No.1612 オカルト・陰謀 | 哲学・思想・科学 『アメリカ超能力研究の真実』 アニー・ジェイコブセン著、加藤万里子訳(太田出版)

2018.10.14

アメリカに関する本を読みました。『アメリカ超能力研究の真実』アニー・ジェイコブセン著、加藤万里子訳(太田出版)です。「国家機密プログラムの全貌」というサブタイトルがついています。著者はアメリカの調査報道ジャーナリストです。ロサンゼルス在住で、「ロサンゼルス・タイムズ・マガジン」の編集に携わるほか、多くの雑誌に寄稿しています。一条真也の読書館『エリア51』で紹介した世界的なベストセラーをはじめ、軍事開発の闇を追う話題作を精力的に発表。

 本書の帯

本書の帯にはオレンジ色の活字で「ESP、サイコキネシス…」「ユリ・ゲラーなど多数の関係者が初めて明かす!」「政府の極秘プログラムはいかに発動・展開されたか?」と書かれています。

本書の帯の裏

また、帯の裏には以下のように書かれています。
「本書は機密解除された文書と独自に入手したファイル、50人以上の関係者への取材をもとにアメリカ政府の数十年にわたる超能力研究プロジェクトの全貌を明らかにしている。CIAや軍のプロジェクトの中心グループ、国防科学者、超能力者、物理学者の証言もおさめた迫真のノンフィクションだ。ESP探究の軌跡は科学の歴史、冷戦の歴史と読むこともできる。ベトナム戦争、月面着陸、大使館人質事件、電磁兵器攻撃など歴史的事件や国家安全保障にサイキックや超常現象研究がかかわっていたのは興味深い」

さらに、カバー前そでには以下の内容紹介があります。
「1950年代初期から40年以上、国家安全保障という名の下でアメリカ政府主導により超能力(予知、透視などのESPや念動力などの直感的認知)研究プログロムが行われてきた。極秘プログラムの目的は、ロシアを代表とする共産側の情報収集と国家安全保障の脅威を予知することだった。研究を主導した諜報および軍の機関はCIAから国家情報局、国家安全保障局、陸海空軍、統合参謀本部まで多岐にわたる。 政府はなぜ超能力に関心を寄せたのか? 超能力はどのように活用されたのか? 機密解除された文書と50人以上の関係者、ユリ・ゲラーなどの被験者への取材をもとに全貌を明らかにした全米ベストセラー作家のノンフィクション」

本書の「目次」は、以下のようになっています。
プロローグ
第一部初期
第1章 スーパーナチュラル
第2章 プハーリッチ理論
第3章 懐疑論者とペテン師とアメリカ陸軍
第4章 疑似科学
第5章 ソ連の脅威
第二部 CIAの時代
第6章 ユリ・ゲラーの謎
第7章 月面に立った男
第8章 物理学者と超能力者
第9章 懐疑論者対CIA
第10章 遠隔視
第11章 無意識
第12章 潜水艦
第三部 国防総省の時代
第13章 超心理物理学
第14章 サイキック兵士
第15章 気功と銭学森の謎
第16章 殺人者と誘拐犯
第17章 意識
第18章 サイキック・トレーニング
第19章 第三の眼を持つ女
第20章 ひとつの時代の終わり
第21章 人質と麻薬
第22章 転落
第四部 現代
第23章 直感、予感、合成テレパシー
第24章 科学者と懐疑論者
第25章 サイキックと宇宙飛行士

超能力関係では、これまでにも、一条真也の読書館『超常現象を科学にした男』、『「超常現象」を本気で科学する』、『超心理学』、『超常現象 科学者たちの挑戦』で紹介した本などを読みましたが、本書の内容もそれらと重複するものが多かったです。正直、新しい情報はあまりありませんでした。
昔、石原慎太郎が帯に推薦文を寄せた『ソ連圏の四次元科学』というソビエト連邦における超能力研究についての本を読んだことがあったので、本書はアメリカの超能力研究のレポートということで興味を持ちました。

