No.0965 人間学・ホスピタリティ | 宗教・精神世界 『心の力』 村上和雄・玄侑宗久著(致知出版社)

2014.08.11

 小倉は雨がしとしと降っています。10日の月は、「エクストラ・スーパームーン」でした。つまり、今年最も大きくて明るい満月なのですが、あいにく夜空は真っ暗です。わたしは「月」とは、人間の「心」のメタファーであると思っています。ということで、『心の力』村上和雄・玄侑宗久著(致知出版社)を再読しました。「人間という奇跡を生きる」とのサブタイトルがついた本書の内容は、科学者と禅僧との対話です。

 心の持ち方や動きによって、遺伝子がオンになったりオフになったりするという仮説を唱える、まるで宗教家のような科学者は言います。

 「DNAはわずか四つの文字で書かれていて、それが三十億並んでいるわけでしょう。ですから私という一人の人間が生まれる可能性は、四の三十億乗分の一という、超天文学的な組み合わせパターンのうちのひとつです。そんな限りなくゼロに近い可能性の中から、どうして私という人間ができたのか。それは本当に単なる偶然なのか、という大きな問題が出てくる。だから私は、それを”サムシング・グレート”の働きだと言ってるんです。」

 サムシング・グレートとは、宇宙の意志であり、神仏の代名詞なのです。それを受けて、まるで科学者のような禅僧は言います。

 「科学は分析に長けていますし、宗教は全体へのまなざしだと思います。全体性の中で私という存在がいて、その全体性が私のいるこちら側に触れてくるときがあるわけですね。そのとき、われわれはそれを神と呼んだ。一方、こちら側が全体性の中に溶け入ろうとするときに、それを仏と呼んだ。私は宗教をなるべく専門用語を使わずに語り直してみたいと思っているのですが、そのときに科学は絶対に必要なツールなんです。」

 ダライ・ラマ14世は「仏教は心のサイエンスです」と述べましたが、その言葉が正しいことを証明する、奇跡のような対話集です。

 なお、本書は『面白いぞ人間学』(致知出版社)でも取り上げています。

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