No.1719 児童書・絵本 『日本昭和トンデモ児童書大全』 中柳豪文著(辰巳出版)

2019.05.05

5月5日は「こどもの日」です。わたしにとっての「こどもの日」は「こどもに戻る日」です。毎年、この日には童心を思い起こすようにしています。そのために、昭和の少年時代にタイムスリップすることができる本を読みます。

たとえば、ここ数年の「こどもの日」には一条真也の読書館『昭和ちびっこ未来画報』『ぼくらの昭和オカルト大百科』「今年の『こどもの日』は『怪獣の日』だった!」『昭和ちびっこ怪奇画報』を取り上げ、昨年は『タケダアワーの時代』で紹介した本を取り上げました。今年ご紹介するのは、『日本昭和トンデモ児童書大全』中柳豪文著(辰巳出版)という最高に素晴らしい本です!

本書の帯

カバー表紙には多くのトンデモ児童書の表紙が並び、帯には「今では絶対ありえない、凄まじいインパクト!」「かつて小学生が愛読しトラウマとなった本たち!!」「『ジュニアチャンピオンコース』『ジャガーバックス』『ドラゴンブックス』……etc.怪奇・オカルト系をはじめ、ミステリー、SFものなど、子どもたちの好奇心を煽り、恐怖のどん底に陥れた、昭和のびっくり図書の数々。名作・珍作一挙大集合!!」と書かれています。

本書の帯の裏

カバー裏表紙にも多くのトンデモ児童書の表紙が並び、帯の裏には「当時、それらは子どもの本棚に当たり前のように並んでいた。ショッキングで残酷で怖い…でも、大いに想像力を育まれた――」「おどろおどろしい絵と文で描かれた『怪奇』の世界。 妖怪、心霊、UFO、超能力、謎・不思議、事件・犯罪、さらには人類滅亡……まさに「恐怖」のオンパレード。ぼくたちは強烈に感化されながら夢中で読み耽った。そして、読書の楽しみと喜びを覚え育ったのである」

カバー表紙はトンデモ児童書だらけ!

カバー前そでの「著者のことば」には、以下のように書かれています。
●昭和時代、ぼくたちが子どもだった頃には、今では信じられないような内容の児童書がたくさん溢れていた。
●正体不明の生物や妖怪い宇宙人、謎に包まれた古代文明のミステリー、そして、ぼくたちをいつか襲うかもしれない人類の敵や地球滅亡、不思議な超能力や予言……多くのトンデモが存在していたのだ!
●この本は、1970年代を中心に出版された、インパクトの強い「トンデモ児童書」の印象に残るページ(特に挿絵)を、著書の主観で厳選し、紹介した意欲作である。

カバー裏表紙もトンデモ児童書だらけ!

