No.1923 人生・仕事 『「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』 クリスティーン・ポラス著、夏目大訳(東洋経済)

2020.08.02

『「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』クリスティーン・ポラス著、夏目大訳(東洋経済)を読みました。著者は、ジョージタウン大学マクドノー・スクール・オブ・ビジネス准教授。活気ある職場を作ることを目的とし、グーグル、ピクサー、国際連合、世界銀行、国際通貨基金、米労働省・財務省・司法省・国家安全保障局などで講演やコンサルティング活動を行っています。その仕事は、CNN、BBC、NBC、MSNBC,CBS、ABC、「タイム」「ウォール・ストリート・ジャーナル」「フィナンシャル・タイムズ」「フォーブス」「フォーチュン」「ニューヨーク・タイムズ」「ワシントン・ポスト」など、世界中のテレビ、ラジオ、紙メディアで取り上げられているとか。ノースカロライナ大学チャペルヒル校ケナン=フラグラー・ビジネス・スクールで博士号取得。博士号取得以前は、スポーツ・マネジメントとマーケティングを行う大手企業IMGに勤務。

本書のオリジナルの帯

本書の帯には「じわじわ10万部」「共感の声、続々!」「上司、部下、家族 あなたのそばにもきっといる無礼な人」と書かれていますが、オリジナルの帯には「一流のエリートほど、なぜ、不機嫌にならないのか?」と大書され、「ビジネスに効く! 人間関係も良くなる!」「社内『処世術』の秘訣」「礼節メールの極意」「危険人物の見抜き方」「怒りを鎮めるコツ」「『職場の無礼さ』の研究、20年の集大成!」「全米で話題『礼節の科学』、日本初上陸!」と書かれています。

アマゾンの「内容紹介」には、「ビジネスでも、人間関係でも、最強の武器になる礼節の力を徹底解説!」「《こんな職場から抜け出したい人必読。あなたもあなたの周りもきっと変わります!》として、こう書かれています。
■些細なことで怒鳴ってくる、上司がいる
■部下が言うことを聞いてくれない
■アルバイトがまじめに働かない
■社長や経営陣が独善的すぎる
■お客さんが横暴なことを言ってくる
■成果を出しても、なかなか出世できない
■ストレスをついつい溜め込み過ぎてしまう
■仕事につながる人脈が築けない

また、《世界中から、絶賛の声が続々!》として、以下のように紹介されています。「まさに最高のタイミングで書かれた最高の本だ。すべての人にとっての必読書」―ダニエル・H・ピンク(『モチベーション3.0』著者)
「読んでいて引き込まれる。ちょっとした言動が、いかに人間関係全体に大きな影響を及ぼすかがわかる」―ラズロ・ボック(『ワーク・ルールズ!』著者)
「これほど質が高く、有用で、しかも心に強く訴えかけてくるビジネス書は、ここ何年か読んだことがない」―ロバート・I・サットン(『あなたの職場のイヤな奴』著者)
「読めば、きっと現状を打破し、自信を持って前に進むための助けとなる」―パブリッシャーズ・ウィークリー

さらに、《誰でもできる!仕事で成果を出すための戦略をエビデンスに基づき紹介!》として、こう書かれています。
■なぜ、本当にできる人は礼節を重んじるのか
■あなたの礼節をチェックするリスト
■礼節を高めるための方法とは
■まわりの礼節を高めてチームで成果をだす方法とは
■あのマイケル・ジョーダンが大切にする2つの言葉
■世界最高の職場、グーグルが取り組むプログラム
■会社に損害を与える無礼な人の4つの対策不法とは
■「成功の自覚」があなたを強くする
■即レスが正しいとは限らない!生産性を下げるメールとは

本書の「目次」は、以下の構成になっています。
はじめに「礼節は最強の武器になる」
第1部 なぜ礼節ある人は
得をするのか

第1章 無礼な人が増えた根本理由
第2章 無礼な人がもたらす5つの費用
第3章 礼節がもたらす5つのメリット
第4章 無礼は無礼を生み、礼節は礼節を生む
第2部 あなたの礼節を
高めるメソッド

第5章 あなたの礼節をチェックしよう
第6章 礼節ある人が守る3つの原則
第7章 無意識の偏見を取り除こう
第8章 ワンランク上の礼節を身に付けるための5つの心得
第9章 礼節あるメールの作法を身に付ける
第3部 礼節ある会社になる
4つのステップ

