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No.2259 歴史・文明・文化 『教養としての日本酒』 友田晶子著(あさ出版)
2023.08.04
『ビジネスエリートが知っている 教養としての日本酒』友田晶子著(あさ出版)を読みました。著者は、ソムリエ、トータル飲料コンサルタント、日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)理事、一般社団法人 日本のSAKEとWINEを愛する女性の会代表理事。1200年続く家系で、友田彌五右衛門八代目当主の長女として米どころ酒どころ福井県に生まれ。ファミリーが経営する食品貿易会社に勤務。ワイン輸入販売に携わり、フランス留学を決意。現在、業界30 年以上のキャリアと女性らしい感性を活かし、酒と食に関するセミナー・イベントの企画・開催、ホテル旅館・料飲店・酒販店・輸入業者などプロ向けにコンサルティングと研修を行っているそうです。
本書の帯
カバー前そでには、「世界のビジネスエリートがこぞって楽しむ日本酒。輸出量は増え続け、国際湾コンテストには、日本酒部門が設立され、会食でも和食・日本酒が好まれている。世界中でトレンドとなっている日本酒の知識は、もはや身につけておくべき『教養』なのです」とあります。帯には、「ビジネスパーソンなら知っておきたい日本酒の歴史、知識、楽しみ方&楽しませ方」「世界が日本酒に注目している今こそ、知っておきたい教養である 伊藤忠商事元会長(現名誉理事)小林栄三氏推薦!」と書かれています。
本書の帯の裏
帯の裏には、「今や世界のビジネスエリートがこぞって楽しみ、一流企業のトップビジネスマンがこっそり学んでいる日本酒をコンサル歴30年の酒スペシャリストが解説」として、以下のように書かれています。
●株式会社せんきん「仙禽」
●新政酒造株式会社「NO.6」
●旭酒造株式会社「獺祭」
●合資会社 白木垣助商店「達磨正宗」
●株式会社豊島屋本店「金婚」
●菊正宗酒造株式会社「菊正宗」
●株式会社グランディア芳泉「女将」
●合資会社加藤吉平商店「梵」
など、蔵元の党首、社長インタビューも掲載。さらには、「日本酒地図、英語での日本酒表現も紹介」とあります。
アマゾンより
本書の「目次」は、以下の構成になっています。
「はじめに」
第1章 ビジネスパーソンは知っておきたい
日本酒の現状
コラム蔵元1
株式会社せんきん「仙禽 オーガニック ナチュール」
コラム蔵元2
新政酒造株式会社「NO.6 ナンバーシックス」
第2章 日本酒の基礎知識Ⅰ
日本酒はどうやってできるのか
コラム蔵元3
旭酒造株式会社「獺祭 磨き二割三分」
第3章 日本酒の基礎知識Ⅱ
日本酒を選ぶ
コラム蔵元4
合資会社 白木垣助商店「達磨正宗 十年古酒」
第4章 知っていると一目置かれる
日本酒の歴史
コラム蔵元5
株式会社豊島屋本店「金婚 純米吟醸 江戸酒王子」
コラム蔵元6
菊正宗酒造株式会社「超特撰 嘉宝蔵 雅」
第5章 教養人の日本酒の楽しみ方
コラム蔵元7
あわら温泉女将の会「女将」
第6章 できると思われる
日本酒のマナー&ルール
コラム蔵元8 特別対談
合資会社加藤吉平商店「梵・超吟」
「おわりに」
(付録)
日本酒について話すとき、英語ではなんと言う?
