No.2363 グリーフケア | 冠婚葬祭 『愛する人を亡くした人へ』 一条真也著(PHP文庫)

2024.11.03

父の四十九日を迎えた翌日、自宅にPHP研究所から小包が届きました。開封すると、『愛する人を亡くした人へ』 (PHP文庫)の見本が10冊入っていました。「悲しみに寄りそう15通の手紙」というサブタイトルがついています。118冊目の一条本となりますが、現在のわたしに最も必要な本がジャストタイムで届きました!

愛する人を亡くした人へ』 (PHP文庫)

本書の帯

カバー表紙には、美しい夕暮れの空に下弦の月が浮かんでいる写真が使われ、帯には「本書を原案とした映画がついに公開」「人はどう悲しみと向き合えばいいのか――」「解説:町田そのこ(作家)」「2025年1月17日(金(新宿ピカデリー他 全国公開)「【主演】坂東龍沙汰/西野七瀬」「映画『君の忘れ方』」とあります。

本書の帯の裏

カバー裏表紙には「愛する人の死に直面した人の心に、やさしく寄り添う、現代人のための心の書」と書かれ、帯の裏には、「死は決して不幸な出来事ではありません。愛する人が亡くなったことにも意味があり、あなたが残されたことにも意味があります。これから、わたしがお話しすることは、亡くなられた人々からのメッセージだと思って下さい。これから何夜かにわたってお届けする、わたしの手紙を最後まで読まれたあなたはきっと死の本当の姿について理解されるはずです。そして、おだやかな悲しみを抱きつつも、亡くなられた人の分まで生きていくという気持ちになってくれることを信じています」(本書「第一信」より抜粋)と書かれています。

本書の「目次」は、以下のようになっています。
第一信 別れ◆愛する人を亡くすということ
第二信 儀式◆かたちには「ちから」があります
第三信 自然◆あなたのすぐそばにいます
第四信 いのち◆永遠につながっています
第五信 受容◆死は不幸ではありません
第六信 死の体験◆どこまでも自由です
第七信 悲しみ◆かならず立ち直れます
第八信 癒し◆愛する人が望んでいます
第九信 学び◆得るものがあります
第十信 愛◆もっとも価値あるものです
第十一信 時間◆人間がつくったものです
第十二信 あの世◆平和に暮らしています
第十三信 生まれ変わり◆もう一度、会えます
第十四信 記憶◆思い出してください
第十五信 再生のシンボル◆月を見上げてください
「おわりに」
「文庫版おわりに」
「解説ーー愛する人を喪う怖さに耐えられないのだ」
町田そのこ

巻頭の言葉

本書の巻頭には、以下のように書かれています。
「あなたは、愛する人を亡くされました。
さぞ、深い悲しみに沈んでおられることでしょう。
今は、夜。空には月のかけらもなく、真っ暗です。
あなたの心も、この夜空のように漆黒の闇に包まれているのでしょうね。わたしは、これから毎晩、あなたに短い手紙をお出ししようと思います。短いけれども、とても大事なことを、心を込めて書きますので、どうか、お読みくださいね。最後まで読み終わったとき、あなたの心に少しでも光が射していることを願っています」

わたしは、冠婚葬祭の会社を経営しています。本社はセレモニーホールも兼ねており、そこでは年間じつに数千件の葬儀が行なわれています。そのような場所にいるわけですから、わたしは毎日のように、多くの「愛する人を亡くした人」たちにお会いしています。 その中には、涙が止まらない方や、気の毒なほど気落ちしている方、健康を害するくらいに悲しみにひたっている方もたくさんいます。亡くなった人の後を追って自死するかもしれないと心配してしまう方もいます。

愛する人を亡くした人は何を失うのか?

