No.0316 人間学・ホスピタリティ | 経済・経営 『社員みんながやさしくなった』 渡邉幸義著(かんき出版)

2011.04.30

『社員みんながやさしくなった』渡邉幸義著(かんき出版)という本を読みました。

障がい者が入社してくれて変わったこと

この本は、「サロンの達人」こと佐藤修さんのHPで知りました。佐藤さんの友人である、かんき出版の藤原雅夫さんが編集された本だそうです。

本書は、まず「社員みんながやさしくなった」というタイトルが良いですね。内容は、「障がい者が入社してくれて変わったこと」というサブタイトルが表しています。佐藤さんも書かれていましたが、「入社して」ではなく「入社してくれて」というところに、本書のメッセージを感じますね。

「障がい者」という言葉を使うことについては、いろいろと議論されているようです。これまで一般的に使用されてきた「障害」の「害」の字は当て字である上に、「害する」というネガティブな意味があるので好ましくないという意見が多くなっってきたそうです。そのため、現在では「障がい者」か「障碍者」、または「障がいのある人」「障がいのある方」と表現されることが多くなってきたとのこと。

著者は、ITサービス業のアイエスエフネットグループを率いる経営者ですが、2020年までに障がい者1000人の雇用を宣言しています。それだけでなく、なんと、障がい者に25万円の給料を支払うと宣言しています。現状から考えると、かなり高い目標と言えるでしょう。それでも、著者は果敢に障がい者1000人に25万円を払うと広言するのです。

障がい者に雇用を創出しようとする企業は多いのですが、なかなか高額の給料を支払うのは難しいのが現実です。その最大の理由は、今の経済や社会のあり方に起因しているのでしょう。しかし、著者は次のように述べています。

「成熟化した社会の特徴は多様化が進むことですが、その社会で人々が幸福を感じられるようにするためには、異質なものに対する偏見をなくし、ともに社会をつくるメンバーとして認め合うことが不可欠です。それは結局、日本の昔のスタイルなのだろうと思います。長屋住まいの人々が、何か困ったことがあればおたがいに助け合って、日常的に醤油や味噌を融通しあう。子どもの面倒は長屋の大人たちみんなで見るような、そういうことではないでしょうか」

著者は、また「まえがき」に次のように書いています。

「迎え入れた側の社員が、障がい者が入社してくれたことで、迎え入れた社員の側の気持ちが、それまでとは大きく変わったのです。障がいを持つ社員も健常な社員も、積極的に仕事に打ち込むようになったのです」

著者は、障がい者を会社に受け入れることによって、「人は、だれかから何か言われなくても、相手の強みや弱みを理解して、自然に助け合うものなのだ」という真理を知ったそうです。そこから自然の絆が生まれるのだと悟ったそうです。

拙著『隣人の時代』(三五館)のキャッチコピーは、「助け合いは人類の本能だ!」ですが、まさに著者の悟りと同じことです。著者は、「人は、だれかから強制的にやらされるのではなく、自分で何かを感じ取り、その気持ちで行動するときにこそ、力を発揮するものです」と述べ、続けて次のように書いています。

「それが仕組みとなって組織に生かされれば、全社員が一丸となって同じ方向に力強く動くことができます。一人ひとりの力が重なった瞬間にパワーアップされ、組織内に浸透していくことで、会社は限りなく理想の姿に近づいていきます」

一般に、障がい者は社会的弱者だとされています。文字通り「弱者」ですから、「弱み」はあっても「強み」はないように思われます。しかし、著者は障がい者が持つ「強み」というものに気づいています。それは、人を感動させる力を持っているということです。もう何年も彼らとつきあっていても、著者は何かの拍子に感動して涙を流すそうです。ましてや、初めて彼らに接した人は、とても大きな感動に包まれるわけです。著者は、「そうであるならば、この感動をお金に換えることも可能なのではないでしょうか」と述べています。

すると、必ず、「障がい者を見世物にするのか」という反論が出ます。しかし、その反論に対して著者は次のように言うのです。

「だれもが、お芝居や映画、ミュージカルやサーカス、コンサートなどを、お金を払って見に行きます。それは、感動にお金を払っているのです。そのとき、役者や俳優、ダンサーやアーティストのすることを見世物だと思って見ているでしょうか。そんなことはありません。その一挙手一投足に注目しながら、すごいと思いながら見ているはずです。だったらなぜ、『障がい者は見世物』になるのでしょうか」

続いて、著者は次のように「感動」の本質について読者に訴えかけます。

「人間が感動するポイントは、世界のどこであっても同じです。何かひたすらにがんばっている。障がい者を乗り越えて打ち込んでいる。時間をかけてこつこつと努力を積み重ねている。そこに感動するのだと思います。それが健常者であるか障がい者であるかではなく、その人の生きる姿勢、人生への向き合い方に心打たれるわけです」

さらに著者は、以下のような「無縁社会」へのアンチテーゼを述べています。

「いまの日本は、1億総無関心化が進んでいます。無関心になった瞬間に、人とのコミュニケーションがなくなります。無関心になることは、あえて自分から人とのつながりを拒否することです。それは、人間が本来持っている隣人への愛を拒否することです。人間が社会で生きるためのベースは隣人愛だと私は思うのですが、それを拒否するのですから、やがては心が病んでしまいます」

ここでは「隣人への愛」という言葉さえ出てきました。まさに著者は、「隣人の時代」を先取りしている人なのです。このような理念のもとに企業経営に取り組んできた著者の企業は、利益を出し、成長し続けているそうです。

わたしも、昔流の経営者の方々から見れば青臭い理想主義のもとに会社を経営している人間ですので、著者の会社が好調と知って、嬉しくなりました。これからの「隣人の時代」にあっては、著者のような企業経営が一般的になると信じたいです。

最後に、著者は1963年生まれだそうです。ということは、わたしと同い年です。「隣人愛の実践者」こと奥田知志さんも同年齢ですが、ここにもまた隣人愛の実践者を発見しました。

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