No.0058 文芸研究 『銀河鉄道と星の王子』 高波秋著(ジャン・ジャック書房)

2010.05.01

小学5年生の次女が通っている小学校から、「親が子どもに読ませたい、一緒に読みたい本」というアンケートが来ました。

父兄からアンケートを募り、審査の結果、100冊を選んで学校図書館に収めるのだそうです。そこで、ここ数日いろいろ考えましたが、わたしが子どもに最も読んでほしいのは次の2冊だと思い至りました。

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』とサン=テグジュペリの『星の王子さま』です。

最も子どもに読ませたい本

どちらも、人類の「こころの世界遺産」とも呼ぶべき素晴らしい本だと思います。 著書『涙は世界で一番小さな海』 三五館)にも2冊について書きましたが、どちらも「幸福」と「死」を考えるための童話だと思います。 子どものみならず、大人のための童話でもあります。 また、わたしにとっての最大の愛読書でもあります。 そして、2冊の接点を論じた『銀河鉄道と星の王子』高波秋著(ジャン・ジャック書房)という本を再読しました。

二つのファンタジーの接点

この本は、岩手県は花巻の「宮沢賢治記念館」で求めました。ここは以前にも訪れていましたが、『涙は世界で一番小さな海』の執筆にあわせて、昨年の3月に再訪したのです。

その前年、2008年の9月には箱根の「星の王子さまミュージアム」も訪れました。 わたしも以前から、『銀河鉄道の夜』と『星の王子さま』の両作品は似ているなと感じていました。

それは、ともに星々をめぐる物語だということもあります。でも、それ以上に共通しているのは、「利他」の精神というものをコンセプトとした物語だからかもしれません。

「利他」の精神は美しいですが、悲しいものでもあります。

この二つの作品に共通する特徴は、「悲しみ」の色がもやのように立ちこめていることだとして、著者の高波氏は次のように書いています。

「朝日が昇っても、日が沈んでも風が吹いても、人や動物がさびしげに行き来し、主人公たちは、理由もなく、『悲しい』と口にします。しかし、作品は、それぞれの作者の、いくつもの層を持つ、心の世界です。ことばを通して、その世界に入って、読み返し、心に反芻していると、作品の、別の層が、いつとなく、読者の心に現れて来ます。作品の奥に、隠れていたものの匂いを、感じた、と思うのは、そのときです。それを、きっかけとして、身の回りの、もやに、光が差し込んできます。サラサラと鳴る風の音が、いつのまにか、しずかな音楽となって、広がっています。同じファンタジーが、こんどは、別の世界のように、明るく展開してゆきます。幸福を求める、二人の作者の、熱い思いが、作品のウラに、表れようとしているのです。」

ちょっと句読点が多すぎて読みにくいですが、言わんとすることは何となくわかります。

著者はまた、「(まえがき)ファンタジーに入る」で、「友情と愛は、すべての人が、いつでも、入ってゆきたいとねがう、温かい、静かな心。その心への道すじを、手に取るように教えてくれるのが、宮沢賢治とサン=テグジュペリです」とも書いています。

これは、まったく同感ですね。 わたしは、宮沢賢治とサン=テグジュペリの二人を心から敬愛しています。 機会があれば、また花巻と箱根を訪れてみたいです。

宮沢賢治記念館(花巻)にて

銀河鉄道の停車場で

星の王子さまミュージアム(箱根)にて

王子さまとともに

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