No.0725 読書論・読書術 『松岡正剛の書棚』 松岡正剛著(中央公論新社)

2013.05.15

『松岡正剛の書棚』松岡正剛著(中央公論新社)を読みました。
『立花隆の書棚』と同じ版元から刊行されたものです。ともに写真家の薈田純一氏が書棚を撮影しています。
ただし、立花氏のときは書棚1段づつの撮影でしたが、松岡氏の場合は2・3段づつの撮影で、最後にそれらを貼り合わせて全体を再構成したそうです。

本書のサブタイトルは「松丸本舗の挑戦」です。松丸本舗とは、松岡正剛氏と丸善のコラボレーションで誕生した書店です。2009年10月、丸善 丸の内本店4階にオープンしました。さまざまなテーマに沿って、専門書もマンガも棚を分けずに本を並べるたり、著名人の蔵書をそのまま本棚で公開したり、横積みや重ね置きなども解禁して、話題を呼びました。わたしも訪れたことがありますが、なかなかユニークな書店でした。歴史関係の本をまとめ買いした記憶があります。この松丸本舗は、惜しまれながらも2012年9月末に終了しました。

本書は、その松丸本舗の書棚の写真をもとに、著者が解説していくといった内容です。本書の「目次」は、以下のような構成になっています。

「松丸本舗全体図」
序論「究極の棚」への序奏
本殿 第1巻「遠くからとどく声」
本殿 第2巻「猫と量子が見ている」
本殿 第3巻「脳と心の編集学校」
本殿 第4巻「神の戦争・仏法の鬼」
本殿 第5巻「日本イデオロギーの森」
本殿 第6巻「茶碗とピアノと山水屏風」
本殿 第7巻「男と女の資本主義」
本集01 日本が変わる
zone.1 再編する市場と政治
zone.2 たくらみの方法
zone.3 日本の、句読点。
zone.4 深層文化の目覚め
本集02 男本・女本・聞本
造本  杉浦康平の意匠
本家  私が手放せない本たちです
懐本  在りし日の所蔵本から
本相  セイゴオ式勝手相場
対談  松岡正剛×佐藤優
(読書の極意は「二重性」の解読にあり)
「1981年に松岡正剛が選んだ必読書45冊」
column.1 書物と本物
column.2 目次読書法
column.3 立ち読みと奥付
対談  松岡正剛×東浩紀
(僕たちは今、”ライプニッツ的世界”を生きている)
蔵書800万冊の「本の街」
電子図書街が変える「知のパラダイム」
「より深くセイゴオ・ワールドを味わうためのお薦め本」
「索引」

「目次」の中の本殿 第1巻~第7巻までのタイトルは、Webにも連載された著者の大著『松岡正剛千夜千冊』全7巻の各巻タイトルに対応しています。「目次」の次のページを開くと、書棚の間にたたずむ著者の写真とともに「書棚を編集することは、世界を編集することである」という文字が大書されています。そして、それに続いて次のように書かれています。

「書物は寡黙であり、饒舌である。
死の淵にいるようで、過激な生命を主張する。
百花繚乱の文芸作品、科学書、思想書、芸術書のどの本に光をあて、どの本に影をつけるのか。どの本を生かし、どの本を殺すのか。
畏れ多くも神の真似事をしてみよう」

全宇宙誌』(1979年)

 『情報の歴史』(1996年)

本書の序論『「究極の棚」への序奏』の冒頭には、次のように書かれています。

「本は2500年以上にわたって、『記憶の殿堂』と『意味の市場』をつくってきた。そこには学府も図書館も本屋も書斎も含まれていた。文房四宝もノートも読み聞かせも授業も、印刷所も古本屋もサンタクロースのリボン付きの贈り物も、含まれていた。それに、なんといっても著者と編集者と読者とが鎖のようにつながっていた。そこにどきどきするような出版予告と増刷と品切れとが挟まって、本はまるで生きもののように歴史の波濤をくぐり抜けてきた」

著者ならではの詩的でスケールの大きな文章です。ここから、めくるめく書棚と読書の旅が始まります。本書はまるで「知の小宇宙」のようですが、この総合性はどこかで経験したことがあると思っていたら、かつて著者がプロデュースした『全宇宙誌』(工作舎)や『情報の歴史』(NTT出版)などのミクロコスモス性に通じていると気づきました。

わが書斎の松岡正剛コーナー

以前、わたしは著者の本をよく読んだものです。また、鎌田東二さんに連れられて渋谷にあった編集工学研究所を訪ねたこともありました。夜間の訪問でしたが、そこには松岡正剛氏をはじめ、田中優子氏、高橋秀元氏らがおられました。その後、わたしが米国スミソニアン博物館で求めた月面写真のパネルをお土産として著者にお届けしたこともあります。

 『ハートビジネス宣言』(1992)

さらに、『ハートビジネス宣言』(東急エージェンシー)の帯に推薦文を寄せて下さいました。「気業時代を眺望する1冊」として、以下のように書かれています。

「思想と事業にとって最も扱いにくい『気』や『心』が、本書ではなんなく結ばれる。おまけに鬼才マーケティング・プランナーの薀蓄は留まるところを知らない。はたして読者は『教業遊』三位一体の魔術に、ついていけるだろうか」

この一文を頂戴したときは感謝の念でいっぱいになり、本に向かって手を合わせました。あの頃、大学の大先輩でもある著者には大変お世話になりました。

2010年4月23日に放映されたテレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」内の「スミスの本棚」annexでは、著者の松岡正剛氏と並んで小生が「読書の達人」と紹介されました。あのときは、本当に感無量でした。また、いつか松岡氏にお会いして、本の話をさせていただきたいです。

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