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No.0589 コミュニケーション 『SQ ””かかわり””の知能指数』 鈴木謙介著(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
2012.04.30
『SQ ”かかわり”の知能指数』鈴木謙介著(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を読みました。ダニエル・ゴールマン博士の著書『SQ 生きかたの知能指数』の内容を入門書的にわかりやすく説明しています。著者は1976年福岡生まれの社会学者、TBSラジオ「文化系トークラジオLife」、NHK「青春リアル」でメインパーソナリティを務め、若年層の圧倒的支持を集めているとか。
本書の帯には、「『IQ(知能指数)』『EQ(こころの知能指数)』から『SQ(かかわりの知能指数)』の時代へ!」というキャッチコピーが書かれています。続いて、「なぜ、若者たちはお金より人の役に立つ仕事を望むのか?」「なぜ、女性たちは高級外車よりエコカーを”カッコいい”と思うのか?」「なぜ、父親たちは郊外のマイホームより職場の近くに住むことを望むのか?」といった疑問が並べられています。さらには、縦書きで「気鋭の社会学者が説く、21世紀、日本人の『新しい幸せのかたち』」と書かれています。また表紙カバーの折り返しには、以下のように「SQ」4つのポイントが示されています。
1.献=「他者への貢献」
2.広=「広範囲で協力」
3.心=「モノよりも心」
4.次=「次世代志向」
そして、この4つはいずれも「新しい幸せ」をめざしており、これらを支えるものとして「わが身を犠牲にするのではなく、お互いに協力関係を築きたいと考える」基礎的態度があげられています。
本書の「目次」は、次のようになっています。
「まえがき」
第1章:幸せの秘密はSQにあり~自己中な人ほど不幸せ
1-1.大事なのは「絆」よりも「縁」
1-2.「かかわり」への意欲が幸せを左右する
1-3.SQの高い行動とはどのようなものか
第2章:曲がり角にきた「ゆたかな社会」~ポスト黄金時代を生きる
2-1.もう二度と「黄金時代」は来ない
2-2.お金で幸せを買う時代の終わり
2-3.若者は個室からジモトを目指す
第3章:社会はこうして再生する~SQ社会のコミュニティモデル
3-1.少子高齢化というピンチをチャンスに変える方法
3-2.子育ての常識を変えるときがきた
3-3.企業ができることを考える
第4章:SQ社会の未来像~2020年はどうなっているか
4-1.ファッションは使い捨てからリユースへ
4-2.食材ではなく人材のプレミア化
4-3.住宅と職場の関係を考え直す
4-4.SQ社会の未来を支える人材像とは
「あとがき」
特別付録「SQチェッカー」「SQタイプ」
「まえがき」の冒頭で、著者は「他人への貢献は、出した金額や数字で測れるようなものではない?」という質問に対して「そう思う」と答えた人の80パーセント近くが、現在の自分は「幸せである」と答えていると書いています。そして続けて、著者は次のように述べています。
「実は、人はお金さえあれば幸せになるというものではないのです。
たとえば国際比較調査では、1人あたりGDPが1万ドルくらいまでは、所得が増えるほど幸福度が上がるのですが、1万ドルから1万5000ドルを超えたあたりで、幸福度との相関が弱くなるといわれています。
つまりそのくらいから、お金だけでは幸せを感じることができなくなるのです」
では、どういったところで幸せを感じるのでしょうか。その答えは「身近な他者に対して手助けをすること」にあると、著者は断言します。
1-1「大事なのは『絆』よりも『縁』」の冒頭でも、著者は「この本で僕がお話ししたいと思っているのは、現代の日本人は、『他人の手助けをすること』を幸せの基準にしているということです」と述べています。東日本大震災の後で「絆」の重要性がアピールされたとして、さらに著者は次のように述べます。
「もっと直接的には、『震災婚』という言葉も生まれました。つきあいが長くても結婚までは至らなかった恋人同士が、震災を経たことでより強い絆を結ぼう、震災後のたいへんな社会をひとりではなく一緒に歩んでいこうと籍を入れる。それが震災婚です。これはまさに”人生をともに送るパートナー”について考えたというケースです。一方で、惰性になっていた関係や、遊びの関係を清算したりする人もいたようです」
