No.1860 オカルト・陰謀 | 神話・儀礼 『フリーメイソン』 橋爪大三郎著(小学館新書)

2020.04.23

このたびの「緊急事態宣言」を「読書宣言」と陽にとらえて、大いに本を読みましょう!
『フリーメイソン』橋爪大三郎著(小学館新書)を読みました。「秘密結社の社会学」というサブタイトルがついています。フリーメーソンにおける儀礼の役割が詳しく書かれており、興味深く読みました。一条真也の読書館『ふしぎなキリスト教』『世界は宗教で動いている』『ゆかいな仏教』『正しい本の読み方』『世界は四大文明でできている』で紹介した本も書いている著者は1948年、神奈川県生まれ。社会学者。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。1995~2013年、東京工業大学教授。

本書の帯

帯にはフリーメイソンのシンボルであるハサミとコンパスを持った人物のイラストが描かれ、「『都市伝説』はほんとうか。」「最古で、最大の『友愛組織』。その『謎』を理解すれば、世界がわかる。」と書かれています。

本書の帯の裏

帯の裏には、マッカーサーの似顔をはじめとした数点のイラストとともに、「23のQ&Aで解き明かす入門書にして、決定版!」と大書され、以下の質問が並べられています。
■いつできたのですか。
■どんな儀礼をしますか。
■宗教団体なのですか。
■陰謀集団なのですか。
■日本人は入れますか。
そして、「フリーメイソンについて理解を深めること。それは、日本人が21世紀の国際社会を生きていくための基礎教養である――本文より」と書かれています。

カバー前そでには、以下の内容紹介があります。
「世界最古にして最大の友愛組織、フリーメイソン。これほど名前は知られているのに、馴染みがないものも珍しい。いつできたか。どんな儀礼があるか。そもそも宗教団体なのか。ベストセラー『ふしぎなキリスト教』を世に送り出した社会学者・橋爪大三郎氏が、23の疑問にやさしく答える。フリーメイソンは日本人が欧米社会を知る上で、最後のパズルである。巷の都市伝説に惑わされてはいけない。その『謎』がわかれば、きっと世界が見えてくる」

本書の「目次」は、以下の構成になっています。
「まえがき」
第一部 起源・儀礼・象徴
Q1 日本人はなぜ、フリーメイソンをよく理解できないのですか
Q2 フリーメイソンは、石工組合なのですか
Q3 フリーメイソンは、いつできたのですか
Q4 フリーメイソンは、秘密結社なのですか
Q5 フリーメイソンは、どんな儀礼をしますか
Q6 コンパスと直角定規は、フリーメイソンのしるしですか
第二部 独立戦争・宗教・ジェンダー
Q7 ジョージ・ワシントンは、フリーメイソンですか
Q8 フリーメイソンは、宗教団体ですか
Q9 ユニタリアンは、フリーメイソンなのですか
Q10 フリーメイソンは、反カトリックなのですか
Q11 ヨーク・ライトは、フリーメイソンなのですか
Q12 スコティッシュ・ライトは、フリーメイソンなのですか
Q13 テンプル騎士団は、フリーメイソンなのですか
Q14 グランドリアンは、フリーメイソンなのですか
Q15 イルミナティは、フリーメイソンなのですか
Q16 東方の星は、フリーメイソンなのですか
第三部 日本・ユダヤ・陰謀論
Q17 マッカーサーは、フリーメイソンなのですか
Q18 フリーメイソンは、陰謀集団なのですか
Q19 フリーメイソンは、ユダヤ人と関係ありますか
Q20 アフリカ系の人びとは、フリーメイソンに入れますか
Q21 日本人は、フリーメイソンに入れますか
Q22 なぜアメリカに、フリーメイソンが多いのですか
Q23 フリーメイソンを理解すると、なぜ世界がよく見えてくるのですか

「はじめに」で、著者はこう述べています。
「フリーメイソンは、キリスト教から派生した、特徴ある社会組織である。短くみても、およそ300年の歴史がある。現在、アメリカを中心に、会員数は300万人とも700~1000万人ともいう。西欧キリスト教文明を読み解くのに、不可欠のカギのひとつだ。このカギなしで、西欧社会について、全体的で質の高い知識を手にすることはできない」

第一部「起源・儀礼・象徴」のQ1 「本人はなぜ、フリーメイソンをよく理解できないのですか」では、著者は「理神論」というものを取り上げ、理神論は徹底した、合理主義の一種で、世界をつぎのように見ると説明します。
(1)神(God)が、この世界を、創造した。
(2)神(God)が、この世界を、支配している。
(3)神(God)が、人間に、理性(reason)を与えた。
(4)人間は、理性を通して、神(God)を理解できる。

理神論の大前提は「創造主である神を信じることである」と指摘し、著者は「この世界を創造し、このように存在させたのは、神(God)である。神は、観察できないし、経験もできない。この世界の『背後』に、ひっこんでいて、どこにもみつからない。でも、存在する。この世界のすべてを創造したのだから、この世界の『外』にいるしかないのである。この世界は、ただのモノの集まり。モノは存在しているが、神に存在させてもらっているだけだ。モノを存在させている神も、存在しているが、そもそも存在の『格』が違う。モノの類推で、神をとらえようとしてはいけない。要するに、神は理解できない」と述べます。

