- 書庫A
- 書庫B
- 書庫C
- 書庫D
No.0670 読書論・読書術 『読書の技法』 佐藤優著(東洋経済新報社)
2012.08.31
『読書の技法』佐藤優著(東洋経済新報社)を読みました。
著者は、「知の怪物」として知られる作家・元外務省主任分析官です。この読書館で紹介した『野蛮人の図書室』の著者でもあります。本書には、「誰でも本物の知識が身につく熟読術・速読術『超』入門」という長いサブタイトルがついています。
熟読術・速読術「超」入門
帯には目玉をギョロッと剥いて腕組みをした著者の上半身の写真があります。背景には書架が並んでいるので、著者自身の書庫で撮影したと思われます。「佐藤流 本の読み方 初公開!」というコピーに続き、次の言葉が記されています。
「月平均300冊、多い月は500冊以上」
「基本書は3冊買って、真ん中から読め」「1冊5分で読む『超速読』と30分で読む『普通の速読』を使いこなせ」
「読書の要『基礎知識』は、高校の教科書と学習参考書で身につけろ」
惜しむらくは、書架に入った本の書名とかぶって帯のコピーが読みにくいこと。書庫の写真は表紙に使って、帯は文字だけにするとか出来なかったのでしょうか。
ただ、本書の冒頭に掲載された8ページにわたるカラー写真は圧巻です。「書斎と仕事場」「佐藤流 本の読み方」「佐藤流 ノートの作り方、使い方」などが写真とともに紹介されており、非常に興味深かったです。
著者の蔵書は自宅、自宅近くの仕事場、箱根の仕事場に分かれており、合計4万冊が収められているそうです。いずれの書架もきれいに整理されて並べられています。
収納スペースは、全体で約7万冊分確保しているそうです。これは、うらやましい! わたしが将来、自分の書庫を作る際の参考にしたいと思います。
本書の「目次」は、以下のような構成になっています。
「はじめに」
第1部 本はどう読むか
第1章:多読の技法~筆者はいかにして大量の本を読みこなすようになったか
第2章:熟読の技法~基本書をどう読みこなすか
第3章:速読の技法~「超速読」と「普通の速読」
第4章:読書ノートの作り方~記憶を定着させる抜き書きとコメント
第2部 何を読めばいいか
第5章:教科書と学習参考書を使いこなす~知識の欠損部分をどう見つけ、補うか
【世界史】【日本史】【政治】【経済】【国語】【数学】
第6章:小説や漫画の読み方
第3部 本はいつ、どこで読むか
第7章:時間を圧縮する技法~時間帯と場所を使い分ける
「おわりに」
[特別付録]本書に登場する書籍リスト
第1章「多読の技法~筆者はいかにして大量の本を読みこなすようになったか」の冒頭で、著者は「佐藤さんは、月に何冊くらいの本を読みますか?」という質問に対して、「献本が月平均100冊近くある。これは1冊の例外もなく、速読で全ページに目を通している。それから新刊本を70~80冊、古本を120~130冊くらい買う。これも全部読んでいる」と答えています。この驚異的な著者の読書量は、「熟読」「超速読」「普通の速読」と使い分けた読み方によって可能となっています。
本書のカバーの折り返しに掲載されている読み方の要点を以下に引用します。
佐藤流「熟読」の技法
1.まず本の真ん中くらいのページを読んでみる【第一読】
2.シャーペン(鉛筆)、消しゴム、ノートを用意する【第一読】
3.シャーペンで印をつけながら読む【第一読】
4.本に囲みを作る【第二読】
5.囲みの部分をノートに写す【第二読】
6.結論部分を3回読み、もう一度通読する【第三読】
▼熟読の要諦は、同じ本を3回読むこと
基本書は最低3回読む
第1回目 線を引きながらの通読
第2回目 ノートに重要箇所の抜き書き
第3回目 再度通読
熟読できる本の数は限られている
熟読する本を絞り込むために、速読が必要になる
佐藤流「超速読」の技法(1冊5分程度)
1.5分の制約を設け、最初と最後、目次以外はひたすらページをめくる
▼超速読の目的は2つ
本の仕分作業と本全体の中で当たりをつける
