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No.0556 エッセイ・コラム 『辛酸なめ子の現代社会学』 辛酸なめ子著(幻冬舎)
2012.03.09
『辛酸なめ子の現代社会学』辛酸なめ子著(幻冬舎)を読みました。
著者は、一部で熱狂的なファンを持つ漫画家、コラムニストです。初めて著者の本を読みましたが、そのあまりの面白さに抱腹絶倒しました。知らなかった、世の中にこんな面白い本があったなんて!
本書は、いわゆるエッセイ漫画とでもいうべきジャンルで、さくらももこ女史の『ちびまる子チャン』以来の作品群を連想させます。それにしても、「辛酸なめ子」というペンネームの”不思議ちゃん”ぶりといったら! かの香山リカ先生以上ではないですか!
なんでも、このペンネームは、高校時代に自主制作した新聞のコラムので使ったもので、周囲から「薄幸そうに見える」とよく言われていたことに由来するそうです。ちなみに、著者の愛称は「なめちゃん」だとか(笑)。
本書の帯には、「宮台真司氏(社会学者・首都大学東京教授)、激賞!!」として、以下のような宮台氏のコメントが掲載されています。
「昨今万事が喜劇だと感じられるのはなぜか。
辛酸なめ子さんはその理由を明らかにした。
『閉じていて過剰なもの』が溢れるからだ。
『過ぎたるはなお及ばざるが如し』と言う。
本書には僕たちの『過ぎた営み』が満載だ。
愛すべき『終らない空回り』だらけの現代。
明快な分析に爆笑して…出家したくなった。」
本書の目次は、以下のようになっています。
「まえがき」
純愛プレイ
地震ノイローゼ
スローライフにかられて
アキバの戦い
パクリの地平線
モテ無間地獄
セクハラ脳の恐怖
オーラの泥沼
個人情報過敏症
結婚しない人生
王子の夢のあと
でき婚ファンタジー
女子アナ人生すごろく
KY式モテ計画
エコ教の乱
2012年恐怖のシナリオ
日本総モンスター化計画
今、そこにあるテロ
いじめの向こう側
ネオグリム
食べ物の恨み
萌えトレ
元祖メイドに学ぶ萌え
少年萌え入門
猫萌え入門
霊萌え入門
マスク萌え入門
萌え漫画レッスン
ボーイズラブを探して
「萌え」の意味とは?
「あとがき」
「まえがき」の冒頭で、著者は次のように書いています。
「ある時、気がつきました。私のしていることは、すべて取材であると。気づいたら世の中の事象について考察することがフィールドワークのようになっていました。何のために取材をするのか。それは、功徳を積んで、善行マイレージを貯めて、いつの日かアセンション(次元上昇)するためです。それは、この世で名前をつければ、『現代社会学』になるのかもしれません」
複雑多様化する社会の中、現代人たちはどのように社会とつながりを持ち、日々を送っているのか。著者が取り上げるテーマは、モテブーム、純愛ブーム、スローライフ、○○王子、KY、モンスターペアレント、萌えブームなどです。
これらの世の中を騒がせた社会現象たちをテーマに、著者は実地を歩き、体験し、話を聞いて、写真を撮り、文章にまとめ、エッセンスとして漫画にしているわけです。それは、社会となんとかつながりを持とうとしてきた著者の孤軍奮闘の記録でもあります。そして、そのどれもが面白い! すべてのブームや現象の最後には笑えるオチがついており、ギャグ漫画としても読めます。特に、「オーラの泥沼」「個人情報過敏症」「王子の夢のあと」「今、そこにあるテロ」などが個人的には大いに笑えました。
それから、流行現象の考察そのものもなかなか鋭いです。ほんとに。わたしは、かつての泉麻人『ナウの仕組み』とか渡辺和博『金魂巻』とかホイチョイ・プロダクション『気まぐれコンセプト』などを思い出してしまいました。
著者は、批評家としてのかなりのセンスの持ち主であると思います。それぞれの漫画の冒頭には1ページないし2ページのショート・エッセイがついているのですが、「萌えトレ」のそれは秀逸でした。著者は、未だその正体がはっきりとしない「萌え」について、「羞恥心の入り交じった性欲である」と明確な定義を与えるのです。
さらに、「萌え系の女子キャラの多くは、頬を紅潮させて照れています。男性のリビドーを感じて怯える小動物のようです。そんな自分よりか弱くていたいけな存在に対して、男性は性欲を感じるのですが、それを認めたくない、素直になれない気持ちがあって、照れ交じりの性欲を『萌え』という言葉に言い換えているのです」と喝破します。わたしは、この一文を読んで、本当に感心しました。おそらく、その通りでしょう!
「あとがき」に書かれている次の一文も、著者の凄みを思い知らせてくれます。
「人間がこの世で手に入れたものは、スーパー銭湯で一時的に借りたタオルのようなものかもしれない。そんな言葉が脳内でリフレインしています」
うーん、鋭い。辛酸なめ子、恐るべし!