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2015.02.11
久々の「一条真也による一条本」は、『知の巨人ドラッカーに学ぶ21世紀型企業経営』(ゴマブックス)です。2006年3月に上梓した本です。
『知の巨人ドラッカーに学ぶ21世紀型企業経営』(2006年3月10日刊行)
2005年11月11日、世界最高の経営学者として知られたピーター・ドラッカーが逝去しました。2001年10月1日の社長就任以来、「選択と集中」「知識化」「イノベーション」などのドラッカー理論を愚直に実行し、サンレーの経営に当たってきたわたしにとって、ドラッカーの訃報はまさに「青天の霹靂」でした。いつかアメリカのクレアモントにある自宅を訪れ、ドラッカー本人と面会することが夢であったわたしにとって大きなショックでした。わたしは、ドラッカーの御霊に心からの哀悼の念を捧げ、「巨星堕つ まぶしき光身に受けて われ月となり 世に反射せん」「何よりもマネジメントの真髄は 人が主役とドラの威を借り」「ドラッカー慕う我こそ新しき マネジメントの地平開かん」という歌を詠みました。そして、計り知れないほどの恩を受けた「知の巨人」に対する感謝の書として執筆したのが本書でした。
本書の帯の裏
本書の帯には「この1冊で、ドラッカーのすべてがわかる 最強の『超』実践的教科書」と書かれています。また、帯の裏には「ドラッカー理論によって、赤字の会社が年商180億円にまで成長した!!」というリード文に続いて、以下の「プロローグ」の言葉が引用されています。
「かつて赤字にあえいでいた私の会社は、『選択と集中』『知識化』『イノベーション』をはじめとする数々のドラッカー理論の導入により、経営内容が格段に改善した。製造業を中心としたマネジメントが主流のなかで、サービス業それも冠婚葬祭業という超ソフトな産業においてドラッカー理論がこれほど的確に応用できたのは奇跡に近いと自分でも思う。しかし、その一方で、『人が主役』というドラッカー思想と『人間尊重』という当社のミッションが根底で相通じていたゆえ当然だという思いも同時にある」
本書の目次構成は、以下のようになっています。
プロローグ ~マネジメントは人が主役だ!~
●マルクスよりもすごい、20世紀最高の思想家だ!
●ドラッカー学会が日本に誕生
●会社は誰のものか?
●「知の巨人」を生んだ環境
●22歳でヒトラーにインタビュー
●世界に「意味」を与えた男
●マネジメントは面白い!
第1部 ドラッカーのここに学べ
●「マネジメント」
●「マーケティング」
●「イノベーション」
●「リーダーシップ」
●「未来」
●「時間」
●「成果」
●「知識」
●「情報」
●「人事」
●「利益」
●「倫理」
●「変化」
●「戦略」
●「強み」
●「目標管理」
●「顧客満足」
●「意思決定」
●「自己啓発」
●「選択と集中」
●「教育と学習」
●「事業の定義」
●「従業員志向」
●「社会生態学」
●「転換期の到来」
●「脱・経済至上主義」
●「ベンチャー」
●「ベンチマーキング」
●「コア・コンピタンス」
●「コーポレート・ガバナンス」
第2部 このドラッカー本を読め
(1)哲学者ドラッカーの真髄
『すでに起こった未来』
(2)変化しているのは会社だ!遺言というべき遺作
『ネクスト・ソサエティ』
(3)判断力をもちたい若者必読の書
『「経済人」の終わり』
(4)世界中の経営者に影響を与えた名著
『新訳 現代の経営』
(5)マネジメントを理解するための究極の教科書
『新訳 経営者の条件』
(6)起業家を志すなら、読破せよ』
『新訳 イノベーションと起業家精神』
(7)GMをモデルにした組織論の名著
『企業とは何か』
(8)歴史がこの本の正しさを証明した
『断絶の時代』
(9)名著『ネクスト・ソサエティ』の先駆けの書
『ポスト資本主義社会』
(10)同族企業にとってのバイブル
『未来への決断』
第3部 知の巨人、ドラッカー
「ドラッカーが肯定した男たち」
●チャーチル
●シュンペーター
●澁澤栄一
ドラッカーが否定した男たち
●ヒトラー
●ケインズ
●ウェルチ
「ドラッカーと儒教」
「ドラッカーと明治維新」
「ドラッカーの日本へのメッセージ」
「ドラッカーとサービス業」
エピローグ
参考文献一覧
「マネジメントの父」とも呼ばれたドラッカーこそは、世界最高の経営思想家でした。経営学そのものの創始者でもあります。ウィーン生まれですが、ナチスを嫌ってアメリカに移住し、最近までカリフォルニア州クレアモント大学の大学院で教授を務めていました。
世界のビジネス界にもっとも影響力を持つ思想家であり、東西冷戦の終結、転換期の到来、社会の高齢化をいち早く知らせるとともに、「マネジメント」という考え方そのものを発明しました。また、偉大な経済学者ヨーゼフ・シュンペーターの流れを受け、「イノベーション」の重要性を強調するとともに、マネジメントに関わる「分権化」「目標管理」「経営戦略」「民営化」「顧客第一」「情報化」「知識労働者」「ABC会計」「ベンチマーキング」「コア・コンピタンス」、そして「選択と集中」などの理念の生みの親で、それらのコンセプトを自ら発展させてきたのです。
