No.2282 プロレス・格闘技・武道 『怪物に出会った日』 森合正範著(講談社)

2023.11.20

『怪物に出会った日』森合正範著(講談社)を読みました。「井上尚弥と闘うということ」のサブタイトルがついています。プロボクシング界のスーパースターで、現WBC・WBO世界スーパーバンタム級統一王者の井上尚弥選手が「楽しみにしていた一冊」とツイートして話題沸騰の本です。著者は、1972年、神奈川県横浜市生まれ。東京新聞運動部記者。大学時代に東京・後楽園ホールでアルバイトをし、ボクシングをはじめとした格闘技を間近で見る。卒業後、スポーツ新聞社を経て、2000年に中日新聞社入社。「東京中日スポーツ」でボクシングとロンドン五輪、「中日スポーツ」で中日ドラゴンズ、「東京新聞」でリオデジャネイロ五輪や東京五輪を担当。雑誌やインターネットサイトへの寄稿も多く、「週刊プレイボーイ」誌上では試合前に井上尚弥選手へのインタビューを行っています。著書に一条真也の読書館『力石徹のモデルになった男 天才空手家 山崎照朝』で紹介した一冊があります。

本書の帯

本書のカバー表紙には、リング上で相手に右ストレートを炸裂させる井上尚弥選手の写真が使われ、帯には「その拳は絶望の味がした。」「ナルバエス、エルナンデス、ドネア、河野公平……自らの人生を賭けて闘った男たちが見た『井上尚弥』の強さとは!?」「圧巻のスポーツノンフィクション!」と書かれています。カバー前そでには、「『やめて! 井上君だけはやめて!』夫から『井上』という名前が出た瞬間、勝手に口が動いていた。『これはチャンスなんだ』河野の胸の内は『井上戦』で決まっていた」と書かれています。また、帯の裏には「本書に登場するボクサー 一覧」があります。


本書の帯の裏

アマゾンの内容紹介には、「『みんな、井上と闘うなら今しかない。来年、再来年になったらもっと化け物になる。歯が立たなくなるぞ』2013年4月、井上尚弥のプロ3戦目の相手を務めた佐野友樹はそう叫んだ。それからわずか1年半、世界王座を計27度防衛し続けてきたアルゼンチンの英雄オマール・ナルバエスは、プロアマ通じて150戦目で初めてダウンを喫し2ラウンドで敗れた。『井上と私の間に大きな差を感じたんだよ……』2016年、井上戦を決意した元世界王者・河野公平の妻は『井上君だけはやめて!』と夫に懇願した。WBSS決勝でフルラウンドの死闘の末に敗れたドネアは『次は勝てる』と言って臨んだ3年後の再戦で、2ラウンドKOされて散った。バンタム級で史上初となる4団体統一を果たし、スーパーバンタム級初戦となったフルトン戦で2団体のベルトを獲得。2023年12月26日に4団体統一戦を控えた『モンスター』の歩みを、拳を交えたボクサーたちが自らの人生を振り返りながら語る。強く、儚く、真っ直ぐな男たちが織りなす圧巻のスポーツノンフィクション」

本書の「目次」は、以下の構成になっています。
「プロローグ」
 第一章 「怪物」前夜(佐野友樹)
 第二章 日本ライトフライ級王座戦(田口良一)
 第三章 世界への挑戦(アドリアン・エルナンデス)
 第四章 伝説の始まり(オマール・ナルバエス)
 第五章 進化し続ける怪物(黒田雅之)
 第六章 一年ぶりの復帰戦(ワルリト・パレナス)
 第七章 プロ十戦目、十二ラウンドの攻防(ダビド・カルモ)
 第八章 日本人同士の新旧世界王者対決(河野公平)
 第九章 ラスベガス初上陸(ジェイソン・モロニー)
 第十章 WBSS優勝とPFP1位(ノニト・ドネア)
第十一章 怪物が生んだもの(ナルバエス・ジュニア)
「エピローグ」