「愛する人」と一言でいっても、家族や恋人や親友など、いろいろあります。わたしは、親御さんを亡くした人、御主人や奥さん、つまり配偶者を亡くした人、お子さんを亡くした人、そして恋人や友人や知人を亡くした人が、それぞれ違ったものを失い、違ったかたちの悲しみを抱えていることに気づきました。それらの人々は、何を失ったのでしょうか。それは、

親を亡くした人は、過去を失う。
配偶者を亡くした人は、現在を失う。
子を亡くした人は、未来を失う。
恋人・友人・知人を亡くした人は、
自分の一部を失う。

ということだと思います。そういった、さまざまなものを失った方々とお話するうちに、愛する人を亡くした人へのメッセージを手紙として書くことを思いつきました。現実に悲しみの極限で苦しんでおられる方々の心が少しでも軽くなるお手伝いをしたかったのです。

この「親を亡くした人は、過去を失う。配偶者を亡くした人は、現在を失う。子を亡くした人は、未来を失う。恋人・友人・知人を亡くした人は、自分の一部を失う」という言葉は有名になりましたが、これはユダヤ教の聖職者でありグリーフケア・カウンセラーでもあるアール・A・グロルマンが著者『愛する人を亡くした時』(春秋社)で述べた「愛児を失うと親は人生の希望を奪われる。配偶者が亡くなると、共に生きていくべき現在を失う。友人が亡くなると、人は自分の一部を失う。親が亡くなると、人は過去を失う」という言葉をわたしなりにアレンジしました。

父の四十九日の翌日、見本が届きました

愛する人を亡くした人の悲しみを軽くするため、わたしは古今東西の宗教、哲学、文学、心理学、神秘学などに広く目を配り、すべての人にとって当てはまりそうな、普遍的な知恵を求めました。そのうえで、わたし自身の考えを述べてあります。わたしは、若い頃からずっと「死」について考えてきました。「死」について考え続けてきたなどというと、なんだか陰気な死神のような人間だと思われるかもしれません。もちろん、「死」よりも関心のあるテーマはあります。それは、「幸福」です。

物心ついたときから、わたしは人間の「幸福」というものに強い関心がありました。学生のときには、いわゆる幸福論のたぐいを読みあさりました。それこそ、本のタイトルや内容に少しでも「幸福」の文字を見つければ、どんな本でもむさぼるように読みました。そして、わたしは、こう考えました。政治、経済、法律、道徳、哲学、芸術、宗教、教育、医学、自然科学…人類が生み、育んできた営みはたくさんある。では、そういった偉大な営みが何のために存在するのかというと、その目的は「人間を幸福にするため」という一点に集約される。さらには、その人間の幸福について考え抜いた結果、その根底には「死」というものが厳然として在ることを思い知りました。

そこで、わたしが、どうしても気になったことがありました。それは、日本では、人が亡くなったときに「不幸があった」と人々が言うことでした。わたしたちは、みな、必ず死にます。死なない人間はいません。いわば、わたしたちは「死」を未来として生きているわけです。その未来が「不幸」であるということは、必ず敗北が待っている負け戦に出ていくようなものです。わたしたちの人生とは、最初から負け戦なのでしょうか。

死は不幸ではありません!

どんな素晴らしい生き方をしても、どんなに幸福感を感じながら生きても、最後には不幸になるのでしょうか?
あの、あなたのかけがえのない愛する人は、不幸なまま、あなたの目の前から消えてしまったのでしょうか。亡くなった人は「負け組み」で、生き残った人たちは「勝ち組」ですか。そんな馬鹿な話はないと思いませんか。わたしは、「死」を「不幸」とは絶対に呼びたくありません。なぜなら、そう呼んだ瞬間、わたしは将来かならず不幸になるからです。

死は決して不幸な出来事ではありません。
愛する人が亡くなったことにも意味があり、あなたが残されたことにも意味があります。15夜にわたってお届けする、わたしの手紙を最後まで読まれたあなたは、きっと死の正体について理解されるはずです。そして、おだやかな悲しみを抱きつつも、亡くなられた人のぶんまで生きていくという気持ちになってくれることを信じています。それは、何よりも、あなたの亡くした愛する人がもっとも願っていることなのです。

左上の月が満ち欠けします

この本には、じつは仕掛けがあります。左ページの上に月のイラストが描かれているのですが、それが新月の状態から15日間で満月へと変化するのです。いわゆるパラパラ漫画のような仕様にしました。死別の悲しみを癒すという内容の本でありながら、さりげない遊び心が隠されていることには、単行本を購入された多くの読者の方々からご好評をいただきました。今回の文庫版でも踏襲されていて嬉しいです。

