No.0737 国家・政治 | 社会・コミュニティ 『日本の怖い数字』 佐藤拓著(PHP新書)

2013.06.12

 『日本の怖い数字』佐藤拓著(PHP新書)を読みました。
 帯には「数字が物語る緊急メッセージ」と大書され、「この数字から目を背けるな!」とも書かれています。著者は1959年生まれの愛媛県出身で、京都大学工学部卒。現在は科学ジャーナリスト・サイエンスライターとして活動する一方、社会問題をテーマにしたノンフィクションも手がけています。

 本書の前そでには、次のように書かれています。

 「いま日本の中で何が起こっているのか。それを如実に象徴する数字を挙げ、看過できない課題をあぶり出す。日本の経済力や格差社会、老人の孤立死など一部報道ずみのものもあるが、世間の注目がほとんど向けられていない深刻な問題も存在する。妊娠しても流産を繰り返す不育症の実態や、子どもたちを襲う発達障害、近視やアレルギーの多さは、見る目も疑う驚きの数字だ。また学校での『いじめ』の隠蔽の問題と、その一方で教師たちに広がるうつ病などの精神疾患の増加も、対策が急がれる。さらに、東日本大震災時に起きた火事場泥棒的犯罪のウソとホントを検証する」

 本書は2013年1月に刊行されていますが、「まえがき」は2012年11月に書かれています。その「まえがき」の冒頭で、著者は次のように述べます。

 「本書を執筆中のいまも、中国の艦船が尖閣沖の航行を繰り返しているとのニュースが流れている。国際法上認められている接続水域を通るだけならまだしも、我が国領海を平気で侵犯していることは看過できない。時代が時代なら、戦争に発展してもおかしくない状況である」

 著者は、かつて尖閣諸島問題において「棚上げ」や「解決の先送り」をしながら先に進んできた方法が社会や人生というものかもしれないと述べます。

 その一方で、著者は次のように「まえがき」に書いています。

 「とはいえ、中には棚上げや先送りの許されない危急の課題もある。決して見過ごすことのできない類の問題について、本書ではその実態を『数字』で示すことにした。『数字』こそが問題の本質を如実に表してくれると考えたからである。取り上げた項目には、すでに報道等で指摘されているものや、逆に世間の目がほとんど向けられていない話題もあるだろうが、それらに焦点を当てることで、改めて問題の存在を再確認し、できるならば読者諸氏と危機意識を共有化したいと願っている」
その本書の内容ですが、以下の「目次」を見ればよくわかります。

一章:沈む日本丸で進行する格差
   最近15年間のGDP縮小率は・・・・・・約10%
   日本の国際競争力は・・・・・・世界27位
   最近10年間で餓死した人は・・・・・・1万7881人
   日本の富裕層人口は世界2位の・・・・・・182万2000人

二章:無縁社会
   全国で孤立死する人は推定で1日当たり・・・・・・104人
   過去20年間で行方知れずのままの人は・・・・・・19万8450人

三章:危機に瀕する出産と育児
   体外受精で誕生する赤ちゃんは・・・・・・37人に1人
   胎児が無事に育たない不育症患者数は・・・・・・140万人
   1~4歳死亡率の低さは先進国中・・・・・・第14位
   児童虐待殺人で内縁の夫の犯行は・・・・・・8.6%

四章:子どもたちを襲う異変
   学習障害の児童数が5年で・・・・・・5.4倍
   小学生のぜん息有症率が44年で・・・・・・17.4倍
   小学生からのSOSが1年間に・・・・・・1万8796件

五章:危険な学校
   12年間にいじめ自殺した児童生徒は・・・・・・92人
   精神疾患で休職した教員は1年間で・・・・・・5407人
   中学・高校の柔道死亡事故件数は29年間で・・・・・・118件

六章:危うい夫婦
   フィリピン人と結婚すると離婚率は・・・・・・90%以上
   夫のDV被害にあった妻は・・・・・・3人に1人

七章:東日本大震災の裏側
   2011年、大熊町の空き巣被害は前年の・・・・・・22.9倍
   日本支援を表明してくれたのは・・・・・・206の国・地域・機関

コラム(1)沖縄の経済的米軍基地依存度は5.2%
コラム(2)老朽化が深刻な公立学校校舎は57.5%
コラム(3)2011年日本船の海賊被害は11件
コラム(4)職場での「いじめ」の相談が9年で2.6倍
コラム(5)日本近海のメタンハイドレートは100年分

 本書には、これまでわたしが知らなかった数字データがたくさん紹介されていました。それぞれのデータは補足解説されていますが、別にそれらの解決策を著者が提案するわけではありません。とりあえずは日本の現実を直視して、自分にとって喫緊の問題を見つけ出し、それに対する対応策を打ち出すための本と言えるでしょう。いわば、考えるためのデータブックですね。

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