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No.0816 読書論・読書術 『座右の本』 原田かずこ著(宝島社新書)
2013.10.28
『座右の本』原田かずこ著(宝島社新書)を読みました。
「週刊ゲンダイ」に連載された「死ぬまでに読みたい本」「私がハマったすごい本」などのインタビュー記事をまとめた本で、作家・タレント・映画監督・学者・漫画家など70名の有名人が自身の「座右の本」について語っています。
本書の帯には、「伊坂幸太郎『灰の迷宮』、秋元康『桜の園』 、誉田哲也『ポーの一族』、平野啓一郎『冷血』など」「著名人70名の人生を変えた本!」「あなたの人生のバイブルもきっと見つかる!」と書かれています。
著者は1968年に大阪府で生まれたフリーライターで、人物インタビューなどを中心に活動しています。著書に『松本零士自伝 遠く時の輪の接する処』(東京書籍)、『息子はアホやあらへん 坂田利夫の母、語り下ろし』(ネスコ)といった聞き書きの本があります。
70人の「座右の本」のセレクトは、それぞれの個性がよく表れています。映画監督の大林宣彦氏が福永武彦の『草の葉』を、童話作家の佐藤さとる氏が『小学生全集』を、作家の団鬼六氏がポルノ小説の古典『マドモアゼル・リリアーヌ』を、漫画家の蛭子能収氏がつげ義春の『ねじ式』を選ぶような「いかにも」と思えるセレクトもありますが、ほとんどは意外な結果でした。
たとえば、漫画家のやなせたかし氏がトルストイの『復活』を、写真家の藤原新也氏がロレンス・ダレルの『アレクサンドリア四重奏1 ジュスティーヌ』を、作家の佐藤優氏がカレル・チャペックの『山椒魚戦争』を、落語家の林家たい平氏が池田晶子の『14歳からの哲学』を、作家の安部譲二氏が『大航海時代叢書』を選ぶといった具合です。
でも、最も意外だったのは、かのガッツ石松氏でした。初めて知りましたが、石松氏はかなりの読書家で、毎晩寝る前に2時間、”寝本”と称して読書をしているそうです。石松氏は、かつて選挙で落選したことがあります。そのとき、周囲の人々は離れていき、億単位の借金だけが残って自殺まで考えたそうです。
そんな”どん底”状態にあった石松氏が心の支えにした本が、なんと『吉田松陰名語録』川口雅昭著(致知出版社)でした。「人は見かけによらない」と言っては失礼ですが、ガッツ石松氏のエピソードにはちょっと感動しました。
この手のブックガイドを読むと、未読の本など読みたくてたまらなくなります。本書では、以下の3冊がどうしても読みたくなり、早速アマゾンで注文しました。
1冊目は、作家の綾辻行人氏が紹介した、泡阪妻夫著『しあわせの書』。
新興宗教団体にまつわるミステリーだそうですが、この本そのものがある特殊なつくりになっているとか。謎の答えが小説の中で明かされるそうですが、それがなんと本の仕掛けとリンクしているという二重構造になっているそうです。綾辻氏は「こんな本は世界でも例がない」と感動して、何十冊と買っては人にあげているというのです。
2冊目は、国文学者の中西進氏が紹介した、高行健著『霊山』。
著者は中国人初のノーベル文学賞作家ですが、ガンを宣告された男が「霊山」を探して彷徨する物語だそうです。中西氏は次のように語っています。
「この小説のどこに僕がハマったか。それは中国文学、中国文化の常道を完全に打ち破っていた点だといえます。たとえば、『魂』を描いたことなどもそう。作中では、私、おまえなど主人公人称が変わりながら、現実世界から空想世界へ、そして死者の世界へと旅をするのですが、僕はそこに作者の魂の修羅を感じましたし、実はこんなふうに魂を描いたものって中国文学では古典を含め、非常に少ないんですよ」
これを読んで、わたしは玄侑宗久氏の小説『アミターバ 無量光明』を連想しましたが、同書は拙著『死が怖くなくなる読書』(現代書林)で取り上げましたが、この『霊山』もブックリストに入れたくなるような予感がします。さらに中西氏は、次のようにも述べています。
「僕は文学の役割というのは、人の魂の救済だと思っているのです。もともと文学の始まりは神の言葉を述べたものですから、僕は、文学には単に面白いだけでなく、やはり魂が震撼するような感動を求めます。その意味でも『霊山』には、ハマりました。こんなに刺激を受けた本は久しぶりでしたね」
中西氏のコメントを読むと、ますます『霊山』が読みたくなりますし、もっと早く出合っていたら、本当に『死が怖くなくなる読書』で紹介したかもしれません。
3冊目は、作家の道尾秀介氏が紹介した、都筑道夫著『怪奇小説という題名の怪奇小説』です。
道尾氏はこの本のおかげで作家になれたそうです。作家になる前は水戸で住宅関係の営業マンをしていた道尾氏は、ある古本屋で100円で売られていたこの本を見つけ、何気なく読み始めます。一人称で始まるエッセー風の話に、いつの間にか現在や過去が入り混じって、気づくと怪奇小説になっていました。
道尾氏は「正直、ワケが分からない(笑)。だけど、何も足りなくないんです。逆に何かを足すと、この本は死んでしまう。そんな不思議さに衝撃を覚え、たちまち都筑ファンになりました」と述べています。その後の道尾氏の人生は「ドラマティック」のひと言で、まさに『怪奇小説という題名の怪奇小説』によって第二の人生が開かれたのでした。これこそ本との「運命の邂逅」と呼べるでしょう。
じつは、この本、わたしは中学生くらいのときにすでに購入していました。たしか読んだはずなのですが、なぜか内容を記憶していません。当時の文庫本も行方不明になってしまい、改めてアマゾンで注文し直した次第です。
『しあわせの書』、『霊山』、『怪奇小説という題名の怪奇小説』はいずれも小説です。また、『霊山』以外の2冊は基本的にミステリーです。しかし、選んだ3人はいずれもネタバレにならないように本の魅力を最大限に語っているわけです。この本の紹介の仕方も非常に参考になりました。本の紹介者としては、その本を読みたくなった読者に注文させることができれば大成功といったところでしょう。
そういえば、拙著『死が怖くなくなる読書』のゲラを読んだ「出版界の真実一路」こと現代書林の坂本桂一社長は、アマゾンに何冊も本を注文されたそうです。それを聞いて、わたしはニヤリとしました。しめしめ・・・・・。