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No.1044 人間学・ホスピタリティ | 帝王学・リーダーシップ | 幸福・ハートフル | 論語・儒教 『孔子とドラッカー』 一条真也著(三五館)
2015.03.06
今回の「一条真也による一条本」は、『孔子とドラッカー』(三五館)です。
2006年4月18日に刊行された本です。
『孔子とドラッカー』(2006年4月18日刊行)
本書のサブタイトルは「ハートフル・マネジメント」となっていますが、これはもともとサブではなくメインタイトルとして考えていたものです。新時代の総合幸福学をめざして平成心学塾を立ち上げたわたしは、として『ハートフル・マネジメント』『ハートフル・リーダーシップ』『ハートフル・カンパニー』の3冊を「平成心学三部作」として世に問うつもりでした。しかし、版元である三五館の「出版界の丹下段平」こと星山佳須也社長から『孔子とドラッカー』というメインタイトルを提案され、それに同意したわたしは「ハートフル・マネジメント」をサブに回すことにしたのでした。ちなみに、『ハートフル・リーダーシップ』のほうも『龍馬とカエサル~ハートフル・リーダーシップの研究』となりました。なお、本書は「出版界の青年将校」こと三五館の中野長武さんが初めて編集を担当してくれた記念すべき本でもあります。ということで、本書の「目次」は、以下のようになっています。
帯には「人間通×経営通」と大書されています
はじめに「平成心学のために」
第1章 無限のマネジメント
●仁 愛と思いやりこそ、すべての基本である
●義 大義名分を持たない者はほろびる
●礼 人としてふみおこなうべき道を守る
●智 知識よりも智慧によって自己を知る
●忠 あらゆる人に真心で接し、誠を尽くす
●信 人の真の価値は信念によって決まる
●孝 生命体の連続性を説く壮大なる観念
●悌 年少者の想いと年長者の信頼
●志 無私の強い想いが共感を呼ぶ
●夢 それは必ず実現できる
●欲 悪を垣間見ることも必要である
●理 天地自然の理を知り、経営理念を持つ
●気 宇宙の一員であるという人間観の発想
第2章 和合のマネジメント
●和 主体性を保ちながら他者と協調する
●友 山の頂で再会することを誓いあう
●敵 ライバルの存在が真の実力を養う
●教 アリストテレスに学ぶ対話教育の可能性
●育 コーチングとは、叱りながら褒めること
●徳 黙々と人知れず、心を貯金する
●学 学びは人間学と職業学にきわまる
●読 本、メール、ハガキ、人の心を読む
●書 書くことにより縁と志は強くなる
●見 見えないものを見る眼とは何か
●言 リーダーは言霊を繰り返し語れ
●聞 いい話も悪い話も耳傾けて聞け
●縁 袖すり合った多少の縁をも生かせ
●希 絶望の中にも生きる意味を見つける
●祈 人事を尽くして天命を待つ
●運 自分の運を信じれば、道は開ける
●利 論語と算盤で、義と利は両立する
●標 目標を持つことが成功への道である
●時 時間とは人間の生命そのものである
●予 時代を見通す先見力が必要である
●易 統計的研究が行き詰まりを打開する
第3章 天心のマネジメント
●喜 サービスとは、喜びを与えること
●強 とにかく自らの強みに集中せよ
●弱 自分の弱さを容認し、弱さに徹する
●感 五感で感じれば、心は豊かになる
●謝 心ある謝罪と感謝で信頼を得る
●満 顧客満足だけが企業を存続させる
●勇 決して逃げずに正しいことをする
●達 上達して君子に至れば、信を得る
●怒 公のための怒りをもって事にあたる
●笑 ユーモアと笑顔が福を呼ぶ
●泣 感情量の大きさが人を動かす
●狂 ひとりの狂者が世界を変える
●命 ミッションこそが企業の命である
●天 天を相手に正々堂々と仕事する
あとがき―月光経営をめざして
引用・参考文献一覧
本書の帯裏で「究極のマネジメント」を紹介
本書は、マネジメントについての書です。「マネジメント」という考え方は、世界最高の経営学者ピーター・ドラッカーが発明したものとされています。マネジメントの発明者としてのドラッカーは、経済学者ヨゼフ・シュムペーターの流れを受けて、「イノベーション」の重要性を説いたほか、「分権化」「目標管理」「経営戦略」「民営化」「顧客第一」「情報化」「知識労働者」「ABC会計」「ベンチマーキング」「コア・コンピタンス」などのコンセプトを次々に世に送り出しました。かのカリスマ経営者ジャック・ウェルチがGE(ゼネラル・エレクトロニック)のCEOに就任したとき、真っ先にドラッカーに会いに行ったエピソードからもわかるように、世界中の経営者にもっとも大きな影響力を持つ「経営通」である。
