- 書庫A
- 書庫B
- 書庫C
- 書庫D
2012.02.05
『事実婚 新しい愛の形』渡辺淳一著(集英社新書)を読みました。
著者にとって初の新書ということで、帯には「新書初登場!!」のコピーとともに、「渡辺淳一の新・結婚論 本当の意味での心と心の実質婚。」の文字が書かれています。
また、本書のカバー折り返しには、次のような内容紹介が記されています。
「日本の非婚化・少子化傾向が止まらない。生涯未婚率(50歳時の未婚率)は増加の一途で、男性は一8・9%(2010年)にものぼっている。相手を求める気持ちはあるものの、婚姻制度が時代遅れで重いものであるために人々に結婚を躊躇させ、幸せになる機会を奪っているのだ。事実婚は婚姻届を出さない結婚の形。結婚式を挙げたり一緒に暮らしたり、という点では法律婚と同じだが、入籍しないので姓は変わらず、相手の『家』から距離を置くこともできる。作家渡辺淳一が新しい結婚の形『事実婚』にスポットを当て、現代日本の愛と幸せを問い直す。」
東日本大震災以降、パートナーを求める気運は高まっているとされています。しかし、日本の婚姻制度が時代遅れで重すぎる側面があるため、非婚化傾向は止まりません。著者といえば、映画化もされた『化身』『失楽園』『愛の流刑地』などのベストセラーに代表されるように、近年は男の身勝手な願望が炸裂した「官能小説の第一人者」といったイメージが強い作家です。その著者が、じつに真面目に停滞する社会に鋭く切り込み、幸せの処方箋を提示した本が本書です。
本書の「目次」は、以下のようになっています。
「はじめに~なぜ、今『事実婚』なのか~」
第1章 事実婚とは
第2章 なぜ若い男女は結婚しないのか
第3章 変わりつつある結婚の形
第4章 事実婚のメリットとデメリット
第5章 対談 福島みずほ×渡辺淳一
第6章 体験記 その一
第7章 体験記 その二
第8章 体験記 その三
第9章 女性たちとの座談会
第10章 男性事実婚者との対談
第11章 弁護士との対談
「はじめに~なぜ、今『事実婚』なのか~」の冒頭で、著者は次のように述べています。
「今、日本では、若い男女の未婚率が急激に高まっている。
その最大の理由は、若い男性の結婚願望が低くなっているからだろう。
結果として、女性の未婚率も高くなっている。
では、なぜ若い男性が結婚したがらないか。
その最大の理由は、彼らにとって今の日本の婚姻制度が『重すぎる』からである。
好きな女性ができてデートを重ね、『いい子だな、一緒に暮らしたいな』と思っても、結婚となると、双方の”家”や親兄弟、親戚一同、勤務する会社まで巻き込んでの大騒動になってしまう。とくに地方では結婚は一大イベントで、まさに一生に一度の、人生を左右する出来事としてとりあげられる。
そして、いったん結婚すると、たとえ愛が消滅してしまっても、容易に別れることができない。”家”が絡んでくるうえに、社会の目や世間体、経済的な問題などもあるからだ。
また、現行の婚姻制度では、離婚には夫婦の合意を必要としているが、二人が同時にタイミングよく『嫌いになりました。別れましょう』となる可能性は限りなく低い。もちろん、幸せな結婚生活が続けばなんの問題もないが、どちらかが心変わりしないとはいいきれない。かくして、我慢、我慢の人生か、泥沼の離婚劇が待ち受けることになってくる。
結婚によって経済的負担や社会的責任ばかりが大きくなるのではやりきれない、というのが彼らの本音なのである」
確かに、世の中、形だけの夫婦がどれほど多いことでしょうか。そこで、「事実婚」というものが注目されることになります。これは、あえて入籍という形をとらない、でも単なる同棲よりは確かな「事実婚という新しい愛の形」です。著者は、事実婚の体験者のケーススタディや弁護士との対談、さまざまな年代の未婚女性たちとの座談会、スウェーデンやフランスにおける事実婚制度の紹介などなど、本書で多面的に掘り下げています。
なぜ、「愛」の作家である著者は、ここまで事実婚にこだわるのか。福島みずほ氏との対談において、著者は次のように語っています。
「最近、日本の婚姻制度について考えることが多いんです。熟年離婚とか介護の問題とか、草食系男子の元気のなさと独身主義、婚活女史の焦りなどなど、日本人が幸せになれない現状の奥の奥には、多かれ少なかれ”結婚”がからんでいる。
