No.2252 オカルト・陰謀 『カルト・オカルト』 左巻健男・鈴木エイト・藤倉善郎/編(あけび書房)

2023.06.30

『カルト・オカルト』左巻健男・鈴木エイト・藤倉善郎/編(あけび書房)をご紹介します。「忍びよるトンデモの正体」というサブタイトルがついています。

本書の帯

本書のカバー下部には「豪華執筆陣でカルト・オカルト、ニセ科学を徹底的に斬る!」「左巻健男/藤倉善郎/鈴木エイト/雨宮純/桝本輝樹/福頼宏隆/菊池聡/原田実/桑満おさむ/齋藤訓之/呼吸発電/謎水」とあります。

本書の帯の裏

カバー裏の下部には、【本書のテーマ】として、①政界に入りこむカルト集団②統一教会(統一協会)③幸福の科学④オウム真理教⑤ライフスペース⑥パナウェーブ⑦奇跡の詩人⑧法の華⑨参政党⑩科学と宗教・オカルトとカルト⑪僧侶の見たカルト・開運商法⑫”トンデモ”を信じる心のしくみ⑬江戸しぐさ⑭親学⑮TOSS⑯有機農業が内包するオカルト性⑰オカルト的な医療⑱オーリング⑲EM菌」と書かれています。

本書の「目次」は、以下のように書かれています。
「はじめに」(左巻健男)

第1部 カルト・オカルト事件の

     今とこれまで

第1章 政界に入りこむカルト集団(藤倉善郎)

第2章 反省なきカルト教団

――統一教会(統一協会)霊感商法事件(鈴木エイト)

第3章 幸福の科学のオカルト教育の実態

――幸福の科学学園と偽大学「HSU」(藤倉善郎)

第4章 オウム真理教事件

――オカルト、ニセ科学、ホンモノ科学、

  そして陰謀論の交錯(藤倉善郎)

第5章 ライフスペース事件

――ミイラ化遺体が生きている?(藤倉善郎)

第6章 パナウェーブ研究所白装束騒動

――面白おかしいテレビ報道後に

死者を出したカルト集団(藤倉善郎)

第7章 法の華三法行詐欺事件

――一説には被害総額1000億円とも(藤倉善郎)

第8章 願望が歪めた現実

――「奇跡の詩人」騒動(鈴木エイト)

第9章 参政党とオカルト・疑似科学(雨宮純)

第10章 科学と宗教・オカルトとカルト

――正しい判断と寄り添いのために(桝本輝樹)

第11章 信じることの光と影――個人史から振り返る
    カルト・開運商法問題(福賴宏隆)

第2部 トンデモを信じる心

     とトンデモ例

第1章 ”トンデモ”を信じてしまう心のしくみ

    ――メタ認知的クリティカル・

      シンキングのすすめ(菊池聡)

第2章 「江戸しぐさ」問題にみる

     科学精神の欠如(原田実)

第3章 「伝統的子育て」で発達障害が治る?

    ――親学のウソ(原田実)

第4章 オカルト・ニセ科学を教育界に持ち込んだ

    TOSS・向山洋一氏(左巻健男)

第5章 有機農業が内包するオカルト性

    ――商業と政治を巻き込む

      カウンターカルチャー(齋藤訓之)

第6章 オカルト的な医療(桑満おさむ)

第7章 オー(O)リングテストに

    医学的根拠なし(桝本輝樹)

第8章 「EM菌」は科学か宗教か

    ――万能を主張する「EM菌」の

      宗教的な側面とその変化(呼吸発電)

第9章 ニセ科学に狙われる

    マンション大規模修繕(謎水)

「はじめに」の「『カルト』とは何か」では、東京大学非常勤講師(理科教育)の左巻健男氏が「カルトという言葉は、ラテン語の『colere(耕す)』から来ています。同じ「耕す」から由来の言葉に『culture(文化)』があります。耕したりしていない自然のままに対して、人手を加えた土地の上で学問・芸術・道徳・宗教など、人間の精神の働きによる営みです。同じ語源から来た『cultus』がカルトです。これは宗教上の人間の営みで、宗教的な儀式・祭儀、ないし神々への崇拝を指していました。カルトのもともとの意味です」と説明します。

さらにカルトは狭い意味で「破壊的な集団」をも指すようになるとして、左巻氏は「そこには、世に衝撃を与えた一部のカルトの反社会的事件の続発がありました。信教の自由を守りつつ、一部のカルトの反社会的行動へどう対処したらいいのかが問題になっていたのです。たとえば、1969年、チャールズ・マンソン率いる「マンソン・ファミリー」という集団が、女優のシャロン・テイトを虐殺する事件が起こりました。マンソンは自分をキリストに見立て、秘密の儀式を行っていたのです。その10年後の1978年、南アメリカのガイアナの密林で、殺人と信徒900人以上が集団死するという、ジム・ジョーンズの人民寺院事件が起こりました。カルトが狭い意味で「破壊的な集団」を指すことは、わが国では1995年にオウム真理教(2000年アレフ、2003年アーレフ、2008年Aleph〔アレフ〕に改称)の信徒が「地下鉄サリン事件」といわれる大量無差別殺人事件などをきっかけに定着しつつあります」と述べています。

