No.0549 人生・仕事 『2022-これから10年、活躍できる人の条件』 神田昌典著(PHPビジネス新書)

2012.02.25

『2022年―これから10年、活躍できる人の条件』神田昌典著(PHPビジネス新書)を読みました。

著者は、カリスマ経営コンサルタントとして有名な人物です。また、「フォト・リーディング」に代表される速読術の普及活動でも知られています。

本書の帯には、「なぜ、神田昌典は、『日本人の未来は明るい』と言い切れるのか?」「あの経営コンサルタントの『未来を拓く』最強ツールがついに、あなたのものに!」「著者が身を削って書き上げた、渾身のキャリア論。」「あと数年で、会社がなくなる!?」などと書かれています。さまざまな活字体と級数を駆使して、また縦書きと横書きで、よくここまで帯に情報を盛り込んだものです。PHPビジネス新書が完全にフォレスト出版化していますな(笑)。そういえば、異様に長いタイトルもフォレストっぽいですね。

著者の本を読んだのは『全脳思考』(ダイヤモンド社)以来ですが、しばらく本を書いていませんでした。その理由は本書の「はじめに」で明らかになりますが、久々に上梓された本書を読んだ感想は率直に言って「面白かった」です。

しかし、アマゾンなどのレビューを見ると「名著」と「トンデモ本」という意見に二分されているように、なかなか評価しづらい本でもありますね。「あと数年で会社はなくなる」とか「中国は2025年まで発展、日本は2020年以降、崖から転がるように落ち込む」とか「iPhoneは2016年に製造終了」といった衝撃的な予言がたくさん語られています。不安だらけの未来にもかかわらず、著者は「これからの日本は、チャンスに溢れている」と言い切ります。
そして、今この瞬間の読者の選択こそが、これから10年、活躍できるか、後悔する人生を送るかのターニングポイントであるというのです。ビジネス書というよりは人生論の類かもしれません。

本書の「目次」は、以下のようになっています。

「はじめに」
第1章:先が見えない世の中って言うけれど、それは天気予報があるのに知らないようなもんだ
第2章:平成「ええじゃないか」が、なぜ必要か?
第3章:踊る中国、沈む日本
第4章:二〇二四年、会社はなくなる!?
第5章:イン・フォメーションから、エクス・フォメーションへ
第6章:四〇代が、時代のはざまに架ける橋
第7章:二〇二二年――再びページを開くとき

「はじめに」で、いきなり著者は、2010年12月7日に癌の告知を受けたことを読者に告げます。悪性黒色腫という爪が黒く変色していく癌でした。当時46歳だった著者は、死がいきなりリアルになって一気に老人になったそうです。
そして著者は、遺言書のつもりで本書を書くことを決心し、補完する編集者によるインタビューも受けたそうです。マーケティングのプロである自分が、手っ取り早く読者に飛躍のステージを用意できる本を遺書として出そうと思ったのです。著者は、「すでにカウントダウンがはじまっているのだ」と読者に告げ、次のように述べています。

「私はこれから3年ほどで、新しい歴史サイクルがはじまると考えている。明治維新、太平洋戦争終戦に匹敵する社会体制の刷新が起こり、日本という国、そしてアジアという地域のあり方が、いまからはまったく想像できないほどに変わってしまうと予想している。そんな変わり目で飛躍しようとするのは―江戸幕府が倒れるはずないと誰もが信じているときに、ちょんまげを切る準備をはじめるようなものだ。申し訳ないが、まわりから見れば、かなりクレイジーなことを率先して行う人だけが飛躍できる。
未来を切り開くためには、いま手にしているものを潔く捨て去らなければならないタイミングがある。そうした気の早い人が、新しい時代を担うリーダーとして飛躍するし、逆にタイミングを失う人は、表舞台から消えてなくなる。古い価値観にしがみつく側になるのか、それとも新しい価値観を創る側にまわるのか。そうした大きな決断を、誰もが3年以内に迫られるだろう」

そして、これから起こる未来の出来事が「予言」として紹介されています。中には本当にトンデモっぽい内容のものもあります。
たとえば、2016年に国家財政が破綻し、預金や年金が二束三文になるなど。著者の大予言で、わたしが特に興味を抱いたのは以下の通りです。

●2012年に「効率」「情報」の時代が終焉、「共感」「つながり」の時代へ本格シフト。

●共感の時代のプラットフォームが、フェイスブック。そのアプリの発展により、個人ビジネスがより身近に。ビジネスパーソンが当たり前のように副業を開始。

●2015年までに、明治維新、太平洋戦争終戦に匹敵する変革が起こる。その規模は、国の体制が変わるほどであり、革命と呼んだほうが適切。価値観がひっくり返り、ビジネスよりも、宗教が価値を持つ時代がはじまる。

●2020年頃までには、北朝鮮の体制崩壊をきっかけに、儒教を伝統とする国家(日本、韓国、北朝鮮、台湾、中国)が儒教経済圏を形成しはじめる。

●2033年までに、NPOをはじめとした社会事業が、雇用の中心的な受け皿に。国のかたちが変わる。国境に影響されない、新しい世界政府のかたちが見えはじめる。

どのようにして、著者はこれらの予言を行っているのでしょうか。著者は、そのノウハウを次のように明かしてくれます。

「時代の流れを読むために、私はいくつもの方法を使っているのだが、根幹にあるのが、70年周期説。このサイクルで歴史を遡っていくと、『歴史は繰り返す』と言われることが、非常によくわかる」

