No.0994 人間学・ホスピタリティ | 評伝・自伝 『四肢切断 中村久子先生の一生』 黒瀬曻次郎著(致知出版社)

2014.10.06

 『四肢切断 中村久子先生の一生』黒瀬曻次郎著(致知出版社)を再読しました。
 この読書館では『こころの手足 中村久子自伝』も紹介していますが、中村久子という方は、わたしの最も尊敬する人物の1人です。

 ソクラテス、孔子、ブッダ、イエスの4人が男性の「四大聖人」なら、ナイチンゲール、ヘレン・ケラー、中村久子、マザー・テレサの4人が女性の「四大聖人」であると常々言っているほどです。

 中村久子は、明治30年に生まれ、まだ3歳のときに難病にかかり両手両足を切断されるという経験をしながらも、72年の人生をたくましく生き抜いた人です。また、自分が果敢に生きただけでなく、晩年は全国を講演して回り、多くの障害者に勇気を与え続けた人です。

 両手両足を切断した後も、何度も手術は繰り返されました。そのうち、父が亡くなり、母も病気になりました。生活苦から見世物小屋に自ら入り、「だるま娘」として23年間も好奇の眼にさらされました。それでも、障害者には他に生きる道がないため、じっと運命に堪えたのです。

 そして、独学で読み書きを覚え、読書で教養と精神性を高めました。生きる希望を絶対に捨てず、家事はもちろん、結婚や出産、そして育児までをも立派にこなしました。「奇跡の人」ヘレン・ケラーが彼女に初めて面会したとき、「私より不幸な人、そして私より偉大な人」と言ったことは有名です。

 本書の著者自身も、白血病という不治の病に侵されながら、中村久子の顕彰に努める方だそうです。人間の真の評価とは、快適な状態で何をしたかではなく、困難な状態で何をしたかで決まります。

 極限状況こそ、人間としての腕の見せ所なのです。本書は、そのことを教えてくれる一冊です。

 なお、本書は『面白いぞ人間学』(致知出版社)でも取り上げています。

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