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No.1040 宗教・精神世界 『ユダヤ教vsキリスト教vsイスラム教』 一条真也著(だいわ文庫)
2015.02.11
いま、世界中が「イスラム国」の衝撃に揺るがされています。人質となった後藤健二さん(47)と湯川遥菜さん(42)の2人の日本人も殺害され、日本でも「イスラム国」に対する恐怖と怒りの感情が増大しています。
『ユダヤ教vsキリスト教vsイスラム教』(2006年4月15日刊行)
わたしは、自身のブログ記事「『日本の悪夢』という呪いを解くために」、同じくブログ記事「イスラムを知るために」にも書きましたが、「イスラム国」などという「イスラム教」と混同する名称を使うことには反対です。これでは、あのテロ集団がイスラム教を代表しているイメージを与えてしまいます。イスラム教全体の中でも末端組織を「イスラム国」などと呼んでいるのは日本だけで、他の国は「ISIL」と呼んでいます。世界中のイスラム教徒は「イスラム国」の残虐非道な暴挙に怒りを感じているというのが現実なのです。
ということで、今回の「一条真也による一条本」は、『ユダヤ教vsキリスト教vsイスラム教』(だいわ文庫)です。2006年4月に刊行された本です。
本書のサブタイトルは「『宗教衝突』の深層」で、帯には「戦争、テロ、紛争、衝突! 宗教は救済か、恐怖か!」と大書され、「書き下ろし 宗教『三姉妹』を知れば、世界が見える!」と書かれています。
本書の目次構成は以下のようになっています。
「まえがき~世にも奇妙な三姉妹宗教の物語」
第1章 宗教、この興味深きもの
●三大宗教の共通点
●仏教は啓典宗教ではない
●預言者の存在
●イエスは神でなければならない
●イエスを神としないユダヤとイスラム
●神と契約をした民族
●宗教は恐ろしいのか?
●十字軍がやったこと
●宗教が持つ優しい面
●宗教とは何か?
●言語を身につけた人類
●書物の宗教
●月という共通項
●宇宙飛行士はなぜ宗教家になるのか
●宗教の衝突
第2章 三大宗教はいかにかかわってきたか
●ユダヤ教とキリスト教
●イエスは人類の原罪を1人で引き受けた
●イエスは人間であり、神に背いた犯罪者である
●信仰とは神との契約の実行である
●ユダヤ教徒は『新約聖書』を聖書とは認めない
●ユダヤ教とキリスト教の対立の始まり
●サタンは「ユダヤ人の父」
●イエス殺害の恨み
●ナチスによる悲劇
●ユダヤ教とイスラム教
●道三と龍馬を足したようなムハンマド
●ムハンマドを認めなかったユダヤ教徒
●キリスト教より近い2つの宗教
●イスラムを拒否した決定的理由
●イスラムが重視したアブラハム
●メディナからの追放
●十字軍に対して手を結ぶ
●新たな敵対関係
●キリスト教とイスラム教
●現れた憎らしい邪魔者
●三位一体を糾弾するイスラム
●憎くて仕方がない開祖
●十字軍で敵対関係は決定的になる
●イスラムは世界の中心だった
●近代を作れなかったイスラム教
●金儲けを許さなかったユダヤとイスラム
●キリスト教とぶつかるイスラム法
●ソ連に代わる共通の敵
●なぜUFOが現れなくなったのか
第3章 三大宗教の歴史
●ユダヤ教の歴史
●モーセは偉大な預言者たちの原像
●ダビデ王とソロモン王
●バビロン捕囚に始まる迫害の時代
●反ユダヤ主義の芽生え
●シオニズム運動の誕生
●パレスチナ問題はイギリスにあり
●中東戦争の始まり
●キリスト教の歴史
●ユダヤ人イエスはユダヤ人に殺される
●迫害されたキリスト教徒
●クリスマスはイエスの誕生日ではない
●十字軍遠征とマリア信仰
●騎士団とは何か
●再び始まった十字軍
●2つの修道院
●ルターの宗教改革
●伝道師たちの活躍
●プロテスタントが根づいた北米
●イギリスのキリスト教
●戦争に無力だったキリスト教
●イスラム教の歴史
●商人の子、ムハンマド
●最高の奇跡は『コーラン』
●一夫多妻、ハーレムの誤解
●スンニ派とシーア派は跡目紛争
●唐は東の横綱、サラセン帝国が西の横綱
