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No.2064 プロレス・格闘技・武道 | 評伝・自伝 『証言 初代タイガーマスク 40年目の真実』 佐山聡+髙田延彦+藤原喜明+グラン浜田ほか著(宝島社)
2021.08.30
『証言 初代タイガーマスク 40年目の真実』佐山聡+髙田延彦+藤原喜明+グラン浜田ほか著(宝島社)を読みました。宝島社の昭和プロレス証言シリーズ最新刊ですが、本書の約3ヵ月前に刊行された『”黄金の虎”と”爆弾小僧”と”暗闇の虎”』新井宏著(辰巳出版)の内容と重なる部分が多く、目新しい情報は少なかったです。
本書の帯
カバー表紙には、ブラックタイガーにローリング・ソバットを決めている初代タイガーマスクの写真が使われ、帯には「佐山聡が語り尽くす虎の仮面に秘した理想と葛藤と秘密」「最後の告白!」「M・コステロ戦」「ショウジ・コンチャ」「新日本クーデター事件」「A・猪木監禁事件」「電撃引退の真相」「梶原一騎と前田日明」「虎の素顔を知る8人が明かす『熱狂の裏側』」と書かれています。
本書の帯の裏
帯の裏には、「『お前を格闘技第1号の選手にする』――アントニオ猪木との約束を胸に1981年4月、23歳の青年は虎の仮面を被った。新日本のため、猪木のために、四次元プロレスという名の『ストロングスタイル』を貫き、青年は国民的スターとなった。彼が多くの人々を魅了できたのは、華麗な空中殺法があったからでも、人気漫画の主人公だったからでもない。佐山聡が『本物』だったからだ――」と書かれています。さらにカバー前そでには、「初代タイガーマスクは新日本プロレスの叡智、猪木イズムの結晶」とあります。
「はじめに」ターザン山本
初代タイガーマスク
佐山聡
タイガーマスクがプロレス界をダメにすると思って、やめました
証言 髙田延彦
プロレスラーとしての土台をつくった佐山からの”金言”
証言 藤原喜明
俺と佐山の試合が輝いたのは本物の”美しいアート”だったから
証言 新間寿
問題の元凶が猪木さんだとしても、猪木さんを悪者にはできない
証言 グラン浜田
佐山は最初、”島流し”でメキシコに送られてきたという感じだった
証言 藤波辰爾
タイガーマスクに”食われてしまった”ヘビー級転向当初の藤波
証言 山崎一夫
佐山さんは、前田さん、髙田さんとは”志”が近いと思っていた
証言 藤原敏男
街中でキレてるのを何回も見てるけど、警察官が10人いても敵わない
証言 佐山聖斗
「初代タイガーマスク1957―2021完全詳細年表」
「はじめに」で、ターザン山本はこう述べています。
「ダイナマイト・キッドとのデビュー戦。あの試合の衝撃は一言でいえる。それは、リングに”モダニズム”を持ち込んだことだ。新日本プロレスが”ストロングスタイル”という思想性をアピールしていた時、現代風、新感覚主義のプロレスを形として、フォルムとして表現してみせた。この佐山聡流モダニズムはその後、プロレスラーを目指す少年たちに絶大な影響を与えた。従来の伝統的プロレス観、価値観を一掃してみせた。理屈よりも形としての美を優先させる。佐山の本能がそうさせたのだ。彼は小さな、偉大な革命児である。猪木イズムが生んだ突然変異ともいえる」
「初代タイガーマスク 佐山聡」の「闘いに命を張っていたダイナマイト・キッド」では、デビュー戦では粗末なマスクを失笑されながらもタイガーマスクとして闘い続けた佐山が、「タイガーマスクが嫌だったわけじゃないんです。ダイナマイト(・キッド)との試合なんかは、彼の圧力がとにかくすごかったから、僕も毎回必死で闘っていましたからね。僕はダイナマイトと闘いながら、『こいつは命張ってな』と感じる瞬間が何度もありました。常に捨身というか、『レスラー生命が長くなくても構わない』という覚悟が伝わってくるんですよ。たとえば、彼の得意技ダイビング・ヘッドバッドだって、あそこまで遠くに飛ぶ必要はないんです。あんな飛距離で飛んだら、確実に自分のヒザにもダメージを負う。でも、観客を沸かせるためならそこまでやるのが、彼でしたね」と語っています。
また、佐山はキッドについて、「やられっぷりもすごいですし、攻撃もひとつひとつのパンチ、キックがすごいですよね。長州さんもひとつひとつのキックやストンピングがすごいんですけど、それに通じるところがありますね。だからダイナマイトとの試合は一瞬でも気を抜いたら終わりなんです。そういう緊張感が常にありました。ただ、その緊張感が心地よかったんですよ。誰とどんな試合をしたかって意外と憶えていないものなんですけど、僕もタイガーマスクとしてのデビュー戦と、マディソン・スクエア・ガーデンでやった、ダイナマイトとの2試合だけは、脳裏に浮かんできますからね」と語ります。
「ストロングスタイルの空洞化」では、タイガーマスクの日本人の宿敵であった小林邦昭との戦いを振り返りながら、佐山は「僕らが若手時代、猪木さんがよく『どんなに素晴らしい試合よりも、街のケンカのほうがおもしろい』って言ってたんですよ。要は感情剥き出しのケンカこそが、人の目を惹きつけるっていうことですよね。それで僕と小林さんは若手時代、お互いライバル心があったから、本当にケンカに見えるような気迫剥き出しの試合をしていたんですけど、タイガーマスクになってからも、その気迫を出しながら、ストロングスタイルの試合ができたんですよね。それは小林さんに対するリスペクトがあるからですよね」と語るのでした。