「民営化」はイギリスのサッチャー政権が全面的に採択し、世界最大の大企業の1つだったGEのCEO(最高経営責任者)に就任したジャック・ウェルチが「選択と集中」を取り入れて大成功、一躍カリスマ経営者となったことは有名です。ウェルチがGEのCEOになって最初に行ったことは、クレアモントのドラッカーを訪問し、経営戦略のアドバイスを受けることでした。ウェルチのみならず、世界にはドラッカーを信奉する経営者が数多く存在します。
日本でも、ソニーの故盛田昭夫氏、出井伸之氏、イトーヨーカドーの伊藤雅俊氏、富士ゼロックスの小林陽太郎氏、ファーストリテイリング(ユニクロ)の柳井正氏など、多数の経営者がドラッカーに共感し、こうした方々は「ドラッカリアン」と呼ばれているます。
わたしは若輩かつ経営者としての経験も浅く、ドラッカリアンというにはおこがましいので、これまで「ドラッカー・チルドレン」と自称してきました。本書を上梓する4年前に社長に就任して以来、ドラッカーの経営理論を愚直なまでにそのまま導入して会社の経営に当たってきました。
わたしは、経営学などというジャンルを超え、ドラッカーは「知の巨人」だと思いました。19世紀を代表する思想家がマルクスなら、20世紀最大の思想家こそドラッカーであると信じています。もともと、わたしは、19世紀の「知」はダーウィンとニーチェとマルクスに代表され、20世紀のそれはアインシュタインとフロイトとドラッカーに代表されると思っていました。でも、マルクスとドラッカーは他の人々のように世界を解釈するだけでなく、世界を変革してきました。ただし、ともにフィルターの存在を通して、です。すなわち、マルクスは、レーニンをはじめとした世界中の革命家を通じて。そしてドラッカーは、ウェルチをはじめとした世界中の経営者を通じて。しかし、マルクスの思想は経営者と労働者の対立を生み、世界に憎悪をもたらす性悪説でした。一方、ドラッカーのそれは経営者と労働者の協調を生み、世界に友愛をもたらす性善説でした。ドラッカーの経営思想のおかげで、どれだけの労使紛争が回避されたか計り知れず、ドラッカーこそノーベル平和賞を受けるに値する人物だったと確信します。
本書に関しては、あるアマゾン・レビューが心に沁みました。そのレビューには「『もしドラ以前』の『イチドラ』」というタイトルで以下のように書かれています。
「『もしドラ』(岩崎夏海著・ダイヤモンド社)はビジネス本としては異例の増刷を重ねて売れに売れました。この本の正式書名は、”もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら”。ドラッカーは知らなくとも『もしドラ』なら知っているという奇妙な現象が起こりました。
『もしドラ』が出版されたのが2009年12月。『もしドラ以前』、『もしドラ以後』を見ると『以後』のドラッカー本は、『もしドラ特需』を狙って出版されたものが大半だと考えてもいいでしょう。『もしドラ以後』のドラッカー本にも良書はあります。しかし、本書が『もしドラ以前』のドラッカー本(初版第1刷:2006年3月)であることに注目したいと考えます。
ドラッカー氏の著書を原書で読める一部のエクゼクティブを除き、日本の経営者の大半は上田惇生氏の手による翻訳本で『ドラッカー思想』を学んできたのでしょう。しかし、ドラッカー氏の書き記した著作は30冊以上に及びます。その書籍群を一ヶ月以内に読破した経営者は、『日本広し』といえども、一条真也氏をおいて他にはいないのでは・・・・・・
『もしドラ』は企画力勝負のフィクションですが、この『イチドラ』(一条真也のドラッカー)は、真剣勝負の実践編です。『人が主役』というドラッカー思想と『人間尊重』という著者が経営する企業のミッション。これが同一であるという『確信』が、『革新』(イノベーション)を成し遂げ、倒産の危機に瀕した企業業績を驚異的に回復させることに成功。
すなわち、ドラッカー思想を実践することで得られた『成果』に裏打ちされたビジネス本なのです。帯コピーの”この1冊で、ドラッカーのすべてがわかる最強の「超」実践的教科書”が説得力を持つ所以です。
しかし、本書で一番『たいせつなこと』。それは本書が出版された真の理由が、一条真也氏のドラッカー氏に対する感謝の念で書かれているということ。そして、一人でも多くの企業経営者、そしてビジネスパーソンにドラッカー氏の思想を知ってもらい、『ネクスト・ソサエティ』への回答を求めて欲しいという一条氏の願い。まさに『利他のこころ』で執筆された『ハートフル・マネジメント・ガイド』。私が提唱する『イチドラ』には、『イチオシのドラッカー・ガイド』という意味もあることを付記しておきます」
『もしドラ』の著者である岩崎夏海氏と
わたしは、このレビューを読んだとき、涙が出るほど嬉しかったです。そして、わたしの言い表せぬ想いを汲み取って下さったレビュアーの方に心からの感謝の念を抱きました。本当に「ありがたい」と思いました。
最後に、本書は刊行直後に版元が倒産したことなどもあって、わたしとしては悔いが残る一冊となりました。このときの無念さは、3年後の2009年9月に上梓した『最短で一流のビジネスマンになる! ドラッカー思考』(フォレスト出版)で晴らすことができました。この本も「もしドラ以前」であります。