わたしはドラッカーの「大きなイノベーションの約半世紀後に社会は一変する」という仮説をよく使うのですが、著者の場合は「70年周期説」なのですね。著者は、まず平成時代のバブル景気と、大正時代の大戦景気は、その期間も大きさも、瓜二つといってもいいほど似ていると指摘します。大戦景気がはじまったのは1915年で、終わったのは5年後の1920年。バブル景気がはじまったのは1985年で、終わったのは5年後の1990年。なるほど、なるほど、そういえばそうですね。

また著者は、「歴史を振り返れば、新しい価値観は、圧倒的な欠落に気づいたときに、生み出される」として、1877年と1945年を例にあげます。
1877年には、西洋国家に太刀打ちできず、不平等条約を押し付けられる中での、国力の「圧倒的な欠落」がありました。富国強兵に取り組み、列強に並ぶことが、日本人が共有した未来への物語だったのです。1945年には、焼け野原に囲まれ、飢餓に怯えるほどの、物資の「圧倒的な欠落」がありました。アメリカのテレビドラマに登場する、物で溢れる白いマイホームが、日本人が共有した未来への物語でした。

では、現在のわたしたちの「圧倒的な欠落」とは何なのか。著者は述べます。

「2015年には、私たちには、何もないことを知ることになる。
いったい、何がないのか? おそらく人間の心について、そして人間の可能性について、何も知らなかったことに、はじめて気づくのだと思う。この『圧倒的な欠落』を埋めるために、次の歴史サイクルが本格的にはじまることになる。
欠落を埋めていくために、明治維新以降は、ヨーロッパがモデルになった。
終戦以降では、アメリカがモデルになった。
ところが、今回の歴史の転機では、日本には、まったくモデルがない。
それは、なぜなら―おそらく日本が世界のモデルになるからである」

そう、本書は「日本人の未来は明るい」と主張する本なのです。

第1章の冒頭には、「本書は日本人のための本である。悪いが、英語、中国語、韓国語には翻訳させない。なぜなら世界中の人々が、日本人に嫉妬してしまうからである」と書かれています。とはいえ、第3章においては「踊る中国、沈む日本」のタイトルで、中国は2020年までその勢いが止まらず、逆に日本は2020年以降いよいよ本格的な下落が始まると書かれています。調子がいい国は中国だけではありません。韓国、台湾も同様に、これから上昇し、2025年頃までピークが続きます。

つまり東アジア全体が、これから10年は大きく成長していくというのです。著者は、これらの国々には、ひとつの大きな共通点があるといいます。それは何でしょうか。答えは、儒教です。著者は、次のように述べます。

「儒教とは、キリストに先立つこと500年前に生まれた、孔子を始祖とする思想体系。
儒教には四大書籍があるが、孔子の言葉を集めた『論語』は最も知られている。
この論語を生活の規範として、共通に持っている国々が東アジア地域に集まっている。
マクロヒストリーを専門とするローレンス・トーブ氏は著書『3つの原理』(邦訳・ダイヤモンド社)で、この儒教を共通に持つ東アジアの国々が、儒教経済圏を形成し、21世紀前半における世界のリーダーになるだろうと予想している。この儒教経済圏は、日本、中国、朝鮮で構成される。『中国』には、中国、台湾、香港、マカオ、『朝鮮』は韓国と北朝鮮を含むと定義されている。これらの国々は、仲が悪いように見えて、実は、世界から見れば、似たもの同士。文化的にも人種的にも思想的にも、ほとんど区別できない」

ローレンス・トーブの『3つの原理』は、わたしも読みました。著者が監修をした本ですが、「儒教経済圏」という考え方が非常に新鮮でした。たしか、この本は内田樹氏も注目していましたね。さて、著者は「儒教経済圏」について次のように述べています。

「この儒教経済圏が求心力となり、東南アジア諸国を含めた市場が拡大していくから、おそらく2025年頃、遅くとも2033年頃までには、EUと似たような経済圏を、実質的に形成していくだろう。私は、この経済圏を、アジア・ユニティ(AU)と呼んでいる。総人口は20億人を超える。しかも世界で最も成長率が高い国々が連携をとるわけだから、おそらく、その時点で世界は、アジアを中心に再編成されると言ってもいい。なんといってもEUの人口は約5億人。アメリカは3億人しかいないのだから」

たしかにAUが成立して力を持てば、その人口数や経済成長性からいっても世界最大の勢力となるでしょう。そして、その根底には儒教があり、孔子がいて、『論語』がある。「日本資本主義の父」である渋沢栄一は「論語と算盤」を唱えましたが、まさにこれから世界規模の「論語と算盤」が実現するわけです。ローレンス・トーブゆずりの著者のこの予言には、わたしは全面的に賛成です。

