No.0303 コミュニケーション | 人間学・ホスピタリティ 『良寛さんの愛語』 自由訳 新井満著(考古堂書店)

2011.03.24

東日本大震災で被災し、避難所で暮らす方々のストレスが大きくなっています。

劣悪な環境に加えて、先行きが見えないこともその原因となっているのでしょう。

避難所で暮らす人同士のトラブルも増えてきているとのことで、心が痛みます。

こんなときこそ、「愛語」という日本人の知恵が役に立つのではないでしょうか。

そこで、『良寛さんの愛語』自由訳 新井満著(考古堂書店)を再読しました。

いのちをいつくしむ心の言葉

「千の風になって」で一大ブームを起こした新井満氏の次のキーワードは「愛語」でした。

愛語とは何か。それは、日本の仏教が生んだ言葉です。

曹洞宗の開祖である道元が著(あらわ)した『正法眼蔵』の中に『愛語』は登場します。

道元が愛語の重要性を説いてから500年後、若き良寛が『正法眼蔵』を読んで感動しました。そして、自らも愛語を心がける人生を送ります。

最晩年に、ふと筆を取った良寛は『愛語』の全文を書き写しました。

この書を現代に甦らせたのが、この『良寛さんの愛語』なのです。

良寛は、人々を苦しみから救い幸せにしたいと考えました。

そして、さまざまな愛語を大切にしました。

たとえば、「お変わりございませんか」。

これも立派な愛語です。身体の具合はどうなのか、何か困っていることはないか、何か悩んでいることはないか、などなど、相手のことを気づかっているのです。

別れ際には、「ごきげんよう」とか「どうかお大事に・・・」という愛語をかけます。

または、「お気をつけて」とか「どうかお達者で・・・」というのも愛語です。

老人には「いかがですか・・・」という愛語をかけるとよいそうです。

老いた人というのは孤独なものであり、一言もしゃべらないうちに一日が終わることもある。 しかし、こちらが「いかがですか・・・」という言葉をかければ、相手は何らかの言葉を返してきます。そこから、言葉の交流がはじまり、心の交流が生まれるというのです。

すなわち、離れていた心と心の間に橋が架かるわけですね。

さて、愛語はどこから生まれてくるのでしょうか。

それは、「愛心」から生まれてくるといいます。

では、愛心とはどこから生まれてくるのか。

それは「慈心」から生まれてくるのです。

そして、慈心とは「いのちをいつくしむ心」に他なりません。

愛語とは人間関係を良くする魔法かもしれません。

本書を読んで、ぜひ、わたしたちも日々の生活の中で愛語を使いたいものです。

ちなみに、わたしは「散る桜 残る桜も散る桜」という良寛の句が大好きです。

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