「プロローグ」の冒頭には「本書は、国家機密プロジェクトにかかわった科学者と超能力者たちについて書かれている。アメリカ政府が数十年にわたって超常現象に関心を寄せていたことを明らかにするものだ」と書かれ、さらに著者は述べています。
「研究が実際にはじまったのは1972年、中央情報局(CIA)が将来有望な数人の若き科学者に接触し、サイキック(”霊感のある人間”)の研究プログラムを立ち上げたときだ。スタンフォード研究所(SRI)[現SRIインターナショナル]という国防総省が資金を提供するアメリカ第二の独立研究施設が契約を請け負った」

続けて、著者は以下のように述べています。
「科学者はまず、五感を使わずに物事を知覚するESPと、精神力のみで物体を動かすサイコキネシスを研究室で実証し、再現できるかどうか調べるように命じられた。もし再現ができるなら、これらの能力を敵にどう使えば冷戦に勝つことができるだろうか?CIAはそれを見きわめようとしていた。
結果は驚くべきものだった。『数々の確かな実験証拠により、ESPが本物の現象として存在すると認めざるを得ない』。CIAは、1975年にそう結論づけている。軍と諜報機関も結果に注目し、プログラムへの参加を求めた。なかには海軍、空軍、陸軍(情報保全コマンド、開発・即応部隊など)をはじめ、沿岸警備隊、国防情報局、国家安全保障局、さらには麻薬取締局、アメリカ関税局、シークレット・サービス、統合参謀本部も含まれていた。ときがたつにつれて大統領、議員、国家安全保障会議のメンバーの多くもブリーフィングを受けるようになった」

第一部「初期」の第1章「スーパーナチュラル」では、ナチスドイツ時代のオカルト志向が取り上げられ、第2次世界大戦が終わるとすぐに、米ソ両政府は人間の行動に影響をあたえコントロールする新しい方法を研究しはじめたことが紹介されます。
「ここで初めて、アーネンエルベの科学がナチス・ドイツ以外の場所で活用されることになった。アメリカ側の研究を指揮したのは、創設されたばかりのCIAだ。初期の計画のひとつは、自白剤の開発だった。魔法の薬と魔法使いの呪文が関連する、古くから探求されてきたテーマである。この秘密のプロジェクトは、メリーランド州エッジウッドの陸軍化学センターで陸軍の科学者とともに進められ、最初は〈ブルーバード〉、次に〈アーティチョーク〉、最後は、〈MKウルトラ〉と呼ばれた。CIAは、研究のためにマジシャンや催眠術師のほか、”イギリスでもっとも有名な魔女”シビル・リークまで雇い入れた」

第二部「CIAの時代」の第6章「ユリ・ゲラーの謎」では、20世紀で最も有名な超能力者であったユリ・ゲラーが取り上げられ、著者は以下のように述べています。
「ユリ・ゲラーは、1946年12月にイスラエルで生まれた。彼の人生は、戦争の影響を色濃く受けている。ユダヤ人の両親はハンガリーのブダペストに住んでいたが、1930年代末にナチスの迫害を逃れ、イギリス委任統治領パレスチナに居を定めた。ゲラーが生まれた1946年は、独立を求めるユダヤ人組織の武力闘争が活発化し、狙撃手の発砲や市街戦が日常的に起きていた。母親のマンジー・フロイトは、1987年にBBC放送のインタビューで、一家が住むテルアヴィヴのアパートの外壁は銃弾の穴だらけであばたのようだった、と語っている」

続けて、著者は以下のように述べています。
「あるときなど、息子が眠っている寝室にも流れ弾が飛んできた。弾はゲラーの身体をわずかに外れて、すぐそばの壁に突き刺さったという。母親はさらにこう続けた。ゲラーの不思議な力の兆候が見えたのは、時計をめぐる一連の出来事だった。生まれて初めて身につけた腕時計は7歳のときに父親から贈られたものだったが、ゲラー少年が腕に巻いてから数時間もすると動かなくなった。代わりにもらったふたつ目の時計も、彼がつけると壊れてしまったという」
著者はユリ・ゲラーの超能力とパウリ効果の関係についても言及しています。