第10章 礼節ある人を見極める採用システムを作る
第11章 礼節を高めるコーチングを取り入れる
第12章 誤った評価システムを改善する
第13章 無礼な社員とどう向き合うか
第4部 無礼な人に狙われる
場合の対処法

第14章 無礼な人から身を守る方法
おわりに「あなたはどういう人間になりたいか」
「謝辞」

はじめに「礼節は最強の武器になる」では、「無礼な職場では、半分の人がわざと手を抜く」として、著者は、自分でもそんな経験をしたし、愛する父が長年にわたって、無礼な上司に苦しめられる姿を見たこともあって、「職場の無礼」を研究することに人生を捧げることを決めたと述べます。そこで働く人が気持ち良く仕事をして大きな成果を出せるような、明るい職場や企業文化を作る手伝いがしたいと思ったからだそうです。そのためにはまず「無礼な態度がいかに大きな害をもたらすか」を多くの人に理解してもらう必要があり、著者は「無礼な態度の横行する会社が、そうでない会社に比べ、どのくらいの金銭的損失を被っているのかを確かめることにした。具体的な数字を企業の経営者たちに示せば、理解してもらいやすいと考えたのだ」と述べています。

また、「礼節は自分も人も幸せにする」として、著者は「他人に無礼な態度を取ると、結局、自分が大きな損をするとわかっている人は多い。でも逆に、礼儀正しく節度ある態度で周囲に接すると自分にも良いことがあるとわかっている人は意外に少ない。それに、礼節は努力次第で高められると理解している人も少ない。だからこの本を読むことは、きっとあなたと職場の礼節を高める助けになるはずだ。この本は、あなた、そしてあなたが働く職場の礼節を高める方法を解説した、実用的なガイドブックだ」と述べています。

第1部「なぜ礼節ある人は得をするのか」の第1章「無礼な人が増えた根本理由」では、「礼節が悪化し続ける本当の理由とは」として、著者が考えた理由を挙げています。そもそもなぜ、礼節は悪化し続けているのだろうか。その理由として最初に考えられるのは、グローバリゼーションです。著者は、「文化の違う人たちが同じ場所にいるために、ある人が何の気なしに言ったこと、したことが、別の人には無礼と感じられる、そういうことはあるかもしれない」と述べます。

次に、テクノロジーの進歩が考えられます。著者は、「電子通信機器は、私たちを驚くようなかたちで結びつけてくれることがある。ただ、その一方で、コミュニケーションに際しては、誤解や欠落が生じやすい。また、コンピュータの上だと、たまったストレスを吐き出すように、普段なら考えられない暴言を吐く人もいる。距離があるから大丈夫だと思うのか、平気で他人を侮辱し、罵倒する人も少なくない。コンピュータで他人と関わることが増えすぎたために、もはや面と向かって接する方法がわからなくなっている人もいる。他人も自分と同じく、感情を持った生身の人間だということをつい忘れがちになる」と述べています。

そして、著者は「原因はグローバリゼーションなのか、あるいは世代間ギャップや、職場環境や人間関係の変化、テクノロジーの進歩なのか、それは明確ではないが、ともかく現代の私たちが、自分にばかり目を向け他人にはあまり目を向けないというのは事実だ。そのせいで、他人の扱いが無礼なものになってしまい、結果として皆に害をもたらしているわけだ」と述べるのでした。

第2章「無礼な人がもたらす5つの費用」では、「無礼な人は同僚の健康を害する」として、著者は「勤務時間の長さ、仕事の負荷、与えられている権限、裁量の大きさなどは、直接、寿命の長さには影響していなかった。重要だったのは、ともに働く人たちの態度が協力的、友好的かどうかだった。また、職場に友好的でない人がいると、死亡リスクが高まることもわかった。たとえば、中年と呼べる年齢の会社員の場合、同僚が友好的でない人は、友好的な人に比べ調査期間だけで約2.4倍の人数が死亡している」と述べます。

また、「無礼な人は会社に損害をもたらす」として、「ひどい叱責を受けた原因が本人の能力不足にあったとしても、また重大なルール違反(障害者用のスペースに車を停める、など)にあったとしても、それはまったく無関係で、ともかく中の誰かが誰かをひどく叱責するだけで、その企業に対する印象は極端に悪化する。事情はどうであれ、無礼な態度を見てしまうと、顧客はその企業に悪い印象を抱くことになる。態度の悪い人を目にしてしまうと、自分の体験が損なわれるからではないか、と私たちは考えた。たとえば、あなたが高級レストランに食事に行ったとする。その場であなたが何より見たくないのは、誰かが粗末に扱われている場面ではないだろうか。たとえ閉じられた扉の向こうだろうと、誰かがひどい言葉で叱責されるのは、顧客にとって気分の良いものではない」と書かれています。

