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2019.06.05
39冊目の「一条真也による一条本」は、『あらゆる本が面白く読める方法』(三五館)です。「万能の読書術」というサブタイトルがついています。
本書は、2009年10月4日に刊行されました。
『あらゆる本が面白く読める方法』
(2009年10月4日刊行)
本書のカバー表紙には、読書をしているゴリラの写真が使われています。ゴリラが読んでいる本のタイトルは”The Origin of MAN”と書かれており、なんと、ダーウィンの『種の起源』です。帯には「速く読むとトクする人、速く読んではいけない人」「経営者、作家、客員教授……一人三役を可能にする驚くべき読み方!」「本邦初公開」と書かれています。
本書の帯
カバー前そでには、以下のように書かれています。
*読んでも頭に入ってくない
*内容を忘れてしまうから、身につかない
*読書がなんの役に立つかがわからない
こうした悩みの原因は、
「読書に向いていないから」でも、
「頭が悪いから」でもありません。
原因は単にきちんとした方法論を
身につけていないことにあります。
本書の帯の裏
本書の「目次」は、以下のようになっています。
プロローグ
●本の読み方がわからない!
●書店を賑わせる噂の読書法たち
●その本を読んで、年収増えましたか?
●本は最強の経営コンサルタント
●人間を幸福にするメディア
第1部 技術篇
本が読めないのは頭が悪い……わけではない
●読書についての3つの悩み
●上司から本を薦められたAさんのケース
●時間が経つと内容が頭から抜け落ちる
著者像を具体的にイメージする 読む前の準備(1)
●内容に集中する方法
●プロフィールは添え物ではない
目次読みの重要性 読む前の準備(2)
●本を手に取ったらすること
●目次を読まない人って?
●内容の「受け入れ態勢」
「まえがき」を熟読する 読む前の準備(3)
●「まえがき」は「客引き」だ
●意外な「まえがき」の結末
●「まえがき」と目次のビミョーな関係
本に線を引く 読む技術(1)
●赤線、事始
●内容のとらえ方を鍛える
●大切な箇所ってどこ?
●「※」の効能
●本への覚悟と愛情
アウトプットをイメージする 読む技術(2)
●3つのケースを考えてみる
●なんのための読書?
●問題意識を読書と切り結ぶ
●「いつもいつも考えている」
●「他人の頭」の使い方
●究極の能動的読書
●「まとめ」は意外と難しい
読み返しの作法 読む技術(3)
●内容を忘れてしまうのは当たり前
●指が記憶を連れてくる
●あなただけの事典をつくる
あらゆる本を面白がる技術 読む技術(4)
●マイナスイメージの払拭
●読書モードに切り替える
●批判を前提としない
●面白がるにはコツがある
難しい本は染み込ませる 読む技術(5)
●難しい本をどうする
●ナンカイはナンカイ
●難解なのか、悪文なのか
「読み終える体験」を記憶する 読む技術(6)
●フォトリーディングの使い方
読書の場を演出してみよう 読む前の準備(4)
●演出の重要性
●演出で苦手意識を克服する
●書見台の利用法
本との出合い方、本の選び方 読んだあとの展開(1)
●読書の幅が広がれば、世界が広がる
●著者の想い、出版社の想いを感じる
●本は見た目が9割
興味が果てしなく広がっていくDNAリーディング 読んだあとの展開(2)
●「DNAリーディング」という関連図書の読書法
●『吾輩は猫である』の正体
●時間軸と空間軸でマッピング
第2部 思想篇
速く読むと得する本、速く読むと損する本
●古典とはゆっくり読むための本
●過剰な宣伝文句
●速読コンプレックスからの解放
●本に追い立てられる
●世界一濃密な読書空間
●吉田松陰の読書法
●読書は恋愛
読書でお金は儲かるのか?
●ベストセラー『レバレッジ・リーディング』
●本を読まないから時間がない
●金を生まねば意味がない……?
●松下流事業成功の秘訣
●利益を得る読書、拝金主義の読書
●「利」と「義」はセット
社長の読書 なぜわたしは古典を読むのか?
●「数字に強い社長になろう」
●ドラッカー、孔子との出会い
●『論語』を読んでなんの役に立つの?
●『論語』との邂逅
●『論語』は最高にして最強の成功哲学書
最強の勉強法、天才になれる読書
●こんな自分になりたい
●徳川家康の読書
●ナポレオンの読書
●チャップリンの読書と天才の秘訣
「死ぬのだって怖くなくなる」癒す読書
●最前線の命がけの読書
●本から得た知識は、死後も存続する?
