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2018.06.12
「一条本」の最新刊である『決定版 年中行事入門』(PHP研究所)の見本が出ました。サブタイトルは「知って安心、幸せをもたらす日本人の知恵」です。
本書は、『決定版 冠婚葬祭入門』(実業之日本社)の姉妹編と言えるかもしれません。カバー表紙には正月、端午の節句、お盆などの年中行事のイラストが描かれ、帯には「輪くぐり」のイラストとともに、「ご先祖様と家族の絆をつむぎ、移り変わる季節を愛でる心・・・・・・日本人の『こころ』の備忘録」と書かれています。
本書の帯
また帯の裏には、「はじめに」より以下の言葉が抜粋されています。
「世の中には『変えてもいいもの』と『変えてはならないもの』があります。年中行事の多くは、変えてはならないものだと思います。なぜなら、それは日本人の『こころ』の備忘録であり、『たましい』の養分だからです」
本書の帯の裏
アマゾンの「内容紹介」には、以下のように書かれています。
「お正月はしめ飾りと門松を飾り、おせち料理を囲む。お盆にはご先祖様をお迎えし、七五三ではわが子の健やかな成長を祝う・・・・・・。日本には一年を通して、暮らしに根差した年中行事が伝わっている。では、それぞれの年中行事の成り立ちや、正しい行い方を知っているだろうか。年中行事とは、同じ暦日に毎年慣例として繰り返され続ける行事のこと。そこには、昔からの伝統を大切に守り、また時間の流れと季節の移り変わりを愛でる日本人の『こころ』と『たましい』が込められている。その年中行事の基礎知識を雑学風に読めるようにまとめ、正しく行うためのやり方をわかりやすく解説した入門書の決定版として発刊する。最近ではクリスマスはもとより、バレンタインデーやハロウィーンなど、外国から伝わった年中行事も定着してきた。また、年賀状の代わりにSNSなどが使われることも増えた。これらについても取り上げ、その基礎知識と正しい行い方を解説する」
本書の「目次」
本書の「目次」は、以下のようになっています。
はじめに「日本人の『こころ』と『たましい』のために」
第1部 年中行事は必要
日本人の時間観
時間に追われる日本人?
一年という単位で考える
人生儀式と年中行事
年中行事に注目した民俗学
民俗学者の柳田と年中行事
通過儀礼と年中行事
なぜ年中行事は衰退しているのか?
現代日本が抱える病
年中行事という処方箋
「存在承認」という風潮
年中行事を復活させるために
なぜ年中行事をやるのか?
第2部 年中行事は面白い
●第1章 年中行事で気になる耳より話
年中行事は人生を肯定すること
年賀状はメールへと進化している
正月から始まる年中行事
「門松」と「しめ飾り」は年神様への”ラブコール”
正月の仕事は”男”と”女”で役割が違う
初日の出は創られた伝統
除夜の鐘はこうして生まれた
人生行事の「成人式」が年中行事になった
寒さ退治の柚子湯とかぼちゃ
「一富士、二鷹、三茄子」、初夢のルーツ
なぜ「彼岸」に祖先の霊を迎えるのか
お彼岸とお盆が休みだという理由
女の子の災いを引き受けるお雛様というしきたり
紅葉狩りが教えてくれる多様性
西洋の年中行事の始まり「クリスマス」
女性がリードする年中行事がバレンタインデー
ハロウィーンは死者の祭り
●第2章 年中行事を味わう
鏡餅はなぜ丸い? 秘められた食のしきたり
おせち料理の献立は、福を呼ぶ「しきたり」がぎっしり
端午の節句に食べる柏餅は、福を呼ぶ
「八十八夜」に新茶を味わう
お中元はしきたり? 百貨店の”夏枯れ対策”
神嘗祭ー『古事記』の世界がそのまま残る神事
●第3章 今時の年中行事
年中行事の中の「対」の法則
縁起の良い方角
禁忌(タブー)と呼ばれるもの
忌詞という考え方
季節の変わり目に何かが起こる
神への感謝がなくなってきた?
マンションなど、しめ飾りはどうすればいい?
床の間や和室がない家のしきたり
盆飾りの鉄則
SNSでは送信者の心までは伝わらない
「いいね」は単なる承認欲求?
インスタでの写真は、お手軽季節感?