さらに、「無礼な人はまわりを攻撃的にする」として、無礼な態度を取られると、人の心はジェットコースターに乗り恐怖を味わった時のようなストレスにさらされることを指摘し、著者は「ストレスは認知能力の低下を招く。そして時に身体の健康までも損なうことがある。理不尽な扱いを受けると、その前とは別人になってしまうとも言える。持っているはずの力を発揮できなくなる。無礼な態度を軽く見てはいけない。ほんのちょっとした言葉、態度が重大な影響をおよぼすことがある。しかも、特定の個人だけでなく、組織全体に影響がおよぶことも多い。この問題についてそろそろ真剣に考えるべき時だと私は考えている。たいしたことはない、と甘く見て放置していると、いつか取り返しのつかない事態になってしまう恐れもある」と訴えます。

第3章「礼節がもたらす5つのメリット」では、著者は「礼節ある言動とは、つまり相手を丁重に扱う言動ということだが、必ず心から相手を尊重する気持ちがないとうまくはいかない。見返りに相手から何かを得よう、自分の属する企業の利益につなげようという気持ちが背後にあると、いくら相手を丁重に扱ったところで意味がなくなってしまう」と述べています。

マキャベリは「人を従わせようと望む者は、命令の仕方を知る必要がある」「愛されるよりも恐れられる方がはるかに安全だ」と言いました。著者がこれまでに会ったリーダーたちのほとんどはマキャベリの意見に賛成で、礼節が大切だとする私の意見には明確に懐疑的な姿勢を示したそうですが、これについて、著者は「もし自分が一歩踏み出して、皆を丁重に扱ったら、自分の権威をもはや尊重しなくなるのではないかと恐れたのだ。彼らはとにかく厳しく、粗雑な態度、傲慢な態度を取り、自分を遠い存在に感じさせるべきだと信じていた。少し無礼なくらいの方がビジネスの世界では出世できると考えていたのだ。私の実施したアンケート調査では、回答者の40パーセント近くが、仕事の場で下の人間に優しく接したら、それにつけ込まれるのではと恐れていた。そして、半数近くが、自分を誇示するのが言うことをきかせる最良の方法だと考えているとわかった」と分析しています。

ここで【個人編】として、著者は「礼節ある人が得られる3つのメリット」として、礼節ある人は出世が早く、仕事で業績をあげる可能性が高いことを指摘し、1つめのメリットとして「仕事が得やすい」ことを挙げます。礼節ある人には「声がかかりやすい」のです。職場での人間関係について1万人以上を対象に行われたアンケート調査では「協力を頼む同僚を選ぶ時は、自らに『この人と働くと楽しいだろうか』と問いかける人の方が、『この人は、手伝ってもらう仕事に詳しいだろうか』と問いかける人よりも多い」という結果が出たそうです。この結果について、著者は「他人に優しく接している人、気分の良い接し方をしている人の方が、声がかかりやすいということだ。人に何かを頼まれる機会が多ければ、能力を証明する機会も多くなるし、良い評判も広まりやすくなる。そしてますます、選ばれる機会が増えていく。こうして、『能力はあるけれど無礼な人』との差は時間が経つごとに開いていく」と分析します。

2つめのメリットは「幅広い人脈が築ける」で、著者は「礼節ある人はそうではない人よりも、たやすく大きな人的ネットワークを築くことができる。ネットワークが大きくなればそこに有能な人が含まれている可能性も高まるだろう。ソーシャルメディアなども発達した現代では、自ら積極的、活発に動き回って大規模な人的ネットワークを築こうとする人も多い。ただし、熱心なだけではネットワークはなかなか広がらない。それに加えて、その人に礼節がなければ周囲に人は集まってこないだろう。コンピュータのネットワークでの人間関係においても、礼節が重要な意味を持つと感じている人は多い」と述べています。

