- 書庫A
- 書庫B
- 書庫C
- 書庫D
No.0247 エッセイ・コラム 『株式会社 家族』 山田かおり著、山田まき・絵(リトルモア)
2011.01.21
『株式会社 家族』山田かおり著、山田まき・絵(リトルモア)を読みました。
著者は、尼崎出身のファッションデザイナーです。本書は、もともと著者自身が立ち上げたファッションブランドのHPに書かれた日記をセレクトして加筆修正したものです。著者の妹によるイラストが添えられています。
じつに不思議な組織の日々
家族というのは、じつに不思議な組織です。本書には、著者のアヴァンギャルドな家族の日々が綴られています。
たとえば、決してゴルフ場には行かないのに、スイングのメカニズムを空想だけで何冊もの手帳に綴り続ける父親。
この父は、ハンバーガーショップのドライブスルーで注文するとき、ポテトフライのことを必ず「ポテトチップ」と言い、スターバックスのことを「オートバックス」と言います。著者は、そんな父に対して、「そのままでいて欲しくてなかなか本当のこと言えなくてごめん」と書いています。
また、家の前を流れるどぶ川から引き上げられた亀にBB弾を打ち込む少年たちに「あんたら亀にやめなさい」と浦島太郎ばりの助太刀をしたところ、逆に「黙れやおばはん」と少年たちからBB弾を打ち込まれた母親。
この母は、無理の動物好きで、ぼろぼろの状態の犬や猫を拾ってきます。この母の手帳の1ページ目は、犬1匹、ウサギ1羽、猫5匹との出会いから別れまでが早見表になっているそうです。一番笑ったのは、母が「二コールマンキッドて綺麗やね」と言ったことによって、著者は正しい名前がわからなくなってしまったというくだりでした。
「知らない人について行ってはいけません、誘拐されてもうちは身代金出されへんから」と幼少の頃から母に叩き込まれ、抜群の自己防衛本能を示していたにもかかわらず、見知らぬおっさんの「マクドナルドに行こう」のひと言であっさり誘拐されてしまった妹。
この妹は、銭湯では父と一緒に男湯に入り、背中に桜吹雪の墨を入れたおじさんを見て、「きれいなお花咲いてるなぁ。お父さん見てみ」と言いました。その言葉を父が徹底的に無視したのは言うまでもありません。
そして、東京でファッションビジネスをスタートした著者の元に母が当然上京してきます。
東京観光といっても、自分が住む街で雑貨屋巡り&疲れたらお茶しばくだけの楽しい2日間を送ります。著者は母が好きそうな生地屋へ連れてゆくのですが、ちょっとした事件がありました。著者は、次のように書いています。
「案の定たくさん買って、大阪へ配送することに。ついでに手持ちの荷物(空のタッパーなのだが)を入れて欲しいという要望は却下された。せっかく母がご機嫌に買い物したというのにケチだこと。だから私はディスプレイのカツラをはぎ取ってかぶり、走って店を出た。これを”窃盗”と呼ぶ人もいる。そのクレオパトラみたいな末広がりのカツラを母にかぶせるとよく似合っていた。妹は防犯カメラに姉が映っていないことをとにかく祈っていた」
本書のアマゾン・レビューで1点をつけている人が、次のように書いています。
「本文の中で特に気になったのは、自分の母の身勝手な要求が聞き入れなかった腹いせに、その店で泥棒をしたという所。 書籍という人目に付く媒体で報告していることが信じられないし、笑えない」
うーん、難しいところですね。これは、わたしもノーコメントにしましょう。ただ、本書の中でこの部分だけは、稀代のマザコン小説であるリリー・フランキーの『東京タワー』に出てくる過剰なオカンへの愛情に似たものを感じてしまいました。
それはともかく、本書はとにかく面白い! スイスイ読めて、たくさん笑えて、少しだけホロリときます。
こんなことを言うと、無粋かもしれませんが、家族でも企業でも、組織をうまくやっていくためにはユーモアが必要である。本書を読んで、そんな感想を持ちました。