「プロローグ」では、2018年10月7日、ボクシングのバンタム級最強を決めるトーナメント「ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)」の1回戦であるとともに、WBA世界バンタム級タイトルマッチ、王者の井上尚弥と元世界王者で挑戦者ファンカルロス・パヤノ戦が横浜アリーナで行われたことが紹介されます。試合は、70秒で井上がパヤノをKOしました。日本人選手の世界戦最速勝利記録でしたが、著者は「凄い試合を見た。だが、すぐに恐怖が襲ってくる。伝えられるのだろうか――。井上の試合後はいつもそうだった」と述べます。

「怪物」の異名にふさわしい圧倒的なパフォーマンスを目の当たりにし、興奮しながら試合を見た著者ですが、試合が終わった途端に不安が募ってくるというのです。「日本ボクシング史上最高傑作」といわれる井上が持つ凄みを余すところなく表現できるのだろうかという不安です。著者は、「世界タイトルマッチは高度な技術戦であり、紙一重の闘いだ。しかし、井上の力量が突出しているあまり、『咬ませ犬』と闘ったように書いていないだろうか。締め切り時間が迫ってくる。焦る。背中を冷たい汗が流れた。試合後の記者会見が始まった。井上の声が右から左に流れていく。頭に入ってこない。私は明らかにこの試合を整理できていない。何をどう伝えていいのか、分からなかった」と述べます。

そして、著者は井上と対戦した選手を取材していくことを思いつくのでした。対戦相手と一緒に試合のビデオを見て、のとき、どう感じたのか、何を思ったのかを聞いていくのです。「リング上で体感した井上の強さを話し手もらう。拳を交えた者にしか分からないことがあるはずだ。経験談を聴けば、間違いなくこれまでより井上の強さに迫れるだろう」という著者でしたが、取材相手は引退した選手に限りました。「井上戦の敗戦を糧に、さらなる高みを目指している現役ボクサーに話を聞くわけにはいかない。リングを去った者にしか問うてはいけない事柄だ。それが私の最低限の礼儀だった」と思ったからです。

第一章「『怪物』前夜」では、2013年4月16日に後楽園ホールで、プロ3戦目の井上が拳を交え、28分9秒という長い時間を闘った佐野友樹(松田ジム)の以下の井上評が紹介されます。
「闘っているとわかるんですよ。人間性が見えるというのかな。井上君はパワー、スピード、距離感、技術、柔軟性、目の良さ……全部素晴らしかった。でも、一番凄いのは心だと思う。あのとき、20再ですよね。あれだけ注目されても周りのことは一切気にならない。格好をつけることもしない。自然体なんですよね。落ち着いているんです。それって実はすごく難しいことだと思う。あんなふうには誰もできないですよ」

また、引退後は“おくりびと”と呼ばれる納棺師になったという佐野は、井上の凄さについて、「心技体でいうと、技と体が凄いのに心が弱いボクサーって多いんです。井上君は試合中に心の揺らぎがなかった。どんなときでも平然としていた。心がしっかりしているから、あれだけのパフォーマンスができる。僕は闘ってみて、ハートがモンスターだと思いました」「強い心から全部作り上げていると思うんです。日頃の練習から自分にすごく厳しい課題を課して、そこをちゃんと乗り越えて。僕はそれができなかったので……。井上君は日々、自分と闘って克っていると思うんです。メンタルが強いから、自分に克てるんです」と語るのでした。

第二章「日本ライトフライ級王座戦」では、2013年8月25日に神奈川・スカイアリーナ座間で行われた日本ライトフライ級王座戦で王者として井上と闘った田口良一(ワタナベジム)が、井上について、「全部がハイレベルすぎるんです。ディフェンス、オフェンス、パンチの当て勘、スピード、フィジカル……戦力のグラフを作るとしたら、全部の項目が10で大きい。7とか8がないんです。すべてが必殺技くらいのレベル。試合の後、スパーリングしたじゃないですか。『ジャブがハンマーみたいだった』って僕は言いましたよね。でも、本当はよく分からない。だって、あんなパンチを経験したことがないから、喩えようがない。他にそういう人がいないんですよ」と語っています。

