、殴ったり蹴ったりすると痛いじゃないですか。プロレスは楽しいなと思った。総合の連中とも、昨年末は宇野薫なんかと絡んだけど。俺、容赦なく噛みつきしたんですよ。結構、腿とお尻噛んじゃうんです。格闘技にいいも悪いもないと思って。自分がやられる前にやる!」

うーん、素敵すぎますね。伝説の空手家、格闘家たちの発言に、わたしの顔はほころびっぱなしでした。

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