そこで問題なのが、今の日本の婚姻制度は、ちょっと重すぎるんじゃないかということ。もっと気軽に一緒になって、気軽に子供を産んだり育てたりできたら、日本全体がもっと元気になるような気がする。従来の結婚制度は、何かうっとうしいというか面倒と思っている人が増えているのではないか、と思うのですが」
まあ、「気軽に」という部分はよく考えなければならないところでしょう。気軽に結婚してDVに走る夫、気軽に子供を産んで虐待したり育児放棄する母親も増加している昨今では、もっと結婚や出産、育児に「覚悟」を持つべきであり、正直言って「気軽」という言葉には違和感を覚えます。
しかし、著者のいわんとすることもわかるのです。ここまで結婚しない若者が増えてきたということは、従来の結婚制度を見直す時期が来ているのかもしれません。いわば、日本における結婚制度が制度疲労を起こしているという見方もできるでしょう。社民党党首である福島みずほ氏は、著者の意見に対して「わたしもそう思います」と同意しつつ、次のように述べています。
「男の人は彼女ができる前から、自分の給料では相手を食べさせられない、子供を育てられないって悲観的になっていますよね。女性にとっても結婚や出産は、自分の可能性や夢をつぶしてしまうのではないか、自由に生きたいのに、枷になりそうだって」
そして、それを聞いた著者は、「女偏に家と書いて『嫁』という、この文字自体、暗くて重いイメージで。それよりも因習や今までの法律に縛られない事実婚が、もっと広まればいいんじゃないかと思ってる」と語っています。
この著者の発言を読んで、わたしは2つの日本のポップスを思い起こしました。加山雄三の「お嫁のおいで」と福山雅治の「家族になろうよ」です。1966年、わが社が創業した年に発表された「お嫁においで」という歌です。加山雄三の名曲は、わが社が創業した1966年に発表されました。わたしは、この歌が子ども頃から大好きで、よくウクレレを弾きながら歌っていました。考えてみれば、「お嫁においで」という言葉は、男性優位の思想を背景にしているというか、ちょっと時代を感じさせます。フェミニストたちの怒りを買いそうな部分もありますな。その点、「家族になろうよ」という言葉には現代的な感覚がありますね。
じつは、福山雅治は「HORIZON」という加山雄三の名曲のカバー・アルバムに参加したことがあります。そこで、「お嫁においで」のカバーを歌っているのです。「家族になろうよ」は「お嫁においで」のイノベーション・ソングなのかもしれません。そして、わたしは日本人の結婚そのものにも「お嫁においで」から「家族になろうよ」の転換が求められているように思えるのです。
では、事実婚は従来の結婚のイノベーションとなるうるのでしょうか。まだ日本では法的に認められていないため、事実婚にはデメリットも多いです。だからこそ著者は、事実婚をスタートする前に、さまざまなことを2人で話し合うことを勧めています。
たとえば、日常の家事や生活費の分担の問題、生まれてくる子供の姓をどうするかという問題、そして愛情が冷めて別れるときの財産分与の問題まで、想定されるさまざまな問題を二人で話し合い、了解し合うべきだというのです。
さらに、できれば弁護士を介在させて、それらを文書化しておくといいとアドバイスしています。これは事実婚に限らず、一般的な結婚においても言えることではないでしょうか。結婚という人生の重大事を決める前に、いろいろと事前に話し合って納得し合うことは当然だと思います。話し合っているうちに相手の考え方か価値観がわかってきます。そして、相手に対する理解と思いやりも生まれてくるように思います。
著者は、「別に自分は事実婚を勧めているわけじゃない。こういう選択肢もあることを知ってほしいだけ。いろんな選択肢があるのを知って、読者一人一人がそれぞ自分に合ったスタイルを選べばいい」と述べています。「はじめに」の最後で、著者は「成熟した社会とは多様性を認められる社会である」として、次のように書いています。
「頑固者の古臭い政治家だらけの日本では、今すぐ民法が改正され、婚姻制度が多様化するのは難しいだろう。しかしせめて、みんなが自分とは異なる意思や選択を認め、さまざまな考えの人々が生きていける、風通しのいい社会になるよう願っている」
まだ結婚していない若い人はもちろん、現在の結婚生活に疑問を感じている人も、本書を読んでみてはいかがでしょうか?