「証言 髙田延彦」の「強くなるための練習をおろそかにするなよ」では、新日本プロレスと第1次UWFで佐山の後輩だった髙田が、「本人は憶えていないだろうけどさ、ある日、佐山さんがボソっと『お前が今やってるスパーリングは、試合より大事なんだよ。絶対に続けろよ』って。その時は真意がわからず『なんで?』ってスーっと消えたのよ。しばらく経ってからだね。理解できたのは。それはもちろん試合を軽視するということではなく、日々の苦しいスパーリングこそが己のペースを作り上げるということだと、俺は捉えたんだよ。佐山さんと言葉を交わした回数なんて、少ないはずなんだけど、そのひと言は俺の記憶に残っている。山本小鉄さんに繰り返し言われた『プロレスラーは絶対になめられちゃいけないんだ』という言葉ともリンクするし、自分が目指すプロレスラー像をつくるうえで、重要なヒントを与えてくれた」と語っています。
「証言 藤原喜明」の「佐山より美しい技を出すヤツはいない」では、”関節技の鬼”と呼ばれる藤原が、「『関節技は地味だ』なんて言うヤツがいるけど、俺はまったくそんなふうには思わないんだ。関節技は面白いし、美しいアートだよ。UWFで、俺と佐山(スーパー・タイガー)の試合があれだけ沸いたのは、それが観客にも伝わったから。見よう見まねのニセモノじゃ、こうはならない。これはプロレスにかぎらず、どんなスポーツでもそう。本物は美しいんだよ。柔道の一本背負いが決まったら、美しいだろ。レスリングのタックルだって美しいし、ボクシングのカウンターの一発だって美しい。剣道の一本だって、野球のホームランだってそう。本物は、素人が見たって『美しい』と感じるから、みんな魅了されるんだよ。だから佐山のタイガーマスクがあれだけ人気が出たっていうのも、簡単に言えば、本物だったということだ。今は蹴りにしても、飛び技にしても使うヤツはいっぱいいるけど、佐山より美しく技を出すヤツはいないだろう。佐山のタイガーマスクは、本物だったからこそ美しい、美しいからあれだけみんなが魅了されたんだよ」と語っています。
「証言 藤波辰爾」の「基本はストロングスタイル」では、タイガーマスク以前にジュニアヘビー級のブームを日本に巻き起こした藤波が、「今の選手の動きの速さと、佐山の動きの速さのいちばんの違いは、佐山の場合、すべて理にかなった動きなんですよ。闘いに必要のない動きはしない。それと彼は他の格闘技の技術を採り入れたり、すごく研究熱心。マーシャルアーツやキックボクシングの技術も身につけたり、彼の動きは”本物”なんですよ。それでいて加齢だから、漫画のイメージを損なわず、それ以上の驚きをお客さんに提供していた。だからこそ、あれだけ多くの人から支持を集めたんだろうし、我々レスラーでも、タイガーマスクの試合を見ていると、リングの闘いに引き込まれてしまうぐらいだったからね。それこそが、猪木さんがよく言っていた『プロレスは闘いなんだ』ということ。たしかに、今のプロレスは技術が進歩しているし、技も高度になっている。でも、”闘い”を失ってしまったらダメ。タイガーマスクの試合がいま見ても面白いのは、空中殺法がすごいだけじゃない。しっかりとした”闘い”を見せていたから。そういう意味でタイガーマスクの試合は、猪木さんの試合とは少し違うけど、新日本のストロングスタイルを体現していたと思いますよ」と語っています。
「証言 藤原敏男」の「佐山はキレたら怖い」では、日本キック史上最強とも言われている藤原が、「佐山の場合、目白ジムで身につけた蹴りと、プロレスの試合で使う蹴りをしっかり使い分けてるんだよ。相手にダメージを与える時はスネで蹴るんだけど、プロレスの試合では、当たった時に相手にダメージを与えないように足の甲で蹴っている。足の甲で蹴ると、バシーンっておとはすごいから、観客は強烈な蹴りだと思うんだけど、佐山は蹴りの力を逃がしてるんだよね。その辺がうまいなあと思ったな。で、相手が反則技や変なことをやってきた時は、プロレスの試合でもキックボクシングの蹴りでボーンとやるからね。あれは観ててわかるよ。『あっ、頭を蹴った。あれは本気でやってるな』って。(笑)誰との試合だったかな、相手の顔面をおもいっきり蹴っ飛ばしててさ。『あれ、キレてるな。完全におもいっきりやってるな』って思ったことがあった。佐山はキレたら怖いから。俺は街中でキレてるのを何回も見てるけど、あんなの警察官が10人いても敵わないよ(笑)」と語るのでした。
本書を読むと、カバー前そでにある「初代タイガーマスクは新日本プロレスの叡智、猪木イズムの結晶」という言葉の意味がよくわかります。見せるプロレスの頂点をきわめた初代タイガーマスクの根本には、猪木が追求してきたストロング・スタイルがあったのです。それにしても、タイガーマスクがあのまま引退せずに新日マットに残っていたら、プロレス界はどうなっていたでしょうか? 当然、UWFは存在せず、後の修斗も生まれなかったでしょう。ということは総合格闘技そのものが日本に根付かず、PRIDEもRIZINも生まれなかったかもしれません。歴史に「if」は禁物ですが、猪木が言う「佐山は惜しい存在」という言葉の意味も少しわかるような気がします。