第三章「世界への挑戦」では、2014年4月6日に東京・大田区総合体育館で行われたWBC世界ライトフライ級王座戦で王者として井上と闘ったアドリアン・エルナンデス(メキシコ)が井上戦を振り返って、「井上は今考えると素晴らしいというか、凄まじいボクサーだよな。100%、文句なしのチャンピオンだ。それに日本という綺麗な国、規律正しい国にふさわしいチャンピオンだと思う」と語っています。また、エルナンデスはまるでジョークを言うように「井上のパンチが僕のことを、遥か彼方に追いやったんだ」と務めて明るく語ったそうです。著者は、「決して冗談には聞こえない。エルナンデスはいまだ、あの敗戦を消化しきれていない。立ち直れていないのだ」と書いています。

第四章「伝説の始まり」では、2014年12月30日に東京体育館で行われたWBO世界スーパーフライ級王座戦で王者として井上と闘ったオマール・ナルバエス(アルゼンチン)が取り上げられます。この試合、2ラウンド3分1秒、KO勝で井上が新王者になりました。井上はプロ8戦目、世界最短で2階級制覇チャンピオンになったのです。しかも、ライトフライ級から一気に2階級を上げての快挙でした。著者は、「不倒のオマールが倒されたことによって、井上が怪物であることが証明された。自らが4度ダウンするシーンが動画サイトにアップされ、世界を駆け巡った。2014年12月30日、井上尚弥が『モンスター』になった日。一夜明けると、『ナオヤ・イノウエ』は世界中のボクシング関係者に知れ渡っていた」と書いています。

WBOインターナショナル王座を獲得したオマールには、井上と再戦できる契約があり、実現が確実視されていました。しかし、ナルバエス陣営は再戦の契約を行使しませんでした。その真相について、オマールは「もう実力的に井上に勝つのは不可能だと判断したんだ。再戦をしたとして自分は40歳。井上には勢いがあるし、さらに差がついている。初戦よりも酷い負け方をするだろう。だから自分の中で利マッチは考えられなかった」と語ります。また、オマールは「1つ残念なことは、メディアは井上がリングで繰り広げていることをいとも簡単にやっているように扱ってしまうことだ。でも、決して簡単ではない、ということを分かってほしいんだ」とも訴えました。それを聴いた著者は「胸をえぐられるようだった。私が言われているようだった」と書いています。

第五章「進化し続ける怪物」では、井上との対戦経験こそないものの、井上の公開プロテストの相手を務め、井上と最も多くのスパーリングを行った黒田雅之(川崎新田ジム)が取り上げられます。なんと計150ラウンド以上も井上とスパーリングしたという黒田ですが、「今のボクサー、スポーツ選手はハングリー精神がないと言われるじゃないですか。でも、彼はすごくハングリー。強くなることへの『飢え』っていうんですかね。ものすごく感じました。現役選手の誰よりもあると思います。プロとしての向上心や一番になる気持ちがすごく強い。それはボクシングを辞めたとしても生きるうえで必要な精神だと思う詩、僕もずっと持ち続けたいと思います」と語りました。その表情は、何か吹っ切れたような晴れやかなものだったとか。

第六章「一年ぶりの復帰戦」では、2015年12月29日に東京・有明コロシアムで行われたWBO世界スーパーフライ級王座初防衛戦が取り上げられます。相手はワルリト・パレナス(フィリピン)でしたが、王者の井上が2ラウンド1分20秒にTKO勝ちを収めます。現役生活を振り返ったとき、井上戦は分岐点であり、勲章にもなっているというパレナスは「私にとって大きな栄誉。彼と闘えたことが幸せ。井上はとても強くて人気がある。彼と闘ったことによって、多くの人に知ってもらえたからね。マニー・パッキャオはフィリピンだけでなく世界でオンリーワン。だけど、もしかしたらナオヤ・イノウエも同じようになるかもしれない」と語っています。

このパレナスの発言について、著者は、「井上尚弥の凄さ。それは敗者があまりの強さに脱帽し、拳を交えたことに感謝し、誇りにさえ思うことではないか。そして真のチャンピオンは闘った相手に恩恵をもたらし、幸せにする」と書いています。パレナスは井上戦のファイトマネーで家を建て、車を買い、家族、親類を養ったといいます。「井上と闘った男」として知名度も上がりました。たとえ敗れようが、井上との試合はパレナスにとって人生の幸福への道を拓いたのです。ただ、ときどきパレナスの頭によぎることがあるそうで、「もし、彼が同じ時代にいなければ……。もしくは彼の怪我がもう少しだけ長引いたとしたら、私が世界チャンピオンになっていただろうね」と冗談めかして語ったそうです。井上と同じ時代に生まれ、同じ階級だったがゆえに、パレナスは頂点までたどり着けなかったのです。

