No.0248 小説・詩歌 『くじけないで』 柴田トヨ著(飛鳥新社)

2011.01.22

『くじけないで』柴田トヨ著(飛鳥新社)を読みました。

99歳、つまり「白寿」でデビューした女流詩人の処女歌集です。かの齋藤智裕の『KAGEROU』の快進撃の前に立ちはだかり、見事にベストセラー・ランキングの1位に輝いた話題の書です。

白寿の処女詩集

本書は、NHKラジオ深夜便「列島インタビュー」で紹介されて大反響を呼びました。著者は産経新聞「朝の詩」で注目を集める詩人です。

「朝の詩」の選者で詩人の新川和江氏は「今もなお、みずみずしい感性とお持ちでいらっしゃるとは、なんと素晴らしいことでしょう。専門の詩人の世界においても、それはきわめて稀なことです」と述べています。

著者は、90歳を過ぎて詩を書き始めたそうです。その詩は、「人生いつだってこれから 朝はかならずやってくる」といった前向きなメッセージにあふれています。

たとえば、本書のタイトルにもなった次の詩が、若い人への応援ポエムとなっています。

「くじけないで」

      ねぇ 不幸だなんて

      溜息をつかないで

      陽射しやそよ風は

      えこひいきしない

      夢は

      平等にみられるのよ

      私 辛いことが

      あったけれど

      生きていてよかった

      あなたもくじけずに

しかし、わたしは「96歳の私」と「秘密」という詩が気に入りました。以下に紹介させていただきます。

  「96歳の私」

      柴田さん

      なにを考えているの?

      ヘルパーさんに

      聞かれて

      困ってしまいました

      今の世の中

      まちがっている

      正さなければ

      そう思って

      いたからです

      でも結局溜息をついて

      笑うだけでした

  「秘密」

     私ね 死にたいって

     思ったことが

     何度もあったの

     でも 詩を作り始めて

     多くの人に励まされ

     今はもう

     泣きごとは言わない

     98歳でも

     恋はするのよ

     夢だってみるの

     雲にだって乗りたいわ

いずれも、単なる「アンチ・エージング」などとはレベルの違う高齢者の誇りのようなものを強く感じます。わたしは、本書を読んで、「老い」について考えました。

いわゆる「老いの神話」というものが世間にあります。高齢者を肉体的にも精神的にも衰退し、ただ死を待つだけの存在とみなすことです。この神話は、次のようなネガティブなイメージに満ちています。

すなわち、老人とは「孤独」「無力」「依存的」「外見に魅力がない」「頭の回りが鈍い」など。しかし、物事というのは何でも見方を変えるだけで、ポジティブなイメージに読み替えることが可能なのです。

たとえば、高齢者は孤独なのではなく、「毅然としている」のだ。

無力なのではなく、「おだやか」なのだ。

依存的なのではなく、「親しみやすい」のだ。

外見に魅力がないのではなく、「内面が深い」のだ。

そして、頭の回りが鈍いのではなく、「思慮深い」のだ、といったふうにです。

わたしは、著者の詩を読み進めるうちに、毅然としており、おだやかで、親しみやすく、内面が深く、そして思慮深い老婦人を連想しました。そして、ピュアでチャーミングな”おばあちゃん”の顔が心に浮かんできました。

日頃から「人は老いるほど豊かになる」と考えているわたしですが、それが間違っていないことを再確認しました。

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