また、「理性のはたらき」として、著者は「神は、この世界を創造するのに、理性を用いて設計図をひいたであろう。その理性は、人間が神に造られるとき、一人ひとりの精神にもれなく埋め込まれている。理性はいわば、神(クラウド)のもとから自由にダウンロードした、フリーウェアのプログラムのようなもの。それを用いると、自然の背後にある、自然法則を読解できる。この世界にこめられた神の計画を、理解できるのだ」とも述べています。

そして、「フリーメイソンと理神論」として、著者は以下のように述べるのでした。
「フリーメイソンがいまのようなかたちで登場したのは、啓蒙思想が時代をリードし、理神論が先端的な考え方だった、18世紀だ。フリーメイソンは、理性を重視する。理神論をべースにした、結社なのである。だから、フリーメイソンは、理神論のことがわからないと、理解できない」

Q5「フリーメイソンは、どんな儀礼をしますか」では、「フリーメイソンの儀礼(ライト)でいちばん大事なのは、参入儀礼である。儀礼のやり方は、必ずしも文書化されていなくて、ロッジごとに代々伝えられている。そのため、古い時代のやり方がどのようだったか、ほんとうのところはわからない。皮肉なことだが、暴露本に、儀礼のやり方が細かく書いてあるのが、よい資料になって、当のフリーメイソンの人びとがそれを参考にする場合もあった」と述べます。

第二部「独立戦争・宗教・ジェンダー」のQ7「ジョージ・ワシントンは、フリーメイソンですか」では、著者は「独立革命に関わった人びとに、フリーメイソンが多いのにはもちろん理由がある。フリーメイソンは、当時の先進思想で、理想に燃える人びとを惹きつけた。だから、世界で最初の市民革命をやろうと思いついた人びとが、メイソンだったのは無理もない。フリーメイソンとアメリカ独立革命との関係は、もっと広い文脈のなかで、多角的に検討すべきである」と述べています。

Q11「ヨーク・ライトは、フリーメイソンなのですか」では、「ライト」について、「ライト(rite、儀礼)とは、一般に、なにかの儀式を行なう決まったやり方のこと。フリーメイソンのライトも、同じ意味ではある。けれども同時に、それ以上の意味がある。上位のメイソンだけに許された特別の儀式(ライト)を行なう、多階位の組織や、それを管理する上位団体、のことを指すのである」と説明します。

Q13「テンプル騎士団は、フリーメイソンなのですか」では、テンプル騎士団をはじめとする友愛団体のコスチュームはストーリーを踏まえており、そのストーリーの人物になり切って、大勢で人前に出ていくことが指摘されています。面白いのは、これが現代日本のド派手成人式に似ているという見方です。著者は、「成人式の会場に、ど派手な揃いのコスチュームで、乗り込んで目立とうとする。あまり大都会でも、あまり小規模な自治体でも、みかけない。中規模の都市でまあまあ大きな会場で、一世一代の晴れ舞台。先輩の派手さ加減と張り合い、ほかのグループとも張り合って、目一杯存在をアピールする。共同体への帰属意識と自己顕示とがミックスされている」と述べます。

続けて、著者は以下のように述べています。
「テンプル騎士団など、決まった服装をして筋書きを演じるフリーメイソンの儀礼は、いい年をした大人の『ごっこ遊び』のようにみえてしまう。けれども本人たちは、至って真剣だ。その機微を摑めるなら、フリーメイソンを理解できたと言えるのかもしれない」

Q18「フリーメイソンは、陰謀集団なのですか」は多くの人々が抱いている疑問ですが、著者は「フリーメイソンは、宗教の対立・抗争から距離を置くために、信仰・宗派を問わない原則を設けた。信仰・宗派の違いは、すぐ政治と結びついてきたのである」と述べています。同じように陰謀集団だと見られがちな団体に「イルミナティ」がありますが、イルミナティはカトリックの基盤が強いドイツ・バイエルンで生まれた団体です。そこでは、イエズス会が自由思想やプロテスタントを目の敵にしていました。著者は、「本来、政治的なものではないはずの自由思想の文書やパンフレットを、危険な政治思想として取り締まる。フリーメイソンに、警戒の目を向ける。友愛団体を、政治や陰謀の文脈で解釈してしまったのは、イエズス会である」と説明します。

日本では、第一次世界大戦後に、フリーメイソンの陰謀論が目立つようになってきました。著者は、「四天王中将の陰謀論」として、「フリーメイソンの陰謀論を日本に広めた人物は、陸軍中将四王天延孝である。四王天は、観戦武官として第一次世界大戦をフランス軍とともに体験し、そののちハルビンで特務機関に勤務し、革命後のロシア情勢などの情報を収集した。全国を講演して回り、ユダヤとフリーメイソンの共同謀議説を説いて歩いた。自分の調査の結果だとしているが、ルーデンドルフからの受け売りの可能性がある」と述べています。