●死の不安を取り除く本
●孔子が説く人間の「つとめ」
読書の効用教養としての読書
●キーワードとしての「教養」
●読書と「人間関係のインテリジェンス」
●教養こそ人間的魅力
極私的読書体験を明らかにする
●子ども時代から高校時代までの読書
●わが大学時代の読書
●10代の読書、70代の読書
「あとがき」
「主要参考文献」
本書は、わたしの初めての読書論・読書法の本です。
第1部の「技術篇」は生まれて初めての語り下しで、三五館編集部の中野長武さんが原稿にしてくれました。読書の習慣のない学生や若手ビジネスマンにも親しめる本にしたいとのことで、中野さんが小倉の松柏園ホテルに泊まりがけでやってきて、わたしが語り下しました。読者の中には「一条真也の文章じゃないみたいだなあ」「ずいぶんと、ライトな文章になったなあ」と思われた方も多かったようです。第2部の「思想篇」は、すべて自分で書きました。
これまでも、本をどのように読めば効率があがるかといった技術論・方法論はたくさん出版されてきました。今まさに流行し、書店の棚を席巻しているのが、この技術論・方法論です。『本を10倍速く読む方法』『レバレッジ・リーディング』『フォーカス・リーディング』『キラー・リーディング』『本は10冊同時に読め!』『多読術』『インテリジェンス読書術』『マインドマップ読書術』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』『速読塾』『王様の速読術』など、あげればキリがありません。もちろん、すべてそれなりに役に立つ考えがあり、参考にもなるのでしょう。
しかし、なかには首をかしげたくなるものがあるのも事実です。
1時間で本が1冊読めるとか、写真のように本のページを頭に写すつもりで読むだとか、本を読んで大金持ちになるとか……。そして、その結果として、「本が1時間で読める」「仕事の効率が10倍になる」「年収が10倍になる」……こうなってくると白髪三千丈の世界です。
本を読む時間は短ければ短いほうがすごそうだから、あの本が「1時間で読める」とうたっているなら、こちらは「30分で読める」になるし、さらには「15分」「10分」、あげくの果てには「1分」とだんだん短くなっていくわけです。
著者のほうもすごくて、読んでいる冊数が多いほうが優位(?)に立てるとでもいうのか、「年間3000冊読んだ読書王」という方まで出てきました。みんな「こっちのやり方のほうがスゴイよ」と言いたくて、実のないことを延々と言い募っているというのが、現在の出版界の「読書本」の現状ではないでしょうか。読書論が、ほら吹き合戦みたいになってきてしまいました。こうした本は、「本を読むことが重要だ」と主張しながら、本の信頼感を損ねているように思えます。
みなさんもうすうす気づいているでしょうが、こうした本は全部、過剰すぎる宣伝です。もっとわかりやすく言えば、ウソです。その本、読んで、年収増えましたか?
「本当かな?」なんて思いながらも、一縷の望みをかけて購入してしまう。読んで、実行してみて、損したと思う――こんなことを繰り返している方も意外に多いかもしれません。これらの宣伝文句がウソだというのは、わたしが保証します。本を読んで年収が10倍になったら苦労しませんし、眺めるだけで本が10倍速く読めるようになる方法論もありません。
揚げ足をとるわけではありませんが、「年収が10倍になる」といった本を読んで、実際に年収が10倍になった人がまわりにいますか? 「本を読むのが10倍になる」という本を読んで、実際に10倍になった人がいますか? 本を読んだだけで、年収が10倍になるのなら、その本が売れた部数とおなじだけの人が年収100倍になっているはずなのに……。こうした状況を目にすると、私は情けなくなってきます。本は風邪薬ではありません。朝読んで、昼前には効いてくるなんてことはないのです。速効を気にしてはいけません。
しかし反対に、本が利益をもたらす最強のツールだというのもまた真実なのです。わたしは実際に社長に就任した際に会社が抱えていた多額の借金を7~8年間のうちに完済しました。就任直後には、経営のノウハウも何もかもがわからなかったわたしがこうしたことを可能にしたのは、間違いなく本の力によるものだと断言できます。それ以来、本を最強の経営コンサルタントとして活用し、会社は安定経営を続けています。本というものは、まず自分を高めて、自分の器を広めて、仕事も捗り、効率も良くなる、人類が今まで築き上げてきた、最強かつ最高の知的プールなのです。
これまで、「10倍、100倍」を銘打つような技術論の読書術では、けっして読者にとっての良い読書にはつながらないだろうという思いを常々抱いてきました。そこで本書では、その両方を解決する新しい読書の仕方を提案したいと考えたのです。本についての考え方を提示するのと同時に、本の読み方にまで思いを至らせます。「こうでなければならない」のではなく、「こうであったほうがいい」という、わたしからの提案です。
