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No.1337 プロレス・格闘技・武道 『『週刊ファイト』とUWF』 波々伯部哲也著(双葉社)
2016.10.20
『『週刊ファイト』とUWF』波々伯部哲也著(双葉社)を読みました。
「大阪発・奇跡の専門紙が追った『Uの実像』」というサブタイトルがついています。著者は1956年大阪生まれで、元『週刊ファイト』副編集長です。同紙の休刊後は鉄鋼工業新聞社を主宰しながら、依頼があった際にプロレス関連の取材・執筆を行っているそうです。本書は『週刊大衆』2015年8月3日号~12月14日号に掲載された「昭和黄金時代の『過激なプロレス』壮絶舞台裏」に加筆・修正をしたものです。
本書の帯
帯には佐山聡(スーパータイガー)と前田日明のセメントマッチの写真が使われ、「前田がキレた!」「藤原が決めた!」「佐山が消えた!」「高田は泣いた!」「『24時間プロレスを考えなさい』I編集長の教えを胸に、駆け回った青春―」「激活字! 考えないプロレスは、単なる見世物である。」と書かれています。帯を外すと、道場でカールゴッチの指導を受けている藤原喜明、それを見守る前田と高田の写真、さらに裏にはスーツ姿で仲良く並ぶ前田、藤原、高田の写真が使われています。
帯を取った表紙
帯を取った裏表紙
カバー前そでには、以下のように書かれています。
「勝ち組、負け組・・・・・・そんな言葉が当たり前のように語られる時代。だが、人生に勝つとは一体、何なのだろう。プロレスは勝敗を超えたところにある、とも言われる。闘いを通じて見せつけた何か。勝ち負けよりも大切な何か。人生に克つ―リングには、その答えがある。プロレス激活字宣言!」
カバーを外した表紙
カバーを外した裏表紙
さらに、カバーを外すと、表紙には佐山(タイガー)、前田、山崎、高田、藤原の5人が笑顔で円陣を組んだ写真、裏表紙には「格闘技道場UWF」の看板とリング上の前田の写真が使われています。UWFファンには、たまりませんね! わたしも、なつかしい思いでいっぱいになりました。UWFの試合はよく観戦しましたし、大学生のときに早稲田のキャンパスで開催された藤原・佐山・前田・高田・山崎の5選手によるトークショーに参加したことも良い思い出です。「藤原組がやってきた!」というタイトルのイベントでしたが、5人ともとても仲が良さそうだったことを記憶しています。『週刊ファイト』は休刊まで毎週欠かさず購読していました。
本書の帯の裏
本書の「目次」は、以下のような構成になっています。
「はじめに」
第一章
悩める男
第二章 不思議の国の『週刊ファイト』編集部
第三章 夜明けのUWF
第四章 Uの星座たち
第五章 無限大遺伝子
第六章 雨のリバプール
第七章 愛しのI編集長
「おわりに」
[青春対談]前田日明×波々伯部哲也
『週刊ファイト』と前田日明
1982年6月に『週刊ファイト』の記者募集に応募した著者は、伝説のI編集長こと井上義啓編集長に出会います。著者は、すさまじい情熱を持ってプロレス記者という職を全うしてきた井上編集長にその理由を聞きます。すると、井上編集長は「まーっ、1人の人間、アントニオ猪木という人間を追いかける楽しみはあった。記者本来の充実感、書きたいものを書くということができない以上、人間を追う楽しさを見出さなければ続かないだろうな」と答えるのでした。「はじめに」で、著者はこの井上発言を引合いに出して、以下のように書いています。
「そういう意味では前田日明を筆頭に高田伸彦(現・延彦)や船木優治(現・誠勝)、佐山聡(タイガーマスク)、藤原喜明らUWFに属した選手は、追いかける楽しさに満ちあふれた人物たちだった」
また「はじめに」で、著者は、前田が現役選手としての大阪ファイナルマッチとなったリングス98年4・16大阪府立体育会館大会で語った以下の言葉を紹介します。
「UWFが解散して、もう選手として終わったと思っていた。しかし、それまで応援してくれてた人や信じてくれてた人に、このまま終わったら話がちゃうやんけ、なんてオレはだらしないんやとか思いながら。それにUWFが解散して全くのひとりぼっち。これじゃ東京に出る前と一緒で元のモクアミ。そんな嫌な思いがして、よし、じゃー、とにかくやれるとこまでやったら、憤死しても認めてくれるだろう」
著者は「前田番」の記者で、2012年に発売された前田日明DVDボックスでは、スタジオでのインタビュアーを務めました。第2次UWFが解散したときの前田の絶望をよく知っていた著者は以下のように書いています。
「前田にとってUWFとは何だったのか。同じ志を持った仲間はどんな思いで集まって来たのか。なぜ別々の道を進むことになったのか。大阪ファイナルマッチで『なんだかんだいって20年間やらしてもらいましたからね。その間、リング上だけでなく、リング外のことでもいろいろ皆さんにご心配をかけましたけれど、その中にまた道があった。それをまた応援してもらったり。そんな応援が少しづつこだまして積み重なったような気がします』と言った前田にとって、UWFで過ごしたのは人生でほんの一瞬だったのだが・・・・・・」
本書の章扉には、大文字で言葉が掲載されています。
I編集長と前田日明、そしてUWFに関係した人々の言葉です。
まるで偉人の名言のようなそれらの発言を以下に紹介します。
「いいんだ、それで。
あの連中は(UWF)は、
やりたいことをやって、
つぶれたらつぶれたで
本望なんだ。
中途半端が一番いかん」I編集長
「波々伯部さんなら、
わかるでしょ?
オレがどんな思いで
UWFをやってきたのか。
今、道で猪木さんと
バッタリ会ったら
オレは殺しますよ」前田日明
「外から見るプロレスと
内に入って見るプロレスとは
天と地ほど
全く違うものだと
肝に銘じてください」I編集長
「イギリスから帰ってきて
第1試合を見たら、
高田がコーナーのトップから
ミサイルキックをやってる。
オレらの時代にあれをやったら
半殺しですよ」前田日明
「すべてですよ、すべて。
これまでのプロレスを
黒だとすると
白に変えたいんだけど、
これまでのプロレスだから
もってる部分がある。
だから真っ白にはならず
灰色だろうとか」佐山聡
「新日本だとリラックスして
リングに上がっていたのに、
今日はなんともいえない
緊張感があった。
いい意味で格闘技を
やってる気がしました。
爽快ですよ。
より以上、格闘技に近い
プロレスをやっていきます。
お客さんの目も作っていきたい」前田日明
「佐山さんと
対立していたころの
前田さんが好きでした。
殺し合いじゃない、
ギリギリの闘いだと
言ってる前田さんとは
同じ考えだなとか思って。
今は前田さんがいないほうが
いいんじゃないかと」船木優治
「オレなんか、
団体やレスラーから
金をもらったことなんか
1度もない。
金をもらってないから
誰はばかることなく
書きたいことが書ける」I編集長
本書を読んで、前田日明とI編集長の発言がシンクロする場面が何度もありました。そう、おそらくUWFと『週刊ファイト』は同じ種類の運動体だったのでしょう。ともに今はもう存在しませんし、これからUWFのプロレス団体、『週刊ファイト』のような新聞は二度と出現しないでしょう。
でも、わたしの記憶の中でそれらはキラキラと輝いています。
いつだって、一番美しいのは思い出なのかもしれません。