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No.0969 人生・仕事 | 人間学・ホスピタリティ 『一語千釣』 森信三著、寺田一清編(致知出版社)
2014.08.19
『一語千釣』森信三著、寺田一清編(致知出版社)を再読しました。
「教育哲学者」と呼ばれた森信三の言葉を、愛弟子である寺田一清氏がまとめた名言集です。帯には、「没後十年―。国民教育の師父として”この人あり”の名声をいま、ますます高めている哲人 森信三語録の決定版!」と書かれています。以下に、わたしの心に響いた言葉を紹介いたします。
「人生二度なし」
これ人生における最大最深の真理なり
求道とは、この二度とない人生を如何に生きるか―という根本問題と取り組んで、つねにその回答を希求する人生態度と言ってよい
悟りとは、他を羨まぬ心的境涯ともいえよう
人間として最も意義ふかい生活は、各自がそれぞれ分に応じて報恩と奉仕の生活に入ることによって開かれる
人間は一生のうち逢うべき人には必ず逢える。
しかも一瞬早過ぎず、一瞬遅すぎない時に―
縁は求めざるには生ぜず。
内に求める心なくんば、たとえその人の面前にありとも、ついに縁を生ずるに到らずと知るべし
人間関係―与えられた人と人との縁―をよく嚙みしめたら、必ずやそこには謝念がわいてくる。これ世を幸せに生きる最大の秘訣といってよい
死の覚悟―いつ『死』に見舞われても、「マア仕方がない」と諦めのつくように、死に到るまでの一日一日を、自分としてできるだけ充実した「生」を生きる他あるまい
「あいさつ」一つによって、家庭が変り、学校が変り、職場が変り、地域が変り、運命が変る
人間として一バン大事なことは何かといえば
(1)一たん決心したことは、必ずやり抜く人間になること
(2)人に親切な人間になるということ
つきつめると、この2ヶ条です
「男らしさ」とは何かと言えば、責任感の強さと、見通しのきく眼力です。それに「女らしさ」の特質は、すなおさとやさしさにあるといえましょう
金の苦労によって人間は鍛えられる。金の苦労を知らない人は、その人柄がいかに良くても、どこか喰い足りぬところがある。人の苦しみの察しがつかぬからである
人間は、腰骨を立てることによって自己分裂を防ぎうる
仕事に処する3つの秘訣
(1)思い切って『とにかく手をつける』即今着手のこと
(2)一度着手した仕事は二等分線を越えるまでは一気呵成にやってのけること
(3)仕上げはまず80点級のつもりで、絶対期限をおくらさないこと。この良い意味の拙速主義が大事です
「義務を先にして、娯楽を後にする」―たったこの一事だけでも真に守り通せたら、一かどの人間になれよう
読書は、実践への最深の原動力
教育のもっとも基盤的な着手点は一たい何でしょうか。
それは「掃除」と「礼」という2つだと思います。
実際この2つの事柄が、教育の真の現実的基盤をなすといってよかろう
信とは、人生のいかなる逆境も、わが為に神仏から与えられたものとして回避しない生の根本態度をいうのである
生身の師をもつことが、求道の真の出発点
書物に書かれた真理を平面的とすれば、
「師」を通して学び得た真理は立体的である
幸福とは、縁ある人々との人間関係を嚙みしめて、それを深く味わうところに生ずる感謝の念に他なるまい
真理は 現実の只中にあって書物の中にはない。
書物は 真理への索引ないしはしおりに過ぎない
尊敬する人が無くなった時、その人の進歩は止まる。尊敬する対象が、年と共にはっきりして来るようでなければ、真の大成は期し難い
英知とは、その人の全知識、全体験が発火して、一瞬ひらめく不可視の閃光といってよい
歌や俳句をやることは、リズム感をみがく上で、最もよい方法だと思います。リズムとは結局、生命のうねりなのです
世界史は結局、巨大なる「平衡化」への展開という外なく、わたくしの歴史観は「動的平衡論」の一語につきる。
すなわち、「動的平衡論」とはこの宇宙間の万象は、すべてこれ陰と陽との動的バランスによって成立しているということである
親への孝養とは、単に自分を生んでくれた一人の親を大事にするだけでなく、親への奉仕を通して、実は宇宙の根本生命に帰一することに外ならない
時を守り
場を清め
礼を正す
これ現実界における再建の三大原理にして、
いかなる時・処にも当てはまるべし
知的障害児や身障児をもつ親は、悲観の極、必ず一度はこの子と共に身を滅したいとの念いに駆られるらしいが、しかもその果てには、必ず、この子のお陰で人間としての眼を開かせてもらえたという自覚に到るようである
「人生二度なし」という人生最深の真理を、さらに一歩進めて現在の直下に燃焼せしめるとしたら、それは即ち「念々死を覚悟して初めて真の生となる」の一語に究極するともいえるであろう
本書には全部で429の言葉が紹介されていますが、そのうちから30を選んでご紹介しました。いずれの言葉も深く、真理というものを示してくれているように思います。「あとがき」で編者の寺田氏が「遇い難くして遇うを得たり、聴き難くして聴くを得たり」という言葉がいつわらぬ実感であると述べています。寺田氏は師である森信三から「数えきれない日常の瑣事から『生き方』の原理原則にいたるまで広い範囲に及ぶ」そうですが、それほどの師を得られたことは人生の至福であると言えるでしょう。
寺田氏は師からの学びを、以下の五ケ条にまとめています。
「(1)朝のあいさつのこと。とくに『人より先に』の先手行です。と共に、『ハイの返事』『はきものを揃える』基本の習得です」
(2)すまいるのこと。『笑顔にひらく天の花』の名言と、具体的に『鏡に向って―』の『鏡笑法』も教わりました。
(3)腰骨を立てつづけること。身心相即の原理で、立腰と立志の連関相即を教わりました。これも一代の宝ものです。
(4)掃除と整理整頓のこと。森先生はゴミ拾いの行者で名人でした。『時を守り場を清め礼を正す』の原理も教わりました。
(5)はがき活用の達人たるべしの教えもありがたいことで、『一日三枚を最低基本に』―教えも具体的です」
寺田氏のこれらの頭文字を取って、「あ・す・こ・そ・は」にまとめ、自銘の言葉にしているそうです。「あ・す・こ・そ・は」とは言い得て妙ですね。滝川クリスタルさんの「お・も・て・な・し」ではありませんが、一字づつ印を切りたくなる言葉です。本書を読めば、わたしたちも日常の瑣事から「生き方」の原理原則までを学ぶことができます。森信三その人は「書物に書かれた真理を平面的とすれば、『師』を通して学び得た真理は立体的である」と述べました。寺田氏が立体的に学んだのに対して、わたしたちの学びは平面的かもしれませんが、それでもやはり有難いことです。