●歴史上、最高の帝国オスマン・トルコ
●イスラムの英雄たち
●文化も育んだイスラム教
●ガマのインド洋横断もイスラム教徒のおかげ
●十字軍とジハード
●イスラム原理主義運動の高まり
●20世紀の宗教革命は全世界を震撼させた
第4章 三大宗教の教義・戒律・聖典
●三大宗教の教義
●ユダヤ教―4つの特徴
●キリスト教―すべてはイエスの山上の垂訓から始まった
●イスラム教―人事を尽くして天命を待つ
●六信五行
●アッラーの言葉を完全に伝えた『コーラン』
●イスラムの天国と地獄
●三大宗教の戒律
●ユダヤ教―日常の行動が決められている
●食べてよい肉まで決まっている
●キリスト教―戒律を遺さなかったイエス
●数多くある記念の日
●7つの秘蹟
●イスラム教―車輪の両輪の関係にある六信と五行
●明確に記述された五行
●三大宗教の聖典
●ユダヤ教―『旧約聖書』は途方もない書物
●事実上の聖典「タルムード」
●「ネイビーム」と「ケトゥビーム」
●キリスト教―『旧約聖書』と『新約聖書』はともに必要
●「共観福音書」のマタイ、マルコ、ルカ
●「ヨハネによる福音書」
●「使徒行伝」
●最後の書「黙示録」
●イスラム教―『コーラン』とは『新・新約聖書』
●声に出して読めばわかる
●『コーラン』の主題
●聖典「ハディース」
第5章 三大宗教の神秘主義
●カバラ―ユダヤ教の神秘主義
●カバラの起源とユダヤ神秘主義の起源は同じではない
●「隠れた神」、石炭と炎
●「セフィロト」と「ゲマトリア」
●思弁的と実践的に大別
●メシア、サバタイ・ツェヴィの熱狂的な大衆運動
●ハシディズムの運動とは何か
●「ビッグバン」との一致
●グノーシス―キリスト教の神秘主義
●異端の宗教グノーシス
●スーフィズム―イスラム教の神秘主義
●スーフィーは聖者として民衆から尊敬を集めた
●最初の指導者、アル・バスリー
●修行法「マカマート」
●イスラム教徒の思想家たちがスーフィズムに賛同
●暗殺教団といわれたアサシン
●現在に通じるスーフィズム教団
「引用文献・参考文献一覧」
本書は刊行直後から非常に大きな反響を呼びました。また、アマゾンの「イスラム教」カテゴリでは長らく1位の座にありました。話題を呼んだ最大の要因は、わたしがユダヤ教、キリスト教、イスラム教の三大宗教を三姉妹に例えたことです。「まえがき~世にも奇妙な三姉妹宗教の物語」には、以下のように書かれています。
本書は、人類の歴史に大きな影響を与えてきた三人の姉妹の物語である。同じ親から生まれてきた三人の娘は、いずれも大の本好きだった。特にお気に入りの5冊の本を三人とも愛読した。ただし、長女はあくまでもその5冊しか読まなかったが、二女と三女はそれぞれ別のお気に入りの本を持った。長女と二女は黙読することが多かったが、三女は必ず声に出して本を読んだ。
三人の容貌はそれぞれ違っていた。
長女と三女は顔や習慣や雰囲気が似ていた。ただ、小柄な長女に比べて、三女は大柄に成長していった。二女も大柄だった。そして、彼女は他のふたりの姉妹と仲良くやっていくことができなかった。長女や三女の姿を見ると、いつも言いがかりをつけて喧嘩を仕掛けた。
三女は、もともと上の二人の姉を尊敬しており、彼女たちと仲良くやっていきたかった。長女とは初めはうまく付き合っていた。二女がヒステリーを起こして暴れ出したときは、二人で協力して助け合った。しかしその後、次第に長女の方が距離を置くようになった。そして、姉を慕う三女は二女とは初めからうまく付き合えなかった。好戦的な二女がいつも攻撃を仕掛けてくるので、仕方なく受けて立つようになった。
それぞれ違う道を選んだ三姉妹は、戦い合い、多くの血を流した。彼女たちの争いは世界中に影響を与えた。
いや、過去の話ではなく、今も与え続けている。彼女たちの動向を他の人々は不安な表情で見つめている。
彼女たちの名前を教えよう。
長女は、ユダヤ教。
二女は、キリスト教。
そして、三女は、イスラム教である。
