No.1011 児童書・絵本 『こころのふしぎ なぜ?どうして?』 村山哲哉監修(高橋書店)

2014.12.06

『こころのふしぎ なぜ?どうして?』村山哲哉監修(高橋書店)を読みました。
11月17日にフジテレビ系「めざましテレビ」で紹介された本です。正続2冊ありましたが、その日のうちに書店で購入して読了しました。

本書の帯

高橋書店の「楽しく学べるシリーズ」には「かがくのふしぎ」「しゃかいのふしぎ」「さんすうのふしぎ」「ことばのふしぎ」といった児童書がありますが、本書もその中の1冊です。いま、児童書としては異例のベストセラーになっています。帯の裏には、監修者である文部科学省・教科調査官の村山哲哉氏の以下の言葉が紹介されています。

「この本は、説明に困る、身近な『心』にまつわる疑問に、すっきり答える一冊です。もちろん、答えは1つではありませんが、親子で話して考えるきっかけにしていただけると幸いです」

また、カバー前そでには、「こころのとびらを、あけてみて読んで、かんじて、考えよう。せかいは、ふしぎなことだらけ」と書かれています。アマゾン「内容紹介」には、以下のように書かれています。

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子どものうちに読んでおきたい一冊
---読むほどに心が強くなる! 新しい「やさしさの教科書」---
「『ごめんね』を上手に言うほうほうは?」「いじめられたら、どうしたらいい?」など、答えに困る「心の疑問」にたくさんの絵を使ってすっきり解答。読むほどに心が豊かに、強くなる一冊です。
【読むほどに心が強くなる! 新しい「やさしさの教科書」】
「人の気もちがわかる子になってほしい。でも、どうやって教えたらいいのかわからない…」。こんな思いを抱いているお父さんお母さんも多いと思います。そこで本書では、簡単には説明しづらい人間の感情や、倫理観、家族や友だちとの付き合い方など、大人になる前の大切な時期に読んでおきたい、心にまつわる疑問にわかりやすく解答。読むたびにたくさんの気もちがあふれ出す、何度も読み返したくなる一冊です。
【「いのちは大切」と、言葉で何回言うよりも】
「いのちは大切だよ」と言葉で伝えても、子どもに理解させるのはなかなか難しいもの。そこで本書「いのちのふしぎ」の章では、さまざまな角度から、「いのちとは何か」が感じられる「なぜ?」を紹介しています
【友だちがたくさんほしいときの秘策とは?】
友だちをたくさん作る秘策。それは「あいさつ」「じょうほう」「わらい」の「3つのふくろ」を持つこと。こんなふうに、引っ込み事案で人付き合いが苦手な子でも、友だちを増やすコツがわかります。
【やさしくなるための、具体的な方法は?】
「思いやりを持とう」と言われても、きっと子どもは、具体的に何をすればいいのかわかりません。でも、「今日あったことを思い出して、人の気持ちを想像する習慣をつければ、思いやりは自然と身に付いていきます。大切なことを、親子で話し合うきっかけになる一冊です。
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一読して、わたしは「良く出来ているなあ」と感心しました。さすがは現役の文部科学省の教科調査官が監修しただけのことはあります。本書は「心のふしぎ」「いのちのふしぎ」「かぞく・ともだちのふしぎ」「ルールのふしぎ」「やさしさのふしぎ」の5つの章に分かれており、全部で58の質問があります。わたしが特に「答えが素晴らしい」と思ったのは、以下の10の質問です。

●テレビに出てくるような「せいぎのみかた」って、どこにいるの?
●気もちを上手にことばにするには、どうしたらいいの?
●どうして、歌を歌いたくなるの?
●ごはんの前に「いただきます」って言うのは、なんで?
●いじめられたら、どうしたらいいの?
●べんきょうができない。これって、わるいことなの?
●おじいちゃん、おばあちゃんに手紙を書きたい! 何て書けばいい?
●花に「きれい」って言いつづけると、きれいにさくって本当?
●電車でおとしよりがいたら、せきをゆずらないといけないの?
●こまっている人をたすけたい。どうすればいい?

その答えがどういう内容かは、敢えてここには書きません。ぜひ、ご自分で本書を手に取って確認されて下さい。「こんな答え方があるんだ!」「これなら、子どもだって納得するはず!」と思われることでしょう。子どもだけではなく、親を踏んだ大人たちでも腑に落ちる内容になっています。本当に、よく考えられて作られた本だと思います。

逆に、「この答えは、ちょっと・・・」という違和感を抱いたというか、「わたしなら違う答え方をするな」と思ったのは次の10の質問です。

●おばけは、どうしてこわいの?
●かなしみは、いつきえるの?
●楽しかった日は、夕方になるとちょっとなきたくなります。どうして?
●おはかって、ちょっとこわい・・・・・・。なのに、どうしておはかまいりに行くの?
●かみさまって、本当にいるの?
●人は、どうして人をころすの?
●人がしぬって、どういうこと?
●人はしんだら、どこへ行くの?
●わるいことをしたら、じごくにおちるって本当?
●お父さん、お母さんはどうしてけっこんしたの?

