No.1645 オカルト・陰謀 | 宗教・精神世界 | 歴史・文明・文化 | 評伝・自伝 『世界の「聖人」「魔人」がよくわかる本』 一条真也(PHP文庫)

2018.12.25

27冊目の「一条真也による一条本」として、『世界の「聖人」「魔人」がよくわかる本』(PHP文庫)を紹介したいと思います。今からちょうど10年前の2008年12月に刊行された監修書で、クリエイティブ・スイートの編著です。

世界の「聖人」「魔人」がよくわかる本』(2008年12月刊行)

本書のカバーは。「信長の野望」「三国志」などで有名なカリスマ画家の長野剛画伯がイラストを担当、ゴータマ・ブッダ、イエス・キリストの二大聖人、またノストラダムスとヴラド・ツェッペシという二大魔人を描いています。帯には、「人々を光へと導く救世主あり、世界を闇に陥れる独裁者あり……113人の『聖人と魔人』の横顔とエピソードを紹介」と書かれています。

本書の帯

また帯の裏には、以下のように書かれています。
【偉大なる聖人たち】
人類の3分の1を魅了する、史上最高のカリスマ――イエス・キリスト
色即是空を悟った、仏教の開祖――ゴータマ・ブッダ
数多くの逸話を残す、日本古代史のキーパーソン――聖徳太子
【恐るべき魔人たち】
人類滅亡を予言したとされる最高の預言者――ノストラダムス
ドラキュラ伯爵のモデルになった君主――ヴラド・ツェッペシ
大オカルト帝国だったナチス・ドイツアドルフ・ヒトラー
など、世界に名を轟かせた「聖人」「魔人」113人を紹介!

本書の帯の裏

カバー裏には、以下の内容紹介があります。
「世界史に偉大な足跡を遺した『聖人』と、強烈なインパクトを与えた『魔人』。現代にまで影響を及ぼす彼らは、どんな人物だったのだろうか?本書は、古代から近現代まで実在した『聖人と魔人』113人について、その横顔を紹介したものである。遊び人から一転して聖人になったアウグスティヌスや、聖人貴族から虐殺者へと成り下がったジル・ド・レエなど、驚きのエピソード満載の本。文庫書き下ろし」

本書の「目次」は、以下のようになっています。
まえがき「偉大なり聖人!恐るべし魔人!」

★聖人編

第1章 ヨーロッパ・アメリカの聖人
[Introduction]
西洋思想のバックボーン、キリスト教を広めた人々
●対立する三宗教が、共に崇める偉大な預言者 モーセ
●「無知の知」を説き、「徳」を重んじた哲学者 ソクラテス
●処女のまま神の子を宿した、聖なる母 聖母マリア
●キリストの到来を予言した、非キリスト教徒 洗礼者ヨハネ
●人類の3分の1を魅了する、史上最高のカリスマ イエス・キリスト
●イエスに罪を許され、改悛した元娼婦(?) マグダラのマリア
●信仰と武勇とを両立させた、竜退治の英雄 ゲオルギウス
[Other Saints]
●ヘレン・ケラー
●プラトン
●使徒ヨハネ
●パウロ
●ペテロ
●アブラハム
●ヴァレンティヌス
●ニコラウス
●アウグスティヌス
●アエギディウス
●ドミニコ
●アッシジのフランチェスコ
●ジャンヌ・ダルク
●マルティン・ルター
●聖女ベルナデット
●シッティング・ブル
[Other Saints]
●フローレンス・ナイチンゲール
●ウルリヒ・ツヴィングリ
●ジャン・カルヴァン
●エマヌエル・スウェデンボルグ
●ルドルフ・シュタイナー
[Other Saints]
●アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ

第2章 アジア・インド・中東の聖人
[Introduction]
アジア・インド・中東に広がる二大宗教を探る!
●色即是空を悟った、仏教の開祖 ゴータマ・ブッダ
●史上最後にして最大の「預言者」 ムハンマド
●「礼」を重んじた儒教の始祖 孔子
●道家の祖とされる足跡不明な謎の思想家 老子
●数多くの逸話を残す、日本古代史のキーパーソン 聖徳太子
●中国から正統な密教を受け継いだ天才宗教家 空海
[Other Saints]
●ガンジー
●孟子
●荘子
●玄奘三蔵
●鑑真
●最澄
●法然
●親鸞
●日蓮
[Other Saints]
●マザー・テレサ
●ゾロアスター
●マハーヴィーラ
●龍樹
●マニ
●アリー
●ナーナク
●クリシュナムルティ
[Other Saints]
●ダライ・ラマ14世
●摩耶夫人
●ダルマ
●ヴァスバンドゥ
●ラーマクリシュナ
[Other Saints]
●宮沢賢治
●一遍
●栄西
●道元
●蓮如
[Other Saints]
●中村久子
●周公旦
●朱子
●王陽明