第7章「月面に立った男」では、一条真也の読書館『月面上の思索』で紹介した本の著者である宇宙飛行士のエドガー・ミッチェルが取り上げられ、著者は以下のように述べています。
「アポロ計画の宇宙飛行士エドガー・ミッチェルがテレパシーに魅せられたのは、1967年のことだった。極地探検家で受勲歴のある戦争の英雄ヒューバート・ウィルキンス卿の以心伝心〔テレパシーの昔の名称〕実験に関する本を読んだときだ。この実験から、ミッチェルはあることを思いついた。ちょうど宇宙飛行士の訓練をはじめたばかりで、もし月への宇宙飛行メンバーに選ばれたら、宇宙船のなかで自分もテレパシー実験をしようと決めたのだ」

ミッチェルは宇宙空間で超能力の実験を行いました。
そのことについて、著者は以下のように述べています。
「宇宙でミッチェルがおこなったESPテストのデータをメディアが入手するまで、それほど時間はかからなかった。200回のテレパシー交信のうち、シカゴにいたサイキックが正解したのは51回だった。偶然とほぼ同じ確率だ。ミッチェルがそれをタイミングのせいだと主張すると――宇宙飛行士の仕事でテレパシー伝送の時間が1時間ほど遅れた、と彼は言った――懐疑論者はここぞとばかりに沸き立った。しかし、世間の嘲笑はミッチェルにはどうでもよかった。彼はちがう人間になっていた」

続けて、著者は、ミッチェルについて述べます。
「月から帰還後の6カ月はNASAに課せられた義務を履行し、さまざまな国の首相や大統領、国王、議員、それに全米各地の高校生と握手を交わした。けれど、もう以前と同じようには世界をとらえていなかった。意識とは何か、それを理解することに焦点が移っていた。『意識は宇宙と同じくらい広大で、眠りと同じくらい身近なテーマだ』と、彼は述べた。ESPテストを実施したのは、『人間のあいだには現在理解されている科学の法則を超えた情報のつながりが存在し、テレパシーがそれを証明するからだ』。これからは、地球における『人間の目的を考察または説明するもの』だけを追求するつもりだった。『人間が自分自身と宇宙の本質を理解しようとすることは、究極のフロンティアだ』と、宣言した」

第12章「潜水艦」の冒頭では、著者は以下のように述べています。
「超常現象の源は何か?この問題は、はるか昔から超感覚的知覚(ESP)の実践者と情報提供者を悩ませてきた。紀元前2400年のアッシリア人の古文書から18世紀の神秘主義の神学者エマヌエル・スヴェーデンボリの著作までを見てもわかるように、数千年間、答えのひとつは神という超自然的存在だった。それが約150年前、電磁波は電場と磁場が結びついたときに形成されるという理論が確立すると、電磁スペクトルに焦点が当てられるようになった。簡単に言えば、テレパシーは、”精神のラジオ”のようなものということだ。これによりESP研究は新たな分野へと移行した。
“ラジオ”はぴったりのたとえであり、比較的理解しやすい。1886年にハインリヒ・ヘルツが電波の存在を証明し、その9年後にグリエルモ・マルコーニが最初の電波信号の送受信をおこなうと、電波は空間を通して情報を伝える方法と解釈された。

第四部「現代」の第23章「直観、予感、合成テレパシー」の冒頭では、著者は以下のように述べています。
「超感覚的知覚(ESP)とサイコキネシス(PK)は実在するのか? アメリカ政府が研究をはじめた1950年代初め、ノーベル賞受賞者のヴォルフガング・パウリと精神科医のカール・ユングがこの現象について熱心に語り合った。議論の中心は、物理学者のロバート・A・マコンネルが発表したばかりの『ESP――事実なのか、想像なのか?』という論文だった。ユングはパウリに、古くからある謎には決して変わらないものがあると言った。『当然のことながら、奇跡にも不可能にも見える現象を説明し、排除するために、ありとあらゆることが試みられた。しかしすべて失敗に終わり、今までのところ、事実はその存在を徹底的に議論され排除されることをこばんでいる』と。彼らは、2017年でも同じ会話をしたかもしれない」