中国をはじめとした東アジア諸国がこれから成長するのはわかるとしても、日本はどうなのでしょうか。少子高齢化が進行していく日本ですが、著者は「人口減社会だからこそ、起こるイノベーション」を説きます。高齢化社会においてイノベーションを支える市場は高齢者にシフトしていくとして、著者は次のように述べます。

「年齢がいけばいくほど、消費が伸びる市場を挙げれば、健康、医療、介護、旅行、そしてスポーツ施設の利用、さらには、なんと宗教がある。ま、宗教は別として、とくに健康医療産業にとっては、とにかく日本は急成長市場であり、今後、国際的に大きな影響力を持つ産業を創れる素地は極めて大きい。おそらく黙っていても、技術、サービス分野では、世界レベルの技術、サービスを生み出せるだろう。
これに、さらにボーナスが加わる。中国は2025年には、約3億人が高齢者になる。そのときには、日本は高齢者向けの市場で、圧倒的に素晴らしい商品・サービスを提供しているだろう。すると、どうなる?
そうなんだ。日本に、中国の富裕層が殺到してくるに違いない。結果、日本は、アジアにおいて常に先頭を走る、クリエイティブかつ、慈悲に溢れた国となる。
2020年から、日本は落ちる一方という現実的なシナリオは、実は、想像力の乏しい、悲観シナリオにすぎないのだ」

わたしが感激したのは、NPOについてのドラッカーの考えに触れた次のくだりです。

「ピーター・ドラッカーは2002年に出版した『ネクスト・ソサエティ』(邦訳・ダイヤモンド社)で、NPOが社会の中核的組織になっていくと、予言していた。当時、この一文を読んだとき、私は、さすがにドラッカーといえども、この予言は、日本には当てはまらないのではないか、と思っていた。
なぜなら当時、日本は欧米と異なり、寄付や慈善活動をする習慣がないので、社会貢献活動は定着が難しいと言われていたからだ。ある著名財界人は、新聞インタビューで公言していた。「企業は税金を払っているので、社会貢献活動をする必要なし」と。要は、NPO(ノン・プロフィット・オーガニゼーション)よりも、MPO(モア・プロフィット・オーガニゼーション)が賢いビジネスパーソンの選択と見なされる風潮だったのだ。
それから10年が経ち、『ネクスト・ソサエティ』を読み返したとき、ドラッカーの予想はほとんど、現在の日本に当てはまっている。文章だけを読んだなら、「これは先週、書かれたんでしょう?」と勘違いするほど的確に、日本の未来を言い当てている。
そして、NPOへの洞察についても―やはりドラッカーは正しかったと言わざるをえない。当時、『まさか日本で、そこまでは・・・・・・』と大げさに思われたドラッカーの見解も、いよいよ現実的なシナリオになってきたのだ」

いやあ、嬉しいなあ! 『ネクスト・ソサエティ』にも書いたように、ドラッカーの遺作である『ネクスト・ソサエティ』は『論語』と並ぶわたしの人生を変えた1冊です。数あるドラッカーの著作の中でも最も強く影響を受けた本であり、そのアンサーブックとして『ハートフル・ソサエティ』(三五館)を書いたほどです。それだけに、著者の「やはりドラッカーは正しかったと言わざるをえない」という発言は嬉しかったですね。そして、著者は今後の社会とビジネスについて次のように述べます。

「いままでビジネスにおいては、社会性と収益性は矛盾すると思われてきた。つまり『社会に良いことをやっても、なかなか儲からない』がビジネスの常識だったのだ。しかし、このところ急速に、『社会に良いことをしなければ、儲からない』に変わってきた」

この発言にも感激しました。わが社は「隣人祭り」とか「隣人館」とかなかなか儲からないと見られているプロジェクトに取り組んでいますので、著者の言葉が心に沁みました。それにしても、「社会に良いことをしなければ、儲からない」なんて、いいこと言うなあ!

さらに、NPOの役割が企業よりも大きくなる時代について、著者は述べています。

「このように事業は、いまや社会的活動によって広がる道筋ができつつある。そして社会的事業なら、NPOのほうが柔軟かつスピーディに動ける。一時、企業内ベンチャーが流行った時期があったが、今後は企業からスピンオフするNPOが増えるのではないか。実際に私のクライアントを見る限りにおいては、会社を新設するよりも、NPO、一般社団法人、一般財団法人等の法人を創るほうが多くなりはじめているほどである。
統計を見る限りにおいては、NPOをはじめとした非営利目的の法人数は5万件弱であり、中小企業数である約150万社にはまったく及ばない。しかし今後、『非営利法人』が、影響力において『会社』を逆転していく世界がはじまるかもしれない。それが、ドラッカーに見えていた日本の未来なのだ」

孔子の思想を求心力とした儒教経済圏を語り、ドラッカーの未来社会を語る。わたしには、まるで本書が拙著『孔子とドラッカー 新装版』(三五館)の姉妹本のように感じられました。また、東アジア冠婚葬祭業国際交流研究会の活動ともリンクしているように思えました。著者が書いた本の中では、最もわたしのハートにヒットしましたね。

最後に、著者である神田昌典氏の癌は完治したそうです。良かった!

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