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No.0782 コミック 『江戸川乱歩異人館1~7巻』 山口譲司著(集英社)
2013.08.26
『江戸川乱歩異人館』1~7巻、山口譲司著(集英社)を読みました。
チャチャタウン小倉内にあるTSUTAYAのコミック・コーナーに平積みされていたのをまとめ買いしました。
わたしは乱歩作品の大ファンなのです。乱歩自身の著書はほとんど読みましたし、コミック化や映画化された作品にも極力目を通してきました。でも、この『江戸川乱歩異人館』のことは知りませんでした。
コミックにはビニールが被せられていますので、中身を試し読みすることはできませんでしたが、第1巻と第2巻の表紙が「ドクロ」をモチーフにした騙し絵となっており、これだけで中身のクオリティが保証された気がしました。そうです、つまりは表紙買いしたのです。
著者は、博多出身の漫画家です。「山口まさかず」名義でも知られ、主にエロコメ作品を得意とするそうですが、 『ミステリー民俗学者 八雲樹』なども手掛けています。この作品はけっこう好きでした。及川光博主演でTVドラマ化もされ、そのDVD-BOXも持っています。
この『江戸川乱歩異人館』ですが、乱歩の作品に「○○男」というタイトルをつけ、常軌を逸した「異人」として描いています。それも蜘蛛男とか黒蜥蜴といったわかりやすい異人だけでなく、探偵である明智小五郎、さらには江戸川乱歩自身も「異人」として描いているところがユニークだと言えるでしょう。
各巻に収録された異人たちの物語は、以下の通りです。「○○男」というタイトルの後には、「~」として原作の題名が紹介されています。さらに「/」の後に書かれている簡単な内容紹介は、各巻の裏表紙に掲載されているものです。
(第1巻)
●穴男~屋根裏の散歩者~
/屋根裏に自らの居場所を見出した男の末路は・・・
●座男~人間椅子~
/あなたに触れたい・・・願望はやがて形になる・・・
●明智小五郎×絞男~D坂の殺人事件~
/素人探偵が魅せる、戦慄の推理ショー
●明智小五郎×壁男~魔術師~
/美しさすら漂う、前代未聞の殺戮劇が始まる・・・
(第2巻)
●明智小五郎×壁男~魔術師~
/芸術的なまでに組み立てられた復讐劇。その結末は・・・
●躁男~白昼夢~
/君はぁ 僕のものだぁ・・・妻への歪んだ愛の形
●箱女~お勢登場~
/不倫妻に芽生えた殺意。悪女、世にはばかる・・・
●額男~押絵と旅する男~
/老紳士が大事に抱える押絵。そこに隠された驚愕の事実とは・・・!?
(第3巻)
●裏・額男~押絵と旅する男~
/乱歩の下に残された押絵。そこに秘められた真実に迫る・・・
●明智小五郎×蜘蛛男~蜘蛛男~
/殺人は我が芸術。狂喜する男に、名探偵・明智小五郎が挑む・・・
●蝕男~蟲~
/愛するあなた。僕を笑ったあなた。今宵、あなたを捕まえにゆきます・・・
●鏡男~目羅博士の不思議な犯罪~
/暗闇に浮かぶ黄色い顔・・・。ああ、博士の恐るべき実験が今夜も始まる・・・
(第4巻)
●秘男~妻に失恋した男~
/おい、笑ってくれ。俺は女房に惚れているのだ。
惚れて惚れて惚れぬいているのだ・・・
●抱男~人でなしの恋~
/私を眺める、夫の愛撫のまなざしの奥に冷たい空虚を感じたのです。
ああ・・・あなたは罪な男・・・
●狡男~灰神楽~
/おいっ、俺を疑うのか? 俺が犯人だってのか?