「はじめに」の「一流企業や実業家が『日本酒』に注目している」では、日本を代表する某上場企業では、海外向け超ハイエンド商品のみを扱うトップセールスパーソンのための研修を行っていることが紹介されます。著者は、「ここ数年、日本酒について学ぶ講座が設けられています。顧客である富裕層の方々と会話をするうえで、顧客のレベルに合わせた非常に幅広い知識が要求されるため、二泊三日の濃密な営業研修では、自身が取り扱う商品知識のほか、スーツ、時計、靴、万年筆、ワイン、ウイスキー、そして日本酒の基礎が組み込まれているのです」と述べます。
「日本酒の輸出が好調」では、海外で日本酒人気が高まっている理由が述べられます。まずは、2013(平成25)年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に認定されたことが大きなきっかけとなっているそうです。著者は、「世界中で和食店の出店が増加し、和食に触れる機会が増え、同時に和食と一緒に楽しむ日本酒に興味を持つ人たちが増えていったのです」と述べています。
さらに日本酒の香味のバリエーションが増え、フルーティーで華やかなタイプやクセのない軽快なタイプが登場してきたことも、人気を後押ししています。実際、ここ数年で品質のいい日本酒を置く専門店が海外で増加。美食家の集まるパリ、世界のトップビジネスパーソンが集まるニューヨークや香港などといった都市にも続々進出。「十四代」「黒龍」「獺祭」「梵」など、外国の方々や富裕層にも刺さる高級ブランドの登場がワインマニアの心さえもわしづかみにしているのです。
第1章「ビジネスパーソンは知っておきたい日本酒の現状」の「日本酒の楽しみ方が多様化している」では、ワインを知る人は教養があると認識されるのと同じように、いまや日本酒を知る人は教養人だとみなされるようになったとして、著者は「海外の文化人の間で、日本画や盆栽や日本庭園や禅や刀剣などの評価が高いことと同じです。和食を理解できる人がアカデミックだと思われるのと同様、日本酒を知らないと恥ずかしいと思われ始めている、そのことは知っておきたいものです」と述べます。
第2章「日本酒の基礎知識Ⅰ 日本酒はどうやってできるのか」の「日本酒とは」では、日本酒の呼び方について説明されます。酒税法では「日本酒」ではなく、「清酒」と呼ばれます。「清酒」はアルコールが22度(パーセント)未満の米と米麹と水を使用し、発酵させてこしたものです。(酒税法三条七号)ちなみに、こさないものを「どぶろく」といいます。また、第3章「日本酒の基礎知識Ⅱ 日本酒を選ぶ」の「日本酒独特の言葉がある」では、現在、日本酒の酒蔵は、国内だけで1370以上(参考:国税庁 清酒製造業の概況/平成30年度調査分)あり、1万種以上もの銘柄(商品)があるといわれていることが紹介されます。
第4章「知っていると一目置かれる日本酒の歴史」の「縄文人はワインを飲んでいた!?」では、米のお酒を生み出す稲作文化は弥生時代からといわれることを紹介した後、著者は「その前の縄文時代には、何を飲んでいたのでしょうか。答えはワインです。もちろん今私たちが飲んでいるワインとは違う、いわゆる果物のどぶろくのようなものです。1958(昭和33)年長野県八ヶ岳で発見された縄文遺跡から、ヤマブドウの種が付着した縄文土器が見つかり、その周辺状況から果物やそのジュースを保存していたものだろうと見られました。ジュースは自然に発酵しますから、保存していたジュースを飲んでいるうちに気持ちよくなり、酔っぱらうなんてこともあったかもしれません。その経験から人々は、だんだんと人為的にジュースを発酵させるようになり、次第に仲間で飲みかわす楽しさを知ったはずです。
「酒を『醸す』は『噛む』が由来」では、3世紀、中国で編纂された日本(倭)の生活や文化、習慣などを記した歴史文献『魏志倭人伝』には、「喪主泣シ、他人就ヒテ歌舞飲酒ス」「父子男女別無シ、人性酒ヲ嗜ム」といったお酒に関係する記述があり、その頃すでに倭の国ではお酒を飲む習慣があったことがわかります。『大隅国風土記』(713年~)は、現在の鹿児島県東部、大隅半島あたりで営まれていた習慣を書き残した生活白書ですが、ここには村の人々が米と水を口に含み、噛み砕いて(瓶や壺に)吐き出したものを一晩おいて(発酵させて、)お酒にしたという記述があります。これを「口噛み酒」というそうです。