第1章「正解に入りこむカルト集団」の第1節「カルト問題は人権侵害の問題」では、ジャーナリストで「やや日刊カルト新聞」総裁の藤倉善郎氏が「カルト」とは「崇拝」「儀礼」などを示すラテン語が語源であると紹介し、「やがてキリスト教界で、キリスト教の異端的な小集団を指す言葉として使われます。アメリカの『人民寺院』がガイアナに移住し、1978年に900人以上の集団自殺事件を起こすと、アメリカでは、メディア等が社会的に危険な集団を『カルト』と呼ぶようになりました」と説明。第2節「カルト的集団と政治家の関わり」の(2)「イデオロギー批判とカルト問題は別物」では、左巻氏は「私は、たとえば日本共産党について、別団体を装った『民主青年同盟』(民青)を名乗って大学生等を勧誘する点を問題視しています。統一教会と違って、霊感商法や高額献金で相手の人生や家庭を破綻させるような深刻な結果につながっているわけではないので、統一教会のようなカルト団体と同一視はできません。とはいえ勧誘の手法に関しては、統一教会が別団体と主張する『原理研究会』(CARP)名義で勧誘するのと同じ構図です」と述べています。

(3)「幸福の科学」では、幸福の科学が2世信者たちを対象とした教育事業で、人権にかかわる問題を抱えているとして、藤倉氏は「教祖・大川隆法総裁の写真などを用いた「御本尊」を1つ100万円で信者に売ったり、大川総裁をかたどった像を300万円あるいは1500万円で信者に売ったりもしています。また最近はLGBTQ差別の色を強めており、機関誌『ザ・リバティ』(2022年5月号)では、〈LGBTQは(地獄で)釜茹でにする〉との見出しとイラストを添えた記事を掲載。同年12月号でも〈死んだら驚いた! LGBTQの真相〉と題して、似たような趣旨の特集を組んでいます。もともと自民党を支持し、自民党の特定の候補者を応援することもありましたが、2009年に独自の政治団体「幸福実現党」を結成。以降は自民党を批判しつつ、一部では選挙協力をし合うなど、個別の議員と友好的な関係を持つケースもあります」と述べています。また、第3章「幸福の科学のオカルト教育の実態 ――幸福の科学学園と偽大学『HSU』」の(1)「ゴールデン・エイジと大学不認可騒動」では、藤倉氏は「幸福の科学では、2020年に日本あるいは世界が繁栄する「ゴールデン・エイジ(黄金時代)」が訪れるはずでした。実際には新型コロナウイルス禍で世界が大きなダメージを受けていますが」と述べます。

第10章「科学と宗教・オカルトとカルト――正しい判断と寄り添いのために」の第1節「宗教と科学・オカルト」の(8)「オカルトとカルト」では、亀田医療大学・同大学院准教授(環境科学)の桝本輝樹氏が「カルトという言葉は崇拝や礼拝という意味のラテン語cultusから派生した言葉です。cultusは、文化(culture)や農耕(agriculture)の語根にも含まれている古い言葉ですね。現在ではカルトは信仰を利用して犯罪行為を行うような反社会的集団や組織を指すことが一般化しています。米国では破壊的カルト、フランスなどのヨーロッパ諸国ではセクトとも呼ばれています。フランスの反セクト法は『フランス政府の規定による社会との軋轢を生む傾向のある団体』と規定されていて、宗教団体に限定されないという特徴があります。なお、中国は政府当局によって『邪教』指定があり、6つの宗教団体が指定されています」と述べています。

第2節「戦後日本とオカルト」の(3)「主流の中に潜むもの」では、オカルト的なものがまだまだ社会に根を張っていると述べられます。学校教育でも事実に基づかないオカルト的な内容が教えられているとして、「聖徳太子」の業績、合弁花/離弁花の区別と分類、葉脈(網状脈と平行脈)と進化の関係、マズローの欲求5段階発達説などの例をあげ、桝本氏は「たとえば、マズローの欲求五段階発達説はわずか23名をサンプルとして提唱されたもので、民族性や文化の差異を織り込んでおらず、日本では適応性が低いという批判があります。そうした批判にも関わらず、看護や経営学の分野では重用されています。また、マズローがかかわるトランスパーソナル心理学はスピリチュアリティ(霊性)への傾倒が強くオカルト的である、という批判もありますが、教育時にそうした部分に言及されることはありません」と述べています。

第2部「トンデモを信じる心とトンデモ例」の第1章「”トンデモ”を信じてしまう心のしくみ――メタ認知的クリティカル・シンキングのすすめ」の(2)「トンデモを信じる心の分類」では、信州大学人文学部教授(認知心理学)の菊池聡氏が「心理学では、超常現象やオカルト、ニセ科学、など、科学的証拠に反する非合理的な信念を包括してESB(実証的根拠を欠く信念:empirically suspect belief)とも総称します。主要なESBのカテゴリには、超常信念、疑似科学信念、そして陰謀論があり、それぞれの特徴や発生強化要因、抑制手法などが広く研究されています。超常信奉とは、基本的な科学法則と矛盾したり、通常の科学知識と両立不可能な超常現象(paranormal phenomena)を信じる心です。超能力や心霊が本当に実在すれば、現在の科学教科書は大きく書き換えなければなりません」と説明しています。

ただし、こうした超常的な対象を信じると言っても、伝承や習俗、宗教的要因から信じる場合と、経験的証拠(観察や実験)にもとづいて信じる場合があるといいます。菊池氏は「たとえば同じ「霊の実在」でも、お盆にお墓参りをして亡くなった方に話しかけるのは前者で、心霊写真に霊が写ったと主張するのは後者ですね。この後者のように、一見して科学的な客観的な証拠にもとづいて科学とは言えない対象を信じるのが疑似科学信念と重なる部分です。疑似科学(pseudoscience)は、科学的な主張のように見えながら、実際には科学としての要件を満たさない主張や言説です。これは、本来、科学と非科学の違いを考える科学哲学の「境界設定問題」から検討されてきた由緒ある概念です」と述べます。この他にも、わたしが知らなかったことが多く本書には書かれており、大変勉強になりました。しかしながら、本書は横組みで、ページのレイアウトも読みにくかったです。執筆陣は良いのですが、編集のレベルが今一つで残念でした。

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