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No.0315 社会・コミュニティ 『福祉ってなんだ』 古川孝順著(岩波ジュニア新書)
2011.04.27
『福祉ってなんだ』古川孝順著(岩波ジュニア新書)を読みました。
もともとは、社会福祉に関心のあった長女のために本書を購入しました。しかし最近になって、わが社が高齢者介護事業へ進出する可能性が出てきたのです。そこで、わたし自身が「福祉」を勉強し直そうと思って読みました。
格好の入門書
著者は、日本を代表する社会福祉学者です。東洋大学ライフデザイン学部教授(ライフデザイン学部学部長)で、日本社会福祉学会の会長も務めています。
岩波ジュニア新書は「ジュニア」と謳っていても、大人が読んでもおかしくないくらい内容が充実した作品が多いことで知られていますが、本書も例外ではありませんでした。
というより、読者層となっている高校生どころか、「大学生にもちょっと難しいのでは」と言いたくなるほどの高度な内容でした。
本書の目次は、以下のような構成になっています。
「はじめに」
第1章 社会福祉をときほぐす
(1)変化する社会福祉コンシャスネス
(2)社会福祉の世界
(3)選別的な社会福祉から普遍的な社会福祉へ
(4)社会福祉の概念規定
(5)社会福祉の構成要素
第2章 社会福祉の成り立ち
(1)歴史に学ぶ
(2)社会福祉の原風景
(3)生活維持は個人の責任か社会の責任か
(4)福祉国家と社会福祉
(5)社会福祉の21世紀
第3章 社会福祉が必要とされるわけ
(1)利用者から社会福祉の対象を考える
(2)生活問題の形成
(3)社会的ニーズの性格
(4)社会的ニーズの対象化
第4章 社会福祉のしくみ
(1)社会的生活支援システムの形成
(2)社会的生活支援サービスの構成
(3)社会福祉運営の原理と原則
(4)社会福祉運営の枠組み
(5)社会福祉援助の配分原理
(6)社会福祉援助の提供組織
第5章 社会福祉のサービスプログラム
(1)社会福祉の法体系
(2)社会福祉事業の範囲と種類
(3)地域福祉型社会福祉としての展開
(4)社会福祉援助の手段形態別類型
(5)社会福祉援助を利用する場
(6)社会福祉施設の類型
第6章 社会福祉を利用する
(1)援助実施のシステム
(2)援助利用の手続き
(3)援助の展開過程
(4)援助の理念
(5)援助の類型
(6)援助の技術
(7)援助の質的向上
(8)援助利用の支援
第7章 社会福祉を支える
(1)社会福祉をになう人びと
(2)社会福祉専門職の働き
(3)社会福祉を科学する
著者は、まず、「福祉ってなんだ」という問いに対して、「君、福祉じゃないんだ、社会福祉だよ」と答えます。著者いわく、社会福祉とは、社会と人間の接点に起こる生活上の諸問題に対処することをめざす、社会的な施策ということになります。
社会福祉による支援は、人々の生活問題を社会と人間の相互作用のなかに形成されるものとして複眼的にとらえます。そして、そのような文脈において社会福祉を理解するところから、本書は出発するのです。
著者は、本書の第1章の冒頭を「こんにち、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌などで社会福祉に関係するさまざまな専門的な用語が日常的な言葉として使用されています」と書き出し、続いて次のように述べています。
「生存権、自立生活支援、選択と自己決定、自己実現、包括支援、介護、社会参加、ノーマライゼーション、バリアフリーなどという言葉がそうです。少し専門的になりますが、社会福祉協議会、社会福祉法人、民間非営利団体(NPO)、措置方式、契約利用、デイケアサービス、ショートステイ、ソーシャルワーク、ケアマネジメント、オンブズパーソン、福祉サービス利用援助事業(権利擁護事業)、苦情対応制度、サービス評価などという言葉が見つかるかもしれません」
そして、「社会福祉とは何か」を次のように簡潔に説明します。
「簡潔にいいますと、社会福祉というのは、困窮している人びと、低所得の人びと、高齢で介護を必要とする人びと、障害のため生活がしづらい人びと、十分な保護をうけていない子どもたちや虐待されている子どもたち、母子家庭・父子家庭の人びと、ホームレスの人びと、アルコール依存症の人びと、社会的に不適応の人びとなど、いまこの時、この瞬間にも変動を重ね、変容し続けている現代社会のなかで、現代に生きる人間として、ややもすればそれにふさわしい健康で文化的な、安定した生活を営む権利を脅かされている人びとに向けられた社会的な支援のための施策であり、そのもとにおいてさまざまな資格をもつ専門職、一般の職員、あるいはボランティアによって展開されている援助活動にほかなりません」
さらに、著者は社会福祉について次のように述べています。
「社会福祉は、市民社会において社会的にバルネラブルな状態にある人びとに提供される社会サービスの一つであり、多様な社会サービスと連携しつつ人びとの自立生活を支援し、自己実現と社会参加を促進するとともに、社会の包摂力を高め、その維持発展に資することを目的に展開されている社会的組織的な施策の体系である。その内容をなすものは、個別的、対面的応答という視点と枠組みから、人びとの生活上の一定の困難や障害、すなわち福祉ニーズを充足あるいは軽減緩和し、自立生活の維持、自立生活力の育成、さらには自立生活の援護を図り、またそのために必要とされる社会資源を確保し、開発することを課題として、自治体・国ならびに民間の組織・団体等によって設計運営されている各種の制度(サービスプログラム)ならびにその実現形態としての援助の総体である」
社会福祉とは、もともと「救貧」という考え方からスタートしました。それが、さまざまな「困窮者救済」「弱者救済」にまで広がってきたのです。わが社の本業は、冠婚葬祭互助会事業です。
もともと互助会というのは、戦後の困窮した生活の中で、子どもの結婚式や老親の葬儀の費用を心配する人々のためにありました。互助会の「互助」とは「相互扶助」の略ですが、これは社会福祉の精神そのものです。
つまり、かつての互助会とは社会福祉事業だったのです。それが日本の経済成長と相まって、「相互扶助」の理念を忘れがちになっていきました。豪華な結婚式場やセレモニーホールをたくさん建設して、単価の高い冠婚葬祭を施行することが目的となった観があります。すなわち、互助会のソフトの部分が弱まり、ハードの部分だけが強化されていったのです。
わたしは、ある意味で互助会が制度疲労を迎えたことが、「無縁社会」などというものを許した原因となっていると『隣人の時代』(三五館)に書きました。互助会が「相互扶助」という魂を取り戻すためのイノベーションが必要です。そのイノベーションこそ、隣人祭りであり、高齢者介護事業なのです。
本格的な「社会福祉」事業を始めるにあたって、本書は格好の入門書です。わたしは、今後も基本テキストとして、本書を何度も読み返したいと思います。