これは単にケチをつけていると思われては困るので少しだけ説明すると、たとえば「楽しかった日は、夕方になるとちょっとなきたくなります。どうして?」という質問には、きれいな夕焼けの絵とともに「そういう気持ちを『せつない』とよぶのです」と書かれています。これは詩的というか文学的というか、素敵な答えだとは思います。でも、子どもがこの答えで納得するでしょうか。さらに「せつない」の意味を教えてあげる必要があるのではないでしょうか。

それから、「人は、どうして人をころすの?」という質問には、「人をころす人の心は、多くの場合、いやな気もちでいっぱいになっていて、まわりの人からのあいじょうをかんじられなくなっています」という答えの後に、その具体例があげられています。でも、殺人者の心理分析よりも「人をころしてはいけない」理由を教える方が重要でしょう。つまり、この問いは「人は、どうして人をころすの?」ではなく、「どうして、人を殺してはいけないの?」でなければならないということです。

また、「人がしぬって、どういうこと?」という質問に対しては、家族というものは重いくさりにつながれており、深い悲しみやときに苦しみを感じつづける。だから、人を殺してはいけないし自分で自分を殺してもいけないと説いています。しかし、これはアマゾンで「ひなた」さんという方が「別の価値観や視点があることを、あわせて伝えるべき」というレビューに次のように書いています。

「自殺と他殺を同じように解くことに無理がありますし、多くの自殺は様々な困難が重なっておきる追い込まれた末の死であるという基本的視点が欠如しています仮に家族を自死でなくした子ども(このご時世、自殺者が身近にいる方はたくさんいます)にこのような道徳観が教えられるとしたら、少し極端なたとえになりますが、『家族はやってはいけないこと(自殺)をした、自分はその苦しみのクサリをずっと背負い続けていかねばならない』と、子どもに伝えているともとれます、こんなに酷なことはないし、誰にも相談できなくなります。自殺を肯定するわけではありませんが、大切な命の話題ですから、むしろ、人の抱えうる困難を想像できる優しさや、『困ったときに周りに相談する力』を取り上げて欲しいと思うのです」

わたしも、この「ひなた」さんと同感です。全体的に「死」に関連するテーマの説明は弱い印象を受けました。「死」に特化した児童書があっても面白いかもしれません。もし縁があれば、わたしが書いてもいいです。

あと、文科省の教科調査官が監修しているということで、本書の内容はけっして宗教的次元に立ち入っていません。たとえば「人はしんだら、どこへ行くの?」という質問には「それは、だれにもわかりません。国や地いき、しゅうきょうなどによって、考え方はさまざまです」と答えています。でも、特定の宗教に偏する必要はありませんが、日本人と関わりの深い神道、仏教、あるいはキリスト教あたりの考え方ぐらいは紹介してもいいのではないかと思いました。

もともと、「こころ」の問題を語るなら、「宗教」は切っても切り離せません。日本人の多くは「宗教が違ったって、同じ人間じゃないか。宗教なんかにこだわるのはナンセンスだ」と言うかもしれません。たしかに、人間は人間です。でも、人類という生物としての種は同じでも、つまりハードとしての肉体は同じでも、ソフトとしての精神が違っていれば、果たして同じ人間だと言い切れるでしょうか。大事なのはソフトとしての精神であり、その精神にもっとも影響を与えるものこそが宗教なのです。はっきり言って、宗教が違えば、まったく違う「こころ」を持った人間になるのです。

日本人の「こころ」は、神道・仏教・儒教を三本柱にしています。それに基づいて、わたしは「平成心学塾」というものを主宰しています。

かつて、孔子の思想的子孫と言うべき明の王陽明は「心学」を開き、日本の石田梅岩は江戸時代に「石門心学」を唱えました。そしていま、「平成心学」の時代です。社会が「ハート化社会」を経て、「心の社会」を迎え、さらには「心ゆたかな社会」であるを呼び込むために、21世紀を生きるすべての人々が学ぶべきものが「平成心学」です。

「石門心学」は神道・仏教・儒教を融合した日本人の心の豊かさを追求したものでしたが、「平成心学」は神・仏・儒のハイブリッドな精神文化である日本の冠婚葬祭をふまえ、さらにはグローバル社会を生きるためにユダヤ教・キリスト教・イスラム教をはじめとした世界の諸宗教への理解を深めることも目的とします。いわば、総合幸福学なのです。

わたしには『図解でわかる!ブッダの考え方』(中経の文庫)、『世界一わかりやすい「論語」の授業』(PHP文庫)という著書がありますが、これらの内容を子ども向けにアレンジするのも面白いかもしれません。わたしは、平成心学塾の塾長として、日本および世界の宗教にまで言及した子ども向けの「こころ」の教科書を書いてみたいと思います。

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