また、「共産主義への恐怖」として、著者は、「ロシア革命の勃発に驚いて、共産党の脅威を感じた日本の軍部や警察にとって、フリーメイソン~ユダヤ人~共産党をつなぐ陰謀理論は、おあつらえ向きだった。カール・マルクスもエンゲルスもトロツキーも、ユダヤ人である。フリーメイソンは、共産党とは別ルートで、欧米各国に食い込んでいる。自由思想や合理主義の裏側に、危険な陰謀が隠れているかもしれない。諜報機関にとって、至るところに敵が潜んでいるのは、好都合なのだ」と述べます。

Q19「フリーメイソンは、ユダヤ人と関係ありますか」もよくある質問でしょうが、「反ユダヤ主義」として、著者は、「ハンナ・アーレント『全体主義の起源』によれば、絶対王政は歳入の不足を補うため、ユダヤ人の銀行家に財務を担当させることが多かった。ユダヤ系の、優雅で知識にあふれた教養人が、宮廷に出入りするようになった。増税に対する反感が、ユダヤ人に向けられた。さらにユダヤ人の社会進出がすすみ、どこからみてもユダヤ人らしくないユダヤ人が、市民社会のあいだに紛れ込んでいるとき、ユダヤ人差別はもっとも激しくなると、アーレントは言う」と述べます。

続けて、著者は、「18世紀から19世紀にかけては、一見科学的な根拠をもつかのような、新手の反ユダヤ主義(アンチ・セミティズム)の言説がつぎつぎ生まれた。それが暴動のかたちをとって噴出したのが、フランスのドレフュス事件である。ドイツでは第一次世界大戦後、こうした言説をパッチワークのようにつぎはぎした、ナチズムが現れた」とも述べています。

Q22「なぜアメリカに、フリーメイソンが多いのですか」では、フリーメイソンの類似団体である「オッド・フェロー」が取り上げられ、著者は、「オッド・フェロー(Odd Fellows)は、18世紀初めイギリスで最初に記録が残っている、国際的な友愛結社。世界中で数百万人のメンバーがいる。もともと中小の商人がつくったギルドに由来するといい、古代に起源をもつと自称するが、18世紀初めより前にさかのぼる歴史記録はない。フリーメイソンと、組織目的や活動が似通っている。初期のオッド・フェローに、ジョン・ウィルクス(ジャーナリスト、ロンドン市長)やジョージ・サヴィル(政治家)がいる」と述べています。

オッド・フェローもフリーメイソンも、古代や中世の儀礼に固執しました。それは、移民の国であるアメリカの特別な事情が絡んでいました。「なぜ、古代・中世の儀礼なのか」として、著者は、「アメリカには、歴史がない。主にヨーロッパから、中世を置き去りにして、一足飛びに近代へやってきた。歴史がないとは、伝統社会の束縛やしがらみがないようということでもある。自由である。これは、よい点である。けれども、同時に、空虚でもある。出身地を共にするエスニック集団に固まることもできるが、それでは孤立してしまう(アーミッシュみたいに)。アメリカ社会のなかで、地歩を築きたい。しがらみはいやだが、歴史のアイデンティティは手にしたい。多くのアメリカ人は矛盾した心理を抱えている」と分析しています。

プロテスタントの教会は多くの教派に細かく分かれており、アメリカ社会の全体を代表できる伝統の要素はありません。著者は、「プロテスタントの教会には、中世や古代をにおわせる伝統の要素はない。それに対して、フリーメイソンやオッド・フェローといった友愛団体は、さまざまな教会の人びとが、こぞって参加できる。そして、中世や古代を模した儀式を通じて、地域社会(コミュニティ)の名誉あるメンバーとしての尊敬を獲得できる。これこそアメリカの、中流の人びとが求めているものだった。芝居がかったコスチュームに身を包み、おおげさなもったいぶった儀式に参加することは、こうした人びとの要求に応えるものだった。フリーメイソンやオッド・フェローがアメリカで大発展したのは、こうしたアメリカ社会に特有な事情が背景にある」と述べます。

「あとがき」では、「世の中のことがらを考えていくスタイルに、ふたつあると思う。ひとつは、誰にでもあてはまる、価値をもとにすること。自由主義、リベラリズム、保守主義、リバタリアニズム、……など。普遍的価値を主張する、普遍思想である。もうひとつは、自分と異なる他者(敵)をみつけ、違いや対立を強調して、仲間の結束をはかること。ナショナリズムは、こうした傾向がある。自分たちの歴史や伝統を強調するからだ。敵への攻撃が極端になると、ナチズムのようになる。どんな思想も、この両方の傾向をそなえている。でも、思想であるなら、普遍的価値を主張するのが正しい。反対者とぶつかるとしても、相手が間違っていると論証する、説明責任を引き受ける。この応酬によって、思想は成長していく」と、著者は述べるのでした。

一条真也の読書館『フリーメイソン』で紹介した荒俣宏の著書をはじめ、わたしはこれまでに膨大なフリーメイソンに関する本を読んできました。本書の内容はQ&A方式で構成されていることもあり、非常にわかりやすかったです。謎に満ちたフリーメイソンを理解するための最適な入門書と言えます。

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