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No.0486 コミュニケーション 『会話は「最初のひと言」が9割』 向谷匡史著(光文社新書)
2011.11.11
『会話は「最初のひと言」が9割』向谷匡史著(光文社新書)を読みました。
タイトルから、『人は見た目が9割』竹内一郎著(新潮新書)を連想してしまいますね。
帯には、「社長、政治家、ヤクザ、ホスト・・・・・各界のトップを相手にインタビューを続けてきた著者が 絶対にすべらない “キラーフレーズ(最強のひとこと)”を伝授!!」と書かれています。
絶対にすべらない“キラーフレーズ”を伝授!!
カバーの折り返しには次のように書かれており、そのまま内容紹介となっています。
「人に会うのが怖い、あがり症、話ベタ・・・・・”コミュニケーション弱者”のための救済の書! あらゆる相手との会話において、最も重要かつ成功のカギを握るのは、優れた話術でも、芸でも、お笑いのネタでもなく、要所とタイミングを外さない『最初のひと言』だ。
各界のトップたちにインタビュー取材を続け、他方で僧籍を持ち、さらに空手家として武道にも精通する著者が、社会人なら避けては通れないあらゆる場面での会話を制する、”最強のひと言”を伝授!」
なんだか著者は凄そうな人ですが、1950年広島県呉市生まれで、週刊誌記者などを経て作家となったそうです。浄土真宗本願寺派の僧侶でもあるとのこと。
本書の構成は、以下のようになっています。
「はじめに」
第一章:初対面で相手の心をつかむ最初のひと言
第二章:困った! ときの最初のひと言
第三章:言ってはいけない最初のひと言
第四章:ビジネスに使える最初のひと言
第五章:会話を盛り上げる最初のひと言
「おわりに」
「はじめに」の冒頭で、著者は次のように述べています。
「口ベタな人間は1人としていない。
会話が苦手な人間もいないし、あがり症の人もいない。
もし自分が口ベタで、会話が苦手で、人に会うとあがってしまう―という人がいれば、それは能力や性格の問題ではなく、単に「会話の本質」を知らないにすぎない。
すなわち会話はキャンプファイヤーの火と同じで、うまく薪に火をつけることさえできれば、あとは放っておいても燃え盛っていくのだ」
週刊誌記者の経験がある著者は、数多くのインタビューを通じてつくづく感じることがありました。それは、魅力的な人物に共通するのは「話して楽しい人」ということです。そして、その会話の楽しさがどこからくるのかといえば、彼らが口にする「最初のひと言」にあるということでした。
心理学でも最初の数分間の第一印象ですべてが決まると言われますが、しぐさや表情だけでなく「最初のひと言」を著者は強調します。それは芸人の「つかみ」と同じで、そのひと言で会話の相手を引き込み、人間関係を構築してしまうテクニックなのです。
本書には、その実践的なテクニックがたくさん紹介されています。わたしの心に残った箇所を以下に紹介していきたいと思います。
「礼儀正しく自己紹介をされて、不愉快に感じる人間はいない。
だから自己紹介は、した者勝ちなのだ。有能な人間、人脈が豊富な人間は例外なく”自己紹介上手”と言っていいだろう」
「事前に考えていく話題は≪天気、季節、場所≫。なぜならこの3つは、どんな相手であっても『共通した話題』になり、空振りは絶対にないからだが、ポイントは『問いかけのニュアンス』で終わること」
「自己紹介のパターンをつくっておくのだ。それも≪転≫抜きのパターンだ。文章を書く場合は≪起・承・転・結≫が基本だが、自己紹介は≪転≫を抜かして≪起・承・結≫とやる」
「『何をお飲みになりますか?』と訊かれたら、まず相手のカップに目を落としてから、『じゃ、私もコーヒーを』とやるのが正解」
「会話はいつも友好的とは限らない。
厳しい交渉においては、和気藹々とした雰囲気づくりよりも、いかにして有利な条件を勝ち取るかが目的となる。たとえ人間関係にヒビが入ろうとも、交渉に勝たなければならない場面において、最初のひと言はどうあるべきか。
武道の攻防に≪先の先≫というものがある。読んで字のごとく、相手の虚をついて電光石火で攻め込み、勝ちを得る技術で、これが会話にも当てはまるのだ。
交渉を自分のペースで運ぼうとするなら、会話は≪先の先≫でいくべきだ」
「軽い気持ちで口にした政治の話題が次第に熱を帯びて、”論争”に発展したりする。
誰しも政治には一家言あり、それを否定されると見識を疑われたような気分になり、つい熱くなってしまう。だから相手の政治信条がわからない場合は、政治の話はタブーなのである。宗教の話題は、もっとやっかいだ。宗教観は、その人にとって全人格、全人生にかかわる根幹なので、それを批判されれば憤然とする。相手に敵意すらおぼえる。こうなれば、打ち合わせも何もあったものではない。だから宗教の話は、自分から持ち出さないのは当然として、相手が口にしても絶対に乗ってはいけないのである。
だが、政治と宗教以外にもう1つ、要注意の話題があるのだ。韓流スターである」
「友人は葬儀社に勤めているのだが、大寺の高僧を”一介の雇われ坊主”と間違えてしまったのだ。大失態である。出入り禁止になってもしょうがない。
で、友人はどうしたか。ひれ伏した。
『なんと!これはご無礼いたしました』印籠を目にして”水戸のご老公様”にひれ伏すがごとく、打ち震えるようにして恐縮してみせたのである。