★魔人編
第3章 ヨーロッパ・アメリカの魔人
[Introduction]
歴史の闇のなかで妖しく光る「異端」の道を行く者たち
●人類滅亡を予言したとされる最高の予言者 ノストラダムス
●ルネサンス期最大の魔術師 アグリッパ
●ドラキュラ伯爵のモデルになった君主 ヴラド・ツェッペシ
●我が道を行った放浪の天才医師 パラケルスス
●帝政ロシア末期に暗躍した怪僧 ラスプーチン
●大オカルト帝国だったナチス・ドイツ アドルフ・ヒトラー
●悪魔と契約した男の虚と実 ファウスト
[Other Devils & Witches]
●ブラヴァツキ夫人
●アレイスター・クロウリー
●サン・ジェルマン伯爵
●カリオストロ伯爵
●ジル・ド・レエ
●エリファス・レヴィ
[Other Devils & Witches]
●アントン・ラヴェイ
●ダッシュウッド
●シモン・マグヌス
●ヘルメス・トリスメギストス
●ジョン・ディー
●グルジェフ
[Other Devils & Witches]
●ジェラルド・ガードナー
●アブラ=メリン
●ド・ガイタ
[Other Devils & Witches]
●スターリン

第4章 アジア・インド・中東の魔人
[Introduction]
諸宗教の主流派から逸脱して独自の発展を遂げた少数派
●鬼神を使役したという修験道の開祖 役小角
●数々の伝説にいろどられる、最強陰陽師 安倍晴明
●安倍晴明、最大のライバルであった陰陽師 芦屋道満
●現世をもおびやかす日本有数の怨霊 平将門
●全国に広まった中世のカルト集団の開祖 仁寛
●国王もが恐れた暗殺宗教の指導者 山の長老ハサン
[Other Devils & Witches]
●西太后
●吉備真備
●果心居士
●韓国連広足
●道鏡
●楠木正成
●天海和尚
●張角
●左慈
●葛洪
[Other Devils & Witches]
●ポル・ポト
●菅原道真
●天一坊
[Other Devils & Witches]
●イディ・アミン
●徐福
●李淳風
●袁天
●劉基
「聖人生没年表」
「魔人生没年表」
「参考文献」

本書の担当編集者は、「出版界の炎のランナー」ことPHP研究所の中村悠志さんでした。最初は『世界の「聖人」がよくわかる本』というタイトルで企画が進んでいたのですが、PHP側から「聖人だけではインパクトが弱いので、魔人も加えましょう!」という提案がありました。わたしは少し戸惑いましたが、「まあ、面白い本になるのならいいか」と思って、了承した次第です。
その結果、本書は、過剰な人間のカタログとなりました。
何が過剰なのか。心のエネルギー量が過剰なのです。ハンパではありません。そんな人々は、「聖人」あるいは「魔人」と呼ばれます。

ふつうの人間の場合、善人と悪人の二種類があります。もちろん、1人の人間の心の中には、善なる部分と悪なる部分の両方があるでしょう。この人は善人だ、あの人は悪人だと単純に割り切れるものではないかもしれません。でも、「善人」とか「悪人」とか聞けば、たいていの人は同じようなイメージの人間を想像するでしょう。
それでは、「聖人」や「魔人」とは、そのまま「スーパー善人」であり、「スーパー悪人」なのでしょうか。いや、ちょっと違うようです。

世界をつくった八大聖人』(PHP新書)

まず、「聖人」について考えてみましょう。
「聖人」という言葉ですが、『広辞苑』(第六版・岩波書店)によれば、「知徳が最もすぐれ、万人が仰ぎ崇拝する人」とあります。また「聖人」は儒教、仏教、キリスト教に共通する言葉でもあります。宗教の枠を超え、人々を善き方向に導いた人間のことを「聖人」と呼んでもよさそうです。
わたしは、『世界をつくった八大聖人』(PHP新書)で、人類にとっての教師と呼べる存在を8人選びました。ブッダ、孔子、老子、ソクラテス、モーセ、イエス、ムハンマド、聖徳太子です。