そして3つめのメリットは「出世の可能性が高まる」です。「無礼な態度は、成果をあげる足枷になる」として、著者は「礼節ある態度とはたとえば、人に感謝する、人の話をよく聞く、わからないことは謙虚に人に尋ねる、他人の良さを認める、成果を独り占めせずに分かち合う、笑顔を絶やさない、といったことを指す。こうした態度は業績の向上にも役立つ。反対に、無礼な態度は、仕事で成果をあげる上で足枷になってしまう」と述べています。

グーグルでは、社内の180のチームを対象にした調査を行いましたが、その結果、チームのメンバーが誰かよりも、メンバーどうしがどう関わり合うか、メンバーがともにどう仕事を進めていくか、また各メンバーが互いの貢献を正しく評価できるかといったことが重要だということがわかったそうです。メンバーの安心感が強いほど、他のチームメートのアイデアを積極的に取り入れますし、グーグルを離れる可能性も少なくなります。安心している従業員は会社により多くの利益をもたらすし、上層部からの評価も約2倍高くなるというのです。

第4章「無礼は無礼を生み、礼節は礼節を生む」では、「礼儀作法が一度、崩れてしまえば、もはや人間が優しさや慎みを取り戻す見込みはほとんどなくなってしまう」というサミュエル・ジョンソンの言葉が紹介されています。著者は、「誰かに無礼な態度を取ること、取られることを、『自己完結的』な体験だと思っている人は多い。直接、やりとりをした当事者どうしで完結することだと思っている人が多いのだ。だが、実際には、無礼さはウイルスのように人から人へと伝染していく。その後、関わった人たちすべてに悪影響を与え、人生を悪い方に導くことになる」と述べています。

また、無礼さは脳に焼き付くものですが、「忘れられない悪影響が残る」として、著者は「脳の中で感情に大きく関わるのが『扁桃体』というアーモンド形の小さな部位であることはかなり以前からよく知られている。たとえば、いつも上司のオフィスのすぐそばで仕事をしている会社員がいたとする。上司のオフィスからは、誰かに無礼な態度で接している声が頻繁に聞こえてくる。扁桃体がはたらくのはそういう時だ。その声を聞いた時、扁桃体は良くない感情を生み出し、それは脳内に広まってしまう。しばらくすると、上司のオフィスのドアを見るだけで、負の感情が起きるようになるだろう」と述べています。

続けて、著者は以下のようにも述べています。
「無礼な態度に触れてしまうと、その後は、少しのきっかけでその時の感情が蘇ってしまうのだ。無礼な態度を取った本人が隔離されたあとも、それは続く。隔離しても問題がすべて解決するわけではない。人間の心は些細な出来事で傷ついてしまう。たとえば、誰かに悪口を言われる、大勢の前で自分の能力を否定される、といったことがあると、言った本人に悪気はなくても、傷跡は残るし、仕事にも悪影響がある。幸福感も低下してしまう」

著者いわく、無礼さだけでなく礼節の伝染力も強いそうで、「今日から始める「10/5ウェイ」として、「ルイジアナ州の大病院、オクスナ―・ヘルス・システムでは、礼儀正しい態度の影響力を重要視し、それを最大限に活かすために病院公式の『ガイドライン』を策定した。『10/5ウェイ』と名づけられたこのガイドラインでは、誰かと10フィート(約3メートル)以内に近づいたら目を合わせ、微笑みかけること、5フィート(約1.5メートル)以内に近づいたら『こんにちは』声をかけることが定められた。このガイドラインが実際に運用され始めると、病院内にはすぐに礼儀正しい態度が広まった。患者の満足度も向上し、『この病院がいい』いう推薦を受けて来る患者も増えた」という事例を紹介しています。

第2部「あなたの礼節を高めるメソッド」の第6章「礼節ある人が守る3つの原則」では、「些細なふるまいがなぜ大事なのか」として、著者は「これまでに、人間の200種類を超える行動特性が調査の対象となっている。その中でも特に重要だとわかったのが、『温かさ』と『有能さ』の2つだ。この2つが、他人に与える印象を大きく左右する。この2つがほぼすべてと言ってもいい。良い印象にしろ、悪い印象にしろ、この2つでその90パーセントが決まってしまうからだ。あなたが誰かに『温かい』『有能』という印象を与えることができれば、その人はあなたを信頼する可能性が高い。あなたを信頼してくれた人とは良好な人間関係を築くことができる。その人はあなたが何かをする時に、おそらくそれを支持し、応援してくれる。ただ、ひとつ注意しなくてはいけないことがある。『温かさ』と『有能さ』は相反する特性と思われがちだということだ」と述べています。