第3部 家族に伝えたい年中行事
一月
■初日の出
■正月
■初詣で
■門松
■しめ飾り
■鏡餅
■おせち料理
■お屠蘇
■お年玉
■雑煮
■七草粥
■成人式
■七福神詣で
■左義長
二月
■節分
■恵方巻
■バレンタインデー
■春祭り
三月
■雛祭り
■お彼岸
■お墓参りの作法
四月
■お花見
■エイプリルフール
■花祭り
五月
■端午の節句
■母の日
六月
■衣替え
■父の日
■夏越の大祓
七月
■七夕
■土用の丑の日
■お盆
九月
■お月見
■重陽の節句
■敬老の日
■お彼岸と秋の七草
十月
■ハロウィーン
十一月
■紅葉狩り
■酉の市
■七五三
■秋祭り
十二月
■冬至
■クリスマス
■年越の大祓
■年越しそば
その他
■お中元とお歳暮
【わが家の年中行事一覧】
「あとがき」
「しめ縄」をイラスト入りで説明
民俗学者の折口信夫は、年中行事を「生活の古典」と呼びました。彼は、『古事記』や『万葉集』や『源氏物語』などの「書物の古典」とともに、正月、節分、雛祭り、端午の節句、七夕、お盆などの「生活の古典」が日本人の心にとって必要であると訴えたのです。
いま、「伝統文化や伝統芸能を大切にせよ」などとよく言われますが、それはわたしたちの暮らしの中で昔から伝承されてきた「生活の古典」がなくなる前触れではないかという人もいます。
たとえば、伝統文化評論家で國學院大學客員教授の岩下尚史氏は、この読書館でも紹介した著書『大人のお作法』の中で「正月もそのうち実体がなくなる。おそらく今の八〇代の人たちが絶える頃には、寺社は別としても、古風な信仰を保つ人たちを除いては、単なる一月になるだろう」と予測しています。
「おせち」をイラストで説明
文化が大きく変化し、あるいは衰退するのは、日本の場合は元号が変わった時であると言われます。明治から大正、大正から昭和、昭和から平成へと変わった時、多くの「生活の古典」としての年中行事や祭り、しきたり、慣習などが消えていきました。おそらく元号が変わると、「もう新しい時代なのだから、今さら昔ながらの行事をすることもないだろう」という気分が強くなるのでしょう。そして、平成も終わり、新しい元号へと変わります。来年の2019年4月30日、天皇陛下は退位されることになりました。平成は2019年の4月末で終わり、翌5月1日から改元されます。
「節分」をイラスト入りで説明
平成は大きな変化の時代でした。なによりも日本中にインターネットが普及し、日本人はネット文化にどっぷりと浸かってしまいました。正月に交わしていた年賀状を出すのをやめ、メールやSNSで新年のあいさつを済ます人も多くなってきました。その平成も終わるのですから、新元号になったら、日本人の間の「もう新しい時代なのだから、今さら昔ながらの行事をすることもないだろう」という気分はさらに強くなるはずです。
しかし、世の中には「変えてもいいもの」と「変えてはならないもの」があります。年中行事の多くは、変えてはならないものだと思います。なぜなら、それは日本人の「こころ」の備忘録であり、「たましい」の養分だからです。
この読書館でも紹介しましたが、かつて、民俗学者の柳田國男は『年中行事覚書』を書きました。日本の年中行事を考える上での基本テキストとして有名ですが、別の本で柳田が書いている正月(松の内)と盆を除いた、主として農村部での季節の行事が取り上げられています。そして、それぞれの年中行事の由来や変遷などについて柳田が推論しています。彼は、年中行事の記憶が失われることを恐れ、「今までわたしたちのまだ知らずにいたことが多いということと、誰もが気をつけて見ておこうとせぬうちに、消えてなくなろうとしている年中行事が、幾らもあるということを説くのに力を入れた。今ならばまだいろいろの事実は残っていて、なるほどそうだったということも出来るし、またどういうわけでこうなのだろうと、疑って見ることも出来る。共同の疑いがあれば、それに答えようとする研究者も必ず生まれるだろう。自分がまだはっきりと答えられないからといって、問題までをしまっておくのはよくないことだと思う」と述べています。
「雛段飾り」をイラスト入りで解説
日本民俗学の創始者であった柳田には「これまでの年中行事を早く収集し、整理する必要がある。そうしないと、誰も知らなくなってしまう」という危機感がありました。『年中行事覚書』が刊行された昭和の中頃でさえすでに意味不明となってしまっていた慣習も多かったようです。その意味で、わたしは年中行事とは日本人の「こころ」の備忘録であると思いました。それと同時に、元号が変わる前の平のうちに、年中行事を早く収集し、整理する必要があると考えました。そうしないと、誰も知らなくなってしまう」という危機感をおぼえたのです。年中行事とは同じ暦日に毎年慣行として繰り返され続ける行事のことですが、それは時間を愛し、季節を大切にする日本人の「こころ」が支えています。そして、それは「こころ」よりももっと深いもの、そう、日本人の「たましい」の養分となるものです。
「盆棚」をイラスト入りで解説
人間の本質は「からだ」と「こころ」の二元論ではなく、「からだ」と「こころ」と「たましい」の三元論でとらえる必要があります。宗教哲学者で京都大学名誉教授の鎌田東二氏は「体は嘘をつかない。が、心は嘘をつく。しかし、魂は嘘をつけない」と述べています。「嘘をつく心、嘘をつかない体、嘘をつけない魂」という三層が「わたし」たちを形作っているというのです。
日本人の「たましい」を「大和魂」と表現したのは、国学者の本居宣長です。彼はその最大の養分を『古事記』という「書物の古典」に求めましたが、さらに折口信夫は正月に代表される「生活の古典」の重要性を説いたのです。書物の古典にしろ、生活の古典にしろ、昔から日本人が大切に守ってきたものを受け継ぐことには大きな意味があります。それは日本人としての時間軸をしっかりと打ち立て、大和魂という「たましい」を元気づけるからです。
2冊揃えば、鬼に金棒!
大和魂とは、大いなる和の魂です。
それは平和を愛する「たましい」であり、美しい自然を愛し、さらには神仏を敬い、先祖を大切にする価値観の根となるものです。これから新しい時代が訪れても、日本人がいつまでも平和で自然を愛する心ゆたかな民族であり続けてほしい。そんな願いを込めて、わたしは本書を書きました。イラストを豊富にして読みやすくすることを心がけましたので、いつも近くに置かれて、季節の折々に手に取っていただければ幸いです。
『決定版 年中行事入門』は6月20日に発売です。
どうか、一家に一冊、「こころ」の備忘録をお求め下さい!