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No.0640 心理・自己啓発 『運のいい人の法則』 リチャード・ワイズマン博士著、矢羽野薫訳(角川文庫)
2012.07.23
『運のいい人の法則』リチャード・ワイズマン博士著、矢羽野薫訳(角川文庫)を読みました。
著者はイギリスの心理学者ですが、若い頃はマジシャンとしても活躍しました。現在は研究者として活動する傍ら、ビジネス・コンサルタントとして企業で講演することも多いとか。なお、本書の存在は、勝間和代氏の著書『ズルい仕事術』(ディスカバー・トゥエンティワン)で知りました。
本書のカバー裏には、以下のような内容紹介があります。
「世の中には、『運のいい人』と『運の悪い人』がいる。英国の心理学者リチャード・ワイズマン博士は、幸運と不運を隔てるものに興味を抱き、『運の科学的研究』を開始した。ちょっとしたアンケートから始まった調査は10年の長期に及び、協力者は数百人に上った。その結果、博士は『運のいい人』に共通する”四つの法則”に辿り着く。
さらに、運は考え方と行動で変えられるというー。
世界30カ国でベストセラーとなった”運”の科学書、待望の文庫化」
本書の「目次」は、以下のような構成になっています。
「はじめに」
PART1 あなたは運のいい人?
第1章:運のパワー
第2章:ラッキーな人生、アンラッキーな人生
PART2 運を鍛える四つの法則
第3章:法則1:チャンスを最大限に広げる
第4章:法則2:虫の知らせを聞き逃さない
第5章:法則3:幸運を期待する
第6章:法則4:不運を幸運に変える
PART3 幸運な人生をつかむために
第7章:幸運のレッスン
第8章:幸運のワークショップ
第9章:より幸せな人生をめざして
「原注」「訳者あとがき」
目次が終わると、本文に入る前に扉に2つの言葉が紹介されています。これがなかなか笑えるのですが、次のような言葉です。
「不運な男が傘を売れば、雨はやむだろう。ロウソクを売れば、太陽は沈まない。棺桶を作れば、誰も死ななくなる」(イディッシュの言い伝え)
「幸運な男を海に投げ込むと、魚をくわえて浮き上がってくる」(アラブの格言)
「はじめに」の冒頭で、著者は次のように述べています。
「運のいい人は理想のパートナーと出会い、生涯の夢を実現させて、望みどおりの仕事につき、幸せで意義のある人生を送る。特別に努力をしたからでも、驚くような才能があるからでも、人並みはずれて頭がいいからでもない。ただ、正しいタイミングで正しい場所にいる不思議な才能があるらしく、不公平なくらい幸運に恵まれているのだ。運のいい人は、どうして何もかもうまくいくのだろう。この本では、運のいい人の秘密を科学的に分析しながら、あなたの運を鍛えるヒントを提案したい」
本書は、「運のいい人」と「運の悪い人」の差は何に起因するのかと考えた著者が、数百人を対象としたアンケートや実験を通じた研究の初期の結果をまとめたものです。
その結果は、以下に紹介する「運を鍛える4つの法則と12のポイント」に集約されます。
法則1:チャンスを最大限に広げる
ポイント1.運のいい人は、「運のネットワーク」を築き、それを広げている。
ポイント2.運のいい人は、肩の力を抜いて生きている。
ポイント3.運のいい人は、新しい経験を喜んで受け入れる。
法則2:虫の知らせを聞き逃さない
ポイント1.運のいい人は、直感と本能に耳を傾ける。
ポイント2.運のいい人は、直感を高める方法を知っている。
法則3:幸運を期待する
ポイント1.運のいい人は、幸運が将来も続くだろうと期待している。
ポイント2.運のいい人は、たとえ可能性がわずかでも目標を達成するために努力して、失敗してもあきらめない。
ポイント3.運のいい人は、対人関係がうまくいくと思っている。
法則4:不運を幸運に変える
ポイント1.運のいい人は、不運のプラス面を見ている。
ポイント2.運のいい人は、不運な出来事も、長い目で見れば最高の結果になると信じている。
ポイント3.運のいい人は、不運にこだわらない。
ポイント4.運のいい人は、積極的に行動して将来の不運を避ける。
これを見ると、なんだか「運を鍛える」というよりも「成功する」とか「幸福になる」法則であり、ポイントのような気もしますが、ある意味で「運」とは「成功」や「幸福」の条件なのかもしれませんね。大事なことは、人生を積極的かつ行動的に生きることのようです。
簡単に言えば、ポジティブな生き方が運を呼び込むのでしょう。しかしながら、世の中には、いくら前向きに一生懸命に生きていても不運な人々も実在します。どうしてこのような生まれつき不運な人が存在するのかといった点にまでは踏み込んでいませんが、このあたりは日本の中村天風あたりの著作を読んだほうが良さそうです。わたしが思うに、「運」というものを完全に科学的に分析することは無理であり、核心部分にまで言及すれば、そこはもう人智を超えた神仏の領域に入るのではないかと思います。
本書を読んで最も興味を引かれたのは「反事実的条件」についての記述でした。これは「運」というより「幸福」の問題でしょうが、著者は次のように述べています。
「あなたがオリンピックの代表選手に選ばれたと想像してみよう。本番でも実力を発揮して銅メダルを獲得した。あなたはどのくらい、うれしいだろうか。ほとんどの人は心から喜び、誇りに思うだろう。では、これがあなたにとって2回目のオリンピックだとしたらどうか。1回目より調子がよく、銀メダルに輝いた。あなたはどのくらい、うれしいだろうか。たいていの人は、銅メダルより銀メダルのほうがうれしいはずだ。メダルの色は実力を表していて、銀のほうが銅より、あなたは『優れている』という意味である。
しかし、いくつかの研究によると、銅メダルのほうが銀メダルより喜ぶアスリートは多いという。その理由は、自分の成績をどのように評価するかと関係がある。銀メダリストは、あと少し成績がよかったら金メダルだったのに・・・・・ということばかり考える。一方、銅メダリストは、あと少し成績が悪かったらメダルはなかったかもしれない・・・・・と思う。このように、実際に起こったことではなく、起こったかもしれないことを想像することを、心理学では『反事実的条件』と呼ぶ」
この「反事実的条件」という言葉は初めて知りましたが、非常に考えさせられました。ここには、わたしたちが「幸福になる」ための大きなヒントがあるように思います。