わがバイブルと、そのオマージュ
本書を書きあげたとき、わたしは大きな喜びを感じました。というのも、一条真也の読書館『知的生活の方法』で紹介した本を中学時代に読んでから、読書そのものに強い興味を抱き、さまざまな読書に関する本を読み漁ってきたからです。わたしは渡部先生の著書はほとんど読んでいるつもりですが、最初に読んだ本が大ベストセラー『知的生活の方法』(講談社現代新書)でした。この本を中学1年のときに読み、非常にショックを受けました。読書を中心とした知的生活を送ることこそが理想の人生であり、生涯を通じて少しでも多くの本を読み、できればいくつかの著書を上梓したいと強く願いました。書斎にある『知的生活の方法』は、もう何十回も読んだためにボロボロになっています。表紙も破れたので、セロテープで補修しています。そう、この本は、わたしのバイブルなのです。というわけで、本書は恩書である『知的生活の方法』へのオマージュだと思っています。
『永遠の知的生活』(実業之日本社)
その後、尊敬する渡部先生との対談が実現し、さらには共著である『永遠の知的生活』(実業之日本社)が刊行されたときは感無量でした。わたしは本当に本が好きで、本のない人生など考えられません。わたしにとって、何より本は愛の対象です。読む前に、人は本を愛さなければならないと思っています。といっても、わたしは世にいう「愛書家」ではありません。珍しい稀覯本とか初版本とかにマニア的な興味はありません。わたしが愛しているのは即物的な本そのものではなく、その本の内容であり、つまりはその本を読む行為としての「読書」なのです。ですから、わたしは「愛読書」ではなく、いわば「愛読家」なのだと思います。
わが書斎も本書で初公開!
本は恋人であるのと同時に用心棒でもあります。わたしはとにかく読書によって、人生のさまざまな難所をくぐり抜けてきました。社長に就任してすぐ読んだのは、『ネクスト・ソサエティ』をはじめとするドラッカーの一連の著書でした。40歳になる直前には『論語』を40回読みました。これらの読書経験が、新米社長にどれだけの智恵と勇気を与えてくれたか計り知れません。わたしは本を読むときに、その著者が自分ひとりに向かって直接語りかけてくれているように感じながら読むことにしています。高い才能を持った人間が、たいへんな努力をして勉強をし、ようやく到達した認識を、2人きりで自分に丁寧に話してくれるなんて、なんという贅沢でしょうか。ですから、わたしは、昔の日本の師弟関係のように、先生の話を姿勢を正して1人で聞かせていただくのです。
プロイセンの鉄血宰相ビスマルクに「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という有名な言葉がありますが、西欧の人々はおもにローマ帝国の衰亡史などを参考に人間理解をしてきました。生物の中で人間のみが、読書によって時間を超越して情報を伝達できるのです。人間は経験のみでは、一つの方法論を体得するのにも数十年かかりますが、読書なら他人の経験を借りて、一日でできます。つまり、読書はタイム・ワープの方法なのです。
わたしはお気に入りの書見台を入手したこともあって、最近では中国の書物を漢文で読む時間が増えました。幕末維新までのわが国の教育に大きな力となったものは、漢籍の素読、儒学の教養でした。なかんずく中国の歴史とそれに登場する人物とが、日本人の人間研究に大きく役立ったのです。『史記』『十八史略』『三国志』『資治通鑑』『戦国策』などは当然読むべき教養書でした。あの漢籍嫌いで知られた福沢諭吉ですら『左伝』15巻を11回も読んで、その内容をすべて暗誦できたといいます。漢籍でまず鍛えられた頭脳で、蘭学や英語をやったからこそ、福沢は西洋事情をたちまち見抜くことができたように思います。
広大な中国は、異民族による抗争の舞台でした。その興亡盛衰における権力闘争は、それ自体が政治の最高のテキストでした。これに登場する人物は、大型、中型、小型、聖人もいれば悪党もいて、そのバラエティたるや、まるで万華鏡のようです。まさに人間探究、人物研究の好材料を提供してくれるわけで、日本人は中国というお手本によって人間理解の幅を大きく広げ、深めてきたといえるでしょう。
読書とは、何よりも読む者の精神を豊かにする「こころの王国」への入り口です。もちろん、読書によってビジネスや人生で成功をおさめることも可能です。でも、わたしは読書の神髄は「お心肥」という江戸しぐさの言葉にあるように思えてなりません。つまり本とは、心を太らせる「こころの食べ物」なのです。わたしが経営者として、作家として客員教授として、なんとかやっていけているのも、すべては本のおかげです。本書を書き上げて、わたしはますます読書が好きになり、本を読みたくなりました。本書を読まれた方が、少しでも本を読みたくなってくれれば、こんなに嬉しいことはありません。