No.1838 心理・自己啓発 | 読書論・読書術 『知識を操る超読書術』 メンタリストDaiGo著(かんき出版)

2020.03.04

『知識を操る超読書術』メンタリストDaiGo著(かんき出版)を読みました。著者は慶應義塾大学理工学部物理情報工学科卒業。人の心をつくることに興味を持ち、人工知能記憶材料系マテリアルサイエンスを研究。英国発祥のメンタリズムを日本のメディアに初めて紹介し、日本唯一のメンタリストとして数百のTV番組に出演。その後、活動をビジネスおよびアカデミックな方向へと転換し、企業のビジネスアドバイザーやプロダクト開発、作家、大学教授として活動中。何度かTVで著者の姿を見たことがありますが、「とても頭のいい人だな」という印象を持ちました。

本書の帯

表紙カバーには、図書館のような場所でソファーに座って読書をする著者の写真が使われ、帯には「全部読むな! 身体を鍛えろ! 忘れることを恐れるな!」「これでDaiGoレベル」「1日20冊の本を読み、動画を毎日配信する著者の『読み方』を初公開」と書かれています。

本書の帯の裏

カバー前そでには、「記憶するだけではなく、理解すること、自分の頭で考えること、そしてアウトプットまでを実践しているのが、私の『読書術』です。頭に入れるだけなら、検索すれば出てくるのでGoogle先生に勝てないですよ」と書かれています。

アマゾンの「内容紹介」には、こう書かれています。
「”TV出演、企業研修、経営者への戦略的なアドバイス、動画配信を週7回、ほぼ毎日のフィットネスジム通い、まとまった休暇での海外旅行。”などなど、強靭なアウトプットを生み出しているメンタリストDaiGoの読書本です。速読よりも熟読を、良書よりも悪書を、新刊よりも古典を…「知識の最大化」を人生のテーマを掲げ、毎日10~20冊の本を読む、著者の読み方を徹底解説! 本書のテクニックを学べば、モチベーション、集中力、記憶力、理解力、アウトプット力…、いつもの読書の質が上がります! これであなたもDaiGoレベル!」

本書の「目次」は、以下の構成になっています。
「まえがき」
第1章 読書にまつわる3つのフェイク
「非科学的な読書術をぶった斬る」
【フェイク1】「速読」の嘘
【フェイク2】「多読」の嘘
【フェイク3】「選書」の嘘
「DaiGo流 知識を操る読書術とは」
コラム「読んでも忘れない記憶術」
第2章 読書の質を高める3つの準備
「読書で結果を出せないのは、脳と感情の操り方を知らないからだ」
【準備1】メンタルマップ
【準備2】キュリオシティ・ギャップ
【準備3】セルフテスト
コラム「ワーキングメモリーを鍛える」
第3章 理解力と記憶力を高める5つの読み方
「難しい本でも何度も読み直すことがなくなる」
【読む前と後】「予測」読み
【読みながら】「視覚化」読み
【読みながら】「つなげ」読み
【読みながら】「要するに」読み
【読んだ後】「しつもん」読み
コラム「記憶の定着を促す戦力的な眠り方」
第4章 知識を自在に操る3つのアウトプット
「頭の良さは、説明力で決まる」
【アウトプット1】テクニカルタームで聞き手の心をつかむ
【アウトプット2】SPICEで説得力を上げる
【アウトプット3】思想書と科学書のダブル読み
コラム「なぜ私は歩きながら本を読み続けるのか」
「本書で紹介した本」

「まえがき」で、著者は、本から得た知識をアウトプットできるかどうかは、1つ目の「本を読む準備」をしているかどうかで7割決まると述べます。なぜなら、ほとんどの人が本を読むのに準備が必要だということを知らないからだそうです。たとえば、なんとなく本を手に取り、最初から読むものだと思ってページをめくり、進めていく人と、「なぜ、自分はこの本を読もうと思ったのか」「その本からどんな知識を得たいと考えているのか」という目的を明確にしている人とでは、読書体験が異なるというのです。

「私の仕事と人生を変えた1冊の本」として、著者は『脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方』という本を紹介します。これは著者が筋トレや運動を始めるきっかけになった1冊だとか。ハーバード大学の医学部の先生が書いたもので、論文をもとに「脳細胞を鍛えるにはどうすればいいか」が科学的に解き明かされています。その内容は「少しきつめの有酸素運動を行うことで脳の血流が高まり、脳内にBDNF(脳由来神経栄養因子)という物質が分泌される。これが何歳になっても脳の働きや成長を促し、アンチエイジングにも効果があると言われている」ということがエビデンス(科学的根拠)とともに書かれています。

