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No.0801 プロレス・格闘技・武道 | 人生・仕事 『「ハレンチ」じゃなくて、いったい人生にどんな意味があるんだ!』 ターザン山本、谷川貞治共著(ベースボールマガジン社)
2013.09.29
『「ハレンチ」じゃなくて、いったい人生にどんな意味があるんだ!』(ベースボールマガジン社)を読みました。
表紙カバーには2人の中年男の写真とともに「就活学生、新社会人、ニート、リストラ予備軍・・・・・さまよえる男たちに捧げる35の言霊」と書かれています。また帯には「あなたを幸福に導くのは、成功した人の格言ではなく、どん底でも元気な男の生きザマ!」とあります。
本書の目次構成は、以下のようになっています。
「編集部より」
第1章:社会に出るにあたって
第2章:仕事に対する心構え
第3章:恋愛、性に対する心得
第4章:真の友情とは何か?
第5章:世間との闘いに勝つ!
第6章:自分の生き方を見つめ直す!
この目次を見ると、よくありがちな自己啓発本に思えますが、じつは大いに異なります。その理由は「編集部より」に次のように書かれています。
「それは、執筆者であるふたりの男が、決して社会的成功者ではないことです。
ひとりはターザン山本。週刊プロレスの名編集長として時代を築くも、収賄の結果として職を追われ、競馬で散財し、家を取られ、立石のワンルームで暮らす67歳。離婚2回。うち1回は奥さんが編集部の部下と恋に落ちての結果。
ひとりは谷川貞治。K-1プロデューサーとして栄華を極めながら、数年のうちに負債を背負わされ、組織からは放りだされ、車も家も何もかも失った男。
はっきり言って、どちらも”どん底”に落ちた男たちです」
「”どん底”に落ちた男たち」とは非常に厳しい表現ですが、一般的に見て、この2人はそう言われても仕方ないかもしれません。2人の専門ジャンルである「プロレス」や「格闘技」はわたしにとって大好物のコンテンツですので、2人の書いてきたものなどはたくさん読んできました。わたしは、ターザン山本氏が編集長だった時代の「週刊プロレス」、谷川貞治氏が編集長だった時代の「格闘技通信」の熱心な愛読者だったのです。
しかし、その後の彼らの人生は苦難に満ちたものだったようで、そのあたりは山本氏の『「金権編集長」ザンゲ録』(宝島社)、谷川氏の『平謝り~K-1凋落、本当の理由』(ベースボールマガジン社)に詳しく書かれています。どちらも読みましたが、山本氏には心底あきれて、谷川氏には同情しましたね。
それでは、そんな人生の夢に敗れた男たちが、なぜ人生を語る本を出すのか。「編集部より」には、次のように書かれています。
「通常『こうすればうまく生きられる』『こう考えれば幸せになれる』という方法論を説く本は、ビジネスで成功したり、社会的地位を得た人が書くもの。”どん底”にいるひとの書いた人生指南書なんて、聞いたこともありません。
しかし、だからこそ、この本には大きな意義があるのです。
“どん底”にいるふたりが、なんと明るく、力強く、人生を歩んでいることか。
成功者のアドバイスを聞いて『それはアンタがたまたま成功したから言えるけど・・・』と思った方も、ふたりの主張には『そうか、オレももっと楽しめるはず』と、自ずと心が弾むでしょう」
ここに書かれている「ビジネスで成功したり、社会的地位を得た人」というのは具体的に特定できます。ずばり、見城徹氏(幻冬舎社長)、藤田晋氏(サイバーエージェント社長)の2人がそうです。絵に描いたような成功者である2人は『人は自分が期待するほど、自分を見ていてはくれないが、がっかりするほど見ていなくはない』(講談社)という共著を刊行しています。この本、表紙の構図をはじめ、全体の構成といい、本書とそっくりなのです。このへんの事情について谷川氏は「パクリである」と認めた上で、「あとがき」で次のように述べています。
「見城さんは、僕が出版界で一番尊敬する人で面識もあるし、藤田社長はずっとK-1MAXの冠スポンサーをやっていただいた方。2人とも本当にお世話になった方である。にもかかわらず、ターザンさんとの共著では、真っ先に『これをパクって、遊ぼう!』ということになった。聞けば、見城さんと藤田さんの本は18万部も売れたという。せめて、その10分の1の1万8000部は売れないかなという、セコイ野心が働いたのだ」
さて本書の内容ですが、本当にやりきれないような話だらけなのですが、中でも最も悲惨なのはターザンを奈落の底に突き落とした次のエピソードです。
「1996年8月14日。『終戦記念日』の前日、仕事で私が家を出たのは夕方の6時半。家に帰ったのはそれから4時間後の10時半。カミさんと娘とネコ11匹が家出していなくなっていた。
このショックと絶望に直面した時、私に1つのアイデアが浮かんできた。『これはもう笑うしかないよ』という思いである。カミさんが逃げて行ったという事実と向かい合うな。むしろその事実から思い切りカメラを引いて、その現実を俯瞰して見た時、それ自体が小さな点でしかないのだ。
失礼な話だが、逃げたカミさんも私も同じくピエロだ。もはやどっちもどっちだ。そこから私は「人生は逆だあ」という解釈に到達したのだ。この考えは冒頭の『人間は死亡率100パーセントの生きもの』と表裏一体の関係にある。そこまでくると生きているのもギャグ、死ぬのもギャグだと分かってくる。実に便利な言葉。自分に都合の悪いことがあると『それもギャグだ!』といってすませる」
山本氏の奥さんと一緒に逃げたのは、なんと山本氏の部下でした。まったくもって悲惨極まりない話ですが、山本氏はこれ以前にも奥さんに逃げられています。そのことについて、谷川氏は次のように述べています。
「ターザンさんは『週プロ』編集長を更迭された事件より、二度奥さんに逃げられたことが心の大きな傷になっている。
他人のこと、ましてプライベートなことをとやかく言える立場ではないが、ターザンさんがそれをネタとしているので、あえて言わせていただく。
二度も起こったのは、やっぱり反省してないからですよぉ。その証拠に、ターザンさんはなぜ奥さんが二度出て行ったかについて、その理由が未だに分かっていない。ここでも、ターザンさんは「働いていないこと」『週プロの編集長でなくなったこと』が原因のように言っているが、きっとそれは全然違う。
奥さんが出て行った理由。それは、ターザンさんの『思いやり』が足りなかったからだ。ターザンさんは、僕なんかより、よっぽど優しい人である。その優しさは分かる。しかし、思いやりがない。あるいは、思いやりを伝えるのが下手なのだ」
というわけで、プロレスや格闘技の話題から、最後は「思いやり」の話になってしまいました。人生における「成功」および「幸福」の法則を考えれば、どちらも「思いやり」というものが根底にあるのではないでしょうか。その意味で、本書のような反面教師的な本にも意味があると言えるでしょう。実際、本書を読んだわたしは「家族には思いやりをもって接しなければ!」、そして「もっと優しくならなければ!」と痛感した次第です。いや、ほんとに。
最後にひと言。それにしても、最近のプロレスと格闘技は面白くねえなぁ!