本書の「もくじ」は、以下のようになっています。
「ようこそ『昭和トンデモ児童書』の世界へ!」
◎3大レーベル大特集
●ドラゴンブックス
『恐怖と怪奇の世界 吸血鬼百科』
『食糧危機を生きぬくための 飢餓食入門』
『地球の危機を生きぬくための 生き残り術入門』
『きみも悪魔博士になれる 悪魔全書』
『なぞと怪奇の世界をさぐる ミイラ大百科』
『20世紀最後のなぞに挑戦する 四次元ミステリー』
『幽霊のAからZまでわかる 日本幽霊百科』
●ジュニアチャンピオンコース
『なぞ驚異 世界のなぞ世界のふしぎ』
『絵ときこわい話 怪奇ミステリー』
『驚異の記録 あの事件を追え』
『絵ときSF もしもの世界』
『なぞ神秘 世界の秘宝をさぐれ』
『ぼく滅作戦 人間の敵ショッキング情報』
『なぞ驚異 七つの世界の七不思議』
『なぞ怪奇 超科学ミステリー』
『絵とき21世紀 大予言!未来をさぐる』
『きみならどうする? ゆうれい屋敷の探検』
『推理クイズ あなたは名探偵』
●ジャガーバックス
『日本妖怪図鑑』
『世界妖怪図鑑』
『魔術妖術大図鑑』
『なぞの怪獣大図鑑』
『これが科学捜査だ』
『世界の超能力者』
『地獄大図鑑』
『怪奇! 日本ミステリー図鑑』
『恐怖! スパイ大作戦』
『決戦! 日本連合艦隊』
『日本の特攻兵器』
『ドイツ機甲軍団』
『陸上航空海上 自衛隊図鑑』
『第三次世界大戦 戦う自衛隊』
◎コラム
1 親も安心の健全系!?の2大定番シリーズ
2 マニアならではの鑑賞法!?
①絵柄の違いを密かに愉しむ
3 マニアならではの鑑賞法!?
②微笑ましい絵にほっこりする
4 昭和トンデモ系!? グッズコレクション①
5 昭和トンデモ系!? グッズコレクション②
6    こんなところにもトンデモが!?
少し古い時代の書籍や雑誌の付録
◎記憶に残る人気レーベル
●なぜなに学習図鑑シリーズ
『なぜなに からだのふしぎ』
『なぜなに びっくり理科てじな』
『なぜなに びっくり動物』
『なぜなに 世界の大怪獣』
『なぜなに 世界のふしぎ』
『なぜなに 大昔の人間』
『なぜなに びっくり世界一』
●ユニコンブックス
『科学捜査 科学捜査なんでも百科』
『ミイラ ミイラ・なぞをさぐる』
『怪奇 実話!62の怪奇スリラー』
『スパイ スパイ術てってい解剖』
『大恐竜 恐竜ものしり博物館』
『人体 人体びっくり解剖』
●世界怪奇シリーズ
『世界の怪奇画報』
『妖怪大図鑑』
『円盤写真大図鑑』
『世界の恐怖画報』
『世界のスリラー画報』
●ひばり書房 初期ハードカバー
『怪奇城大図鑑』
『UFOの恐怖 円盤大図鑑』
『こわい怪談画報』
『謎と恐怖の大図鑑』
『きみもできる 不思議な術』
●フタミのなんでも大博士
『モンスター大図鑑』
『世界の幽霊大図鑑』
『日本の幽霊大図鑑』
『世界の七不思議大図鑑』
『ドラキュラ大図鑑』
● 大全科シリーズ
『怪奇大全科』
『恐怖の予言大全科』
『妖怪大全科』
『ショック残酷大全科』
◎衝撃!! トラウマ!?
名タイトル27選
●UFO
『UFOの秘密』
『空飛ぶ円盤発見!!』
●UMA
『驚異! 謎の自然怪大特集』
『ネッシーは生きている』
●超能力
『ふしぎ人間エスパー入門』
『超科学のなぞ エスパー大行進』
●怪奇全般
『怪奇』『大推理 古代史のなぞ』『推理大作戦 世界のなぞと怪奇』 『続・世界の怪奇ミステリー』『恐怖、ミステリー』
●地球滅亡・天災
『図解 大地震がくる! 』『SOS地球人 滅びゆく地球より』『日本あやうし! きみたち日本人に警告する!!』『日本は沈没する』『大異変! 地球SOS』『地球の最期X年』
●幽霊・妖怪・モンスター
『世界の妖怪図鑑』『世界のモンスター』『図鑑 怪談・奇談』『恐怖! 幽霊スリラー』 『わたしは幽霊を見た』
● 悪魔・魔術
『ソロモン王の魔法術』『悪魔王国の秘密』『怪奇大魔法』
●財宝・秘宝
『探検大作戦 世界の秘宝』
●人体
『ショック! 写真構成 人体の怪奇大百科』
「あとがき」