第七章「プロ十戦目、十二ラウンドの攻防」では、2016年5月8日に有明コロシアムで行われたWBO世界スーパーフライ級王座2度目の防衛戦が取り上げられます。相手はダビド・カルモナ(メキシコ)で、12ラウンドを闘い抜いた末に、井上が判定勝ちで防衛に成功しました。井上戦を境に変わったというカルモナは、「ボクサーである自分自身に対するケアが足りなくなっていったんだ。実際のところお目標を失ってしまった。ターゲットを失った。正直に話すと、井上戦がボクシングを最優先した最後の試合だよ。あれ以降はお金の必要にかられて闘って、それで負けているというのが真相だね」と語りました。彼は、井上とフルラウンド闘ったことによって、充足感を得てしまったのです。到達すべきは世界チャンピオンだったはずが、「世界を驚かせた。井上とやりきった」と満足してしまったのでした。

第八章「日本人同士の新旧世界王者対決」では、2016年12月30日に有明コロシアムで行われたWBO世界スーパーフライ級王座4度目の防衛戦が取り上げられます。相手は、河野公平(ワタナベジム)でした。井上が、6ラウンド1分1秒、TKO勝ちしています。「井上君は全部が理想的なんですよね」という河野は、「今までたくさんの世界王者とやってきたけど、スピードは一番、パンチも一番。パワー、でフェンス、フットワーク、リズムもいい。全部がバーンと抜けている。ふつうはパンチがうまい人はディフェンスが悪かったり、どこか欠けている部分がある。みんな井上君みたいな動きをしたい。僕だってそうしたい。でも、できないから今のスタイルになっている、だからボクサーの理想なんですよ」と語っています。

第九章「ラスベガス初上陸」では、2020年10月31日に米ラスベガス・MGMグランド・カンファレンスセンターで行われたWBA世界バンタム級王座4度目、IBF世界バンタム級王座2度目の防衛戦が取り上げられます。相手はジェイソン・モロニ―(オーストラリア)で、7ラウンド2分59秒に井上がKO勝ちを収めました。7ラウンドの残り10秒を告げる拍子木が鳴り、モロニ―は「危険を冒してでもいこう。攻めないと勝てないんだ」と意を決したそうです。左ジャブを打って、右ストレートを繰り出そうと、モーションに入った瞬間、彼は崩れ落ちました。右のカウンターを浴びたのです。彼は「まったく見えなかったんだ。何か引き金を引いて打たれたように、とても素早く、パーフェクトなタイミングだったんだろうな、だって、井上はパンチを打つしぐさすら見せなかったんだから。信じられないスピード、パワー、絶妙なタイミングだった」と回想しています。

第十章「WBSS優勝とPFP一位」では、バンタム級最強とされたノニト・ドネア(フィリピン)との2度にわたる熱戦が取り上げられます。第1戦は2019年11月7日、第2戦は2022年6月7日で、場所はともに埼玉・さいたまスーパーアリーナでした。第1戦は12ラウンド闘って判定勝ち。2ラウンド1分24秒にTKO勝ちした第2戦の結果、井上はWBA・IBF/WBC世界バンタム級王座を統一するという偉業を達成しました。試合後のドネアは涙を流して、チーム・ドネアのメンバーに「みんな、ありがとう」と感謝を伝えたそうです。試合から数日後、井上は米国の老舗専門誌「ザ・リング」の全階級を通じた最強ランキング「パウンド・フォー・パウンド(PFP)」で日本人初の1位となりました。

大橋ジムの大橋会長は、「生きている間に日本人のPFP1位を見られるとは思っていなかった。正直、驚いている」とコメントしています。「ザ・リング」のPFPは1989年から導入され、過去の1位には、マイク・タイソン、フリオ・セサール・チャベス、オスカー・デラホーヤ、ロイ・ジョーンズ、フロイド・メイウェザー、マニー・パッキャオ、ゲンジナー・ゴロフキン、ワシル・ロマチェンコ、サウル「カネロ」アルバレスらボクシング史に残る世界のスーパースターが名を連ねています。軽量級ではローマン・ゴンザレスしか成し遂げていない偉業であり、アジア勢ではパッキャオに続く快挙でした。井上はツイッターを更新し、「日本人がこれまで誰も辿り着けなかった場所まで来た」と喜びを表現。著者は、「文字通り、世界1位の評価を得た。階級の枠を超え、世界中の全ボクサーの中で『最強』の座を手にした」と書いています。