また、「口噛み酒」は、 一条真也の映画館「君の名は。」で紹介した新海誠監督の大人気映画にも登場しています。『播磨国風土記』(713年~)には、口噛みの作業を行うのは巫女に限られると書かれていることを紹介し、著者は「まさに映画の『君の名は。』はこのことを踏襲していたわけです。酒造りの仕事の原点は女性であったともいえるわけです。同記には、干した米にカビが生え、それをもとにお酒を造ったことが書かれています。さらに、『古事記』(712年完成)には、『周の時代に開発された麹による酒造りを百済から渡来した百済人の須須許理が加無太知を伝承し、これで大御酒を造り献上した』と書かれています。この『かむたち』は『麹』のことで、この時代にはすでに米麹を使い、酒造りが行われていたことがわかります」と述べています。
「ゴジラを退治した『ヤシオリ作戦』もお酒の神話から」では、『古事記』や『日本書紀』には、お酒造りにまつわる神様がたくさん登場することが紹介されます。たとえば、お米を使ってお酒を醸したのは神吾田鹿葦津姫、酒造りを伝えたのは少彦名神です。最も知られているのは、日本酒の発祥の地ともいわれる出雲の神話で「須佐能乎命による八岐大蛇討伐」の話です。八つの首を持つ化け物大蛇「ヤマタノオロチ」の餌食になろうとしている櫛名田比売を助けるため、「スサノオノミコト」は、何回も醸しを繰り返した濃度の高いお酒「八塩折之酒(ヤシオリの酒)」を「ヤマタノオロチ」に飲ませ、泥酔しているすきに八つ裂きにして退治します。
スサノオノミコトによるヤマタノオロチ退治の神話は出雲をはじめとした全国の神楽の演目にもなっています。じつは、これも人気映画に取り入れられています。一条真也の映画館「シン・ゴジラ」で紹介した庵野秀明脚本・総監督作品映画の中で、ゴジラを倒す際に用いられた「巨大不明生物の活動凍結を目的とする血液凝固剤経口投与を主軸とした作戦」の通称が「ヤシオリ作戦」でした。著者は、「難しい言葉が早口で飛び交うセリフに、ヤシオリというワードが聞き取れます。ヤシオリがわかると、映画をより深く楽しむことができそうです」と述べています。
京都丹波、奈良、滋賀伊吹山、新潟など全国に残る「酒呑童子」の伝説は、親に捨てられた孤児が悪事を働き鬼となってしまったとか、絶世の美少年が女性に振られて、その恨みから鬼になったとか、スサノオノミコトとの戦いに敗れたヤマタノオロチが落ち延び、人間の女性に産ませた子どもだなど、諸説あります。ちなみに「酒呑童子」はお酒の名前にもなっている(ハクレイ酒造株式会社 京都)ことを紹介し、著者は一条真也の読書館『鬼滅の刃』で紹介した人気漫画(吾峠呼世晴作/2016年「週刊少年ジャンプ」で連載開始、2019年アニメ化)を彷彿とさせることを指摘しています。
「米の酒の始まりは?」では、中国より稲作が伝来した約2000年前の弥生時代から、日本酒の歴史が始まることが紹介されます。1943(昭和18)年に発見された静岡県の「登呂遺跡」は、田んぼや家々がみごとに整備された「集落」ができていたことを示しています。米の収穫の多寡が集落(村)の規模に関わり、豊かになった村には豪族が生まれ古墳文化に発展していきました。2019年ユネスコの世界文化遺産に登録された「百舌鳥・古市古墳群」も豊かな稲作文化や酒造文化があったエリアとされています。
平安時代中期の法律などを綴った『延喜式』には、酒造りに関わる記述がたくさんあるとして、著者は「『米』『麹』『水』でお酒を仕込む方法や白いにごり酒の『白酒』や灰を入れて黒くした『黒酒』、お燗で飲むこと、夏には甘く濃厚なお酒をオン・ザ・ロックで飲むなんてことまでも出てきます。今よりずっと自由でフレキシブルな製造技術や楽しみ方があったことがわかります。同じ頃、ヨーロッパではワイン造りが発展。ワインの造り手は僧侶たちが主でした。日本でも同じように僧侶たちが酒造りに関わることがありました。それが『僧坊酒』です。寺院やその敷地で醸造されたお酒で、さまざまな研究が重ねられたことによって、高品質で、高い評価を受けていたといいます」と述べます。