3大レーベル大特集

本書の「まえがき」である「ようこそ『昭和トンデモ児童書』の世界へ!」で、著者は以下のように書いています。
「本書は、筆者を含めた当時の子どもたちの頭から離れないほどのショッキングな内容を掲載した、昭和の”トンデモ”な児童書を紹介したものだ。恐らく今の世の中では、この手のコンテンツを子ども向けに出版するのは非常に難しいだろう。しかし、当時は、心霊、UFO、UMA、超能力、ノストラダムスの大予言などなど、ショッキングというか、オカルト的な内容が、テレビや本でバンバン紹介される全盛期であった」

記憶に残る人気レーベル

続けて、著者は以下のように述べています。
「それは多分、時代の漠然とした不安感や危機感から導かれたものでもあろう。また、何事も白黒をつけるのが好きな今のご時世と違い、リアルと非リアルが入り混じった灰色であることが許され、それを好奇心と想像力を駆使して皆が楽しむことのできる時代でもあったのだろう。そのような感覚、社会の雰囲気が、物心ついたときから、児童書の中にも当たり前のように存在していたのだ」

『なぞ驚異 世界のなぞ世界のふしぎ』

さらに続けて、著者はこう述べています。
「人によっては、脳裏にトラウマとして残っている挿絵などがあるだろうが、ショック耐性を鍛えられるとともに、そういったいわば好奇心と想像力の賜物を得ることができたあの頃は、今より心がもっと自由であり、そういう意味において幸せな時代ではなかっただろうか」

『世界の怪奇画報』

「あとがき」では、著者は、本書で紹介したトンデモ本の多くは、大人になってから読むと「よくもまあ、ここまで奇想天外なことをもっともらしく書けたな~」と笑ってしまいながらも、一方で、本の著者、挿絵画家、編集者など皆が全力で、当時の子ども、いや大人に対しても真剣勝負をしていたことが感じられると述べています。わたしも、まったく同感です。

衝撃!! トラウマ!?  名タイトル27選

さらに、著者は以下のように述べています。
「現在のようにインターネットで答えらしきもの」がすぐに手に入ることはなく、情報は自分から苦労して動かないと得られなかった、あの頃の子どもたち(僕たち)は心が、想像力がまだまだ自由で、好奇心の塊だった。目の前の事象に具体的にどう対処するか(ハウツー)ではなく、1つの絵や話からィ目地ネーションを膨らませ、未知のものや未来について考えることに夢中だった。その姿勢に厳しくも優しくも伴走してくれたのが、これらトンデモ児童書だったのだと思う」

わが蔵書のトンデモ児童書

トンデモ児童書の現存数は少ないです。
その一因として、当時の子どもたちが恐怖のあまり池に捨てたり、土に埋めたりしたこともあったそうです。現在は高値がついているものも多いですが、著者は無理のない範囲でトンデモ児童書を蒐集しているとか。そして、以下のように述べるのでした。
「それらを手に取り、あの頃のようなドキドキ感を持ってページを開いたとき、異様なエネルギーというか、昭和という時代の生々しい匂いや空気感を本当に感じることができるのだ。トンデモ児童書の蒐集とは、あの頃の自分(さらには家族、友だち)に会いにいき、当時のエネルギーや元気をもらう儀式のようなものかもしれない」

わが蔵書のトンデモ児童書(復刻版)

本書に登場するトンデモ児童書たちは、著者と同じく、小学生だったわたしを震え上がらせました。そのほとんどはわが家にもあったのですが、その多くは捨てられてしまいました。現在では「まんだらけ」をはじめとして大変な高価格がついており、かえすがえすも残念です。実家の書庫を10年ほど前に建替えたので、そのときが最後のチャンスだったのですが、わたしも多忙だったため十分なチェックができず、この手の本には疎い父から処分された可能性が大であります。それでも、わずかな冊数ながら思い出の本のいくつかを避難させました。

