- 書庫A
- 書庫B
- 書庫C
- 書庫D
No.0344 ホラー・ファンタジー 『屍の聲』 坂東眞砂子著(集英社文庫)
2011.06.05
『屍の聲』坂東眞砂子著(集英社文庫)を読みました。
『死国』『狗神』『蛇鏡』『蟲』『桃色浄土』『桜雨』 といった長編小説に続く本書は、著者初の短編集です。これまでの長編と同じく、因習としがらみの中で生きる人々の心の闇に巣喰う情念を描き、恐怖の原型のようなものを浮き彫りにしています。
濃密な風土を背景に描く、恐怖の原型
本書に収録されている作品は、以下の通りです。
痴呆して溺れ死んだ祖母が通夜の席で甦る表題作「屍の聲」。
妊娠している女性にとっての最大の恐怖を描く「猿祈願」。
長年連れ添った夫婦の本心をドラマティックに綴る「残り火」。
異性に対して奔放な妻への疑念が夫を襲うサスペンス「盛夏の毒」。
母ひとり子ひとりの環境に育つ息子の妄想の物語である「雪蒲団」。
そして、子どもを産めずに病で死にゆく嫁の苦悩を描いた「正月女」。
いずれの小説も濃密な風土を背景に描かれており、そこでは「血縁」や「地縁」のネガティブな側面が相変わらず強調されています。
こんな小説を読めば、読者は「有縁社会ほど怖いものはない!」と思うかもしれません。
もちろん、わたしは「血縁」と「地縁」の再生をめざし、新しい「有縁社会」づくりをたくらむ人間ですが、本書は面白く読めました。人間の記憶の底に沈む畏怖の感情を呼び起こす作品ばかりで、228ページを2時間ほどで一気に読みました。
途中で読書が中断できない物語を次々に書き上げる著者の筆力には感服します。
まるで、読む「カッパえびせん」で、「やめられない、とまらない」という感じなのです。
いずれの作品にも共通しているのは、物語の情景がビジュアルで浮かびやすいところ。
ある意味で「映像的」でもあり、「マンガの原作」のようでもあります。
著者の才能は、最初に作家の高橋克彦氏が発見しました。第1回ホラー小説大賞の選考で唯一、坂東眞砂子を評価した審査員が高橋氏だったのです。
わたしは高橋氏のホラー小説もすべて読んでいますが、特に本書のようなホラー短編集においては、高橋克彦氏と著者の作品はよく似ています。
おそらくは、著者が高橋作品の影響を受けたのではないでしょうか。ちなみに高橋克彦の短篇集では、『悪魔のトリル』『私の骨』『星の塔』などがおススメです。