では、ドラッカーが発明したマネジメントとは何か? まず、マネジメントとは、人に関わるものです。その機能は、人が共同して成果をあげることを可能とし、強みを発揮させ、弱みを無意味なものにすることです。これが組織の目的です。また、マネジメントとは、ニーズと機会の変化に応じて、組織とそこに働く者を成長させるべきものです。組織はすべて学習と教育の機関です。あらゆる階層において、自己啓発と訓練と啓発の仕組みを確立しなければなりません。
このように、マネジメントとは一般に誤解されているような単なる管理手法などではなく、徹底的に人間に関わってゆく人間臭い営みなのです。にもかかわらず、わが国のビジネス・シーンには、ナレッジ・マネジメントからデータ・マネジメント、はてはミッション・マネジメントまで、ありとあらゆるマネジメント手法がこれまで百花繚乱のごとく登場してきました。その多くは、ハーヴァード・ビジネス・スクールに代表されるアメリカ発のグローバルな手法です。もちろん、そういった手法には一定の効果はあるのでしょうが、日本の組織では、いわゆるハーヴァード・システムやシステム・アナリシス式の人間管理は、なかなか根付かないのもまた事実です。情緒的部分が多分に残っているために、露骨に「おまえを管理しているぞ」ということを技術化されれば、される方には大きな抵抗があるのです。
日本では、まだまだ「人生意気に感ずるビジネスマン」が多いとされます。仕事と同時に「あの人の下で仕事をしてみたい」と思うビジネスマンが多く存在します。そして、そう思わせるのは、やはり経営者や上司の人徳であり、人望であり、人間的魅力ではないでしょうか。会社にしろ、学校にしろ、病院にしろ、NPOにしろ、すべての組織とは、結局、人間の集まりにほかなりません。人を動かすことが、経営の本質なのだ。つまり、「経営通」になるためには、大いなる「人間通」にならなければならないのです。
今から約2500年前、中国に人類史上最大の人間通が生まれました。言わずと知れた孔子である。ドラッカーが数多くの経営コンセプトを生んだように、孔子は「仁」「義」「礼」「智」「忠」「信」「孝」「悌」といった人間の心にまつわるコンセプト群の偉大な編集者でした。彼の言行録である『論語』は東洋における最大のロングセラーとして多くの人々に愛読されました。特に、西洋最大のロングセラー『聖書』を欧米のリーダーたちが心の支えとしてきたように、日本をはじめとする東アジア諸国の指導者たちは『論語』を座右の書として繰り返し読み、現実上のさまざまな問題に対処してきたのです。
わたしは、2001年10月に冠婚葬祭会社の社長に就任しましたが、ドラッカーの全著作を精読し、ドラッカー理論を忠実に守って会社を経営していると自負してきました。彼の遺作にして最高傑作である『ネクスト・ソサエティ』を読んで感動し、これをドラッカーから自分自身に対する問題提起ととらえ、『ハートフル・ソサエティ』というアンサー・ブックを上梓したほどです。
また、わたしは40歳になるにあたって「不惑」たらんとし、その出典である『論語』を40回読んだ経験を持ちます。古今東西の人物のなかでもっとも尊敬する孔子が開いた儒教の精神を重んじ、「礼経一致」の精神で社長業を営んでいます。わが社は冠婚葬祭業ですが、一般には典型的な労働集約型産業と思われています。これを知識集約型産業とし、さらに「思いやり」「感謝」「感動」「癒し」といったものが集約された精神集約型産業にまで高めたいと願っています。
ドラッカーを最高の経営通、孔子を最大の人間通としてとらえるわたしは、両者の思想に巨大な共通点を発見しました。最近でこそ、両者の共通点に注目した書籍も出ているようですが、当時は大きな驚きをもって受け取られました。わたしは、この発見をもとにして、経営の源である人間の心を動かす法則集のようなものを書いてみたいと思い至ったのです。古今東西の経営の智慧を渉猟し、人の心を動かす究極のツボを「仁」「徳」「愛」など、キーワード別のエッセイ・テイストでまとめてみました。実践的な体験談というより、あくまでわたし自身が一人前の経営者になるべく学んだ備忘録のようなものです。かつて、孔子の思想的子孫と言うべき明の王陽明は「心学」を開き、日本の石田梅岩は「石門心学」を唱えました。わたしは、「はじめに」の最後に「本書が、まったく新しい『平成心学』としての心のマネジメントを用意する草莽の一冊になれば、これに勝る喜びはない」と書きました。