佐藤流「普通の速読」の技法(1冊30分程度)
1.「完璧主義」を捨て、目的意識を明確にする
2.雑誌の場合は、筆者が誰かで判断する
3.定規を当てながら1ページ15秒で読む
4.重要箇所はシャーペンで印をつけ、ポストイットを貼る
5.本の重要部分を1ページ15秒、残りを超速読する
6.大雑把に理解・記憶し、「インデックス」をつけて整理する
▼普通の速読は、新聞の読み方の応用
わたしなりの「読書の技法」を示しました
本書は、非常に具体的なアドバイスが満載された実践的な読書術の本だと思います。
わたしには、『あらゆる本が面白く読める方法』(三五館)という著書があります。「万能の読書術」というサブタイトルがつけられた同書の第1部「技術篇」は、まさに、わたしなりの読書の技法について書きました。わたしの読書術は、本書『読書の技法』に書かれた佐藤優氏の読書術と重なる部分が多々ありました。もちろん全部がそうではありませんが、だいたい8割ぐらいは著者の読み方と共通していると思います。
その中でも、わたしが初めて触れた読み方もありました。熟読の技法の最初に紹介されている「まず本の真ん中くらいのページを読んでみる」という部分です。著者は、何かを勉強するとき、まず基本書を3冊使うことを提唱します。最初に、この3冊の基本書のどれから読み始めるかを決めなければなりません。それにはまず、それぞれの本の真ん中くらいのページを開いて読んでみることだとして、著者は次のように述べています。
「なぜ、真ん中くらいのページを開くのかといえば、本の構成として、初めの部分は『つかみ』と言って、どのように読者を引き込むかという工夫を著者と編集者がしており、最終部の結論は、通常、著者が最も述べたいことを書いているので、読みやすいからだ。翻訳書の場合、そのような本自体の構成に加え、真ん中くらいになると緊張が続かなくなり、翻訳が荒れてくることがある。
真ん中くらいというのは、実はその本のいちばん弱い部分なのである。あえて、このいちばん弱い部分をつまみ読みすることによって、その本の水準を知るのである」
また、最終章である第7章「時間を圧縮する技法~時間帯と場所を使い分ける」の以下のくだりも非常に参考になりました。
「筆者は1日2回、まとまった読書の時間を設けている。13時半~19時の間の数時間と、24時~26時だ。合計すると1日約6時間だが、どんなに忙しくても4時間を下回ることはない。少なくとも4時間というのは、自分の中で絶対に守らなければいけない読書のための時間だと考えている。
このときには、現在仕事で必要な本は極力読まないようにしている。本を読んでから、その情報が頭の中で整理されて、きちんと引き出せるようになるためには、一定の時間が必要になる。これには個人差があるが、筆者の場合、だいたい3カ月から6カ月とすると、新しい知識が『発酵』して頭に定着し、自分で運用できるようになる」
これまた、わたし自身と重なる部分が多くて、よく理解できました。
本書の第1部「本はどう読むか」は、『あらゆる本が面白く読める方法』の第1部「技術篇」の内容と重複します。しかし、本書『読書の技法』には第2部「何を読めばいいか」があり、そこで多くの名著が紹介されていますが、『あらゆる本が面白く読める方法』にはそのような読書案内のページがありません。ぜひ今度は、わたしも名著案内の役割を果たすブックガイドを書いてみたいと思います。
本書『読書の技法』は「知の怪物」の秘密を解き明かす好著ですが、わたし自身も大いにインスパイアされました。わたしも以前は著者に負けないほどの大量の本を読んでいた時期もありましたが、ここ最近は長文の書評を書くことに時間を取られ過ぎてしまい、読む本の冊数がすっかり少なくなってしまいました。
もちろん書評を書くことも大切なのですが、これまでの自分の姿と比べてみると、インプットに対してアウトプットの比重が高くなり過ぎた気がしています。書評ばかり書いていないで、もっと本を読まなければと強く思いました。