第7章「無意識の偏見を取り除こう」では、無意識の偏見を鎮める方法について言及されます。著者は、社会神経科学者のジェイ・ヴァン・バヴェル、ウィル・カニンガムによる実験を紹介し、「自分の周囲の人たちについて考えてみよう。個々の人たちについて、自分と共通しているのは何か、また違っているのは何かを考えてみる。たとえば、『子供を持つ親である』『同じ街に住んでいる』『同じスポーツチームのファンである』『同じ教団に属している』といった共通点が見つかるだろう。自分と同じグループに属する人に対して良い感情を持つのは人間として自然なことだ。つまり、重要なのは、個々の人と共通のアイデンティティ、グループを見つけることである」と述べています。

第8章「ワンランク上の礼節を身に付けるための5つの心得」では、「あなたの行動がまわりを変える」として、職場で礼儀正しくあるためには、微笑むだけでは不十分で、他にも必要なことはたくさんあることが指摘されます。著者がこれまでに行った調査と、コンサルティングをしてきた経験によれば、必要なことは大きく分けて、以下の5つです。
(1)与える人になる
(2)成果を共有する
(3)褒め上手な人になる
(4)フィードバック上手になる
(5)意義を共有する

また、ワンランク上の礼節を身に付けるための心得の1つとして「褒め上手な人になる」も挙げられていますが、「感謝上手な人は収入が多い」として、著者は「感謝をきちんと伝えれば、相手はあなたのことをより信頼するようになるだろう。信頼感が高まり人間関係が良くなれば、それだけ仕事でも成果があげられる。それは収入増にもつながる。これは本当の話である。感謝の意をまめに他人に伝える人は、そうでない人に比べ、収入が約7パーセント多いというデータもある。他人に感謝を伝えられる人は、そうでない人に比べて血圧が約12パーセント低いとも言われる。ストレスが少なく、明朗で身体も健康であることが多い。また単純に良い気分でいられることが多いのは間違いないだろう」と述べています。

さらに、ワンランク上の礼節を身に付けるための心得の1つとして「意義を共有する」も挙げられますが、「礼儀正しいことを当たり前にする」として、著者は「人の心をつかむには、努力、やる気、成果を必ず、認め、褒め、報いる姿勢を見せる必要がある。一人ひとりのサクセスストーリーを必ずチーム全体で共有するようにする。物事が前に進んでいることを皆が認識できること、皆が自分のいる意味を感じられることも大切だ。リーダーが必要に応じ、自分の時間とエネルギーを惜しみなく注ぎ込むようにする。リーダーがチームのメンバーの心をつかめば、職場からは無礼な態度がなくなり、皆が仕事に打ち込み、業績も向上するだろう」と述べています。

第9章「礼節あるメールの作法を身に付ける」では、やってはいけないメールの3つの使用方法として、「会って伝えるべきことをメールで済ます」「勤務時間以外にメールを送る」なども挙げられていますが、わたしには特に「会議中にスマートフォンをチェックする」が印象的でした。
著者、以下のように述べています。
「今ではノートパソコンやスマートフォンとへその緒でつながってしまっているような人が多いので、そのつながりを断ち切るのは容易なことではない。私が企業に勤務する人たちから最もよく聞く愚痴は、「自分が話をしているのに上司がノートパソコンやスマートフォンから目を離してくれない」ということかもしれない。まずは本書の読者から実践してもらいたい。誰かと会って話をする時は、ノートパソコンやスマートフォンは脇へ置こう。目の前にいる人との話を最優先していると姿勢で示そう。古いやり方に戻り、会話中のメモも紙とペンで取るようにする。そうすると、相手の言うことを忘れないようにしたい、という気持ちを伝えることができるし、相手を尊重していることも伝わる。尊重されるのは誰にとっても嬉しいことである」

第3部「礼節ある会社になる4つのステップ」の第10章「礼節ある人を見極める採用システムを作る」では、「文明にとって知恵より大切なものがある。それは品格である」というH・L・メンケンの言葉が紹介されています。無礼な人を入れないことが重要であると主張する著者は「無礼な社員にかかるコストは年間1万2000ドル」として、「企業に悪影響をおよぼすような人を入れるべきではない。態度の悪い人がひとりいるとその影響は感染症のように広がってしまう。無礼な態度がコストになることはすでに書いてきた。しかし、何よりも問題なのは、礼節に欠ける人間をうっかり中に入れてしまうことだ。まずそれを防がなくてはならない」と述べています。ある調査によれば、有害な社員が1人いると、「スーパースター」と呼べるほど特別に優秀な社員2人、あるいはそれ以上が達成した生産性向上を帳消しにしてしまうそうです。