続いて、著者はアメリカにおける超常現象研究について、以下のように述べています。
「CIAと国防総省は、70年にわたって超常現象の研究を活発におこなってきた。1975年、CIAは次のように結論づけた。『ESPはまれにしか現れず、確実性に欠けるものの、信頼できる数々の確かな実験証拠により、本物の現象として存在すると認めざるを得ない』。しかし、最終的に研究プログラムを中止した。『これらの現象には、十分な理論的解釈が存在しない。さまざまな理論があるものの、どれも推測の域を出ておらず、根拠もない』。理論がなければ、CIAには仮説か推測しか残らなかったというわけだ」

さらに続けて、著者は以下のように述べます。
「10年後の1986年、陸軍も同様の結論に到達した。ESPとPKの研究者とプログラム・マネージャーは『科学的関心を引くに値する全般的異常を文書で証明することに成功した』が、『立証された超常現象理論がなく……超常性は推測として拒絶できる』。それでも、実験室での研究は続行された。しかし、1995年にCIAとペンタゴンが後援する政府のESPおよびPKプログラムの合同レビューの結果、同じパラドックスに基づいてプログラムは廃止された」

第25章「サイキックと宇宙飛行士」では、著者は「フランク・シナトラ、モー・バーグ〔アメリカのプロ野球選手〕、ハリー・フーディーニ、ルイ・ド・ウォールもそうだった。彼らは全員、諜報機関のために働き、誰ひとり疑われなかった。それぞれプロとしての仕事で十分に名を馳せていたからだ」とし、さらには「ひょっとするとゲラーもそうなのかもしれない。いや、そうじゃないかもしれない。もし本当なら、それは彼の能力について何を意味するのか? 能力は偽物ということだろうか? それとも、能力は本物で、それをスパイとして使っているということなのか? まさに可能性が無限に広がるウサギの穴、ひと筋縄では解けない難問だ」と述べています。

「訳者あとがき」で、翻訳家の加藤万里子氏は本書について述べています。
「2017年1月17日、CIAは機密解除した1300万ページに及ぶ文書で超能力の実在を公表して、世界を驚かせた。本書はこれらの文書と、情報公開法を通して独自に入手したファイル、50人以上の関係者への取材をもとにアメリカ政府の数十年にわたる超能力研究プロジェクトの全貌を明らかにしている。CIAや軍のプロジェクトの中心グループ、国防科学者、政府が雇用した超能力者、計画に関わった物理学者たちの証言もおさめた迫真のノンフィクションだ」

また、加藤氏は以下のようにも述べています。
「イギリス政府がナチスのオカルト信仰を利用して第2次世界大戦に影響をあたえたという冒頭のエピソードから引きこまれる。軍事利用のために超感覚的知覚(ESP)とサイコキネシス(念動力、PK)を探求する科学者の取り組み、個性的なサイキックのエピソード、これらの現象を認めない否定派と肯定派の争いは、読み物としても格段に面白い。アポロ14号の宇宙飛行士エドガー・ミッチェルをはじめ、ESPにかかわった人々の人間ドラマも読みごたえがある。ジャーナリストとしての冷静で中立的な視点も好感が持てる」

そして、加藤氏は以下のように述べるのでした。
「アメリカ政府のESP探求の軌跡は、科学の歴史、冷戦の歴史と読むこともできる。ベトナム戦争、月面着陸、イラン・アメリカ大使館人質事件、モスクワのアメリカ大使館への電磁兵器攻撃など、歴史的事件や国家安全保障にサイキックや超常現象研究がかかわっていたのは興味深い。訳しながら、アメリカ政府の超能力部隊が軍事情報の収集だけでなく、テロや誘拐事件の捜査から二重スパイ、墜落機、麻薬の捜索まで、多岐にわたる任務にあたっていたことに驚かされた」

本書にはわたしの知らなかったことも書かれていたので、これまでの超能力研究に関する知識を補強することができました。わたしは、これまで少ない数の超能力者に会い、その能力を見てきました。世に多くいる超能力者や霊能力者にはフェイクつまりニセモノが多いことを、わたしは知っています。しかしながら、どうしてもその能力を否定できない者がいることも知っています。基本的に超能力の存在を信じているわたしですが、いつの日かその存在は科学の力で証明されるのでしょうか。

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