第1章「読書にまつわる3つのフェイク」の「【フェイク2】『多読』の嘘」では、英誌「エコノミスト」が「過去10年間で最も影響力のある経済学者」と評し、読書家としても知られるタイラー・コーエンが「読めば読むほど、1冊あたりの情報の価値は低下する」とも言っていることを紹介します。これは、あるジャンルに精通していくと読めば読むほど新しい情報が少なくなり、読むべき本がなくなっていく、というせつない話。本の価値が減るということです。

「【フェイク3】『選書』の嘘」では、「いい本は教科書として、ダメな本は問題集として使う」として、「いい本」と「ダメな本」の定義を示します。インプット用は、古典、名著と言われるタイプのしっかり頭に入れておくべき知識が詰まった「いい本」です。これらは、エビデンスに支えられた結論があって、長く読み継がれた本なので、インプットにしかなりません。「文句」のつけようがないからです。ところがダメな本というのは、文句のつけようがあるので、アウトプットに使えるといいます。

これは、どういうことでしょうか。
著者は、「『ダメな本』は、内容としてはいまいちピンとこない部分もあるものの、取り上げられているテーマやデータについて『実際にはどうなのだろう?』と疑問を持つきっかけになり、『もし、この本を自分がおもしろく書き直すならどうするか?』といったことを考える材料にもなり、科学的根拠を調べる動機となります」と述べます。

第4章「知識を自在に操る3つのアウトプット」の「【アウトプット3】思想書と科学書のダブル読み」は、本書の白眉で、わたしも最も興味深く読みました。著者によれば、評価の定まっていない本を読むよりも、古典から古びることのない「真理」を学ぶほうが効率よく知識を習得することができます。著者は、ビジネス書の新刊を100冊読む時間があるのなら、古典に向き合ったほうが得られるものは多いはずであるとさえ述べています。

「私を鍛えてくれた選りすぐりの本たち」として、以下の名著が挙げられています。
ビジネスの戦略なら、『孫子』
リーダーシップなら、『君主論』
経済学なら、『国富論』
自己啓発なら、『人を動かす』
心理学なら、『ヒルガードの心理学』
社会心理学なら、『影響力の武器』
行動経済学なら、『世界は感情で動く』
マネジメントなら、『マネジメント』
マーケティングなら、『ザ・コピーライティング』
交渉についてなら、『世界最強の交渉術』
顧客心理なら、『シュガーマンのマーケティング30の法則』
脳科学なら、『脳を鍛えるなら運動しかない!』
バイアスについてなら、『ファスト&スロー』

著者はまた、知識の考え方の土台を作る本を選ぶとしたら、「成人式を迎えた本」を1つの基準にするといいかもしれないとして、以下のように述べます。
「出版されてから20年たっても店頭に並んでいる本、版を重ねている本、新装版、完全版、改訂版が出ている本。企業でも創業から10年以上続くと信用度が増していきますが、本にも同じことが言えるのです」

コラム「なぜ私は歩きながら本を読み続けるのか」では、著者こう述べています。
「本を読む気力がなかなか湧いてこないとき、あるいは長時間の読書で疲れを感じたときは、体を動かしましょう。では、どのくらいの負荷をかければいいのかというと、イリノイ大学の研究によって、20分の軽いウオーキングで脳の活動が向上することがわかっています。やる気が出ない、なんとなく頭が働かないと感じたら、散歩でも買い物でもいいので20分歩きましょう。すると、脳由来神経栄養因子(BDNF)が分泌されます。これは簡単に言うと、脳にとっての栄養のようなもの。BDNFの分泌によって年齢に関係なく、脳が成長しやすくなり、新しいことを学ぶ柔軟さも得られるのです」

20分のウオーキング後は、認知力や注意力を高めてくれるドーパミン、気分を高めてくれるノルアドレナリン、抗うつ効果のあるセロトニンが分泌されるそうです。歩くという気軽な運動をするだけで、読書の質を大きく高めることができるのです。ちなみに、著者は朝、起きた後、運動を始める35分前にコーヒーを飲むとか。これは運動の35分前にカフェインをとると、パフォーマンスが上がるというデータがあるからだそうですが、こういった要素もこれからの知的生活には必要なのですね。最後に、著者は「疲れたら歩き回るべきですし、何なら歩きながら読むほうが読書の質は上がります」と述べるのでした。

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