第12章「誤った評価システムを改善する」では、「礼節の高さを評価する」として、著者は「礼節を欠いて低い評価を受ければ、次からは気をつけて表現を和らげるなどの配慮をする人は多いはずだ。ただ、礼節の高さを体系的に評価する仕組みを持っている企業は私の知る限り存在しない。採用の際に礼節を重んじる企業、経営理念の中で、礼節、敬意、包括、尊厳などの重要性を強調している企業は多くあるが、礼節の高さを評価する企業はないということだ。対人関係のスキルや、感情を制御する能力、良きチームプレーヤーになり得る資質などを評価する基準を持っている企業はわずかながら存在している」と述べています。ちなみに、わが社もそんな会社だと自負しているのですが……。

第14章「無礼な人から身を守る方法」では、「無礼さのストレスは人それぞれ」として、「無礼な態度が、その標的になった人にとってどのくらいストレスになるかは、立場の上下によっても大きく変わる。自分より上の立場の人に無礼な態度を取られた場合、これまでの調査では、全体の3分の2近くのケースで、同等からそれ以下の人に同様のことをされた場合よりもストレスが強くなるとわかった。また上司の命令や、会社の方針により、無礼な同僚とともに働くことを強制された場合には、絶望感が強くなることもわかっている」と述べています。

「未来に目を向けるための7つの方法」として、著者は「目標を定め、進歩を実感する」「自分を成長させてくれるものを見つける」「メンターの助けを得る」「仕事に意味を見出す」「社内外で良い人間関係を築く」「社外の活動で成功を目指す」などを挙げていますが、わたしには「食事、睡眠、運動、マインドフルネスを活用する」が興味深かったです。特に「運動は、礼節ある態度を身に付けるのに役立つ。また同様に、他人の無礼な態度への対処にも効果がある。無礼な扱いを受けると、怒り、恐れ、悲しみなどのネガティブな感情が起きるが、そうした感情にうまく対処できるようになるのだ。運動をしていると、自分の体験を良い方に解釈できるようになる。そして、自分を悪い方向に導きそうな、良くない思考、感情を即座に捨て去ることができるようになる」というくだりが参考になりました。

おわりに「あなたはどういう人間になりたいか」では、「自分の周囲にいる人たちに、敬意をもって品位ある態度で接していれば、その人たちは成長していく。反対に、同じ人たちに敬意のないひどい態度で接していれば、皆、だめになっていく」というリチャード・ブランソンの言葉が紹介されています。「変わるタイミングなんて関係ない」として、著者は「まず人の話をよく聞くよう努める。それが礼節を高めるための基本だ。他人と健全で、有意義で、持続的な関係を築くためにはそれが必要になる。まず、相手の存在を認める。顔を合わせれば必ず丁寧に挨拶する。笑顔を向ける。相手を自分の仲間にする。特に、皆から忘れられがちな人、理解や助けを求めている人たちを仲間に引き入れるようにする。直接顔を合わせる時だけでなく、メールやSNSで交流する時にも、同様に礼儀正しく丁寧な態度を保つ。人間関係を築く上で大事なのは、相手に何か自分の持っている資源を与えることだ(もちろん、与え方にも気をつけなくてはいけない。ただ与えればいいというものではない)」と述べます。そして、「礼節を身に付けるのに遅すぎるということはない。また、同時に早すぎるということもない」と述べるのでした。

本書を読んで、「人間尊重」という「礼」の精神をミッションとするわが社の方向は間違っていないことを再確認しました。最後に、本書で紹介されている「無礼な人がもたらす5つのデメリット」と「礼節がもたらす5つのメリット」をご紹介したいと思います。
無礼な人がもたらす5つのデメリット
●同僚の健康を害する
●会社に損害をもたらす
●まわりの思考能力を下げる
●まわりの認知能力を下げる
●まわりを攻撃的にする
礼節がもたらす5つのメリット
●仕事が得やすい
●幅広い人脈が築ける
●出世の可能性が高まる
●礼節ある上司のチームは高い業績をあげる
●礼節ある経営者は従業員に安心感を与える

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