これには”ご老公様”も気分の悪かろうはずがなく、『いやいや、気になさらんでください』と笑顔を見せ、かくして友人は、災い転じて福となし、この住職に可愛がられるようになったのである」
「目上の人に対して、『お忙しいですか』という会話の切り出しは、絶対に避けるべきだ。
なぜなら、『忙しい=有能』という社会的価値観において『お忙しいですか?』と問うのは、『あなたは有能ですか?』と問いかけていることと同じであるからだ」
「うんと目上の人に会う場合、もし気のきいた話の糸口が見つからなければ、余計なことは言わないことだ。
『本日は貴重な時間をありがとうございました』
丁重に礼を述べ、一瞬の間をおいて相手の言葉を待つ」
「葬儀式場で遺族と顔を合わせたときは、『このたびはまことにご愁傷さまでした。謹んでおくやみ申し上げます』というのが決まり文句。そっけなくとも、このひと言だけでいい。いや、このひと言だけですませるのがマナーなのだ。
そして、この光景はどこの葬儀に参列しても目にするのだが、『やあ、どうも、ご無沙汰』と、旧知を見つけて談笑したり、上司やクライアントらしき人間に笑顔でモミ手する人だ。義理で参列したとしても、これは絶対に避けるべき。葬儀は故人にかかわる多くの人が参列しており、誰が見ているかわからない。葬儀式場での談笑は無神経で、非常識であることを肝に銘じて欲しい」
「人脈は”風呂の湯”と同じで、放っておくと次第に冷めていって、最後は水になってしまう。だから、一定の温度を保っておこうとするなら、ときおり追い焚きが必要になる」
「同郷、同窓、同業、同好、同胞―等々、『同』でくくられる人間関係は、それだけで親近感をいだかせるのだ。
心理学ではこれを『類似性の動機づけ』ともっともらしく名づけているが、そんなものは”あと理屈”。人間は往古から集団生活によって生きてきた。DNAは『同』に親近感をいだくようになっているのだ」
「部下や後輩がミスをしたり、非礼があったときは遠慮することはない。
『なんだ、それは!』と、大いに怒鳴りつければよい。
そして、すかさず『君ともあろう者が』『君だから叱るんだ』とやればいいのだ。
そして、叱責したあとで、『期待しているよ』と、やさしい笑顔でつけ加えておけばなおよい。相手はずっしりと両肩にプレッシャーがかかるのである」
「相づちは”餅つき”のときの『手返し』と同じなのだ。手返しとは、『つき手』に合わせてお餅を返すことで、このタイミングが合わないと餅つきはできない。目上の人を『つき手』とすれば、目下の者はお餅を返す『返し手』と思えばいいだろう。
返事は素早く、相づちは小気味よく―。目下の鉄則である」
「ビジネス会話においては、『四つ話して、六つ聞く』ということを心がけるといいだろう。『話す』と『聞く』のバランスが四分六になるように気を配って会話するのだ。主張すべきことは主張し、それでいて相手と良好な人間関係を築くことができるのである」
「お世辞は、できるだけ早いタイミングで言う。
用談が終わって席を立ってから、『失礼ですが、清濁併せ呑むというのか、親分肌なんですね』と、相手をヨイショしても意味がない。
ホテルに泊まってチェックアウトのときにチップを渡すようなもので、チェックインしたときに渡してこそ、チップはサービスに活きてくる。
だからお世辞は、できるだけ早いタイミングで口にするのが、会話を弾ませ、相手を良好な人間関係を築くコツというわけだ」
「会話がキャッチボールで成立するものである以上、相手がボールを投げてくれるだろうという不確実なことを期待してはいけない。ボールはまず自分から投げるべきなのだ。だから、相手と会って最初にどういう言葉を投げかけるか、”自分流”のパターンをつくっておく必要があるというわけである。状況に応じた変幻自在のアドリブ会話は、話が弾んでからのことで、まず”言葉のキャンプファイヤー”にいかに火をつけるかに全力投球することだ」
いかがですか? こんなふうに、具体的な会話のテクニックが次々に紹介されていくのです。
ただ、本書で扱われている「会話」は、「仲間や友人で楽しく談笑する」というものではありません。あくまでも、「ビジネスで相手に挨拶したり、交渉したりする」場合の会話が中心です。いわゆるビジネス・マナーの関係書ということになるでしょうか。
実例に、やたらとヤクザやホストが登場するのには違和感がありますけれども・・・・・。でも、まあ、実戦で使える技術ということは間違いないでしょう。
著者の卓越した人間洞察と長年のインタビューでの実践によって、対人コミュニケーションのスキルが磨ける内容となっています。ビジネスにすぐ使えるという点では、類書を圧倒すると言っていいと思います。
会話は最も大切なコミュニケーション手段
わたしは、『人間関係を良くする17の魔法』(致知出版社)という本を書きました。人間関係の問題とは、つまるところコミュニケーションの問題です。そして、人間同士の最も大切なコミュニケーション手段とは会話ではないでしょうか。会話のないところに良い人間関係などありえません。
わたしは、いつも会話の際には3つのことをするように心がけています。
まず、必ず相手の目をやさしく見つめながら話を聞くこと。次に、相手の話には必ず、あいづちを打つこと。相手をほめる言葉を混ぜると、さらに相手は饒舌になってくれます。そして3つ目は、自分が話すときには意見ではなく、質問のスタイルをとることです。あと、会話の内容も大事ですが、会話のときの態度も大事です。
絶対に腕組み、足組みだけはしないように気をつけています。本書に書かれているような「最初のひと言」以前の会話の基本ではないでしょうか。