わが書斎に避難した思い出のトンデモ児童書

さて、本書には多くのトンデモ児童書が紹介されていますが、その多くは怪奇系と呼ばれるものです。しかしながら、当時の小学生に圧倒的な人気を誇っていた秋田書店のシリーズが紹介されていないことが残念です。一条真也の読書館『オカルトの帝国』で紹介しましたが、当時のオカルト大好き少年たちが愛読していたマンガに「恐怖新聞」(つのだじろう)があります。「少年チャンピオン」に連載されていましたが、そのページの広告で最も頻繁に紹介されていたのは秋田書店の『世界怪奇スリラー全集』と『世界怪奇ミステリー全集』でした。

『世界怪奇スリラー全集』(秋田書店)

『世界怪奇スリラー全集』は全6巻、1968年刊行。
その内容は、以下の通りです。
『1 世界の魔術・妖術』(中岡俊哉)
『2 世界のモンスター』(山内重昭)
『3 世界のウルトラ怪事件』(中岡俊哉)
『4 世界の謎と恐怖』(真樹日佐夫)
『5 世界の怪奇スリラー』(中岡俊哉)
『6 世界の円盤ミステリー』(南山宏)」

『世界怪奇スリラー全集』(秋田書店)

また、『世界怪奇ミステリー全集』全6巻は、1971年から72年にかけて刊行されました。
その内容は、以下の通りです。
『1 世界のスリラー』(庄司浅水)
『2 世界の魔の海』(庄司浅水)
『3 世界の秘境』(庄司浅水)
『4 世界の驚異をたずねて』(庄司浅水)
『5 世界の怪事件』(中岡俊哉)
『6 S・Fスリラー』(中岡俊哉)」

「世界怪奇ミステリー全集」(秋田書店)

わたしは、これらすべての本を所持しており、それこそボロボロになるまで何度も読み返したものです。「少年チャンピオン」の版元である秋田書店が刊行していた怪奇系児童書は、それだけではありません。他にも『秘境シリーズ』全3巻、『ジュニア版怪奇サスペンス全集』全6巻などもラインナップに加えられ、それらは「恐怖新聞」の柱で宣伝され、わたしはそのすべてを買い求めていたのです。それらの怪奇系トンデモ児童書のほとんどを担当したのは中岡俊哉と庄司浅水の2人でした。わたしを含めて、当時の少年たちは、この2人によって「オカルト少年」へと変えられたような気さえします。

児童文化研究家として知られる串間努という人がいます。その串間氏は、1974年頃を回顧した文章で、「このころは心霊写真、コックリさん、超能力・UFOなど一連のオカルトブームが子ども世界を席巻していた。もともとは昭和43年頃に妖怪・怪奇ブームが起きて、児童書では怪奇・スリラーものの全集(秋田書店『世界怪奇スリラー全集』全6巻)が出たことに端を発する。ひばり書房などは怪奇まんがを発行し、ジャガーブックスやジュニアチャンピオンコースなどでも、秘境、冒険、妖怪、大地震などを扱った子どもサブカル本が多数発行された」と述べています。

つのだじろう氏は「恐怖新聞」だけでなく、「うしろの百太郎」というオカルトマンガの名作も残しています。 この「うしろの百太郎」がまた当時の小学生たちに絶大なインパクトを与え、心霊写真、コックリさん、超能力などのブームに巻き込んでいきました。わたしもそうでしたが、みんな「恐怖新聞」や「うしろの百太郎」で啓蒙(?)されてから、本書『日本昭和トンデモ児童書大全』で紹介されているような本を読んでいたように思います。本書を読めば、なつかしい少年時代にタイムスリップできます。嗚呼、これらのトンデモ児童書たちから、どれだけ想像力を豊かにしてもらったことでしょうか!
また、本書の帯裏のコピーにあるように「強烈に感化されながら夢中で読み耽った。そして、読書の楽しみと喜びを覚え育った」のも事実です。ということで、束の間こどもに戻ったわたしですが、もうすぐ56歳になります。

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