同じ親、つまり同じ一神教の神を信仰し、『旧約聖書』という同じ啓典を心の拠り所にしながら、憎み合い、殺し合うようになった世にも奇妙な三人の姉妹。
本書は、三人の娘の生い立ちから、その精神世界まで広くさぐってゆく。21世紀の国際社会を生き抜くには、この三人についての理解を深めることが必要である。
三姉妹を知れば、世界が見えてくる。
(「まえがき~世にも奇妙な三姉妹宗教の物語」より)
この「三姉妹宗教」というアイデアは、ずいぶん多くの方々から注目されました。つい最近も、『「何から読めばいいか」がわかる全方位読書案内』齋藤孝著(ウェッジ)という本の「イスラム教を知る」という項に『ユダヤ教vsキリスト教vsイスラム教』(だいわ文庫)が紹介されていて驚きました。
『「何から読めばいいか」がわかる全方位読書案内』の38ページから39ページにかけて、齋藤氏は次のように書いています。
「イスラム教の神と、キリスト教の神と、ユダヤ教の神は、基本的には同じ神様です。『ユダヤ教vsキリスト教vsイスラム教~「宗教衝突」の深層』(一条真也、だいわ文庫)は、三者の関係を、長女がユダヤ教で、次女がキリスト教で、三女がイスラム教、というように表現し、なぜ彼女たちが行き違ってしまったのか、なぜこんなに衝突するのかをストーリー仕立てで語っていてわかりやすい。私たちがいちばん理解しにくいのはイスラム世界ですが、この本の内容は、心に入ってきやすいと思います。世界を広く理解するためにはイスラムだけではなく、宗教についての理解を深めたいものです」
わたしは、この文章を読んで大変感激しました。齋藤孝氏は1960年生まれですが、わたしの尊敬する教養人の1人であります。ちなみに一神教についての造詣が深いことで知られる佐藤優氏も1960年生まれです。63年生まれのわたしにとって2人とも人生の先輩ですが、いずれも現代日本最強の「本読み」であり、「知」のフロントランナーです。少なくとも50代ではこの2人が最強であると思います。その佐藤氏の最新刊『神学の思考~キリスト教とは何か』(平凡社)を今読んでいます。
佐藤氏は同志社大学の神学部を卒業されていますが、「神学」というのは宗教を理解するうえでの核心とされています。わたしは、その「神学」の正体はじつは宗教ではなく「哲学」であったと『ユダヤ教vsキリスト教vsイスラム教』に書きました。神学は宗教の本質とは無関係だったのです。
ならば、宗教というものはこの世に存在しないのかというと、神秘主義といういわば宗教の影の部分、オカルティズムと呼ばれてきた闇の部分こそが本来の宗教ではないかと思えてなりません。つまり、ユダヤ教におけるカバラ、キリスト教におけるグノーシス、イスラム教におけるスーフィー。これらの神秘主義、これらの秘教こそが宗教の名を得るに価するのではないでしょうか。すなわち、これまで宗教と思われてきたものは哲学に、神秘主義と思われてきたものは宗教に、それぞれ座席替えをするわけです。いずれにせよ、重要なのは神を解釈することではなく、神を体験することでしょう。わたしは「神を語るな!神を感じろ!」と読者に向かって訴えました。
19世紀末には、哲学者ニーチェが「神は死んだ」と言いました。しかし、20世紀末からユダヤ、キリスト、イスラムの三姉妹宗教のいずれもファンダメンタリズム(原理主義)が起こりました。正直言って、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教といった一神教は世界に戦争を引き起こす「戦争エンジン」となっているのが現状です。しかし、それを「平和エンジン」に改造することは不可能ではないと、私は思います。中東で繰り広げられてきた戦争には、「文明の衝突」というよりは「宗教の衝突」であり、正確には「一神教同士の衝突」という側面があります。もちろん、20世紀以降は石油をめぐっての「経済の衝突」としての側面も強くなっています。
わたしは、一神教同士の衝突をかわし、戦争を避ける道はあると確信します。そのための具体的な提案も本書に書きました。いつかまた、宗教についての新著を世に問いたいという思いはあります。