そして「あとがき」では、「月光経営」というものを唱えました。月光経営とは、北風経営でも太陽経営でもない第三のマネジメントです。イソップ寓話には「北風と太陽」という有名な話がありますが、リストラの嵐を吹きつけ社員を寒がらせる北風経営でもなく、ぬくぬくと社員を甘やかす太陽経営でもなく、月光のような慈悲と徳をもって社員をやさしく包み込むものです。まさに、心の経営、つまりハートフル・マネジメントのイメージそのものです。
企業経営において利益が重要視されるのは当然ですが、利益とは影のようなものだと言えます。例えば、太陽のような意味のある実態を考えてみると、太陽は照るときもあれば、照らないときもあります。しかし地球上のどんなところでも、冬の北極でも南極でも、一年中一度も太陽が照らないということはありません。そして、太陽が照ると、影ができます。そんなものはいらないと言っても、太陽という実態が照れば影はできるのです。
ビジネスでは、世の中の人に役立つような商品あるいはサービスを提供します。場合によっては、人々はそれに見向きもせず、買ってくれないかもしれません。利用してもらえないかもしれない。でも本当に価値のある商品、意味のあるサービスであれば、必ずその値打ちを認めてくれる人が現われます。そういう認めてくれる消費者、ユーザーが必ず出てきます。それは、いわば太陽のような存在です。真価を認めてくれる人がいれば、売上は必ず立ち、そういう人がたくさんいれば、要らないと言ってもできる影のように、必ず利益があがるのです。しかし、灼熱の太陽があまりも異常な利益が出し濃い影が浮かび上がったとき、あまりの暑さや日射病を避けるため、人々は木陰や建物の中に逃げ込み、濃い影は一瞬にして消滅してしまいます。それが、バブル崩壊だと言えるでしょう。
低成長時代においては太陽よりも月が必要となります。暑くもなく、日射病になる心配もない月光はいつまでも地上を照らしていてくれます。また、高度成長期において、私たちはいたずらに「若さ」と「生」を謳歌してきましたが、超高齢化社会の足音は「老い」と「死」に正面から向かい合わなければならない時代の訪れを告げています。太陽から月への主役交代とは、それらを見事に象徴しているのです。慈悲の光を放ち、おだやかな影をつくるものこそ月光経営です。各企業がそれぞれの社会的使命を自覚し、世の人々の幸福に貢献し、徳業となることをめざすならば、その結果として利益という月の影ができるのです。わたしは「満月の夜に影ふみをしながら、経営という最高の遊びを楽しもうではないか!」と書きました。
わたしは、本書を「月光の書」であると位置づけました。月光とは、月が自ら発した光ではありません。それはあくまで太陽の反射光です。同様に、本書に登場するさまざまな考えやエピソードは、すべて先人という太陽からの光を月であるわたしが反射して、読者のもとにお届けしたにすぎません。わたしは、本書を執筆するにあたり、四書五経から陽明学の書物まで広く目を通しました。孔子や孟子や王陽明といった巨星のまばゆい光を感じていただきたいと本書を願って書きました。
また、ドラッカーをはじめ、安岡正篤、中村天風、松下幸之助、稲盛和夫といった人々の著作は入手し得る限りのものをすべて読みました。本書では、太陽としての彼ら先哲の光が輝いていると思います。さらに、司馬遼太郎作品や塩野七生作品の主要なものもほとんど読破し、その結果、本書にアレクサンダー、ハンニバル、カエサル、ナポレオンなどの西欧の英雄や、武田信玄、上杉謙信、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康などの戦国の英雄、そして吉田松陰、坂本龍馬、西郷隆盛などの幕末維新の志士といった、古今東西の「人間通」たちが入れ替わり立ち代わりオールスターで登場して多彩な光を放つことになったのです。
心の経営についての軽やかなコンセプト・カタログのようなものをめざしたのですが、結果として何が飛び出すかわからないオモチャ箱のようになった感も否めません。でも、読者がそれぞれの読み方、楽しみ方をしていただければ、著者として嬉しい限りだと思いました。
本書の刊行後、北陸大学の北元理事長から連絡があり、わたしは同大学に開かれた「孔子学院」の開学記念講演で講師を務めました。テーマは、ずばり「孔子とドラッカー~ハートフル・マネジメント」でした。
その後、2008年4月から2015年3月まで、じつに7年間にわたり、わたしは北陸大学の客員教授として「孔子研究」「ドラッカー研究」を教えることになりました。さらに、本書は第2回「孔子文化賞」を受賞する大きな理由にもなりました。いろんな意味で、忘れられない思い出の書です。