神に仕える人々がお酒造りを行ってきた影響は、今の生活でも色濃く残っています。たとえば、「乾杯」「献杯」は、「神様や祖先、亡くなった人への思いや敬意」を表したことが最初です。また、結婚式や建物の完成時など、人生に関わる大きな出来事の際には神様に御神酒をお捧げし、これからの幸せや安全を祈念します。著者は、「いつの時代も、神事とお酒とはともにあるといってもいいでしょう」と述べています。ちなみに、現存する日本酒メーカーでもっとも古いところは、1141(永治元)年創業の須藤本家(茨城県笠間市)です。平清盛が太政大臣になり、後鳥羽天皇が即位した頃から続いています。600年前、700年前から酒造りを行っているメーカーは多くあります。
「時代劇のよし悪しは酒の演出でわかる」では、江戸時代は、酒造りの技術開発が活発に行われ、酒造業が産業基盤として成立した時代であることが紹介されます。元禄11(1698)年には全国に2万7000場もの酒造場があったと記録されています。ちなみに、2018年は1580場ですから、いかに多かったかがわかります。18世紀に創業し、今もなお醸造を続けている蔵元は250超(2017年。焼酎の蔵元含む)あります。著者は、「江戸時代を舞台とした時代小説や映画やドラマ、舞台の時代劇などでもお酒はよく取り上げられています。それほどこの時代にはお酒が身近なものになっていたということでしょう」と述べます。
「日本酒の新たな時代の幕開け」では、米、米麹、水だけで造られた「純米酒」が、1990年代後半に注目されたことが紹介されます。お米のうま味があり、混ぜものもないピュアな点が受けたのです。著者は、「戦後のお酒文化を支えるために生まれた”お米を使わない日本酒”から50年。お酒の歴史は戻ったようです。より贅沢な『純米大吟醸』『純米吟醸』にも注目が集まります。代表的なブランドに、山形『十四代』、山口『獺祭』、福井『梵』などがあり、プレミアムSAKEとして海外でも引っ張りだことなっています」と述べています。
「日本酒にワイン擁護『テロワール』は使えるのか」では、ワインと違って、日本酒は、その土地のお米の個性を活かすことに重きを置いていないことが指摘されます。著者は、「流通が今ほど発達していない時代は、それぞれの地域のお米を使っていましたが、今は日本全国、いえ、世界中で良質の酒造好適米を仕入れ、酒造りをすることができます。さらに、日本人ならではの味覚・感性なのか、水に近いほうがいいお酒、クセのないほうがいいお酒、という嗜好があります。個性が突出したお酒は敬遠される傾向にあるため、できるだけ個性を排除し、研ぎ澄まされた味わいに価値を見出してきた日本酒に対し、ワインはまったくその逆で、個性がはっきりと明確であればあるほどよしとされます。『ワインは油絵、日本酒は墨絵』とたとえられるのもそのためです」と述べています。
第6章「できる人と思われる日本酒のマナー&ルール」の「知っておきたいお酒の注ぎ方」では、お酒を注ぐ酒器は「徳利」ということが紹介されます。口がすぼまり注ぎ口がついている形状が多く、昔はお醤油やお酢にも使われていました。大きさはいろいろありますが、よく見かけるのは一合、二合サイズが多いです。著者は、「ちなみに『御銚子』と呼ぶ人もいますが、御銚子は本来『柄』がついている形状の酒器を指します。平安時代から、宮廷の宴席やあらたまった席で使われてきました。時代とともに形や使われ方が簡素化するにつれ、明治時代以降、『徳利』と混同されるようになりました」と述べています。
また、注ぎ口がついた酒器「片口」も人気です。大きさや形状、素材はさまざまで、おしゃれ感もあります。著者は、「片口の良さは、空気に触れる面積が多く緩やかに酸化することで、お酒がまろやかに感じる点です。徳利は、両手でもってていねいにゆっくりと注ぎます。受ける方は、必ず盃を両手で持ちます。テーブルに置いたままの盃に注ぐのは『置き注ぎ』といいマナー違反とされます」と述べています。
そして、本書にはお酒の注ぎ方についても書かれています。お酒やお茶の注ぎ方「ソビバビソビ」という言葉があります。漢字では、「鼠尾馬尾鼠尾」と書きます。著者は、「字のごとく、最初はネズミの尾のように細く繊細に、中盤は馬の尾のように太く勢いよく、そして最後はまたネズミの尾のように細くという意味です。これを意識すると、上手に注ぐことができます」と説明するのでした。本書は日本酒についての幅広い知識をわかりやすく説明してくれるリーダブルな入門書でした。