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2012.03.14
『聞く 笑う、ツナグ。』高島彩著(小学館)を読みました。
著者の名前を知らない人は、おそらく少ないのではないかと思います。2001年にフジテレビジョンに入社、「アヤパン」「めざましテレビ」「平成教育委員会」などの司会を担当し、「好きな女性アナウンサーランキング」(オリコン)で第1回から5回連続で1位に輝き、殿堂入りを果たした、日本一人気のある女子アナです。2010年末にフジテレビを退社し、2011年10月に「ゆず」の北川悠仁と結婚しました。
著者は、バラエティ番組などでタレントを立てることを忘れない「気配りの人」として有名です。そんな彼女が初めて出した本とあって、興味深く読みました。いやはや、そのへんのタレント本とまったく違って、これは大変な名著だと思いました。
何より、「どうすれば、人間関係が良くなるか」という実践的なアドバイスに満ちています。本書の帯には「なぜ、彼女のまわりは皆、笑顔になるのか?」「アヤパンが初めて明かす 愛される力」と書かれています。
本書の「目次」は、項目がそのまま金言になっていますが、以下のような構成です。
「はじめに」
chpter1:記憶から
1.足ることを知る
2.しっかりと悲しむ場所を持つ
3.ルールより大切なものがある
4.6歳の自分になる
5.輪に入るために、そこに居続ける
6.自分の限界は作らない
chpter2:すべては「聞く」から始まる
7.沈黙を怖れない
8.YES/NOで答えられる質問を重ねない
9.張り合わない
「なるほど」には5つの「なるほど」がある
chpter3:気持ちを伝える
10.言葉を決めすぎない
11.選択肢を用意する
12.波長を借りる
13.断るときこそ配慮する
「アナウンサーになって学んだ5つの話し方」
chpter4:「笑う」ことで心をひらく
14.笑顔に責任を持つ
15.笑顔トレーニング
16.笑顔に頼りすぎない
17.笑顔を声に乗せる
chpter5:楽しんで『ツナグ』
18.出過ぎず、引き過ぎず
19.振り幅を楽しむ
20.名前で呼びかける
21.小袋が会話のきっかけを作る
22.ねぎらいの気持ちを伝える
23.褒め言葉は具体的に
24.緩急をつける
chpter6:外見も大切にする
25.自分のマネージャーになる
26.お肌のケアは心のケア
27.体重計には毎日乗る
「初対面はベージュ」
「おわりに、大切なこと」
「はじめに」の冒頭で、著者は次のように述べています。
「『もう無理かもしれない』と思ったときに、思い出す言葉があります。
『幸せだなあ』そんな気持ちのときに、思い出す顔があります。
女32歳。フジテレビを退社しフリーアナウンサーとして動き出したその年に、私は『結婚』という人生の大きな分岐点を迎えました。
この10年、自分で言うのもなんですが、とにかくがむしゃらに、仕事に、生きることに、向き合ってきたつもりです。険しい道を必死に歩いてきたつもりでした。
それが、ふと後ろを振り返ると、思っていたよりもおだやかな道だったように思うのです。
そのど真ん中にいると、どうしようもなくつらいことも、過ぎてみると良い経験だったと思えるときがくる。すべてが今につながっています」
いや、この若さでここまで達観しているとは、皮肉でも何でもなく見事だと思います。それも、彼女が一般の若い女性の生い立ちと比べて、苦労をしているからでしょう。
「足ることを知る」で、著者は自分の境遇について次のように述べています。
「父は、私が5歳のときに、病気でこの世を去りました。以来、母と私と、そして5歳年上の兄は、まるで三脚のように支え合いながら生きてきました。というより、一脚を低くして、母が下から必死に支えてくれていたのだと思います。5歳と10歳の子供を女手ひとつで育て上げるのは、そう容易いことではなかったでしょう」