ソクラテス

この八大聖人は、もちろん本書にも登場します。
そして、注目すべきはこの偉大な聖人たちのキャラクターが相互に影響し合っているという点です。モーセとソクラテスのイメージはともにイエスに流れこんでいますし、日本を代表する聖人である聖徳太子にいたっては、イエス、孔子、老子、そしてブッダのイメージが混在しています。つまり、「聖人」という存在は後世の人々によって非常にイメージ編集されているのです。ゆえに、伝説性も高くなります。数多くの伝説に彩られていることこそ、「聖人」の一番の特徴かもしれません。

アドルフ・ヒトラー

では、一方の「魔人」はどうでしょうか。魔人の「魔」は悪魔の「魔」ですが、魔人とは文字通りに「悪魔的人間」のことなのでしょうか。たしかに、本書にも登場するヒトラーやスターリンのように、そういわれても仕方のないような人物もいます。しかし、彼らを英雄視する人々が昔も今も存在するのも事実。ドイツのネオナチにとって、ヒトラーとはある意味で聖人的存在です。ロシアでは、スターリン時代をなつかしむ人々もいます。つまるところ、「聖人」とか「魔人」とかいう評価は後世の人々によって決められるのです。

ゴータマ・ブッダ

人々の心に多大な影響を与える人物としての「聖人」と「魔人」は表裏一体であり、ブッダやイエスといった代表的聖人さえ、ある意味では魔人です。
ブッダもイエスも宗教改革者でした。ブッダは旧来のバラモン教を否定し、イエスもユダヤ教を否定して、それぞれ新しい教えを説きました。彼らの教えが後に仏教やキリスト教といった世界宗教に発展したわけですが、2人ともその本質は宗教改革者だったのです。それゆえ、旧勢力の人々の目には彼らは「魔人」と映ったに違いありません。同様のことは、キリスト教徒にとってのムハンマド、カトリック信者にとってのルターにも言えることです。

イエス・キリスト

でも、ブッダやイエスが魔人的であるというのは他にも理由があります。それは、2人とも実際に「魔」を体験しているのです。
ゴータマ・シッダールタが悟りを開く前、「マーラ」と呼ばれる悪魔が彼を襲い、さまざまな誘惑を仕掛けました。しかし、彼はマーラを打ち破り、めざめた者としての「ブッダ」となったのです。
イエスも荒野で悪魔に出会っています。悪魔は三度にわたってイエスを誘惑しましたが、「サタンよ、退け。『主なるあなたの神を拝し、ただ神にのみ仕えよ』と書いてある」というイエスの言葉によって悪魔は離れ、代わりに天使たちがイエスのもとにやって来たといいます。
ブッダもイエスも強い精神力で悪魔に打ち勝ったわけですが、もし悪魔の誘惑に負けていたらどうなっていたでしょうか。その場合は、彼らは現代の人々から「聖人」ではなく、「魔人」と呼ばれていたかもしれません。

ドイツの宗教学者ルドルフ・オットーは、著書『聖なるもの』で「ヌミノーゼ」というコンセプトを示しましたが、それは「戦慄的な神秘」と「魅惑的な神秘」の相反する両極の感情をもつと指摘しました。ヌミノーゼの中には、「聖なるもの」も「魔なるもの」も入っていると言えます。そして、すべての過剰な人間も、戦慄的で魅惑的なのです。かつて、ルネサンスの時代、ヘルメス・トリスメギストス、ゾロアスター、モーセ、ソクラテス、プラトンなどは、「聖人」でも「魔人」でもなく、「魔術王」と表現されました。やはり、「聖人」と「魔人」は表裏一体なのです。

ヘルメス・トリスメギストス

本書で「魔人」として扱われている人々にしろ、いわゆる「悪」そのものの存在ではありません。ネオナチがヒトラーを聖人視するのは極端な例にしろ、ブラヴァツキー、グルジェフといったあたりは「完全に聖人ではないか」と主張する人々は多いはずです。ですから、読者は「聖人」と「魔人」の区別に対して、あまり過剰に反応しないでいただきたいのです。あくまでも便宜上の区分です。本書では、主に仏教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、儒教など、スタンダードな宗教に関わった人々を「聖人」として扱っています。

