No.0696 宗教・精神世界 『生命をめぐる対話』 村上和雄著(サンマーク文庫)

2013.03.24

 村上和雄シリーズ2冊目は、『生命をめぐる対話』(サンマーク文庫)です。
 「人間の本質と生き方を語る」とのサブタイトルで、帯には「バイオテクノロジーの第一人者が分野を超えて出会った、9人の賢者たち。」「すべての生命は、大自然の前に生かされて、生きている」と書かれています。

 もともと本書は、1987年に天理教道友社より出版された『生命の不思議―バイオ新時代を生きぬく知恵』を改題し、一部加筆・修正したものだそうです。版元の性質もあってか、著者の『サムシング・グレート』と同様に、天理教の教義に言及した部分が目につきます。

 本書では、村上和雄氏が9人の賢者と対話をします。その9人の名前とテーマは以下の通りで、そのまま「目次」になっています。

 福井謙一氏 「自然科学の思想を超えて」
 井深大氏 「母親の役割は0歳児以前から」
 草柳大蔵氏 「人間の”内なる”情報を引き出そう」
 中村桂子氏 「遺伝子が語りかける人間の生き方」
 野澤重雄氏 「生命は無限の可能性を持つ」
 ラッセル・L・シュワイカート氏 「美しき地球に生命の神秘を見た」
 鈴木永二氏 「いのちの元につながる企業経営」
 平澤興氏 「究める心、最善の努力」
 玉城康四郎氏 「根源的”いのち”への回帰」

 世界的科学者と9人の賢人は、それぞれに興味深い対話を繰り広げます。その中でも、特にわたしが感銘を受けた発言を以下に抜き書きます。評論家の草柳大蔵氏が「もったいない」という言葉について語ります。

 「私たちはよく、『もったいない』とか『もったいつけて』とか、『もったい』という言葉を使っている。じゃあ、『もったい』って何ですかと言われると答えられないんですね。それは、たとえば、山下清さんがどんなに努力してもIQ(知能指数)86なのに、あんなに素晴らしい絵を描いた。貼り絵をした。それで、これは世界の展覧会に持って行っても満員なんですね。見ている人は山下清さんの絵を見ながら涙を流すんですね。ここまで人間っていうのはできるのかと思いますね。それで、ある精神医学の先生にその訳を聞いたんです。すると、『もったいないを大切にしたからだよ』って一言でやられましたね。
 盤珪禅師の書に『勿体』という言葉が出てくるんです。『いのちそれ自体』という意味でしょうか。だから、もったいない=いのちを大切にする、という価値体系があると、自分の使うものの中にいのちを転移して考えてゆきます。そういう伝統が日本人にはあったと思うんです」

 アポロ9号の宇宙飛行士であるラッセル・シュワイカートは、「宇宙へ出て、そこから地球を見ると、それまで持っていたものの考え方や人生観を変えるものがあると思うのですが」という村上氏の質問に対して、こう答えています。

 「1時間半ごとに、陽光から暗闇へ、そしてまた陽光へと、この美しい惑星を何度も繰り返し回っていると、限られたバックグラウンドが持つ偏った狭い考え方の限界を、たちまちに超えてしまいます。スルタン・アル・サウドというサウジアラビアの宇宙飛行士は、『1日あたりは、われわれはすべて自分たちの国を指さした。3日目、4日目には大陸を指さした。5日目ごろには、ただ1つの地球のことしか意識しなくなった』と語っています。美しい地球を回っているうちに気づくことは、悲しいことですが人間がいろいろな文化を切り離し、区別するために儲けた何千という境界を、われわれが連続して横切ってしまうことです。そのときに感ずるのは、この惑星全体を養っている全生命の尊厳であり、それらが1つのものであるということです」

 元三菱化成工業会長の鈴木永二氏の「”陽気暮らし”という言葉もね、非常に含蓄のある言葉ですね」という問いかけに対して、村上氏は次のように言います。

 「陽気暮らしというのは、生命のリズムをつかむことだと思うのですが、それには生命の本当の元は何かということを考える必要があると思うんです。生命の元が分からないと、やっぱり本当のリズムはつかめないですね。その生命の元を私どもも知りたいわけです。それがまさにこれからのバイオの問題だと思いますね。それは、人間には簡単に分からないことで、やはり宗教的な領域にも入ってくるわけです。生命は人間がつくったものじゃないことは事実ですからね」

 「陽気暮らし」は天理教の教えですが、京都大学時代の村上氏の恩師であり、京都大学元総長の平澤興氏も天理教の教えを絶賛しています。村上氏は京大の学生時代に、平澤氏から「天理教の教祖のお言葉は素晴らしい」という話を聞き、いたく感激して、あらためて天理教への意識を強く持つようになったそうです。そのことを村上氏から聞いた平澤氏は、次のように語っています。

 「教祖の言われた”世界一れつみなきょうだい”。これだけ素晴らしい言葉というのは、ちょっとないのではないですか。しかも短くてね。説明をすると、かえってつまらなくなる。これは、日本の将来だけでなく、人類の将来に対する見通しですね。現在は、それにはまだまだ、程遠いですよ。”日本一れつ”でがなくて、”世界一れつ”ですからね。心の中でこの言葉を繰り返すと、からだが震えるような感動を感じます」

 仏教学者で東京大学名誉教授であった玉城康四郎氏も、天理教の教えに触れて次のように語っています。

 「天理教の原典の中に”元のいんねん”という言葉が出てまいりますね。『聞きたくば尋ねくるなら言て聞かそ、よろづ委細の元のいんねん』。ここに、すべてが集約されていると思うんです。共通の業も、共通でない業も、みな因縁で1つであるということでしょう」

 それに対して、村上氏も「人間は創造されたときに”陽気暮らし”ができるように、もともとからつくられていると教えられているんです。それが”元のいんねん”ですね」と述べています。

 本書の「あとがき」では、村上氏が冒頭に「形あるものは必ず滅びるが、想いは永久に残るといわれている」書いており、サムシング・グレートという考え方そのものが対話をした人たちの考え方に影響を受けていることに気づいたそうです。

 そして、村上氏は「現在、人類が直面する最大の問題は地球環境問題であり、その解決を誤まれば、地球生物圏の大絶滅期に突入するといわれている。これを防ぐためには、私たち1人1人の意識が人間至上主義レベルから、地球レベルや宇宙レベルに進化する必要がある」と締めくくります。

 本書は、科学の可能性、人間の生き方、生命の不思議さについて考えるための恰好の一冊であると言えるでしょう。

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