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2018.09.12
『芸人「幸福」論』プチ鹿島著(KKベストセラーズ)を読みました。
「格差社会でゴキゲンに生きる!」というサブタイトルがついています。著者は1970年長野県生まれのお笑い芸人で、時事ネタを得意とする芸風で知られています。著書に、この読書館でも紹介した『教養としてのプロレス』、『プロレスを見れば世の中がわかる』などがあります。じつは、この読書館で紹介した『長州力 最後の告白』の最後に「お笑い」が取り上げられており、プロレスラーとお笑い芸人の共通点が多く指摘されていました。それで、プロレス・ファンであるわたしも「お笑い」に興味を抱き、本書を手に取った次第です。
本書の帯
本書の黄色いカバー表紙には多くのお笑い芸人のちっこい写真が使われ、やはり黄色の帯には「『気づき』『発想の転換』『開き直り』…芸人たちの多彩な人生劇場!」と書かれています。帯の裏には、「このプレゼンで人生が変わった!」と書かれ、以下の31組の芸人たちの名前が並んでいます。
「メイプル超合金、鳥居みゆき、ハリウッド・ザコシショウ、どぶろっく、U字工事、日本エレキテル連合、かもめんたる、コウメ太夫、ねづっち、中山功太、三浦マイルド、BBごろー、猫ひろし、ゾフィー、ホロッコ、錦鯉、デスペラード、エルシャラカーニ、めいどのみやげ、Hey!たくちゃん、セクシーJ、銀座ポップ、島田洋七、ノッチ、冷蔵庫マン、ガッポリ建設、中村シェフ、横須賀歌麻呂、よしつねつねお、チャンス大城、松本ハウス」
本書の帯の裏
カバー前そでには、以下の内容紹介があります。
「プチ鹿島が31組の芸人人生を聞いて書いた!
そこには”気づき”や”プレゼン力”、”開き直り”や”発明”、”発想の転換”などがてんこ盛り。芸人の『幸福論』とは何なのか?売れても売れなくてもゴキゲンな理由とは?」
本書は、今やテレビのコメンテーターとしても活躍し、各新聞、雑誌での連載本数も爆増している芸人・プチ鹿島が、隔月刊誌「CIRCUS MAX」で2012年12月号から2018年2月号まで連載した「プチ鹿島の芸人人生劇場」を加筆修正の上でまとめたものです。長期間にわたる連載のため、すでにブレイクを果たしている芸人なのに下積み時代のインタビューだったり、内容が古いものもあります。また、1組あたりのページ数が少なくて情報不足なのが難ですが、独自の視点でさまざまな芸人たちの生き様が興味深く紹介されています。ここは、31組の中から、わたしのお気に入りの(といっても、セクシーJと冷蔵庫マンは本書で初めて知りましたが)6組をご紹介したいと思います。なお、以下の文章は本書からの引用です。とにかく個性的な6組です。
●メイプル超合金
「カズレーザーは、そもそもお笑いに強く憧れていたわけではない。
『家にモンティパイソンのビデオがありましたけど、中学のときに「笑う犬シリーズ」(フジテレビ)に触れたのが最初かも』
同志社大学在学時に就活するも『とにかく働きたくなかった』。では、時間あたり給料が一番いい仕事はなんだろう、と調べたら横綱だった。さすがにそれはあきらめ、お笑いならいいかなぁと思ったという。合理的だ。高校の時にM-1が始まり、漫才をじっくり見たことでお笑いの面白さは知りはじめていた。ちなみに大学時代から衣装は赤かったらしい。この世界に入ってからはピンで活動していたが、『6年スベり続けていました』」
●鳥居みゆき
「『小学生のころ、占い師に35歳までしか生きられないと言われたの。それがずっと頭の隅にある。だから、やりたいことはすぐやるようになった。例えば、しゃべってるときも違う話になったら、あ、そっちしゃべんなきゃという風に』何だか、分かった気がする。ともすれば鳥居みゆきは『落ち着かない』と思われる人だ。いろんな意味で。しかしそれは狙いやキャラではなく”タイムリミットがある”という意識が、彼女をそうさせると考えたら腑に落ちるではないか」
●ハリウッドザコシショウ
「黒パンツとSNS。すべては『R-1ぐらんぷり』の予選会場で『自分を知らないという空気にしないため』という準備だった。
そしてあの『誇張ものまね』である。『昔からものまね何十連発っていうネタは評判良かった。マニアックな対象でこれだけいけるなら、有名人を誇張してやったらもっとウケるのでは? と気づいて。それが3年くらい前』
ネタの見せ方も変えた。『以前は、古畑任三郎のものまねは曲をいきなり流して登場して”ハンマーカンマー”と言っていたんです。でも、それだとマニアにしかウケない。だからフリップに『誇張しすぎた古畑任三郎』って書いて、ワンクッション置いたんです。突然のギャグでなく、ものまねを懸命にやってる形にした。そしたらウケ方が変わりましたね』」
●日本エレキテル連合
「『志村けん』の影響が今も大きいことも分かる。人間のおかしみや哀しみを過剰なディテールで身を包み、表現する。彼女たちは無意識だろうが、男好きする笑いでもある。そして何より『子供』もエレキテルが好きだ。考えてみてほしい。『ダメよ~、ダメダメ』のあのフレーズは、ドリフが今も現役なら志村けんさんが毎週使っていそうなギャグだ。子供がマネをして、親が苦い顔をしそうなギャグ。どこか、そんな懐かしい風景が現代に甦ったとも言えまいか?」
「最後に『おしゃべりワイフ 未亡人朱美ちゃん3号』のネタは何がヒントだったか聞いてみた。『ジジイが中年のおばさんを口説いていたんです。女の人は感情がなくて、ホント人形みたいで。私たち、ジジイがちゃんと口説けるかどうか、ハラハラしてずっと粘って見ていたんです…東村山のジョナサンで』 東村山……。やっぱり志村けん!」
●セクシーJ
「あなたは”金玉洗い”という芸を知っているだろうか。知らなくても大丈夫だが、紹介しよう。セクシーJは、ほぼ全裸。ふんどし一丁で舞台に登場する。あろうことか、そのふんどしの下からは『金玉』がぶらぶら。ストッキングに入れた2個のボールで表現しているのだ。裸で玉をぶら下げた胸毛だらけのその男は、粛々と儀式を行なう。金玉洗いとは、どうやら『奉納芸』らしい」
●冷蔵庫マン
「その男が舞台に登場すると、会場は何ともいえない幸せな空気になった。男は真っ白に塗った段ボールを上半身にかぶり、自分を『冷蔵庫』に見立てている。『ヒエ(冷え)、ヒエ、ヒエ~』と高いテンションで叫びながらダジャレを言う。そう、冷蔵庫だけに冷え冷えのギャグが売りなのだ。
『なんだあいつ、松茸狩りであんなに喜んだのに1時間も遅刻だよ。絶対許せねー』『待ったぁ?』『けっ!』
『松茸』と『待ったぁ?けっ』……。戦慄のダジャレである。最後に『さーむい!寒い!』と言い放ち、男は冷蔵庫の扉をバタンと閉める」
本書に登場する芸人たちの中で、ここに紹介した6組はわたしのお気に入りで、彼らの動画を見ると、何とも言えぬ幸せな気分になります。しかしながら、今一番お気に入りの芸人は、”野性爆弾くっきー”です。わたしは彼が大好物で、彼の芸なら何時間ぶっ通しで見ても飽きません。腹の底から笑えます。世界一面白い芸人だと思います。本書に”野性爆弾くっきー”が出てこないことだけは残念でした。はい。