「エピローグ」では、「ボクシングを変えた男」として、2023年7月25日、WBC/WBO世界スーパーバンタム級タイトルマッチで、挑戦者の井上尚弥が2団体統一王者スティーブン・フルトンから8回TKO勝利をおさめ、2本のベルトを巻くとともに、世界4階級制覇を成し遂げたことが紹介されます。著者は、「プロに入り、最も難敵と思われたフルトンに対し、第1ラウンドから相手との距離感を把握し、王者が得意なジャブの差し合いで上回った。スピードで、パワーで、頭脳で圧倒し、左のボディージャブで腹を意識させてから顔面への右ストレート。相手がよろめいた瞬間、拳に体重のすべてを乗せた左フック。立ち上がった王者に連打を浴びせ、試合を終わらせた。階級を上げたスーパーバンタム級初戦にもかかわらず、衝撃のKOシーンだった」と書いています。

25戦全勝22KO。毎試合のように圧倒的な強さを示し、想像をはるかに上回る勝ち方で、井上は見ている者の度肝を抜きます。ボクシングは実はすごく分かりづらい競技ですが、井上の場合、試合を観れば一般人にも強さが伝わります。血のデルボクシングはスポンサー度がつきにくいとされていますが、彼の場合は「NTTドコモ・プレゼンツ」とトップ企業が興行の冠になっています。井上は、ボクシングそのものを変えたのです。しかし、彼の強さを表現することは難しいです。著者は、「どうしたら井上の強さを紐解けるのか。本人に聞くのが一番だろう。だが、井上は終わった試合についてあまり多くを語らなかった。相手の評価もしない。あくまで焦点は現在の自分自身にあり、常に前を向いている。過去よりも今、次を意識する」と書いています。もちろん、井上は試合での攻防やフィニッシュシーンなど井上自身に関することは丁寧に話します。しかし、突き詰めていくと「あれはもう感覚なんですよね」と「感覚」という言葉を多く用いるそうです。

著者は、「最後の部分で言語化できないところに行き着く。井上にしか分からないリング上の世界があるのだろう」と述べます。一方、井上敗れた対戦相手の方は饒舌です。何よりも彼らの記憶力には驚くべきものがあります。著者は、井上と闘った佐野に電話をかけ、「なぜ、井上と闘ったボクサーはあそこまではっきりと試合を記憶しているのか」と質問したそうです。すると、佐野の答えは「僕が思うに、命懸けで闘ったからじゃないですか。プロアマ通じて100試合近くやっていますけど、正直言って覚えていない試合のほうが多いんです。井上君と闘って燃え尽きたボクサーもいるだろうし、やりきれなかった人もいると思う。だけど、リング上で体感する井上君は特別で、一瞬一瞬が命懸けになる。もうね、本当に一瞬一瞬なんですよ。だから、しっかり覚えているんじゃないですかね」と誇らしげな口調で語ったそうです。

正直に告白すると、わたしはこれまで井上尚弥の試合をリアルタイムでTV観戦したことがありませんでした。格闘技には多大な関心を持ち、ボクシングにもそれなりに興味は持っているのですが、重量級にしか興味がないのです。ですから、ブログ「村田諒太はいい!」ブログ「村田線は無効試合にすべし!」ブログ「やったぜ、村田諒太!」ブログ「よくやった、村田!」で紹介したように、日本人ボクサーでもミドル級の村田諒太の試合はよく見ています。軽量級にはまったく興味がなかったので井上尚弥はノーマークでしたが、本書を読んで考えが一変しました。PFP1位という、階級を超えた最強ボクサーの魅力にノックアウトされました。これからは、全力で井上尚弥を応援します。今年の12月26日に有明アリーナで行われるWBA&IBF世界同級王者マーロン・タパレス(フィリピン)との4冠統一戦が楽しみでなりません!

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