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No.0332 哲学・思想・科学 『バタフライ・エフェクト 世界を変える力』 アンディ・アンドルーズ著、弓場隆訳(ディスカバー・トウェンティワン)
2011.05.24
『バタフライ・エフェクト 世界を変える力』アンディ・アンドルーズ著、弓場隆訳(ディスカバー・トウェンティワン)を読みました。
いわゆる「複雑系」のシンボルともなっている「バタフライ効果」についての本です。
全米を感動させたノンフィクション
わずか88ページと薄い本ですが、内容は濃いです。本書にはカバーのデザインが3種類あり、すべて蝶の位置が異なるとか。
ただし、アマゾンなどのネット書店に注文した場合、ランダムに発送されるので選ぶことはできないそうです。まさに「複雑系」ですね。
帯には「あなたが動けば、世界は変わる。魂を揺さぶるベストセラー、ついに上陸!」というキャッチコピーが書かれ、〈全米を感動させたノンフィクション〉と謳われています。
また、解説を担当する京都大学大学院人間・環境学研究科の鎌田浩毅教授が「あなたの行う一つひとつの小さな行為は、『バタフライ効果』のように、いずれ世界を大きく動かしてゆきます」という言葉を寄せています。
さらに、見返しには「『自分の人生はどんな意義があるのだろう?』『自分は重要な存在なのだろうか?』・・・・・もしあなたがそんな疑問をいだいているなら、この小さな本の中に、その答えがあります」とのボディコピーが記されています。
本書は、穀物の品種改良によって20億人を飢餓から救ったとしてノーベル賞を受賞したノーマン・ボーローグ、彼を起用した副大統領ヘンリー・ウォレスなど、誰かに影響を与えた人物たちを連綿とさかのぼっていきます。
そして、1人ひとりの小さな行動が、世界に大きな影響を与えることを説くのです。
本書のメインテーマである「バタフライ効果」とは何か。
かつて、わたしは『法則の法則』(三五館)で、「バタフライ効果」を取り上げました。
わたしたちが住むこの世界は「カオス」だとされています。ギリシャ語で「混沌」を意味する言葉で、その反対が「秩序」を意味する「コスモス」です。
「法則」が宇宙の「秩序」を明らかにするものならば、これほど「法則」にとって天敵はいません。カオスが生じるのは、その系がさまざまな要素が多重に入り混じって構成されているからです。要素1つ1つの効果はわかるのですが、それらが組み合わさって起こる物理過程が複雑すぎるのです。だから、結果が予想できません。
一般に「複雑系」と呼ばれるのは、このような系なのです。
その「複雑系」を特徴づけるものこそが、有名な「バタフライ効果」です。
蝶がひと舞いすると、たとえ小さいとはいえ空気の流れが生じますね。
すると、偶然のゆらぎが空気に与えられることになります。
通常なら、そのゆらぎは空気の粘性のためになんの痕跡も残さず消えてしまいます。
でも、ある種の条件が満たされているとき、この空気の小さな流れによって周辺に風が引き起こされることもあるでしょう。さらに、この風が周囲の日照条件や気圧配置によって、いっそう強い風に発達するかもしれません。
ときには、その風自体が原因となって気圧配置を変化させ、突風が吹きまくるようになる可能性もあるでしょう。この突風がハリケーンに成長して、最終的に摩天楼を吹き倒すといった可能性も否定できないわけです。
これはけっしてホラ話ではありません。いわゆる「非線形作用」は、条件さえ整えば、蝶のひと舞いがハリケーンにまで発達しうる物理過程を現実に引き起こしうることが科学的にも証明されているのです。それが「複雑系」というものなのです。
もちろん、「複雑系」のメカニズム自体は、まだ解明されていません。
「バタフライ効果」とは何か?
初めて「バタフライ効果」という言葉を知ったのは、上田淳生先生の講演会でした。
上田先生は、言うまでもなく、ピーター・ドラッカーの著作の翻訳者です。
ドラッカーは、著書『新しい現実』(ダイヤモンド社)に次のように書きました。
「今日急速に発展しつつある近代数学の複雑系の理論によれば、複雑なシステムは、短期については予測不可能であることが証明されている。複雑なシステムは、短期的には統計的に有意でない要素によって支配される。これをバタフライ効果と呼ぶ。奇抜ではあるが、数学的に厳格に証明され、さらに実験的にも証明された法則によれば、アマゾンの熱帯雨林で羽ばたきする蝶は、数週間後あるいは数ヵ月後、シカゴの天候を変えることができるし、事実、変えることがある」」(上田惇生訳)
ドラッカーは、「バタフライ効果」から未来の可能性を構想しました。
ドラッカーを未来学者だという人がいます。
たしかに彼の予測はよく当たるといわれていますが、ドラッカーはけっして未来学者ではありません。彼自身がそう断言しています。ドラッカーは、未来など誰にもわからないとした上で、
『創造する経営者』(ダイヤモンド社)で次のように述べています。
「我々は、未来について二つのことしか知らない。一つは、未来は知りえない。二つは、未来は今日存在するものとも今日予測するものとも違う」(上田惇生訳)
ドラッカーいわく、たとえ誰かが予測したことが現実に起こったとしても、世の中では、誰も予測しなかったことで、はるかに重要なことが、あまりに多く起こっているのです。したがって、予測という行為そのものにあまり意味はありません。
ドラッカーによれば、未来を知る方法もまた2つしかないといいます。
1つの方法は、すでに起こったことの帰結を見ること。彼自身の予測についても、すでに起こったことの帰結、つまりすでに起こった未来を知らせたにすぎないそうです。
さまざまな兆候から、ドラッカーはソ連の崩壊を予測し、それを見事に的中させました。
未来を知るもう1つの方法は、自分で未来をつくることです。
具体的には、子どもを1人つくれば、人口が1人増えるといった話です。
これなら、誰でも未来をつくることができますね。
それと同じように、たとえ小さな会社でも何か事業を起こせば、世の中を変えてしまう可能性を持つのです。歴史はそうやってつくられるのだとドラッカーは言います。
歴史とは、ビジョンを持つ1人ひとりの起業家がつくっていくものだというのです。
未来をつくるためのアプローチとして、これもまた2つの方法があります。
1つは、「すでに起こった未来を利用する」こと。
もう一つは、「来るべき未来を発生させる」ことです。
ドラッカーは、『創造する経営者』で次のように述べます。
「すでに起こった未来は、組織の内部ではなく外部にある。それは、社会、知識、文化、産業、経済構造における変化である。一つの傾向における小さな変化ではなく、変化そのものである。パターンの内部における変化ではなく、パターンそのものの断絶である。」(同)そして、来るべき未来を発生させるのです。ドラッカーはさらに述べます。
「未来は明日つくるものではない。今日つくるものではない。今日の仕事との関係のもとに行なう意思決定と行動によって、今日つくるものである。逆に、明日をつくるために行なうことが、直接、今日に影響を及ぼす。」(同)
未来を予測するだけでは問題を招くだけです。
わたしたちが、なすべきことは何か。それは、すでに起こった未来に取り組み、あるいは来るべき未来を発生させるべく働くことなのです。
わたしは、本書を読みながら、なつかしいドラッカーの教えを思い出していました。
なお、以上のようなドラッカーの「未来」思考については、『最短で一流のビジネスマンになる! ドラッカー思考』(フォレスト出版)で詳しく紹介しています。
ドラッカーの「未来」思考とは?