アレイスター・クロウリー

一方、罪もない多くの人々を虐殺した暴君などのほか、アレイスター・クロウリーのように魔術や錬金術などに関わった人々はまとめて「魔人」として扱っています。いずれも戦慄的で魅惑的な面々です。ある意味では、わたしたち凡人にとって仰ぎ見るしかない「聖人」よりも、「魔人」のほうが人間臭くて、多くの読者は強烈な魅力を感じるのではないでしょうか。
日本の文学界には芥川賞、直木賞という二大文学賞があります。前者は純文学作品に対して与えられ、後者はエンターテインメント、つまり大衆文学作品に対して与えられるとされています。例えが適切かどうかはわかりませんが、本書の「聖人篇」とは芥川賞であり、「魔人篇」とは直木賞だというようなイメージでお読みいただくといいかもしれません。

聖徳太子

それにしても本書はユニークな内容となっています。基本的には、聖徳太子に代表されるようなファンタジックにして伝説的要素をもつ人物が選ばれています。そして、そのエピソードや思想が紹介されています。人選にしても、この種の本は男性偏重となりがちですが、女性もバランスよく選ばれていますし、ヘレン・ケラーとか中村久子といった障害者に希望を与えた女性を「聖人」として取り上げているのは本当に素晴らしいことだと思います。また、サン=テグジュペリとか宮沢賢治といった文学者が「聖人」として登場するというのも、両者の大ファンであるわたしとしては非常に嬉しいです。さらに、唯一の生きている聖人として、ダライ・ラマ14世が登場しているのも注目です。

ラスプーチン

「魔人」の人選にしても、ノストラダムスにラスプーチン、安倍晴明ら、おなじみのメンバーに、アントン・ラヴェイ、ポル・ポト、アミンなどのニューフェイスが加わり、まことにスパイスが効いた構成となりました。わたしの敬愛する澁澤龍彦の著書をはじめとして、「魔人」に関する本はいくつかあります。もちろん「聖人」についての本も存在します。しかし、本書は「聖人」と「魔人」が一冊に同居するという前代未聞の内容となっています。 本書を一読すれば、あなたはきっと思うはず。「偉大なり聖人!」「恐るべし魔人!」と。何より驚くべきは、彼らが神々でもなく、天使でも悪魔でもないこと。そう、彼らは、あなたと同じ人間なのです。

ムハンマド

本書は人間のカタログなのです。だから、面白いです。「聖人」にしろ「魔人」にしろ、過剰な人間について知ることほど刺激的でワクワクすることはありません。なぜなら、わたしたちは人間だからです。人間にとって一番面白いものは人間に決まっているではありませんか。わたしは、「面白いぞ人間!」と叫びたい気分です。さあ、本書のページを繰って、かくも偉大な人々と、恐るべき者どもの、この心おどる競演をお楽しみあれ!

月下四聖図」(長野剛)

なお、本書のイラストの素晴らしさに感動したわたしは、長野剛画伯にオリジナルの絵画を発注いたしました。満月の下で、ブッダ・孔子・ソクラテス・イエスの「四大聖人」が並び立っている姿を描いた「月下四聖図」です。
以前、日本画の大家・中村不折が「三聖図」として、釈迦・孔子・キリストを描いたことがありますが、ソクラテスを加えた「四大聖人」が一堂に会した絵は、おそらく世界でも初めてのはずです。わたしは、ずっとこの「四大聖人」のセレクトは誰がしたのかが気になっていました。そして、「四大聖人」なるものを考案したのは日本人に違いないとにらんでいました。なぜなら、西洋思想を基礎づけるソクラテスとイエスの2人のみならず、東洋からブッダと孔子の2人を選んでいる点、しかも仏教と儒教の創始者を選んでいるところに日本人の匂いを強く感じたからです。人選のバランス感覚が、実に日本人らしいと思ったのです。おそらく、あらゆる教えや思想を「いいとこどり」するという心学的な発想から、洋の東西、宗教、哲学を問わず、広く人類史全体から四人が選ばれたのでしょう。彼らは、いずれも「人類を幸福にしたい」という思いを強く持っていた点において共通していました。いわば、「世界平和」のシンボルです。この「月下四聖図」は現在、北九州市小倉北区にある「ムーンギャラリー小倉店」に飾られています。

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