著者は「私という人間は、何でできているのか」と考えたとき、そのほとんどを占めているのが「母の愛」だと言い切り、次のように述べます。
「母は暇さえあれば、私に家族の思い出話を聞かせてくれました。亡くなった父の記憶を鮮明なカラーの映像で思い出せるのは、私が本当に見た景色というより、毎日のように母が話してくれた思い出が、私のものになっているからだと思っています。
幼かったころの兄と私の話も、思い出し笑いをしながら、楽しそうに話してくれます。
表情までも再現しながら、本当に嬉しそうに。
そんなとき、私は母の愛を感じます」
著者の父親は、「竜崎勝」という芸名の俳優さんでした。「食いしん坊! 万歳」の2代目レポーターも務めた、渋い正統派の二枚目でした。「おわりに、大切なこと」では、父親が亡くなったときに母親から「パパは星になったのよ」と聞かされ、著者はその言葉を文字通り受け止めたことが明かされます。日が暮れて空が暗くなってくると、著者は一番星を探したそうです。そして、とびっきり輝いている星を見つけると、父親が今日も自分を見ていてくれているんだなと安心できたというのです。
わたしが本書を読んで最も感銘を受けたのは、次のくだりでした。
「父がいなくて寂しいと思ったことは一度だけ。
小学校の授業で、父の日に向けてお父さんの似顔絵を描くことになったときのこと。
教室に並べられた似顔絵の中で、兄の絵を描いたのは私だけでした。
もちろん、父がいてくれたら、もっと幸せなのになあと思ったことは何度もありますが、寂しいと思わずにいられたのは、それこそ母の頑張りのおかげだと思っています。
そして、こう思うこともあります。
もし父が今も生きていたら、今の私はありません。ものは考えようと言いますが、父は、私や家族に降りかかってくるはずのアンラッキーを、すべて背負って亡くなっていったのではないかと思っています。変な言い方になりますが、今の私があるのは、母と兄がいてくれるおかげで、父がいないおかげなのです」
この考え方は、昨年10月に亡くなった心学研究家の小林正観氏の思想にも通じるものであり、さらに言えば、ブッダの考え方にも通じていると思います。
このように、著者はいつも亡父という「死者」を意識しながら生きてきました。3月11日にFNSで放映された東日本大震災の特番でキャスターを務めていた著者は、とてもその場に馴染んでいました。きっと、死者のことを語り、遺族の悲しみに触れるという行為そのものが著者の人生と重なっていたからではないでしょうか。
さて、本書は若い女性が幸せになるための具体的なアドバイスでいっぱいです。
たとえば、アナウンサーになりたての頃、きちんと仕事をしたつもりが正当に評価されず、心が傷ついたことがありました。「しっかりと悲しむ場所を持つ」に、そんなときの解決策が次のように書かれています。
「そんなとき、私は雨を待ちました。
家にいるときに雨が降ってくると、部屋を出て駐車場へいき、自分の車の中で横になります。そして目を閉じて、雨が車をたたく音にじっと耳を傾けます。
雨が、私の小さな悩みなど洗い流してくれるような気がして、しばらくすると、おだやかな気持ちが戻ってきます。
雨が降らなければ、お風呂に、潜るようにして浸かります。
頭も全部沈めて、ゆらゆらと心地よい水の動きに身を任せます。自分の心臓の音が聞こえてきます。覚えているはずもないのに、母の胎内で、羊水に抱かれていたときのようで、ネガティブな気持ちが、お湯に溶け出していくような感覚になり、不思議と気持ちが落ち着いてくるのです。
こういう、人に言えない悲しみを洗い流す場があることで、私は新たに進む力を持てるのだと思っています。そして、自分の中で悲しみを消化することで、少しづつ強くなっていく自分にも気がつきます。悲しみも悔しさも自分は成長する栄養になるのです」
また、以下のようなアドバイスも若い女性には参考になることでしょう。