「おわりに」には、「もうお気づきだと思いますが、十五通の手紙は、月の満ち欠けに対応しています。最初の手紙は新月の、夜空が真っ暗なときにお渡ししました。そして、最後の手紙は満月の、やわらかな光が夜空を照らしているときにお渡ししました。しかし、きれいな満月も明日からはまた欠けはじめます。だんだん欠けていって、ついには消えてしまいます。そして、いつかまた、新たに生まれ、満月をめざして満ちてゆくのです。月は死に、また、よみがえる。人も、まったく同じことだということがおわかりいただけたでしょうか」と書かれています。

「文庫版おわりに」

「文庫版おわりに」には、以下のように書かれています。
「2024年の9月20日、父が行年90歳で旅立ちました。『死は不幸ではない』と言い続けてきたわたしですが、不幸ではないにしろ、最も親しい存在である「親」が亡くなるというのはやはり寂しいです。その寂しさはけっして不幸ではありませんが、心の奥底に残るものです。
父の通夜と葬儀を終えた翌日、本書の校正ゲラが届きました。17年ぶりにじっくりと読み返しました。自分で書いた本ではありますが、わたしの心にしっかりと寄り添ってくれました。本書を書いて良かったと心底思いました。
本書はグリーフケアの書です。死別の悲嘆に寄り添うグリーフケアは、わたしの人生と仕事におけるメインテーマの1つです。経営する株式会社サンレーでは、2010年から葬儀後の遺族の方々のグリーフケア・サポートに積極的に取り組んできました。副会長を務めた一般社団法人 全日本冠婚葬祭互助協会では、グリーフケアPTの座長としてグリーフケア士の資格認定制度を立ち上げた。現在は、同制度を運営管理する一般財団法人 冠婚葬祭文化振興財団の理事長を務めています。2018年からは、上智大学グリーフケア研究所の客員教授も務めました。悲嘆の現場にいると、地縁でも血縁でもない、新しい「縁」が生まれていることを感じます。悲嘆による人的ネットワークとしての新しい縁です。これを、わたしは『悲縁』と呼んでいます。グリーフケアの時代の訪れを感じます」

巻末に書かれたメッセージ

そして、巻末には、こう書かれています。
「死別はたしかに辛く悲しい体験ですが、
その別れは永遠のものではありません。
あなたは、また愛する人に会えるのです。
風や光や雨や雪や星として会える。
夢で会える。
あの世で会える。
生まれ変わって会える。そして、月で会える。
――かならず再会できるのです」

アマゾンより

解説を書いて下さった町田そのこ氏と

そして、本書には本屋大賞作家である町田そのこ氏が「解説」を書いて下さいました。町田そのこ氏は、現代日本を代表する人気作家です。映画化もされた一条真也の読書館『52ヘルツのクジラたち』で紹介した名作で本屋大賞を受賞。その他、一条真也の読書館『ぎょらん』や『夜明けのはざま』で紹介した葬儀小説の大傑作をはじめ多くのベストセラーがあります。「私は、死が怖い。」から始まる解説は、まさに珠玉の死生観エッセイとなっています。わたしは最初に読ませていただいたとき、魂が震えるほど感動しました。ここでは紹介いたしませんので、ぜひ、本書を手に取ってご確認下さい。じつは今日、町田氏からLINEが届き、そこには「ブログで、お父様の四十九日法要が終わられたと拝見しました。素晴らしいお人柄の方だったのだろうなと拝察いたします。本日、『愛する人を亡くした人へ』の見本をちょうだいいたしました。人々を癒す作品に関わらせていただきましたこと、改めてお礼申し上げます。長く読み継がれていく本だと思います」と書かれていました。

ヤフーニュースより

また、本書を原案とした映画「君の忘れ方」が来年1月17日に全国公開されます。本作で初めての映画単独主演を務めるのは、若⼿実⼒派俳優として振り幅の⼤きい演技で存在感を発揮している坂東⿓汰さん。映画、ドラマ、CM、舞台と⼋⾯六臂の活躍をみせる⻄野七瀬さんがヒロインを演じます。いま映画界で最も旬な2人ですが、わたしも恥ずかしながら、フューネラル・ディレクター役で出演しています。こちらも、ぜひご鑑賞下さい!

アマゾンより

愛する人を亡くした人へ』 (PHP文庫)は、11月6日に全国発売(一部の都市部は先行発売)されます。コンパクトなのでジャケットやコートのポケットにも入りますので、ぜひお求めの上、ご一読下さい!

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