震災後、もっとも重視された絆は「家族」ですが、もうひとつの絆も注目されました。著者は、「節約や消費を通じて、被災地の人々に貢献したい。これは、震災後の「絆」志向のもうひとつの側面だったのではないでしょうか」として、次のように述べています。
「この場合の『絆』は、家族や仲間といった、必ずしも顔が見える特定の身近な人ではなく、顔は見えないけど、遠くの誰かのために役に立ちたいという願望の現れです。
そもそも震災後の合い言葉としてよく聞いた『ひとりじゃない』『ひとつになろう』といったフレーズは、見知った誰かではなく、顔もよく知らないどこかの誰かに対して向けられたものでした。被災地で孤立感を覚えているであろう人々に対して、自分たちがついているから心配しないでという感情。そこからは、これまで身近ではなかった広い人間関係における絆という意味合いが強く浮かび上がってきます」
アメリカのノンフィクション作家レベッカ・ソルニットが書いて話題になった『災害ユートピア―なぜそのとき特別な共同体が立ち上るのか』(高月園子訳、亜紀書房)という本にも書かれていますが、災害時に、知らない者同士が自発的に助け合い始めたことが数多く報告されています。人は災害が起こるとパニックを起こし、我先と自我を前面に出すと考えがちです。しかし、実際はそうはならないことが明らかになっています。むしろ、人々は利己的な考えを捨て、利他的に考えます。すなわち、他人のために貢献しよう、何か自分ができることをしようと考えるのです。
人々が人間関係を重視するようになっているというのは、日本だけの現象でしょうか。また、震災から急に人間関係を重視するようになったのでしょうか。それは違います。それ以前から芽生えてきた傾向が、この震災によってはっきりと前面に浮き出てきたのです。
消費行動にしても、自分の生活の向上を目的とするのではなく、社会や環境のためといった気持ちから芽生えた消費が生まれてきたとして、著者は次のように述べます。
「ぜいたくや娯楽のためではなく、社会貢献や環境保護といったものがトリガーとなって行われる”モノから心へ”的な消費行動は、『エシカル消費』などと呼ばれ、すでに現代においては定着しつつある消費の在り方のひとつとなっています。
エシカルとは、倫理的という意味の言葉です。環境保護に貢献している企業やフェアトレードを実行しているような企業の製品を積極的に購入し、環境破壊につながる企業の活動や途上国で若年労働者を搾取するような行動を行っている企業があれば、その企業の商品をボイコットする。そうした企業の活動の社会的な善し悪しを踏まえた消費行動を行おうというのがエシカル消費です。
逆に、社会問題に意識的に取り組んでいることを打ち出したり、環境問題への貢献を具体的に示したりするような企業の側の積極的な対外アピールは『コーズ・リレーテッド・マーケティング』と呼ばれています」
今後、日本においても、ますます「エシカル消費」や「コーズ・リレーテッド・マーケティング」の重要性は大きくなっていくでしょう。
1-2「『かかわり』への意欲が幸せを左右する」において、著者は「社会学は、ひとりでは生きていけない人たちがお互いに自分のできることを持ちよって、協力し合いながら生きる社会をひとつの理想として考えてきました」と述べています。そして、理想としての社会を創造するための存在として企業が注目されます。
近年は企業の「社会的責任」ということがよく言われるようになり、一般企業の間においても、CSR(Corporate Social Responsibility 企業の社会的責任)活動が具体的に行われるようになりました。CSRそのものは企業の中から内発的に出てきたのではありません。1990年代にヨーロッパの環境保護の市民運動が、対企業活動を強めていったことに端を発して普及しました。
現代の日本は、少子高齢化、地方の過疎問題、社会の無縁化など、課題が山積しています。そんな日本において、これからの社会を考える鍵となるのは何か。著者は、ずばり「”身近な他者”とのかかわり」であると断言します。そして、「SQ」というキーワードを駆使して、「SQ的コミュニケーションが地域社会を再編する」と提言します。
ここで著者のいう”身近な他者”とは”隣人”の別名です。そう、本書の内容は『隣人の時代』(三五館)の内容に似ていると感じました。全体的に拙著『人間関係を良くする17の魔法』(致知出版社)の内容にも通じます。つまり、SQのキーワードとは「隣人」と「人間関係」なのですね。
ただ、特別付録の「SQチェックシート」は軽薄な印象のイラストといい、全体的に軽すぎて残念でした。個人的には、特別付録は不要だったのではないかと思います。