お前、何者なんだよ!!・・・少年探偵です・・・
●明智小五郎×渇男~地獄の道化師~
/標的は若く美しいあなたです・・・。振り返れば、そこにいる。
踊り狂う不気味な笑顔の道化師が…
(第5巻)
●明智小五郎×渇男~地獄の道化師~
/笑う道化師、しかしその目はドンヨリと暗い。
まとわりつくような執着心で美しいあなたを追う・・・。
●映男~鏡地獄~
/ガラスやレンズ。物が映るものがたまらないという不思議な趣味。
行き過ぎた嗜好の先に待つ悲劇とは・・・
●珠男~算盤が恋を語る話~
/パチ、パチパチ・・・。算盤を通じて交される愛のささやき。
我が想い 愛しき貴女へ届きますよう
●虚男~二癈人~
/向かい合う二人・・・心に傷を負った者。そして体に傷を負いし者。
のどかな午後に語られる、世にも恐ろしき懐旧談・・・
(第6巻)
●面男~百面相役者~
/巧みに化けることこそ名優の証。
変装の術を突き詰めた役者が行き着いた、身も凍るような手段とは・・・!?
●偽男~双生児~
/同じ顔を持つ兄を手にかけた、双生児の弟。
蛮行に及んだ弟自らが語る、戦慄の告白・・・
●明智小五郎×ホラ女~黒蜥蜴~
/犯罪は遊び。罪は快楽。
豊満な肉体に黒衣をまとい、全身を宝石装身具で飾る女。
ああ彼女こそ、女賊・黒蜥蜴・・・
(第7巻)
●明智小五郎×ホラ女~黒蜥蜴~
/よく出来た生人形でしょ? もっと近寄って御覧なさい。
匂いが、するでしょう? ええ、人間の匂いが・・・。
美しいもの、欲しいものは全て我が手に・・・。
女賊・黒蜥蜴の犯罪美学、極まる──!!
●蠢男~指~
/闇夜の道路。そこで何者かに襲われ、
鋭い刃物で右手を斬り落とされた男性ピアニスト。
タン、タン、タン タン、タタン、タン。
男は病室のベッドの上で、旋律を奏でる。失くしたはずの手で・・・。
もともとエロコメを得意とする著者だけあって、このシリーズで描かれる女性たちのエロティックなこと。それと、度外れた異人たちによる殺人描写のグロテスクなこと。そう、この『江戸川乱歩異人館』はこれ以上ないほど「エロ」と「グロ」の饗宴になっています。そして、「エロ」「グロ」は乱歩ワールドの本質でもあります。
たしかに乱歩の作品には幻想性の高いものもありますが、その基本は猟奇性の強い怪奇小説であり、さらに言えば「変態小説」であると言えるでしょう。そんな乱歩作品のダークサイドを、著者は見事に表現してくれました。
これまでも、丸尾末広氏やJET氏などが乱歩作品をコミック化しています。それぞれに乱歩の魅力を引き出す力作なのですが、山口譲司氏はまた違った乱歩の魅力を読者に与えてくれました。
文学作品をコミック化するのは珍しくもなんともなく、今では古典の漫画化シリーズを刊行している出版社もあります。それらの中にはよく健闘しているものもありますが、文学作品を漫画にすると原作とイメージにズレが生じ、原作の愛読者が嫌な気分にさせられることが多いのも事実です。
しかし、『江戸川乱歩異人館』では、著者の異様なまでの画力で、原作の持つ「エロ」と「グロ」をさらにパワーアップして表現していることは驚嘆すべきでしょう。そう、オリジナルの乱歩ワールドよりも、エロくて、グロいのです!
乱歩の持つ怪奇性、幻想性、耽美性、猟奇性、そして猥雑性を少しも損なっていないだけではなく、著者独自の解釈やアイデアも大胆に盛り込まれています。
たとえば、第1巻にある「人間椅子」の原作とは違う驚くべき結末は、多くの乱歩ファンに「あっ!!」と言わせたのではないでしょうか。その、ある意味での裏切りが、わたしにとっては非常に爽快でした。子ども向けの乱歩ワールドもいいけれど、この『江戸川乱歩異人館』は大人の乱歩ワールドが楽しめます。 第8巻の刊行が今から待ち遠しいですね。