「選択肢を用意する」では、「私の人生の癖のようなものに、いつも選択肢を3つ以上用意するということがあります」と明かし、「ただ優柔不断なだけのような気がしますが、これしかない、と思うのではなく、ああいう考え方も、こういう考え方も、こんな考え方も、といくつもの選択肢を想像してから、どれにしようか選んでいきます。選択肢が多いほど、選び抜いた答えに価値を見いだせるし、その選択が良い結果をもたらした時に、自信が持てるからです」と述べています。
「笑顔に責任を持つ」では、「私は、笑顔の印象は、口元が作ると思っています。いやいや、笑顔の印象は目でしょう、という人がいるとは思いますが、目だけが笑っていて唇が笑っていないのと、唇だけが笑っていて目が笑っていないのでは、後者のほうが、笑っているという印象は大きいと思うのです」と述べています。
「笑顔に頼りすぎない」では、次のように述べます。
「たとえば、フィギュアスケートで、演技を終えたばかりの選手に、短い時間でインタビューをする場合には、私はあえて笑顔を作りません。
インタビューに入る前、『短い時間ですけれども、これからお話を伺います。よろしくお願いいたします』という挨拶をするときには笑顔です。
でも、そこから15秒、30秒のインタビューが始まったら、真顔です。
選手が、納得のいく演技をしていたり、勝利していたりしたら、笑顔でもいいのかもしれませんが、必ずしもそうではないわけです。
『こんなときにすみません、でも、少しだけお話を聞かせてください』
その心を伝えるには、笑顔は向いていないと思うのです」
わたしは、この著者の発言には本当に感心しました。ホテル業や冠婚葬祭業といったホスピタリティ・サービスの仕事においては、もちろん笑顔が欠かせません。
でも、それを時々勘違いして、笑顔が万能だと思い込む人がいます。お客さまが困っていたり、怒っていたりしたとき、笑顔でいることはかえって逆効果です。そんなときは真顔で対応しなければなりません。「笑顔」と「真顔」の両方が必要なのは、アナウンサーもホテルマンも変わりません。
さらに、本書の醍醐味はプロのアナウンサーとしての著者のノウハウが惜しむことなく公開されていることです。たとえば、「アナウンサーになって学んだ5つの話し方」では、以下のポイントが示されます。
1.助詞「が」の発音
濁音が目立つと、強すぎて固い印象になってしまいます。そこで、「が」は鼻濁音で発音します。
2.「っ」を避ける
促音便の「っ」の入る言葉を避けると、言い回しがエレガントに、優雅になります。「ちょっと」「いっぱい」「ぜったい」「いっかい」「もっと」は使いません。「すこし」「たくさん」「かならず」「いちど」「より」と言い換えます。
3.声のトーンを抑える
意識して声を抑えることで、聞く側は安心して耳を傾けられ、落ち着いた気持ちでその内容に集中できます。
4.「えー」「あのー」を我慢する
無駄で意味のない言葉を話の中に交ぜ込みません。
5.「すいません」と言わない
もちろん、「すみません」と言います。普段から正しい言葉遣いに気をつけます。
「『なるほど』には5つの『なるほど』がある」も参考になります。5つの「なるほど」とは、以下の通りです。
1.基本の「なるほど」
2.会話を盛り上げる「あ、なるほど~」
3.共感を示す「ん~、なるほど」
4.合いの手としての「なるほど~」
5.聞いている人を意識した「なるほど、」
このように本書は、じつに実用性に富んでいるのです。交際中の彼氏に「子供も早く産みたいしなあ」と大きな声で呟いてみたり、彼の母親に初めて会うときは紺の服を着るといったワザも披露してくれています。
周囲の人たちから好かれたい、そして幸せになりたい、すべての女性に本書を薦めたいと思います。まずは、読み終わったこの本を長女にプレゼントします。
最後に、アヤパン、結婚おめでとう。いつまでも、お幸せに!